会社には売上高や利益など、経営計画で決められた数値目標があります。
経営理念を策定したら、経営理念に基づいて目標を立てていくことになるので、「もともと立てていた経営計画をどうするべきか?」という疑問が出てくる社長が多いです。
このコラムでは、経営理念を策定しようとしている社長向けに、もともと立ててあった経営計画と、経営理念に基づいて立てられる経営計画の関連性や、もともと立ててあった経営計画の取り扱いについてご説明いたします。
経営理念と数値目標の関係が解ってくると、間接的ですが、経営理念の浸透方法の理解を深めることができます。
経営理念を立てたら目標が変わってしまうのか?
経営理念のない会社の経営計画や数値目標の根拠は、社長の直感であったり、「去年の3%増し」という具合に、あまり明確な根拠はなかったと思います。
経営理念に込められた目標
正しい経営理念が策定されると、その中にわが社の将来の姿を描いたビジョンが含まれているはずです。そのビジョンのことを、当社では「企業ビジョン」と呼んでいます。
企業ビジョンには短期~長期まであり、短期企業ビジョン、中期企業ビジョン、長期企業ビジョン、そして最終形態である全社目標があります。
長期ビジョンほど、夢や漠然とした内容になっており、短期企業ビジョンは具体的な内容です。具体的な内容であればあるほど、その目標を数値化できます。
例えば、「わが社を将来世界企業にしたい」と考えている中小企業があったとします。世界企業になったときの売上高は想像すらできませんが、地域ナンバー1になる短期ビジョンの場合ですと、それが実現したときの売上高を想定することが可能です。
そのように、経営理念の目標を数値目標にする場合は、雪下ろしの原理で時系列に細分化し、長期、中期、短期という具合に具体的な目標に設定していきます。長期企業ビジョンを実現するために、中期企業ビジョンや短期企業ビジョンは通過点という位置づけになります。
経営理念を立てたら目標は当然変わる
このように経営理念が完成し、長期企業ビジョンが明らかになったら、わが社の将来の事業内容や事業規模が、以前よりも大規模なものになることが多いです。
経営理念や企業ビジョンを実現するためには、経営理念に基づいた経営計画などの数値目標を策定していかなければいけませんので、そうなると、当然ながら今まで立てていた数値目標とは異なる大きな数値目標を立てることになります。
とある小さな店舗経営を長年経営していた社長が、わが社の使命と未来ビジョンを策定したときに、それが実現したら、店舗を経営していなければいけないことになりました。
1店舗のお店を経営することと、7店舗のお店を経営することとでは、目標とする売上高や利益の桁が異なってくると思います。
しかし、その売上高や利益の目標は、その事業規模が実現したときであって、今すぐや来年ではないことにご留意ください。
自社の成長速度を考えて適性な目標を立てる
ここで問題となることなのですが、「経営理念の中に盛り込まれている企業ビジョンを、いつまでに達成したいのか?」という時系列の目標です。
社員が数名の技術会社を経営されている社長と、経営計画を立てているときのエピソードをご紹介します。その社長の夢は、「自社を、大企業を相手に取引ができる会社にしたい」とのことでした。
この目標は、現状と理想のギャップを明確にできる目標なので、良いものだと思います。
大企業と取引ができるようになるためには、会社が実績をたくさん出し、安定成長し、利益も十分に出て、評価の高い会社にする必要があります。単純に考えて、いつ倒産するのかわからない小企業であるなら、特別な何かがなければお取引きはしてくれないものです。
そこで、「いつ頃までに大企業と取引ができるようになりたいですか?」と聞いたところ、「明日にでも取引ができるようにしたい」とおっしゃられました。私が期待した返答は、「5年先だ」とか、「できれば3年先だ」とか何年か先のことですが、社長は明日だとおっしゃるのです。
そのお気持ちはわかります。志の高い社長は、「すぐにでもそうなりたい」と考えるものです。
しかし、現実を見たときに、社員数名の会社で技術力がそこそこしかありませんし、大企業がお取引きしてくれそうな一流企業ではありません。大企業がお取引きをしてくれるようになるためには、会社のいたる所でイノベーションが必要です。
そういった成長速度を考えて、目標を立てる必要があります。
ムリ・ムダ・ムラのある目標を立ててしまったら、会社のどこかに歪が生じてしまいます。例えば、社員が「社長がムチャを言いだした」ということで、会社を辞めてしまうこともあります。
しかし、今までの会社の成長速度で目標を設定してしまったら、高い目標が掲げられた経営理念の実現は不可能になります。
会社の成長速度を早めるためには、社長自身のマインドが変わり、社員のマインドも変わる必要があります。社長や社員のマインドが変われば、発展のための熱意が生まれ、イノベーションを早めます。イノベーションには痛みが伴いますが、それを乗り越えてイノベーションさせるために熱意が大事になります。
その熱意の源泉が、経営理念に込められた大義名分になります。
熱意の高さによって、イノベーションの速度が決まるため、経営理念の浸透で最初に行うことは、大義名分の理解度を高めることです。
経営理念浸透開始時の数値目標の立て方
経営理念は、会社にとって最上位に位置づけられるものなので、経営理念が浸透した場合は、毎年の数値目標は経営理念の目標から導き出されるものになります。しかし、いきなり経営理念の目標を立てることは、会社の現状に即さない場合もあります。
経営理念から導き出される数値目標と現実
実のところ、今までの大義名分のない数値目標と、経営理念が策定されてからの目標とが、大きく乖離することが多いです。
正しい経営理念に盛り込まれた内容を社員全員が実践できると、どう考えても良い会社になっているはずですので、会社は発展せざるを得ない状態になっているはずです。
すると、先ほどご説明したように、数値目標の桁が1つも2つも上がってしまう場合があります。
社長は経営理念の実現に向けてやる気満々なのですが、社員との温度差で、社員が大やけどを負ってしまうことがあります。そうなると「社長にはついていけない」ということで、会社への居心地の悪さを感じ、辞めていってしまう人が出てしまいます。
経営理念の浸透をしていく中で、経営理念に合わない人は、いずれ会社を辞めていくことになりますが、すぐに辞められてしまったら、会社の利益を生み出していた優秀な人まで辞めていってしまうこともあります。
経営理念の浸透方法を間違ったために、アルバイトを含めて10人ぐらいの会社で、ほとんどの社員が辞めてしまった会社もありました。
経営理念が浸透するまで今までの数値目標を踏襲すべき
そのようなことから、個人経営をしている小さな会社はともかくとして、組織経営をしている会社では、経営理念を立てても目標をすぐに変えてしまわない方が良いと思います。
経営理念の無い会社は、毎年策定される数値目標に大義名分はありません。社長の思いつきや、今までの流れで数値目標を立てていることがほとんどだと思います。そういった会社に経営理念が策定されたら、社長は経営理念の実現に熱意を感じるので、すぐさま目標を変えて方向転換し、経営理念の実現に向けて進もうとします。
今まで大義名分のない数値目標で動いてきた社員は、大義名分に基づいた数値目標として巨大な数字を見せられたら、混乱することと思います。
本当に実力のある社長であったり、会社が危機的状態であったりしたら、いきなり数値目標を大きく変更しても社員はついてきてくれるかもしれません。
一般的には、経営理念の浸透は時間がかかるので、まずは経営理念の浸透と、今年度の数値目標を分けて考えます。社員が少しずつ大義名分に慣れて行ってから、経営理念の実現に舵を切っていくことが大事です。
経営理念と利益の関係
経営理念には、「事業活動を通じて、どのような社会貢献をしていくのか?」という内容が含まれています。これは、ボランティア的な要素が入ることを思っている人もいますが、そうではありません。
また、社員の中には会社が利益を出すことに、罪悪感を持っている人もいます。利益を出すことに罪悪感を持っている社員がいると、その社員が重要ポストにいたら、会社の成長のブレーキ役を果たしてしまう場合があります。
どんなに大天使だったとしても、会社を経営したら必ず利益が必要となります。利益がないと会社は衰退してしまうのです。
経営理念の中に利益の大切さを入れておくべき
会社に利益がなければ、会社が滅びてしまいます。その理由は、人材や設備などへの投資、研究開発などの、未来に対する布石ができなくなり、いずれお客様が求める価値を提供できなくなるからです。
今現在、会社は少しでも進歩しなければ、売上高の現状維持ができません。競合他社だけを見ていたら、競合他社といっしょに衰退していくこともあります。突如として出てきた新参企業や外国製品に負けてしまうこともあるからです。
会社が滅びてしまったら、いくらすばらしい内容の経営理念を掲げていても、それを達成することはできません。
経営理念実現に向けて、真面目に努力を重ねている企業が伸びていくことは、世の常です。
正しい経営理念には、社員の人間性と仕事能力が向上し、良い仕事をして、利益が出せるようになるための方法をも含めておく必要があります。そして、経営理念に基づいた利益目標は、経営理念実現のために達成しなければいけないことを、数値化したものなのです。
社員全員が、経営理念に基づいて決められた利益目標の達成を目指し、それを実現することで、経営理念の実現が近づいていくのです。
経営理念の浸透で社員に利益の大切さを何度も伝える
経営理念に利益の大切さが書かれていても、その意味を完全に理解するのに時間がかかります。
今までの利益目標は、大義名分がなかったために、「利益目標の達成は、社長が儲けたいから」「自分たちではなく会社のため」といったような、自分たちで考えた間違った解釈をしてしまいます。そのマインドセットで凝り固まってしまった人の心を解きほぐすのは、とても時間がかかります。
伝えるべきことは、一番に追いかけることは、利益ではなく経営理念の実現です。経営理念の通りに仕事ができたら、利益が達成できるのです。経営理念を実現するためには、利益が大切であることを何度も伝えるのです。
今まで利益しか追求してこなかった会社は社員が混乱するのか?
今まで利益しか追求してこなかった会社でも、経営理念を発表しても、会社が混乱することはあまりありません。
最初のうちは「社長がまた何かを始めた」と冷ややかに見ていた社員の中に、経営理念を歓迎してくれる心ある社員もいますし、冷ややかに見ているままの社員もいます。一部の若手社員の中には、経営理念の意味や必要性を解らない人もいます。
心ある社員は、今までの利益追求のみで疲弊していたはずです。その社員が、率先して経営理念を学習してくれるようになり、イキイキ働くことができるようになります。その社員が、会社を変える起爆剤になることが多いです。
すると、冷ややかに見ていた社員は、混乱というよりも、焦りのようなものが出てきて、経営理念を受け入れてくれるようになります。
以上、経営理念の目標と短期的な数値目標の関係について述べました。また、今までの数値目標を、経営理念に基づいた目標からどのように導き出すのかを示しました。経営理念浸透時の目標として、次のことを覚えておいてください。
- 今までの数値目標はすぐに捨ててしまわないこと
- 会社の成長速度を考慮して目標を立てること
- 会社が利益を出すことの大切さを社員が納得できるように解説すること
会社を大きくしていくためには、さまざまなことをイノベーションさせていかなければいけません。そのためにも、経営理念の内容は、全方位的なことに通じる哲学に昇華されている必要があります。
経営理念ができたら、経営理念に込められた意味を、社員が深く理解できるように、何度も何度も教えていき、社員が経営理念に基づいて考えて仕事ができるように、仕組み化していくことが大事です。
当社では、経営理念の策定、浸透、経営理念に基づいた経営計画の立案などを通じて、立派な会社づくりをご支援いたします。経営理念のことなら、ぜひチームコンサルティングIngIngにご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。