一般的な2Sと5Sの違い
製造業における2Sと5Sの違いを説明する前に、これらの言葉の定義をしておきたいと思います。
5Sとは整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)の5つの頭文字Sからできた言葉です。製造業では、環境整備のことを指します。2Sとは、整理、整頓のことです。
このため、一般的な2Sと5Sの違いは、「取り組む項目の数が異なる」と認識されている人が多いと思います。
しかし、言葉の本質を追求する村上流の2Sは、一般的な整理や整頓とは若干異なります。そうすると、当然ながら5Sと2Sの意味も大きく異なってきます。
2Sと5Sの比較の前に
後ほど、5つの視点(切り口)で2Sと5Sを比較します。ここでご紹介する2Sと5Sの比較は、あくまでも、製造現場における2Sと5Sの比較であり、製造業改善コンサルタント村上流の考え方であることを前置きしておきます。
なお、私が「5S活動」という場合は、「5Sを実施して改善していくこと」を意味する言葉です。そのため、以下でご説明する「2S」と「5S」の両方の内容を合わせています。
「5S」とは活動の内容のことです。そのため、「5S活動」と「5S」そのものとは意味が異なります。
実際の取り組みとしては、クライアント様のニーズ(目的)により、「2S」と「5S」を使い分けています。
村上流での2Sとは
まずは、村上流の「2Sとは」から。村上龍の整理と整頓の意味をご説明いたします。
村上流の整理の意味
整理とは、仕事に不必要なもの、役にたたないものをを取り除くことです。
ゴミやほこりについては不要なものであり、整理の対象です。こういった意味で、私は「清掃」を「整理」に含めています。したがって、本コラムで2Sといっていますが、実質的には3Sと同じことになります。
村上流の整頓の意味
整頓とは、よく整った状態にすることです。
いつでも、誰でも、すぐに、必要なものが取り出せ、使える状態にあること。ここから転じて、私は、「設備保全(メンテナンス)」も、「整頓」に含んでいます。設備が故障している状態は、必要なものが使えない状態ですので、整頓がうまくできていない状態だ考えます。
「2Sと5Sの比較」のための5つの視点
村上流の2Sと5Sと比較するときに、以下の5つの視点で比較すると分かりよいと思います。
- 主な対象
- 目的
- 活動の特徴
- 効果の大きさ
- 文化(カルチャー)づくり
5つの視点に沿った2Sと5Sの比較
以下、上述の5つの視点に沿って、2Sと5Sを比較します。それにより、2Sと5Sの本質的な違いを、ポイントのみですが、明らかにしていきます。
1. 主な対象
2S | 各プロセス(工程)の5Mすべて |
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5S | 生産ラインや通路、倉庫、及び照明や騒音などの作業環境を含めた職場環境全体 |
5Mとは、プロセス(工程)の構成要素である、人(Man)、設備(Machine)、部品/素材(Material)、方法(Method)、計測(Measuring)の5つを指します。(プロセスの連鎖であるラインとしての成果物にも同時に注力します)
主な対象を比較すると、2Sは各プロセス(工程)の5Mすべてが対象となります。
5Sでは、生産ラインや通路、倉庫などの作業環境を含めた職場環境全体が対象となります。
2. 目的
2S | 各工程の5Mの改善・改革により、コストを削減し、「成果物の価値」を最大化させること。 |
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5S | 作業環境、職場環境をスッキリさせ、従業員にとって働きやすい、快適な場環境にすること。 |
目的を比較いたします。2Sでは、各プロセスの5M改善・改革により、コストを削減し、成果物の価値を最大化を目的とします。
5Sでは、作業環境や職場環境をスッキリさせ、従業員にとって働きやすく快適な環境にすることを目的とします。もちろん、品質や生産性、安全性も担保されます。お客様からみても好感をもたれ、再契約にもつながりますので、営業の生産性も向上します。
私がとある自動車部品メーカーを訪問した際に、工場内を入り口から撮影したものです。長年の5Sで、工場の床や通路がピカピカになっています。20メートル先に、油のシミやネジが落ちていても気が付くほどです。
3. 活動の特徴
2S | 問題点の見える化による問題点の改善・改革が中心。 |
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5S | 「整理、整頓、清掃」、「清潔、躾」の流れがるが、「清潔」と「躾」に注力すると、「汚れが無くきれいな状態を保つち、きれいな状態を保つことを習慣化し、身に付ける」こと。 |
2Sは「維持・改善」のスパイラルであったのが、5Sは「清潔」と「躾」が加わることで、「きれいにした状態を維持することが善である」「秩序を保つことがいいこと」という意味になり、2Sと比べてレベルの低い活動になります。
よく「5Sとは、きれいにすること」という経営者が多くいますが、もちろん、工場を「顧客に見せるショーウインドウ」として位置付けることも営業的な戦略では大変重要なことです。
しかし、工場で品質問題や、生産性が低くコスト競争力がないような組織では、「きれいにする」だけでは問題は解決されず、競争力も低いままです。
2Sでは、(1)5Mの整理・整頓、(2)問題点の見える化、(3)問題解決、(4)改善・改革、そしてまた(1)5Mの整理・整頓と、活動は終結することはなく、「維持・改善」をオープンエンドに繰り返すことで、会社は進化し発展しつづけます。
とはいっても、「きれいにしようとすること」と、「改善し成長しつづけること」の両立はそう簡単なものではないと思います。
4. 効果の大きさ
2S | 「5Sの3段階理論」の3段回目で、「5Mベースの5S」を導入し、問題解決のみならず、プロセスのイノベーションや新規プロダクト生産可能なラインづくりなどへ、限りなく進化・発展していくことが可能になる。 |
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5S | 活動の効果としては「5Sの3段階理論」の1段階目の「職場環境をスッキリさせる」に対応する。 |
効果の大きさを比較いたします。2Sでは、「5Sの3段階理論」の3段回目で、「5Mベースの5S」を導入し、問題解決のみならず、プロセスのイノベーションや新規プロダクト生産可能なラインづくりなどへ、限りなく進化・発展していくことが可能になります。
5Sでは、「5Sの3段階理論」の1段階目の「職場環境をスッキリさせる」に対応します。したがって、活動の成果は、2Sと比較すると、かなり限定されると言わざるをえません。
「5Sの3段階理論」については、コラム「5S活動で企業を成長させる『5Sの3段階理論』」をご参照下さい。
5. 文化(カルチャー)づくり
2S | 2Sを中心におく活動を定着させることで、長期的に事業活動のイノベーションを支え、発展し続ける文化(カルチャー)を構築できる。 |
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5S | 「清潔・躾」にも力を入れる活動をすすめることで、5Sの継続が可能であれば、すっきり、さわやかな職場環境を大切にする文化(カルチャー)ができる。 |
文化(カルチャー)づくりを比較いたします。2Sを中心におく活動を定着させることで、長期的に事業活動のイノベーションを支え、発展し続ける文化(カルチャー)を構築できます。
5Sでは、「清潔・躾」にも力を入れる活動をすすめることで、5Sの継続が可能であれば、すっきり、さわやかな職場環境を大切にする文化(カルチャー)ができるでしょう。
5S活動に取り組む皆さまへのメッセージ
以上、村上流で2Sと5Sを比較検討することで、2つの違いを明らかにできたのではないかと思います。結論として、私が皆さんにお伝えできるメッセージをシンプルに述べたいと思います。
それは、各工程の5Mの改善・改革を行う「2S」と、きれいにすることを主目的にする「5S」は、両方が必要であるということです。
各組織の運営上、工場の状況や事情はいろいろです。当然、5S活動に対する戦略も異なってくるはずです。したがって、本コラムで述べる5S、つまり、「5Sとは、きれいにすること、清掃をしっかりやり、スッキリさわやかにすること」という低い目標に限定しては、組織の発展の可能性を失うことになりかねません。また、5S活動の効果を引き出せていません。
企業活動の本質は、顧客の要求を満たすことです。そのためにも、5S活動に取り組む企業は、本コラムでの清掃も含む2Sの重要性を忘れないようにしていただければ、ありがたく思う次第です。
この記事の著者
製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。