社員が仕事でミスをしたときに、社長から「ちゃんと仕事しろ」と注意されることがあります。
「ちゃんと」は、するべきことを行うことです。
社員が仕事でするべきことは、業務内容によって異なりますし、会社によっても異なる場合が多いです。
経理課の仕事であれば、経理業務はどの会社でも同じなのですが、Excelで入力作業をする会社もあれば、債権債務管理システムに入力する会社もあります。そういった業務の仕組みの違いによって、「ちゃんとした仕事」の仕方は異なります。
この記事では、社長からよく「ちゃんと仕事しろ」と注意される方、社員がちゃんと仕事をしなくて困っている社長に向けて、ちゃんと仕事をするためのポイントをご説明いたします。
ちゃんと仕事をしていないことの「問題」とは?
社員の仕事は、何らかの基準に基づいたルールや仕組みに従って行われていることがほとんどです。会社に明確化されたルールや仕組みがない場合は、社員が独自に暗黙のルールや仕組みを作っているはずです。
さて、そのルールや仕組みに落ち度があれば、お客様や社長から叱られることがあります。
落ち度がよく発生するパターンは、社員が自分都合のルールや仕組みを作成して仕事をしているときです。
例えば、社員がお客様へのメールの返事は、まとめて行った方が効率が良いので、「週末にまとめてメールの返事をしよう」と考え、お客様へのメールの返事を怠っていたとしましょう。すると、お客様から「メールの返事が遅い」とお叱りを受けることがあります。
それが問題となり、社長の耳に入り、社長から「ちゃんと仕事しろ」と言われます。
さて、ここで社員は仕事の生産性を考えて対応したわけですから、社員としては「ちゃんと仕事をしていたのに」と考えるわけです。
お客様や社長は、「お客様にメールの返事をすぐに出すことは当たり前のことだ」と考えていたとしても、社員はそれを当たり前だとは思っていなかったわけです。その認識の違いによって、問題が生じているのです。
目的と理想、目標を明確にする
仕事にはさまざまな作業があります。その作業には目的があります。
例えば、私は今現在この原稿を作成しているわけですが、この原稿を作成する目的は、「ちゃんと仕事しろ」といつもイライラしている社長に、「それは貴殿に原因があるのですよ」と気づきを与えることです。その結果、徳のある立派な社長に成長してもらうことを理想としています。
経理の入力業務であれば、目的は正確な会計処理をいち早く行えることですし、理想は瞬時に会計資料が出来上がることです。社員は指示されたことだけをしているのであったとしても、目的と理想が存在します。
さて、仕事のあらゆる業務には、目的と理想がありますが、その理想はすべて社長が決めることなのです。理想の究極が経営理念の実現です。すべての業務は、経営理念の実現に向けて行われています。
どのような業務でも、言われたことだけを行うのであれば、ある意味で誰にでもできます。しかし、目的や目標が設定されたら、その実現に向けて考えて業務を遂行しないといけなくなります。
その業務の良し悪しを判断するためには、目標が設定されます。例えば、経理の入力業務であれば、「今日中にこの入力作業を終える」といった時間的な目標があります。
この目標は、明確にされていない場合でも、社長の中には存在しています。そして、その目標値を下回ったときに、「ちゃんと仕事しろ」という具合になります。
社長は、社員にいろいろな業務の目的や理想、目標を明示してあげないと、社員は勝手な目的や理想、目標を設定して仕事をするようになります。目的や理想、目標を明示しないことは、「社員に勝手に仕事をしても良い」と宣言しているようなものなのです。
そして、目的や理想、目標を明示されていない場合は、社長から怒られない範囲で、自分の労力が最低となるように設定をするものなのです。
あらゆるパターンを想定
仕事には、ルールや仕組みができていたとしても、突発的な出来事があるものです。
輸送業務であれば、道路の混雑状況が普段とは異なることもあります。震災や台風による災害もあります。
会社は、お客様に価値を提供することが目的ですから、どのようなことが起きても、それを続けなければ存続ができません。震災があって仕方のないことだと言われることもありますが、いつまでも待ってくださる方はいらっしゃいません。
熊本地震のときに、とある製造業の会社がいち早く業務を再興し、県内の仕事が急にたくさん入ってきて、急成長した会社もあるほどです。
ちゃんとした仕事ができる会社にするためには、社長が陣頭指揮を執って、目的や理想、目標を設定することに加え、あらゆるパターンを想定して、事業が継続できるように考えることも大事です。
業務の体系化と業務マニュアルづくり
体系化とは、バラバラのことを一つにまとめ、わかりやすくすることです。業務マニュアルの作成も体系化の一種です。
あらゆる企業に暗黙の体系化された業務やルールが存在する
会社には、属人化した仕事、ルールが明確になっていない仕事がたくさん存在します。「わが社は業務マニュアルなんて存在しません」と言っている会社であったとしても、業務がスムーズに流れている企業では、暗黙のうちに体系化された業務やルールがあります。
暗黙のうちにでも体系化された業務やルールがなければ、社員はあらゆることを考えて行動しないといけなくなるので、とても疲れてしまいます。
社員が出社して、椅子に座って何か仕事を始められるとしたならば、必ず体系化された業務やルールが存在します。
業務が体系化されている状態とは?
ここで、業務が体系化されているのかどうかの定義をしたいと思います。それは、「誰がやっても同じように業務ができるのであれば、体系化ができている状態」です。業務マニュアルがあれば、誰しも同じように作業ができるはずです。また、新人が入ってきたとしても、先輩が同じように業務ができるように教えられるのであれば、体系化ができていると言えます。
体系化されている業務が理想の業務とは限りません。先ほどもあったように、社長から「ちゃんと仕事しろ」と言われた場合は、社員が暗黙のうちに行っている業務の方法では、社長が暗黙で考える目標値に達していなかったと言えます。
それを解消するために、暗黙になっている業務内容やルールを明確化し、業務やルールを明確にする目的や社長が描く業務の理想の姿を加えた業務マニュアルを作成することが大事です。
体系化したいときに最初に行うことは理想の定義
体系化ができていない場合は、まずは言葉の定義から行うことが大事です。たとえば、「ちゃんと仕事をしている状態とは?」と言われたら、まず間違いなくどの社員も、バラバラのことを言うと思います。それを、「業務マニュアルに則って仕事をしている状態」と定義したら、誰しも業務マニュアル通りに仕事をするようになります。
他にも、飲食店であれば、「ちゃんと掃除された状態」を定義しても良いでしょう。すると、ほうきで掃いただけでは、ちゃんと掃除された状態だとは言えません。
とあるファーストフードチェーン店で食事をしていたときに、テーブルの位置がずれていたので、少し移動させたら、テーブルの下に隠れていた砂や食べこぼしが出てきて、ギョッとしたことがありました。その店舗では、ホールスタッフに掃除の仕方が定義されていなかったのだと思います。
業務を体系化するときに、「ちゃんとした仕事」を定義してあげることで、業務の体系化がスタートします。そして、次に共通の言葉づくりをします。用語の定義付けです。それに業務のゴールや流れが明確化されていって、業務マニュアルを完成します。
業務マニュアルが完成したら、社員がちゃんと仕事していないときには、「ちゃんと仕事しろ」ではなく「業務マニュアル通りに仕事しろ」と、注意内容が変わるはずです。そして、社員が行っている仕事が業務通りに行なわれていないところを明確に指摘することができます。
業務マニュアル通りに仕事していても、トラブルになることもあります。そういったときには業務マニュアルの改善が必要です。
業務マニュアルの改善
業務が体系化されていくと、それを業務マニュアルにまとめられていきます。その会社の社員全員が、通常業務を行うときに業務マニュアルに基づいて行います。
そのため、社員でもアルバイトスタッフでも、はたまた管理職であったとしても、通常業務は業務マニュアル通りに作業を行います。ですから、同一労働同一賃金と言われていますが、誰しも通常業務だけを業務マニュアル通りに行うのであれば、賃金は同じになります。
業務マニュアル通りだと予期せぬトラブルが発生する場合
さて、業務マニュアル通りに行なったとしても、トラブルが発生したり、売上高を落としていったりすることがあります。市場は変化していますし、お客様のご要望も変化しています。また、想像もしなかったような突発的な出来事が起きる場合もあります。そういったときには、業務マニュアル通りに行っていては、会社の経営を危うくすることもあります。
それらの変化に対応するために、業務マニュアルの改善を行っていくことが大事です。業務マニュアルの改善は、もちろん誰にでも出来るわけではありませんし、誰にでもやらせてはいけません。必ず、業務マニュアルを改善できる責任者がリーダーとなって、改善していかなければいけません。
業務マニュアルが改善できる人は、できれば会社全体を把握できている人が行うべきです。そして理想は社長が行うべきです。しかし、会社が大きく成長してくると、社長は業務マニュアルを改善していくことよりも、さらに高いレベルの判断業務が求められます。そこで、業務マニュアルの改善は、業務を取りまとめるリーダーに依存されます。
業務マニュアルを改善するリーダーは、社長の代打として業務マニュアルの改善に取り組むため、業務に精通しているだけでなく、さまざまな見識の高さ、人徳などが求められます。
三現主義
業務マニュアルの改善で、三現主義という言葉をご紹介したいと思います。三現主義は、次の3つの「現」です。
- 現場
- 現物
- 現実
何かトラブルが起きたら、まずその現場に行くことです。そして、トラブルのあった現物を見て触れて、現実を把握することです。そして、なぜ理想の状態とはならずにトラブルが発生してしまったのか、根本原因を考えます。
報告だけの机上の空論で業務マニュアルを改善していたら、理想とはかけ離れてしまうこともあります。すると、また別のトラブルが発生することにつながります。
社長はトラブルに即断即決が求められることがありますが、業務マニュアルの改善では三現主義で現場・現物・現実に即した改善を行うことが大事です。
業務マニュアルの改善もマニュアルに基づいて行われるようになりますが、そこに三現主義を盛り込むと良いでしょう。
最初の業務マニュアルに盛り込むべき内容
最初につくられる業務マニュアルは、立派なものでなく、簡単なもので良いと思います。最初から立派なものがあっても、誰も読み込んで実施ができませんし、すべてを網羅することは時間がかかり過ぎてしまいます。
最初はトラブルがつきものですから、トラブルの度に改善していったら良いと思います。
最初の業務マニュアルは、社員が行っている各種業務に対して、業務マニュアルを1つずつ作成します。そこに盛り込むべき内容は、次のもので良いと思います。
- 業務マニュアルの責任者
- 業務の目的と理想の姿
- 言葉の定義
- 業務の流れ
これらだけでは、まったくもって完成形ではありませんが、最初としては、これだけで良いと思います。この業務の流れに沿って行っていると、必ずトラブルが発生します。例えば、次のようなトラブルです。
- お客様からのクレーム
- 業務に慣れていない社員が間違った方法で業務を行ってしまう
- 納期が遅れたり、発注ミスがあったりする
これらのような、予期せぬ失敗をフィードバックして業務マニュアルが改善できるように、次の内容を追加していくと良いと思います。
- トラブルとフィードバック
- 業務マニュアルの改善の流れ
- 改訂日、改訂内容、改訂理由
以上、社長からよく「ちゃんと仕事しろ」と注意される方、社員がちゃんと仕事をしなくて困っている社長に向けて、業務の目的や理想、目標を持つことや業務マニュアルを作成することをお伝えしました。
すると、社員がちゃんと仕事をしていない場合は、業務マニュアル通りに仕事をしていたのかどうかが焦点となります。業務マニュアル通りに仕事をしていなかったとしたら、社員も注意喚起を受け入れて、納得してくれることと思います。業務マニュアル通りに行ってトラブルが発生したときは、業務マニュアルが悪いということですから、社長や上司の責任になります。そのときに、社長や上司が責任を持って業務マニュアルを改善し、改善された内容を社員と共有するようにしてください。
最後に、当社の業務マニュアル作成支援のご案内をいたします。経営理念の策定や、経営理念に基づいた業務マニュアルづくり、人事考課といった会社の仕組みを作成し、社員の誰もが均一に「ちゃんと仕事ができる会社」を目指すご支援をしています。
業務マニュアルを作成したいとお考えの企業様は、ぜひご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。