経営理念を浸透させて、社員のやる気を高め、会社を伸ばしたいと考えたときに、「そもそも、わが社の経営理念は、浸透させやすくできているのだろうか?」とは、あまり考えないと思います。
ところが、経営理念には、浸透させやすい経営理念と、浸透させにくい経営理念があります。
そのことを知らないと、経営理念がなかなか浸透しないことに、悩み続けてしまいかねません。
このコラムでは、次の目次に沿って、経営理念が浸透しない理由と浸透させやすい経営理念の条件を述べます。
経営理念が浸透しない理由
当社の経営理念コンサルティングのサービスを提供している経験から、経営理念が浸透しない主な理由をまとめました。ここでは経営理念の中身に絞ってご紹介します。
1.基本理念のみ
基本理念とは、会社の存在目的や目指すべき方向性を一言で表した、経営理念の中核部分です。これを社是と呼称する場合もあります。
基本理念しか構築していない会社では、社員たちは具体的行動につなげることができず、経営理念が浸透しないケースが見受けられます。
たとえば、当社の基本理念は「泥中の花」です。この意味するところは、「現代の泥の中のような厳しい経営環境のなかから、蓮のように力強く美しい茎をのばし、見事な花を咲かせる優良企業が数多く生まれるためのお手伝いする、ということです。
これは当社にとって重要な存在目的ですが、この言葉だけを説明しても、社員たちは具体的に何をすればよいかが判りません。
基本理念は理念の中核ですから、ここから具体的な仕事目標を導き出すのですが、そのような展開がなければ、日々の行動につながりにくく、 “よき意図” に過ぎない単なるお飾りになってしまうのです。
2.経営理念に対して社長が熱意を感じていない
社長が経営理念に対して熱意を持てない場合も、社員に浸透させられません。
- 経営理念が年月を経て形だけのものになって形骸化しているか
- 社長の使命感に基づいて経営理念を練り上げるところまでいっていないか
このどちらかが多いです。
3.社長が理念を実践していない
社長や一部の幹部が治外法権になっている場合、社員たちに経営理念を受け入れてもらうことは難しいと言えます。
例えば、経営理念に、「約束を守ること」という条文が入っているとします。ところが、社長が社員との約束を守らないことが多いとしたら、社員が経営理念を心から受け入ることは難しいでしょう。
社長や幹部が率先垂範してこそ、社員たちは奮い立ちます。経営理念をルール化して、社員を働かせるための道具にしてしまえば、社員の気持ちは離れてしまいます。これでは、経営理念を浸透させようとするほど、会社が分裂していきかねません。
経営理念が浸透しない主な理由をまとめましたが、ここから、浸透しやすい経営理念の条件が見えてきそうです。
浸透させやすい経営理念の条件
社員に浸透させやすい経営理念の条件は、次の通りです。
1.機能する経営理念の構成要素を満たしていること
全社に浸透し、機能する経営理念にするためには、次の4種類の構成要素を網羅している「正しい経営理念であること」が大切です。
- 基本理念
- 企業ビジョン(全社目標)
- 経営指針
- 行動指針
これらの4種類の要素を網羅することで、全員で理想を共有し、皆のモチベーションを高め、具体的な判断、行動に直結させることができます。これが会社の発展を実現する力となります。
経営理念の構成要素の解説については、前掲のコラム「経営理念の構成要素」をご参照ください。
2.社長の熱意がこもった経営理念をつくり上げること
会社の中でもっとも優秀な人材は、当然社長ご自身です。会社を一代で創業し、大きくしてきたのであれば、それは社長お一人の力に依るところが大きいはずです。社長は、仕事能力だけでなく、先見力や行動力なども社員よりも優れています。
社内でもっとも高い能力を持つ社長ご自身が、わが社の未来の姿をありありと描き、経営理念を結晶化するべきであると思います。
そして、経営理念を読み返すたびに、社長の仕事に対する情熱が湧き立つようなものを目指して、経営理念をつくり上げていただきたいと願います。
3.社長が経営理念に書かれていることを率先垂範すること
社長ご自身が得意とすることはもちろん、苦手だけれども大切だと思われることは、敢えて経営理念に導入することが大事です。そして、理念に基づいて社長が自分の行動を変える努力をする、その姿を見て、社員たちは経営理念を受け入れるようになってゆくものです。
それゆえに、経営理念づくりは胆力が要るものですが、社長自らがこれを創り上げることが大切です。
会社に貢献してくれる本物の社員は、経営理念を率先垂範する社長の背中を見て育ちます。
4.社員が幸福になれる予感を感じること
経営理念の構成要素の一つ「基本理念」には、会社の公器性を含む必要があります。つまり、会社の目指す姿が、多くの人の役に立ち、世の中の役に立つものであってこそ、社業に従事する社員たちは、仕事に誇りを持つことができます。
次に企業ビジョン(全社目標)です。これは会社が目指す未来ビジョンです。「この大きな目標を、皆で本気で実現しよう。やってやろうじゃないか」という一体感が生まれた時に、本格的に理念の浸透が始まります。
行動指針は、どのように仕事を進めていけば、基本理念や企業ビジョンが達成できるかが示されたものです。正しい考え方が身に着き、熱意が増し、仕事能力が高まる内容を網羅した行動指針を浸透させることで、最大の経営資源である人材が育ちます。
行動指針に込められた内容を学ぶことで、社員たちは仕事にやりがいを見出し、成果を上げることができるようになり、結果として精神的にも経済的にも幸福感を享受できるようになります。
以上、浸透しやすい経営理念の条件を述べました。もし貴社にて、経営理念がなかなか浸透しないというお悩みがありましたら、ぜひ上記の4つの条件に基づいて経営理念を見直してみて頂ければ幸いです。
機能する正しくて本物の経営理念を練り上げることができたら、次は経営理念を繰り返して伝え、浸透させることが大事です。すると、社員に一体感が生まれ、仕事への熱意が高まり、目標に向かって成長するようになるでしょう。
優良企業を目指すなら本物の経営理念がぜひとも必要です。
経営理念の正しい浸透方法については、別の機会にご紹介したいと考えています。
この記事の著者
経営理念コンサルタント
関山 淑男 (Sekiyama Toshio)
経営理念の構築・浸透とビジネスコーチングのスキルに親和性があることに気づき、研究や実績を重ね、経営理念コンサルタントとしてのスキルを確立していく。社長としての経営経験や赤字企業の業績回復支援の経験から掴んだ教訓、ピーター・ドラッカー先生や一倉定(いちくらさだむ)先生などの経営理論を融合させ、独自の経営理念コンサルティング・メソッドを開発。