
会社を経営し始めて、事業規模が拡大してくると、まずは家族や知人が手伝ってくれて、そのうちに一般採用が始まる段階になります。
最初の一般採用は、ほとんど間違いなく失敗すると思います。
その理由は、社長がまだまだ未熟だからです。
そして、少しずつ経営の仕方を実地で覚えたり、誰かに教えてもらったり、本を読んで勉強したりして、「企業ビジョンを作らないといけないのだな」と思うタイミングがあります。
企業ビジョンをつくろうとしても、「本当にこれでいいのだろうか?」と悩みます。また、企業ビジョンが定まっても、なかなか実現することもありません。
この記事では、はじめて企業ビジョンをつくろうとお考えの社長に向けて、本では学べない「企業ビジョンづくり」を本音トークで詳しく解説いたします。
小さな会社が企業ビジョンを持ち、それを実現していくまでの方法について、全体的にまとめたので、とても長くなってしまいましたが、ここで述べられていることを知っているのと、知らないのとでは、企業ビジョンの実現に大きな時間差が生まれることと思います。
ここで述べられている内容は、企業ビジョンを作成している途中や、作成後にも、ときどき何度も見返してください。必ず会社の事業規模を拡大させるヒントになるはずです。
経営理念の沼にハマるな
はじめて企業ビジョンづくりに取り組まれる社長がハマる沼があります。
誰しも必ずハマる経営理念の沼
それは、経営理念といった会社の中心概念に関する名称には、いろいろな種類がありますが、「どのような名称を使ったらいいのだろうか?」というものです。
その名称には、社是や社訓、指針、ミッションやパーパス、バリューなど、たくさんあります。
経営理念を作りたいと思ったときに、経営理念に関する書籍を読まれると思います。書籍には、「ミッションがいい」とか「いやパーパスが大事だ」などと書かれていて、何がいいのか頭が混乱した人は、私だけではないはずです。
経営理念は何を作ればいいのか?
それでは、経営理念としていったい何をつくればよいのでしょうか?
そこで、1,000社以上の経営理念に使われている名称を調べたのですが、各社本当にバラバラでした。
そこで気が付いたことは、
- 経営理念よりも、立派な会社をつくることが大切
- 名称は自社で定義したらよい
- 企業ビジョンをつくるだけで立派な会社ができるわけではない
“経営理念”と掲げられた内容を見ても、ある会社は「感謝」といった一言や、一文が書かれたものもありました。また、経営理念をいくつかのパーツで構成されたパッケージとして定義している会社もありました。
その経営理念パッケージの構成内容には、自社の将来のイメージやビジョンを定めている場合があります。
企業ビジョンの定義
この記事では、企業ビジョンという名称を使っていますが、これを“自社が実現すべき理想像”と定義したいと思います。その理想像をありありと描いたものが企業ビジョンです。
パッと思っただけのものは、夢とかインスピレーションと言われるものかもしれません。パッと思っただけのものと企業ビジョンとの違いは、明らかに全社をあげて取り組むべきものかどうか、そして具体的かどうかの違いです。
企業ビジョンは、全社をあげて取り組むべき具体的な内容をビジョンとしてかかげたものです。
どのような内容の企業ビジョンを作成したら良いのか、後でご説明しますが、その名称はミッションでもいいし、未来ビジョンでもいいし、社長ご自身がしっくりくる名称を定義してかまいません。小さな会社であれば、「オレの夢」という名称でもカッコイイと思います。
経営理念の名称も同様です。企業によっては、企業理念や社是などいろいろな名称がありますが、しっくり来る名称を定義なさってください。
ビジョン系の用語
ビジョンに関する用語は、企業ビジョンの他にも、次のようなものがあります。
- ビジョン
- 未来ビジョン
- 経営ビジョン
- 事業ビジョン
- 長期ビジョン
- 短期ビジョン
他にもあると思いますが、それぞれ社長がご自身で定義なされたら良いです。とは言っても、なかなか定義がしにくいと思うので、ノーアイデアの方は、私が考える定義を流用なさってください。
ビジョン | 未来に実現したいことを明確に定義したもの |
---|---|
未来ビジョン | ビジョンと同じ |
経営ビジョン | 企業ビジョンと同じ |
事業ビジョン | 事業活動のビジョン |
長期ビジョン | 企業ビジョンや経営ビジョンの10年以上未来のビジョン |
短期ビジョン | 企業ビジョンや経営ビジョンの3~5年後の未来ビジョン |
未来ビジョンと夢は似ていますが、夢は例えば「エネルギー問題を解決するために核融合発電を実用化したい」という漠然としたものです。それに対して未来ビジョンは、核融合発電が実用化された未来社会の姿をイメージしたものです。
社長の未来ビジョンは、夢を抱き続けてそれが少しずつ明確になっていきます。例えば「千葉県のどこそこに建てる」とか、「核融合炉の実用機は3機」とか、建物の大きさや形とか、設備、働いている人の姿、周辺の街並みがどうなるといったものを、全体的に明確にイメージしたものです。未来ビジョンは、あたかも実現したものかのように、ありありと語ることができるものです。
そのような内容を、会社のことや事業のことでありありと語ることができるものを、企業ビジョンや事業ビジョンと言います。企業によっては、事業内容が1つしかないところが多いと思いますし、今後も事業内容の種類が増えていかない企業もあると思います。そういった企業では、企業ビジョンと事業ビジョンが同じものになりますから、どちらか1つだけ定義すれば事足ります。
クリニックや飲食店などの個人事業主の場合では、「企業ビジョン」という言葉を用いずに「事業ビジョン」という言葉を用いる方が適切だと思います。なぜなら、企業ビジョンは株式会社の組織全体のビジョンを指すように思えるからです。
時系列のビジョン
ビジョンには、「長期ビジョン」や「短期ビジョン」といった時系列で企業ビジョンや事業ビジョンが定義されることもあります。そのように、時系列で複数種類のビジョンを立てる場合は、短期と長期の企業ビジョンであれば、それぞれ「短期企業ビジョン」と「長期企業ビジョン」と定義されたら良いと思います。
短期は少なくとも3年先をイメージなさってください。企業活動では3年はあっという間に訪れてしまうからです。もちろん「1年先を短期企業ビジョンとする」と1年後を定義されても良いですが、変化の激しい業界であったとしても、1年後は会社のイメージはほとんど変化が無いと思いますし、新規事業を立ち上げるとしても収益化には2~3年ほどかかるので、短期企業ビジョンは3年以上先が妥当です。
長期企業ビジョンが30年後といった、現実的でないくらいの長期であれば、その中間となる10年後の「中期企業ビジョン」を定義すれば良いと思います。
その場合は、「期限は設けないが、いずれ実現したいビジョン」を企業ビジョン、その中間として10年後のビジョンを長期ビジョン、3年後のビジョンを短期ビジョンとして、3種類のビジョンをつくることもおすすめです。私がご支援する場合は、このパターンのビジョンをつくるようにしています。
事業ビジョンも同様に、どれくらい未来の事業活動をビジョン化するかによって、短期事業ビジョン、中期事業ビジョン、長期事業ビジョンの3種類ができる可能性があります。
企業ビジョンはすべての会社に必要なし
企業ビジョンを必要としない会社の条件
企業ビジョンを掲げるべき会社は、社長や経営幹部が「立派な会社をつくりたい」と本気で思っておられる場合です。その“立派な会社”の姿や事業活動を通じて実現したいことを明確にしたものが企業ビジョンです。
「企業ビジョンは必要ありません」と言い切ってしまったら、この記事の意味がなくなってしまいますが、実のところ、すべての会社に企業ビジョンは必要ありません。
もちろん、できるだけ企業ビジョンは持つべきですが、企業の条件によっては企業ビジョンを必要としない会社もあります。その会社の条件とは、社長が「会社の規模は現状維持でよい」とお考えの場合です。
企業ビジョンを必要としない会社の例
ここで饅頭屋を例に、企業ビジョンについて考えたいと思います。家族経営をしていて現状維持を求める饅頭屋は、企業ビジョンをつくる必要はなく、社長が大切にするモットー、例えば「味を守る」といったものだけでよいと思います。
企業ビジョンは、できれば社長が本気で目指しているものを掲げていただきたいのですが、目指しているビジョンが「現状維持」という場合もあります。現状維持のビジョンを掲げたとすると、店員さんは何と思うのでしょうか?
「社長から言われたことだけをやっていたら良い」と考えているパートさんやアルバイトさんでしたら、なかなか良い企業ビジョンだと思うかもしれません。
小さな会社に勤めるパートさんやアルバイトさんは、「会社の事業活動を通じて社会に貢献したい」と本気で考えている人は、あまりいないでしょうし、扶養の範囲内で生活の足しになれば良いと考えている人は多いでしょう。また、長く務めることを考えておらず、別の仕事に就くまでのつなぎだと割り切っている人もいると思います。
掲げたら問題となる企業ビジョン
社長の本心が「現状維持で良い」と考えているのにも関わらず、店員さんに対して「日本一の和菓子屋になるぞ」と言ったところで、社員にとっては「本当に日本一を目指しているのだろうか?トラ〇の方が、どう考えても立派な和菓子屋だと思う。」と思ってしまいます。
社員は、社長の言動を見て、言っていることとやっていることの乖離を感じるわけです。すると、店員さんは「どうせ社長は口先だけだ。」と考え、店員さんは社長の言うことを聞かなくなってしまいます。私は、そのような会社を何社も見てきました。
いきなり社長が、「日本一を目指す」と言っても、スタッフさんたちは誰も相手にしてくれないと思います。
ときどきお見かけする社長の間違った考えとして、「企業ビジョンを考えたから、それを実現することは社員であるお前たちの仕事だ」という考えがあります。企業ビジョンを示し、企業ビジョンの実現のための進捗だけを確認するのです。
企業ビジョンの実現は、新しいことへのチャレンジですから、チャレンジすることに慣れている社員で、その見返りがお給料やボーナスとして反映されるのであれば、企業ビジョンの実現を引き受けてくれることでしょう。しかし、多くの小さな会社は、慣れない仕事をさせられて、苦労する割にお給料が上がりません。なぜなら、企業ビジョンの実現は遠い未来のことだからです。
任せられて実施していって実力が身に着いたら、その社員は辞めていくことになります。見合ったお給料が得られませんから、その実績を携えて、もっと条件の良い会社に転職していってしまいます。そして、会社はまた元の大きさに戻っていってしまいます。
そういった社員任せの社長も、企業ビジョンを掲げない方が良いと思います。
もっと述べるならば、社長から任せられた企業ビジョンを実現できるような社員は、貴社には入社しません。そのような優秀な人材は、大手企業に入社するか、自分で起業しているはずです。
企業ビジョンを掲げたら、社長が陣頭指揮を執って全体を見つつ、社員の中の能力の高い人には経営計画の中の重要プロジェクトを、社長が立てた計画通りに実施させると良いと思います。企業ビジョンの実現に向けた経営計画の立て方は、後ほどご説明いたします。
企業ビジョンを必要とする会社は?
企業ビジョンを必要とする会社は、もちろん社長ご自身が立派な会社を目指している場合や、事業活動を通じて社会貢献を考えている場合です。
企業ビジョンを必要とする会社の例
家族経営をしていても、「ネームバリューのある立派な饅頭屋を目指すのだ」ということであれば、その企業ビジョンを掲げるべきです。するとお店が目指す理想像と現実のギャップがわかり、理想実現に向けて何をしたらいいのかがわかります。社長がそのギャップを埋めるためのひたむきに行動する姿を見て、店員さんが発奮します。
まずは、店員の服装や顧客対応には品格が求められ、品質管理の方法も改善が必要かもしれません。社長が会社の改革に取り組む姿勢を見て社員が発奮するのです。厳密には、社長の考えや行動に共感する社員が発奮し、合わない店員さんが辞めていって、共感する店員さんに入れ替わっていき、会社の雰囲気が変わっていくことが多いです。
企業ビジョンが発端となって人材を育てる
会社は、基本的に社長が思ったことだけが実現します。事業規模の拡大を考えていないのにも関わらず、「会社が勝手に大きくなってしまいました」ということは、方便で謙虚にそのように言われる社長もいらっしゃいますが、現実ではあり得ません。
社長の思っているものが、そのまま実現することが多いのです。社長が「将来はこうしたい」と思っているだけで、企業ビジョンが無くても成長する会社もあります。しかし、成長はある一定のところで止まってしまいます。その一定のところと言うのは、社長の実力の範囲です。
小さな会社から立ち上げた社長は、ご自身の実力で今の大きさまでなっていると思います。ところが、事業規模の拡大を考えていても、それ以上大きくなることはありません。なぜなら、人材が育っていないからです。
後ほど詳しくご説明しますが、企業ビジョンを掲げることによって、社長が何を目指しているのかが社員が理解し、そその実現に向けて考えて行動してくれるようになるのです。そのようにして人材が育つわけですが、企業ビジョンは人材が育つための発端となるのです。
若手スタッフが社員として入社したら魅力のある企業ビジョンを立てる
もし今現在、企業ビジョンを掲げていなくて、若手スタッフが社員として入社したら、魅力のある企業ビジョンを立てるようにしてください。
若手社員は、将来の自分の生活をも考えて入社している可能性があります。結婚する社員は、すべからく自分自身や自分の家族の生活の安定と向上を求めているからです。企業ビジョンを掲げて、自社がどのように成長していくのかを示してあげることができたら、社員は会社に貢献してくれるようになる可能性があります。
魅力のある企業ビジョンを掲げていなければ、社長がよほど優れた技術を有していて、その技術を学べるときは別として、社員は一通り仕事を覚えたら辞めていくことになることが多いです。
企業ビジョンの実現に取り組む社長が会社や社員を成長させる
社長が企業ビジョンの実現に取り組む姿勢が会社や社員を成長させる
もちろん、立派な饅頭屋の社長を目指す過程で、社長の経営に対する考え方も立派になります。
企業ビジョンを明確にし、その実現に取り組む社長が成長し、その社長の成長に呼応するように社員も成長していきくわけです。会社や社員は単純に成長するものではありませんが、会社の成長のためには、社員の成長が必要です。その源泉として社長の成長が必要です。社長の成長を促すものが、社長が企業ビジョンの実現に取り組むことです。
社員が自分の成長に喜びを感じるようになる
会社や社員が成長するということは、社員にとってはお給料が増えていったり、生活が豊かになったり、社会により貢献できたりと、いろいろなメリットを享受することができます。
社員は、最初はお給料の良さや待遇を考えて会社を選ぶかもしれませんが、企業ビジョンが明確にかかげられた会社では、多くの社員が自分自身の成長にメリットを感じるようになります。
多くの社員は、仕事とプライベートを分け、「会社での仕事は、生活するために仕方がない」と言っているかもしれません。東京のとある会社の30歳くらいの社員さんもそのように言っていましたが、居酒屋で飲んで本音を探ってみたら、「実は仕事が楽しい。その理由は、自分の仕事が世の中のお役に立っている。新しい仕事にチャレンジさせてもらい、成長している自分が嬉しい。」ということに気が付いた方もいらっしゃいます。
企業ビジョンの実現に取り組む過程で得られた教訓が経営理念になる
そのように立派なお店に改善していく中で社長のモットーや大切にしたい考え方が増えていき、そのエッセンスが経営理念のパーツになります。
経営理念については、後ほどご説明したいと思いますが、経営理念とは簡単に述べるならば、“会社が大切にする考え方や会社が目指すものがまとめられたもの”です。
企業ビジョンを実現させるための、考え方や行動の仕方が経営理念にまとめられます。
社長が企業ビジョンの実現に向けて取り組む中で、さまざまなトラブルに見舞われることと思います。時にはリソースが足りなく、時にはミスでお客様から叱られ、時にはうまくいって大きな利益が入ることもあります。そういった経験から経営の法則をつかみ、その中から抽象化された言葉が、経営理念に昇華されます。
企業ビジョンはどんな内容にしたら良い?
実のところ、企業ビジョンは、本当にどんな内容でもいいのです。その理由は、企業ビジョンが間違っていたら自浄作用が働くからです。
本音と建て前が違っていると自浄作用が働く
東京のとある小さな会社の社長のエピソードですが、「社会貢献を謳うことで、注文が入りやすいのではないか」と考え、社会貢献をビジョンとして掲げていました。ところが、社長の本音は「飲み代がほしい」という曲がった性根でした。
企業ビジョンの内容は正しいものでも、社長の間違った本音が仕事をしてしまい、社員が離れ、お客様から教育されて、社長が「これではいけない」と気づいて反省し、心を改めました。そして正しい企業ビジョンを立て、経営幹部が成長し、今では立派な会社になりました。
このように間違った企業ビジョンを掲げてしまったら、自浄作用が働いて一時的に会社が傾いてしまう場合があります。とは言うものの、社長の考え方が正しいものになって正しい企業ビジョンを掲げて、その実現に本気で取り組むようになるわけですから、間違っていても結果的には「企業ビジョンは何でも良い」という考え方もできます。
社長の間違った本音を反省させることは、企業ビジョンを立てるメリットの一つです。企業ビジョンが正しいものでも、社長の本音が間違っていたら、自浄作用が働いてしまいます。社長の企業ビジョンは、口先だけのものではなく心から願うものであることが大切です。社長は私心を抑え高貴な義務感を持って、事業活動に邁進してください。
間違った企業ビジョンの典型例
間違った企業ビジョンを掲げてしまう典型例をご説明いたします。次のような発想で作成された企業ビジョンは、すべからく間違った企業ビジョンとなり、自浄作用が働いてしまいます。
- 社長の怒りから導き出された企業ビジョン(他人を陥れたい)
- 社員を働かせるための企業ビジョン(言行不一致)
- 社長の個人的な企業ビジョン(自己中)
社長の怒りから導き出された企業ビジョンは、「他人を陥れたい」というネガティブな思いから生まれた企業ビジョンです。
東京のとある10人くらいの小さな会社で、技術力が認められて業界トップクラスの会社がありました。そこに、海外メーカーの格安製品を導入し、ネット集客で勢力を伸ばしてきたライバル企業が出現してきました。社長は、「技術もない会社が格安製品で業界を荒らしているのはケシカラン」ということで、ライバル企業に勝ち、過去の栄光を取り戻すことを企業ビジョンとして立てました。その社長の意気込みに、社員も発奮しました。
ところが、ライバル企業は格安製品では利益が出なくて、2~3年ほどで倒産してしまいました。すると社長は目先の目標を失ってしまい、満足してしまったのか、次なる企業ビジョンを掲げることなく、引退を考えるようになってしまいました。
発奮していた社員たちもテンションが下がってしまい、一人、また一人と会社を去り、会社に活気が無くなってしまいました。
社員を働かせるための企業ビジョンは、「言行不一致」になります。この事例は先ほどご説明した通りです。
社長の個人的な企業ビジョンは、自己中の企業ビジョンです。例えば、「毎月1回は銀座のクラブに行けるようになって、社員も連れていって・・・」と自分の趣味を社員に押し付けるような企業ビジョンです。社長は銀座のクラブで遊ぶことが趣味であっても、それに付き合わされる社員はたまったものではありません。社員は社長の私的欲求のために働いているわけではありませんから、そのような企業ビジョンは成就するはずがありません。
しかし、社長の自己中心的な企業ビジョンは、言行不一致の企業ビジョンの陰に隠れて存在するものです。しかも、一見すると聞こえの良い企業ビジョンに本音がうまく隠してある場合でも、入社して間もない社員以外は、全員が言行不一致であることを見抜いているので、安心してください。
社長の願望と企業ビジョンをいっしょにするのではなく、企業ビジョンの実現に全集中の呼吸を行い、その実績に応じて嫉妬されない範囲で遊ぶようになさってください。
正しい企業ビジョンに含まれる3つの要素
少し極端な事例をご紹介しましたが、正しい企業ビジョンは、次の3つの要素が含まれている、もしくは導き出せるものだと考えます。
- 将来の事業内容
- 目指す事業規模
- 事業活動を通じての社会貢献
将来の事業内容は、饅頭屋であれば「饅頭や和菓子だけ」を対象とするのか、洋菓子や菓子パンなども手掛けたいのか、それとも和菓子の喫茶店事業をしていきたいのかといったものです。
目指す事業規模とは、日本一や世界一といったものが解りやすいと思います。
事業活動を通じての社会貢献とは、饅頭屋であれば和菓子の提供を通じて、「家族の健康」や「3時のひと時の幸せ」といったものを提供することができます。
これら3つの内容を含む企業ビジョンとしては、饅頭屋であれば、「日本一の饅頭屋を目指し、日本の和菓子文化を守る」というものにして3つの要素を含めるのも良いでしょう。それが実現したらネームバリューの高い饅頭屋になっているはずです。また、排気ガス処理の会社であれば、「日本中の煙突から有害な煙を無くしたい」というものを掲げたとします。この例では国内を対象としていますが、社長の考えが進化し「世界中の煙突が対象だ」とか「煙突だけでない。煙が存在するところはすべてが対象だ」と考えるようになったら、企業ビジョンを変更するときです。
このように、企業ビジョンは社長の考えの進化とともに前向きに更新してもかまいません。
実現させたいことを細かい文章にしなくても良い
本田技研工業では、企業ビジョンとして飛行機の製造については、本田宗一郎先生がご存命のときは、大々的に企業ビジョンとして掲げていませんでした。現在の本田技研工業の経営理念の中には「モビリティ」という言葉が使われています。ASIMOの開発は終わったようですが、そのうち、モビルスーツの開発をするかもしれませんね。
企業ビジョンとして実現させたいことは、具体的に伝わることが大切ですが、長い文章にする必要はありません。本田技研工業の最初の経営理念には、「わが社は、世界的視野に立ち、顧客の要請に応えて、性能の優れた、廉價(廉価)な製品を生産する。」と記載されていました。つまり、オートバイの製造に限定していなかったのです。
もしオートバイに限定していたら、経営理念が会社の成長を止めていた可能性があります。
ちなみに、最初の本田技研工業の経営理念を作成したのは、本田宗一郎ではなく、藤沢武夫先生でした。藤沢武夫は、本田宗一郎といっしょに事業経営を始めた最初の2年間は、寝食を共にし、未来に何をしたいのかを聞いて聞いて聞きまくったようです。その結果から、「オートバイだけではなく、将来は自動車や飛行機もやるはずだ」ということで、オートバイに限定した経営理念にはしていませんでした。
会社によっては、文章ではなく絵にしているところもあります。文章でも絵でも何でも良いですが、社長は社員に企業ビジョンがあたかも実現したかのように、ありありとイメージできるように、ロマンチストのように語ることが大切です。
小さな会社が「世界一」を掲げてもよい?
それを本当に目指しているのであれば、世界一であろうが、宇宙一であろうがかまいません。スティーブ・ジョブス先生は、自宅のガレージでPCを手作りしているときに、「宇宙にインパクトを与える」と明言して、資金援助してもらっています。
社長は、明言しているかどうかは別として、何らかの企業ビジョンを持っているはずです。その本音の部分が社長の行動に現れてきます。ですから、本気で世界一を目指すことであれば、ぜひとも世界一を目指していただきたいと思います。
「日本一だとイメージができない」というのであれば、「地域ナンバー1」でもかまいません。
とにかく、社長のやる気が沸々と湧き出る企業ビジョンを掲げてください。
企業ビジョンの内容の良し悪しは社長の熱意が湧き出るかどうか?
初めて企業ビジョンをつくるときに、出来栄えの良し悪しは社長ご自身の熱意が沸々と湧き出てくるかどうかです。文章にしたり絵にしたり、いろいろな表現方法がありますが、要するにそれを社長が見たときに社長ご自身の熱意が高まるかどうかが大切です。
良いものができたら社員にコミットメントして、社長ご自身の意識をさらに高めていくのです。その熱意の高まりが人材を集める力にもなります。ただし、社員が社長の熱意でやけどして辞められたら困る場合は、ゆるりと伝えてください。世界一といった突飛的な企業ビジョンを社員に明言する場合は、社長がそれを本当に目指しているという証拠を示す必要があります。その証拠とは、それを実現するための方法と社長自らの率先垂範です。企業ビジョンを言い続けることも大事です。
企業ビジョンを作るのは社長が基本ですが、社員や外部のコンサルタントが企業ビジョンを作ることもあります。その企業ビジョンを社長ご自身が心から受け入れられるものであればよいですが、他人が作った企業ビジョンに責任を持って取り組む社長は稀です。
企業ビジョンは何年先をイメージしたらいいのか?
企業ビジョンは、何年先をイメージしたらいいのかは、簡単です。社長がイメージできる最長のものをお考えください。
松下幸之助先生は、理想の社会の建設を目指した250年計画を立てられたそうです。そのような未来過ぎる企業ビジョンは、その通りに実現はしないと思います。しかし、理想と社長の熱意を目の当たりにした社員は発奮したことでしょう。
松下幸之助先生の250年先は極端ですが、企業ビジョンが実現したときに自分が生きていようが死んでいようが関係なく、社長がぜひとも実現したいことを掲げたら良いと思います。
本田宗一郎は、「いずれ自社で飛行機を作ってみたい」と考えていたようですが、本田ジェットが実現したのは、本田宗一郎がお亡くなりになってからです。
企業ビジョンと市場のニーズが合わない場合は?
企業ビジョンが市場のニーズと合わない場合があります。
例えば、「世界中にたこ焼き屋さんを流行らせたい」と考えたとしましょう。日本国内では受け入れられても、世界中で受け入れられるかと言えば、微妙だと思います。
和食が世界進出した事例
今から25年前のことです。シンガポールに旅行に行ったときに、ショッピングモールのフードコートで昼食を取ることにしました。せっかくシンガポールに行ったのですから、現地ならではの料理を食べようして、列に並びました。
並んだお店から少し離れたところに、1人も列に並んでいないお店を発見しました。そのお店の名前は、「Modan-Yaki」でした。男性の店長さんらしき人が、日本語で「いらっしゃい、いらっしゃい」と呼び込みをしていました。
一人も並んでいないお店を目の当たりにして、日本人として寂しく思って並んであげようかなと思ったくらいです。モダン焼きが世界進出を果たしたわけですが、なかなかうまくいかないようです。
おそらくこのお店は、モダン焼きを世界に広げていこうと企業ビジョンを立てていたことでしょう。ところが、現地の人たちのニーズに合いませんでした。おそらく、1~2ヶ月ほどして撤退したことと思います。
当初はニーズを優先すべき
企業ビジョンと市場のニーズが合わない場合は、当初はニーズを優先すべきことが常套手段です。企業は売上高から得られる利益が無ければ生き残れませんから、まずは売れるものを売ることから始めるべきです。
モダン焼きをシンガポールで広めたい場合は、シンガポールの方々の味覚に合う焼きそばから始めるべきでしょう。そして、限定商品として「日本ではポピュラーな焼きそばです」ということで、ソース焼きそばを販売し、ソースの味覚に慣れてもらうことをすべきでしょう。
それが人気が出るようであれば、「日本にコアなファンを持つ『モダン焼き』というものが裏メニューにあります。一ついかがですか?」と進めていきます。そのようにして、モダン焼きのファンを少しずつ増やしていくことをすべきです。
市場がまったく無いところから、いきなり最初から、「モダン焼きだけで勝負をする」というものは成り立たないことが多いです。
また好きでないことは事業にすべきでないことも真理
社長が「自分はどうしてもシンガポールでモダン焼きを焼きたいのだ!」と思っていたとしても、シンガポールでは受入られませんでした。そこで、シンガポールの人の味覚に合うものから始めることを、ご説明しました。
本来ならモダン焼きを焼きたいのに、予想に反して、シンガポール風焼きそばがヒットしてしまったとしましょう。そのときに、社業は出資者の人に「モダン焼きを焼きたいのだけれども」と伝えたとしても、出資者の人は「シンガポール風焼きそばが売れているのだから、それを続けて欲しい」と要望されるはずです。
すると、社長は本来やりたかった事業ができなくなってしまい、これ以上事業規模が大きくなっていくと、本当にやりたかったことが出来なくなる恐れがあります。すると、仕事がイヤになってきます。
そういった事態を防ぐために、創業時に企業ビジョンを明確に立てておくことが大切です。
まずは、副業としてシンガポール風焼きそばから始め、モダン焼きが赤字でも十分に黒字になるように資金ができてきたら、本業としたいモダン焼きを始めるように、あらかじめ計画を立てておきます。その場合は、企業ビジョンとしては「モダン焼きを世界に」となりますが、計画はニーズを意識しながらステップアップしていく内容となります。
企業ビジョンを段階的に成長させたらどうか?
このようなステップアップは、世界一を目指すときにも応用できます。それは、企業ビジョンを段階的に成長させていく方法です。
段階的に成長させる企業ビジョンとは?
小さな会社が、最終的な企業ビジョンとして、例えば「世界一」を目指していたとします。ところが、社長が社員たちに「世界一を目指すぞ」と言ったところで、社員たちは「また社長が変なことを言い始めた」とか、「我が社のレベルで世界一なんて不可能だ」と、一蹴するはずです。
そこで、段階的に「まずは、地域で第一位を目指す。それが実現したら、次に業界で日本一を目指す。それが実現したら世界一を目指す。」という具合に段階的に企業ビジョンを掲げていく方法もあります。
社員たちには、最初は「地域でナンバー1を目指すぞ」と言っておくことで、「日本一はムリだけど、地域でナンバー1ならできそうだ」と現実味を持った企業ビジョンを提供し、社員に受け入れてもらいやすいものにするわけです。それが実現できそうになったら、「地域でナンバー1は目前だ。次は業界で日本一を目指すぞ!」と、企業ビジョンをレベルアップさせていくわけです。
このように段階的に企業ビジョンを公開していく方法は、本当に世界一を目指しているのであれば、おすすめできません。最初から世界一を目指してもらいたいと思います。
町工場レベルから世界一を目指した本田宗一郎
本田宗一郎先生は、本田技研工業の創立者です。本田技研工業が前身の会社、本田技術研究所だった頃、ミカン箱の上に立ったのかどうかはわかりませんが、20~30人の社員に向けて、いつも「いいか、オレたちは世界一の製品を作っているのだ!」と言っていたと聞きます。
その10年ほどの1958年にスーパーカブをリリースし、大ヒットさせます。その利益をオートバイのオリンピックと言われるマン島TTレース向けの開発にぶち込み、1959年に初出場を果たします。
その2年後の1961年、マン島TTレースで世界の名だたるオートバイメーカーを抑えて、見事な優勝を果たしました。125cc部門と250cc部門に出場して、それぞれ1位~5位をすべてホンダ車が占めるという、前代未聞の快挙を成し遂げたのです。
最初から世界一を本気で目指し、それを成し遂げたわけです。ロマンがありますね。
伝説のオートバイ「ライラック号」を開発した丸正自動車、伊藤正の企業ビジョン
伊藤正(いとうまさし)氏は、1950年代に本田技研工業の成長に追従した企業の一つ、丸正自動車製造の社長です。
伊藤正は本田宗一郎の直弟子の一人で、本田宗一郎が自動車修理工場、アート商会浜松支店を経営していたときのお弟子さんです。戦時中は、いっしょにピストンリングの製造に勤しんでいました。
終戦直後は、本田宗一郎は「何も仙人(何もしない人)」に、伊藤正はアート商会の近くで自動車修理の会社「丸正自動車修理工場」を立ち上げて生計を立てていました。
本田宗一郎が、近所の知り合いから発電機用エンジンを託され、自転車に取り付けて販売を開始。自社製の自転車用補助エンジンを開発し、ヒットしました。
それを目の当たりにした伊藤正はすぐさま自動車修理業を畳んで、溝渕定(みぞぶちさだむ)氏らと共にオートバイ製造に乗り出し、シャフトドライブ方式の「ライラック号」を開発しました。
丸正自動車製造の工場は、本田技術研究所の工場から徒歩10分ほどの場所でしたから、両社の技術スタッフはお互いに切磋琢磨し、時には近所の居酒屋で技術交流もしたそうです。

この写真は、丸正自動車製造のヒット商品となった、オートバイ「ベビーライラック号」です。
斬新的なデザインで、今でも流行しそうなオートバイです。
さて、伊藤正の企業ビジョンは、段階的なものでした。それは、「浜松で一位になったら、次に静岡県で一位を目指す。静岡県で一位になったら日本一を目指す。」というものでした。
ところが、浜松にはホンダ、ヤマハ、スズキと言った、凄まじい競合がありましたから、浜松で一位は難しいものでした。ですから、方針を変更して、「本田技研工業を目指す」という企業ビジョンを掲げてしまったのです。
世界一を目指す本田技研工業と、本田技研工業を目指す丸正自動車製造。どちらが魅力的な企業ビジョンでしょうか?
もちろん本田技研工業の方が魅力的ですから、優秀な人材は世界一を目指す面白さに賭けるわけです。
企業ビジョンがイメージできないときの対処法
企業ビジョンは、どのような社長もお持ちであることをお伝えしましたが、「未来の成長した自社の姿」をイメージできない社長がいます。そういった社長は、自社の売上予算や利益予算といった、「将来にどれくらいの利益を得たいか?」といった予算の数字から未来ビジョンをイメージすると、イメージしやすい場合があります。
企業ビジョンの種類
企業ビジョンは、「ネガティブ要因から脱却したい」というものと、「現状よりも事業規模を拡大したい」というものがあります。
ネガティブ要因から脱却としては、斜陽産業の業界であれば、会社が今の事業規模で維持できるように企業ビジョンを立てるというものです。規模の拡大としては、「世界一を目指す」といったものです。もちろん、今現在が苦しい状態でしたら、「その苦しさから脱却して、大きな会社に成長させたい」という企業ビジョンもあり得ます。
理想的には事業規模の拡大を企業ビジョンとして掲げるべきですが、事業規模の拡大はイメージしにくい社長は、少なからずいらっしゃいます。
ネガティブ要因からの脱却は、どのような社長でも現実味があるものです。事業の拡大がイメージできない社長でもネガティブ要因からの脱却はイメージしやすいと思います。この場合に、将来に得たい利益、もしくは自社の存続のために得るべき利益から企業ビジョンを立てると良いでしょう。
私の考えでは、初めて企業ビジョンをつくる場合には、どちらの種類でもかまわないと思っています。なぜなら、ネガティブ要因から脱却を本気で考える中で、社長の経営レベルが高まるからです。社長の経営レベルが高まると、経営が安定し、事業規模の拡大を考える余裕ができるようになります。
もう一つの種類として、今の事業内容を続けるのか、それとも別の事業でも良いのかというものがあります。
この2つの分け方で、4象限ができます。
別事業でネガティブ要因から脱却 | 別事業で事業規模を拡大 |
今の事業でネガティブ要因から脱却 | 今の事業で事業規模を拡大 |
事業規模拡大を考える方法
事業規模拡大を考える方法はいくつかあります。私がクライアント社長によく使っている手法は、次のものがあります。
- 今の事業規模が10倍になったら、会社は何をしているのか?
- 今の事業内容よりも収益性が良く、よく売れて、市場も大きな別の事業があれば、それに取り組みたいか?
- 1年後の売上高はいくら欲しいか?
10倍がイメージできなければ、2倍や3倍でもかまいません。イメージができるもので、会社の人員がどのように組織されているのか、社員がどのように動いているのか、社長は何をしているのかなどといったことをイメージしてみてください。
イメージできたら、「それが何年後に実現させられそうか?」もお考えください。そのイメージしたものとスケジュールを合わせたものが、経営計画になります。
別の事業は、取り組みたいのであれば、ぜひともチャレンジしてみてください。ただし、チャレンジする場合は、社長自らが陣頭指揮を執ることをお忘れなく。誰かに任せられるような手軽に始められる事業は手軽に失敗していくことが、世の常です。
何年もの先をイメージできない社長でも、1年先にどれくらいの売上高になっていたら嬉しいのかくらいは、イメージできるはずです。その金額を実現するために、いつ誰が何をどのようにするのか」といった行動計画を立てていただきたいと思います。その計画のことを、短期経営計画といいます。
短期経営計画を実現させて自信がついた社長は、未来予測の能力が高まり、企業ビジョンを立てる実力が高まっていきます。
考えた企業ビジョンはいつまで経っても消えないものか?
企業ビジョンを考えて、1年、2年、3年と経過しても、その企業ビジョンが消え去らないものかをお考えください。
単なる思いつきのものであれば、1年後には別のことを考えているかもしれませんし、逆風にさらされたらすぐに「儲かることをやりたい」と考えて、別のことに興味を持つ可能性が高いです。
逆風にさらされても、何年経過して芽が出なくても「何としても実現したい」というものがあれば、それはその社長のセンスの良さです。その企業ビジョンの実現は、社長お一人しかわからないものですから、何度も何度も「この企業ビジョンは本物か?」と繰り返してお考えください。
これは、手押しポンプと同じです。
手押しポンプとは、井戸の水を手動でくみ上げるポンプのことです。レバーを何度も何度も素早く上下させるのですが、苦労しながらも、なかなか水が上がってきません。ところが、水が出始めたら、軽く上下するだけで水が出てくるようになります。
企業ビジョンの実現も、これと同じようなもので、最初は苦労をしても少しも前に進んでいるような気がしないものです。ところが、それでも企業ビジョンを変えずに、毎日少しずつですでもいいのでなお一歩を進めていると、あるところで急に企業ビジョンの実現に動き出すようになります。
大きな企業ビジョンを掲げても会社が成長しない理由
実のところ、企業ビジョンをつくっても成長しない会社がほとんどです。その理由ははっきり言ってしまえば、社長もしくは経営担当者の実力不足か意欲不足です。いきなり「カチン」とくるようなことを言ってすみません。ここで「カチン」と来ないで、「確かにその通りだ」と言える社長の謙虚さが会社を成長させます。
細かなことに気が回らない社長の会社は成長しにくい
大きな企業ビジョンを立てられる社長は、どちらかと言えば、大きなことを考えることは得意ですが、細かなところを考えることが苦手な社長が多いです。会社が大きくなるためには、大きな考えと同時に、細かなところも見ることができる目が求められます。
小さな会社であればあるほど、社長はオールマイティーであることが求められます。30人くらいの会社になってきて、優秀な人材を扱えるようになってきたら、ようやく経営の一部を任せられるようになってきます。
大きなことを考えて、後の細かなところは社員に丸投げしている社長もいますが、社員が辞めてしまって、会社が回らなくなることもあります。
最初の事業が軌道に乗るまでは、社長が細かなところまで面倒を見られるようにし、社員を育てて、「こうやったら細かなところまで見られるようにできますよ」と業務マニュアルなり、カルチャーなりを構築してあげる必要があります。
細かなところを見られるようにもなって、ある程度事業規模が成長してきたら、藤沢武夫先生のような補佐役が現れてきます。
そうでなければ、補佐役の人が出てきても、その補佐役の重要さに気が付かないので、優秀な補佐役に無能のレッテルを貼って、手放してしまうのです。
会社の成長は全方位的に
事業活動は、開発・生産・営業・販売・経理・財務・人事など、さまざまな活動のバランスで成り立っています。販売が伸びると会社が成長するわけではありません。会社を成長させるためにはボトルネックを発見し解消してバランスよく成長させていく必要があります。
S県のある中小企業で世界一の性能を誇る製品を開発し、「世界企業にするぞ」と考えました。ところが、PRがうまくいかず、問い合わせてくる企業はあまりありませんでした。これは技術畑の社長のアルアル事例です。世界一の製品をつくり、世界企業を目指しても、別のところがボトルネックとなり、会社が成長しない場合が多いです。
人は得意不得意があるので、社長お一人ではボトルネックが生まれます。そこで、ボトルネックの部分を任せられる優秀な人材とチームを組むことです。優秀な人材は、現在の会社の規模とはあまり関係なく、社長が抱く企業ビジョンの大きさと、それを実現しようとする熱意に引かれて組んでくれます。これも企業ビジョンを立てるメリットの一つです。
社長の負けず嫌いの性格が人材を手放す
ところが、多くの社長は負けず嫌いが発動し、優秀な人材を手放してしまうことがあります。能力不足を認められない社長や自慢話をよくする傾向の社長は要注意です。
社長との会話の中で、「自分に足りないところを、社員が補ってくれている」と考えている社長や「我が社の社員はよくやってくれている」と言っている社長の会社は、成長していることが多いです。社員の愚痴を言っている社長の会社は、伸びていません。
伸びていないから愚痴を言っているのか、愚痴を言っているから伸びないのかはわかりませんが、どちらにしてもこれは法則のように思います。
社員の愚痴を言っている、その社員を雇ってしまった理由は、社長の能力が低いからだと言えます。その社員を成長させられないことも、社長の能力不足と言えます。企業ビジョンを実現させられる社長は、社員のやる気を引き出し、育てることがうまい社長です。
社員の愚痴を言って、社員が育つのであれば、世の中のすべての会社が成長しているはずです。
社長が一歩引いて任せるようになると、人材の能力が発揮され、相乗効果で会社が成長し始めます。成長し続ける会社の社長の多くは、「意思決定はチームで行うもの」と考えています。
町工場であった本田技研工業を世界企業にした、本田宗一郎と藤沢武夫先生のお二人がよい例でしょう。理想のナンバー2と経営チームが組めたら、売上高が4年で220倍’(社員数は60倍)に伸びることもあります。
企業ビジョンを実現するための計画の立て方
企業ビジョンを社員にありありとイメージできるように語ったとしても、それを実現する方法も明確に計画する必要があります。
企業ビジョンと計画の関係
企業ビジョンは掲げただけでは、その実現は不可能です。「目標を立てたら、それは実現したことと同じだ」と言っている人もいますが、良質なプロセスを経て目標が実現することは明らかです。
ナポレオン・ヒル先生は、「思考は物体である」と言っていますが、思っただけでは物が出来上がることはありませんから、「どのように行動を継続させるか」ということも説いておられます。
ここまでお読みになられた方は、企業ビジョンとして一見すると実現が不可能に思えるような内容をお考えになられた方もいらっしゃると思います。実現が不可能に思えるような企業ビジョンを実現するためには、今とは異なる何らかの新しい行動を行い、社長の経営レベルや会社全体の事業活動のレベルが高まっていく必要があります。
企業ビジョンが大きなものであるならば、それに伴うような立派な行動をすることが大切です。
しかし、立派な行動といっても、行き当たりばったりの行動であれば、今までと何ら変わりはありません。そこで、企業ビジョンを実現するために、どのように考え方を変え、どのように行動し、会社をどのようにしていくのか、それを計画に立てるのです。
企業ビジョンを実現させるためのさせるための経営計画
企業ビジョンを実現する方法は、企業ビジョンが実現できる内容の経営計画を立てて、社長が陣頭指揮を執って経営計画に書かれたことを、その通りに社員と力を合わせて実施します。
経営計画の中には、「いついつまでに、これこれの新規事業に参入する」とか「新商品を開発する」いった長期的なものもあります。
例えば、家具を製造しているメーカーが、企業ビジョンとして「木の温もりのある本物の家具を普及させたい」と考えたのであれば、新規事業として無垢材を使った家具のライン生産を検討するかもしれません。ライン生産を行うことで、無垢材を使った家具の値段が下がり、多くの人に普及させられます。
経営計画は、どのようにしたら企業ビジョンが実現するのかを計画したものですから、まさに企業ビジョンを実現させるためのマニュアルです。
経営計画を作成できる人は、企業ビジョンと同様に社長ただ一人です。なぜなら、部下が作った経営計画は、社長自らが実行できないからです。社長が自分で作ったものであれば、社長自らがその通りの行動ができ、企業ビジョンが実現できるのです。
経営計画の立て方
企業ビジョンが世界一であれば、それは何十年か後のことになりますから、その中間点として例えば10年後の長期ビジョンと経営計画を立てます。そして3年の中期、今年1年の短期も同様にビジョンと計画を順次立てていきます。社長の天才的な思いつきで「今年はこれをやるぞ!」と計画するのではなく、企業ビジョンからの逆算で計画を立てます。
1年後の短期計画は、主に利益計画とそれを実現するための営業戦略になります。3年の中期計画は、利益計画にプロジェクト計画が加わったものとなります。プロジェクト計画とは、新規事業や新商品開発、社内体制の改革といった大きなプロジェクトです。長期計画は、「地域ナンバー1」といった目標と将来の財務三表を作成します。
短期計画 | 1年後の利益計画とそれを実現するための営業戦略 |
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中期計画 | 長期計画の中間的な計画。3~5年後の利益計画とプロジェクト計画が合わさったもの。 |
長期計画 | 長期ビジョンの内容と将来の財務三表 |
経営計画の最長期間は、社長が「何年先をありありとイメージできるか?」によります。例えば、30年先を予見できる先見力をお持ちであれば、長期計画は30年後のものとなります。大きな企業ビジョンを掲げる場合は、その実現を手伝ってくれる人材も必要となります。将来に必要とされる人材像を明確にすると、さらに実現性の高い計画が見えてくるはずです。
「3年先ですら闇だ」と思うなら、1年後を予想なさってください。1年後の理想的な売上高でしたらイメージできるはずです。それを計画にして実践し、経営の実力と自信を高めていってください。すると少しずつ2年先、3年先とイメージができるようになります。「5年や10年後といった企業ビジョンはイメージできない」とお考えの社長は、無理に企業ビジョンをつくる必要はありません。
何年も先をイメージできる | イメージできる最長の企業ビジョンを作成し、その実現に向けた経営計画を立てる |
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何年も先がイメージできない | 1年後の経営計画を立てることがら始める |
経営計画の名称
この記事では、暫定的に「経営計画」という名称を使っていますが、それにこだわる必要はありません。小規模な会社で事業内容が1つの場合は、名称を「事業計画」としても良いと思います。
「経営計画という名称は、『経営者だけの計画だ』と勘違いされてはいけないから、名称を事業計画とする」という社長もいらっしゃいます。そのような、自社にしっくりくる名称を考えることは、とても良いと思います。
また、長期計画が10年ということもなく、7年後でも良いですし、5年後でも良いです。
10年計画を立てる場合には、その中間となる3~5年の計画を立てた方が良いです。そのように複数の経営計画を立てる場合には、「長期計画」や「中期計画」ではいつまでに実現する計画かがわかりにくいので、「10年計画」や「2035年計画」といった具合に、年を名称に入れる企業もあります。
また、経営コンサルタントの先生にご支援を依頼している場合は、経営コンサルタントの先生が使われている名称に合わせるべき場合もあります。経営コンサルタントの先生によっては、ご自身で経営理念や計画の名称を明確に定義されている方が多いため、混乱を避けるために、名称を合わせるのです。
また、学者的な経営コンサルタントの先生は、名称にコダワリがあり、「それ以外の名称は認められない」というコチコチ頭の人もいます。
ここでは、名称にコダワリを持つことが大切ではなく、正しく計画を立てることが大切ですから、「立派な会社ができるなら、名称は何でも良い。」という度量をお持ちください。
企業ビジョンを実現する10年以下の長期計画の内容
先ほど、企業ビジョンとニーズが合っていない場合の考え方をご説明いたしました。長期的な企業ビジョンは、たいてい現在のニーズと一致しないことが多いと思います。その場合は、ニーズの創造をすることになります。
ニーズの創造をするためには、見込み客となる人を育てないといけませんが、それは潜在しているニーズを顕在化させていくことです。簡単に言うと、自社の商品やサービスが、多くの人にとって価値があるものであることをPRして、認識を変えていただけるようにすることです。
ただし、ニーズが発掘され、市場が大きい場合には、自社の事業規模に合わせて、必ず次々と強大なライバル企業が出現します。
そのようなことを踏まえると、企業ビジョンを実現するための10年以下の長期計画の内容は、次のことが含まれている必要があります。
- 自社の顧客はどのように変化していくのか?
- 顧客のニーズはどのように変化していくのか?
- 会社の規模相応にどのようなライバルが想定されるか?
- 企業ビジョンを実現するために自社をどのように変革すべきか?
会社の成長は全方位的に成長させるべきですから、自社をどのように変革させていくかの計画も全方位的に検討することは述べるまでもありません。
短期計画の進捗は定量的な分析ができるようにすること
企業ビジョンを立てても、それが実現しないのは、経営計画が無かったり、内容が曖昧だったりしたときです。明確な経営計画を立てても、計画通りの結果が得られないのは、計画の進捗を定量的に分析できていないときです。
長期計画の内容は、どうしても曖昧になります。短期計画は具体的でなければなりません。
具体的とは、いつ誰が何をどこでどのように、どれくらいするのか、毎日の行動計画まで立てることです。
例えば、短期計画で今季よりも来期の売上高を1.5倍にする必要があるのであれば、営業活動も単純計算で1.5倍に増やさないといけません。商品開発もする必要があるかもしれませんし、既存製品の改善も求められると思います。
そういった行動を、いつ誰がどこでどのように、どれくらい行うのか、明確に計画を立てます。
例えば、「お客様との営業面談の回数を、今月は10回行う」といった具合です。営業面談を10回するためには、ホームページ集客をどのようにするのか、テレアポをどうするのか、DMをどのような内容でどれくらいの頻度で送るのかといったことを、具体的に計画するわけです。
その行動もフィードバックして、担当者の出来なかった理由を追求するのではなく、計画にムリ・ムダ・ムラがなかったかを振り返り、短期計画を毎月1回改善していき、期末で数字が達成できるようにします。
大きな企業ビジョンを考えるときは相談相手を選ぶこと
大きな企業ビジョンを考えるときに注意点があります。それは、相談する相手を選ぶことです。
大きな企業ビジョンを考えて、どうしてもそれを実現したくなり、テンションが上がってくると、それを誰かに伝えたくなるものです。しかし、それをグッとこらえて、落ち着いてください。
伝えた相手に叱咤されて落ち込むこともある
とある経営セミナーに参加された小さな会社の社長がいました。セミナーでの「自社が何を目指すのか自由に考えてください」というお題に、「何でも考えていいのか。よし、多店舗展開してT県で売上高1位になって・・・」と考え、やる気に満ちたそうです。
それを経営コンサルタントに見せたところ、「あなたの経営の実力で実現できると思っているのですか?」と一蹴されてしまい、それがトラウマとなって大きな企業ビジョンが立てられなくなってしまいました。
東京にある小さな会社の社長は、企業ビジョンを考え「我が社は将来、これを目指す!」と明確に立てらえたそうです。ある日のこと、銀座で飲んでいたら、経営者セミナーで知り合った先輩社長と出会いました。その先輩社長は事業を大きくした立派な方で、「最近どぉ?」と訊いてくれたので、「やっと我が社で企業ビジョンを考えて社員と共有しました」と伝えたところ、「企業ビジョンを考える前に、やることがあるだろう!」と叱咤されたそうです。
社長は、先輩社長と夢を語り合いたかったようですが、その後に気まずい無言空間ができて、当たり障りのないゴルフの話で盛り上がったようです。
相談する相手は、大きな企業ビジョンを否定する人ではなく、どうやったら実現できるかをいっしょに考えてくれて、熱意を引き出してくれる人です。今の実力では大きな企業ビジョンの実現は不可能でしょう。しかし諦めずに進化できた社長が、企業ビジョンを実現するのです。企業ビジョン実現に向けて伴走してくれる人を探してください。
社員に企業ビジョンを語るタイミング
社員に企業ビジョンを語るタイミングは、社長ご自身がつくられた企業ビジョンが、社長の本心から出てきたものかを確認できたら、社員に伝えるタイミングです。そのタイミングは、早ければ早いほど良いです。
なぜなら、企業ビジョンを掲げることによって、人材の入れ替わりが起きることがあります。現状維持を求めている社員や、会社の成長について行けない社員は辞めていくからです。
会社が小さいうちであれば、その企業ビジョンを聞いて辞めていったとしても、新しい人を採用したら良いと思います。採用された人は、企業ビジョンを聞いて入社していますから、企業ビジョンを受け入れた人というわけです。
「初心忘れるべからず」ではありませんが、できれば、起業するときから企業ビジョンを掲げていた方が良いと思います。
社員に企業ビジョンを語るときの注意点
社員に企業ビジョンを語るときに、注意点があります。それは、社長の高いテンションで社員が火傷してしまって、社員が一斉に会社を去ってしまうことがあるからです。
K県のとある小さな会社で、企業ビジョンが出来上がり、それを実現するための方法も明確になってから、「よしやるぞ!」ということで、ある朝、スタッフ全員を集め、重大発表と称して企業ビジョンを熱く語り始めました。
企業ビジョンを聞き終えたスタッフ全員が、ドン引きしていました。それに気が付いた年長の女性スタッフは、「社長の夢はよくわかりました。でも、私達はそれを実現するために集まった人ばかりではないので、善処します」と言ったところ、社長は激怒して「オレの気持ちを解っていない!」と一蹴したのです。次の日にスタッフ全員、本当に全員が辞表出して帰宅してしまったのです。
企業ビジョンを伝える相手は、まずは奥様や経営幹部からです。この小さな会社であれば、年長の女性スタッフに相談してから、段階的に企業ビジョンを開示していっても良かったと思います。
側近の社員でも、父親の会長であっても、最初は誰からも反発されることもあります。ヤマト運輸の小倉昌男先生が日本全国の宅配の実現を企業ビジョンとして掲げたときは、全役員だけでなく父親の会長からも大反対されました。それだけではなく、「気が狂ったのか?」とまで言われたそうです。
会社の運命を左右するような場面でない限り、いきなりガツンと伝えるのではなく、ゆるりと何度も何度も相手を説得するように伝えていって、企業ビジョンの内容に慣れてもらうことから始めてください。
大きな企業ビジョンの実現を支える経営理念の構成要素
企業ビジョンの実現は、必ず人を通して行われます。そして、企業ビジョンの実現を目指して、全社が一丸となる必要があります。そのための考え方や行動を、経営理念としてまとめます。
基本理念
自社の存在理由を一言で表した、当社で「基本理念」と言っているものは、企業ビジョンを一言で表したものです。
企業ビジョンは、全社員がイメージできるようにすることが大切ですが、そのためには何度も何度も企業ビジョンの内容を社長の口から社員に語る必要があります。その内容を社員がイメージできるようになったら、それを一言で表す基本理念の一言をそらんじると、企業ビジョンがイメージできるようにします。
企業ビジョンを何度も何度も言い続けることは大切ですが、毎回でなくても良く、基本理念と企業ビジョンを一致させておくと、基本理念を言っただけで企業ビジョンがイメージできるようになります。
経営指針
大きな企業ビジョンを実現させるためには、それを実現するための人材を育てることが大切です。その人材は大きく経営担当者と一般社員に分かれます。
経営担当者は、社長に代わって部門の経営判断をして、企業ビジョンの実現を手伝ってくれる人材です。経営担当者の育成には、社長が考える経営判断の基準となる指針を示すことです。その指針を箇条書きにしたものを、私は“経営指針”と呼んでいます。名称は何でもよいので、「バリュー」でも「オレのモットー」でもかまいません。
経営に熟達してきた経営者ほど、経営指針の項目数は少なくなります。項目数は、決まりはありませんが、5項目くらいが良いと思います。
経営担当者の育成には、新しいことにチャレンジする環境を与え、経営指針に基づいて自分で考えて行動をさせるようにします。そして、できるだけ社長が今現在考えていることを繰り返し話したり、社長が重要だと思う情報を共有したりすることです。経営担当者に目標とさせることは、与えられた事業で成果を出してもらって、誰でも成果ができるようにマニュアル化することです。その目標達成のための計画は、社長といっしょに考えてあげてください。
行動指針
さらに、社長を含む全社員が立派な行動ができる企業人となり、それをカルチャーにまで昇華させていく必要があります。そのための根幹となる考え方や行動の仕方を、私は“行動指針”と呼んでいます。もちろん名称は「社訓」でも「わが社の人材像」でもよいです。立派な会社になればなるほど、行動指針が完成してきます。
行動指針の完成を急ぎたい方は、当社のフォーマットを基にして暫定的に公開しておくこともおすすめです。行動指針を作成するためには、とても長い年月がかかるので、最初はフォーマットを利用することをおすすめします。
それを社員教育や業務マニュアル作成の基準として活かすことができます。
このように、企業ビジョンの実現に必要な考え方や行動の基準を、経営指針や行動指針といったパーツで補うわけです。これらのパーツをすべてまとめて、“経営理念”と称すると良いと思います。
はじめての行動指針は5つまで
行動指針が完成すると、項目数が100ほどになることもあります。そのような100項目もの完全な行動指針を、社員にいきなり突き付けると、社員はドン引きします。
先ほどの企業ビジョンを熱く伝えてしまって、社員が辞めていってしまったように、行動指針も同様のことが起こりかねません。
そこで、最初は慣れるまでは、行動指針を覚えやすくて取り組みやすい5つの項目に絞ると良いと思います。当社は、そのような5項目の行動指針のことを、「行動指針あいうえお」とか「行動指針いろは」などと呼んでいます。「あ、朝のあいさつは元気よく。い、いつもニコニコ笑顔で対応。う、うっかりミスを減らすアイデアはみんなと共有。・・・」といったものです。
部門毎に「行動指針あいうえお」を作成しても良いと思います。
教訓を箇条書きにしていく
企業ビジョンができてそれを目指して前進していくと、必ず問題が生じます。その問題を解決していく中で、必ず教訓が得られます。「経営のコツ」や「帝王学」に該当するものです。その教訓を蓄積することが、経営理念を完成させ、会社を成長させて維持するための源泉となります。
企業ビジョンを掲げることは、そのような教訓をつかむことができるメリットもあります。
その教訓を箇条書きとしてまとめられて、経営理念として進化していくわけです。
社長は、企業ビジョンの実現を目指して行動していく中で得られた教訓を、箇条書きで書くようになさってください。一代で大企業にまで成長させた社長の多くは、手帳や専用のノートに毎日1つずつ得られた教訓を書いているそうです。その教訓が、後に書籍として残ることもあります。
まとめ
企業ビジョンは、社長から心から実現を願う内容で正しいものを掲げてください。
企業ビジョンの実現のためには、そこから逆算して長期、中期、短期と計画を立てて、計画通りに実施することです。ときどき「自分は企業ビジョンの達成を本気で考えているのだろうか?」と振り返ってください。
社長の実力が高まるにつれて、企業ビジョンを前向きに進化させても良いです。会社の成長に合わせてボトルネックが出てくるので、それを人材で補ってください。ぜひとも大きな企業ビジョンを掲げていただき、立派な会社をつくっていただきたいと願います。
この記事の著者

経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。