
「また同じような不具合が起きてしまった」。品質会議で、そんな言葉が出たことはないでしょうか。
クレームが発生すれば原因を調査し、対策を立て、報告書も作成する。ヒヤリハットも集めている。設計審査もきちんと実施している。それでも、なぜか似たような問題が繰り返され、いろいろな再発防止策を講じても効果がない。
多くの中小企業が、真面目に改善活動に取り組んでいるにもかかわらず、「再発防止策が定着しない」という悩みを抱えています。
このような現象は、努力不足ではありません。能力不足でもありません。実はそこには、構造的な理由があります。
なぜ再発防止は難しいのか
再発防止には、実は難しいものがあります。再発防止がうまくいかない最大の理由は、多くの企業が「起きた後」に考えているからです。
問題が発生してから原因を追究する。それ自体は重要です。しかし、起きた事象だけを対象にしている限り、想定外のトラブルは必ず残ります。
さらに、
- 対策が個別対応で終わる
- 設計思想として共有されない
- 担当者が変わると引き継がれない
- ベテランの経験が言語化されない
こうした状況が重なると、再発防止策は「その場しのぎ」になってしまいます。本当に必要なのは、問題が起きる前に考える仕組みです。その仕組みづくりの方策の一つとして、FMEAがあります。
FMEAとは何か
FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、難しい統計手法ではありません。FMEAとは、ひと言で言えば、「起きるかもしれない失敗をあらかじめ考え、未然に防ぐ極めて優れた手法」です。
- この部品が壊れたらどうなるか
- この操作を誤ったらどうなるか
- この前提が外れたらどうなるか
まだ起きていない失敗を想像し、その影響を考え、必要な対策を前もって検討する。それがFMEAの本質です。
重要なのは、完璧な予測をすることではありません。考えるプロセスそのものが、担当者の考える力を養い、組織の力を高めるのです。
FMEAとは何かを詳細に知りたい方は、「新しいリスクマネジメントシステムAIAG&VDA – FMEAとは」をご参照ください。
FMEAがもたらす本当の価値(4つのメリット)
FMEAの価値は、不良率低減やクレーム数の減少だけではありません。むしろ、本当に大きな価値は次の点にあります。
1. ベテランの暗黙知が形式知になる
ベテランは「経験的にここは危ない」という具合に、経験や知見に基づいた判断をすることがよくあります。FMEAを導入すると、その知恵が、若手にも共有できる形で残ります。
2. 部門間の対話が生まれる
FMEAの構築は、設計、製造、品質保証などの全領域にまたがって行われます。各部門のそれぞれの視点が交わることで、見えていなかったリスクが浮かび上がります。
3. 若手育成の場になる
FMEAは、なぜその対策が必要なのか。なぜその評価なのか。議論の中で、設計思想が伝承され若手育成につながります。
4. 組織が学習体質になる
MITのピーター・M・センゲ先生のおっしゃるように、成長企業は「学習する組織」であることが必須です。
FMEAを導入することで、個人の失敗を責めるのではなく、「仕組み」で防ぐ文化が育ちます。つまりFMEAは、組織の知性を高める仕組みなのです。
FMEAの導入がうまくいかない理由
FMEAにはこのようメリットがある一方で、「FMEAをやっているが、形だけになっている」という声もよく聞きます。
その原因は、多くの場合次のいずれかです。
- 本質の追求ではなくISO対応が目的になっている
- 帳票を埋めることがゴールになっている(考え方ではなく、やり方にとらわれている)
- 評価点の数字合わせになっている
- 品質会議が責任追及の場になっている
- 経営層がFMEAの導入に関与していない、積極的でない
FMEAを導入すると、その通過点として紙やツールを作成しますが、FMEAは「紙やツール」ではありません。FMEAは「部門間を含む全社で対話する仕組み」です。FMEAの導入は、紙やツールを作ることではなく、大きな目的があるはずです。そして、品質会議は誰かの失敗を責める場ではなく、未来を守るための議論の場でなければなりません。
そしてもう一つ大切なことがあります。FMEAは、組織としての土台が整っていなければ、定着しません。組織としての土台とは、一言で「凡事徹底」、当たり前のことをしていることです。ですから、
- 設計標準がない
- 変更履歴が残らない
- クレーム情報が蓄積されない
こうした状態では、費用と時間をかけてFMEAを導入しても形骸化してしまいます。だからこそ、導入は慎重であるべきなのです。
最初は小さく始めるという選択(ミニマムスタート)
FMEAは、いきなり全社展開する必要はありません。むしろおすすめなのは、
- 実際に起きたクレーム事例から始める
- 1テーマで試行する
- 少人数で議論する
という“小さなスタート”です。このようなスタート方法のことを、「ミニマムスタート」といいます。
過去のクレームや失敗を振り返り、「あのとき、事前に気づけた可能性はなかったか?」と問い直す。そこから、予防設計の視点が生まれます。
さらに、顧客が本当に求めている機能(価値)は何か。その機能が果たせなかった理由は何か。こうした問いを重ねることで、単なる不具合対策ではなく、設計思想そのものが磨かれていきます。
再発防止策を「文化」にするためのポイント
再発防止は、報告書を出し責任追及するだけでは実現できません。そのようなことでは、失敗が隠ぺいされ、ハインリヒの法則を自社で実証することにつながってしまいます。少なくともすべての失敗が上司に報告されて、改善策が示され、全社で共有される必要があります。そして、文化として根付いて初めて、組織の力になります。
- 問題を隠さない
- 経験を共有する
- 失敗を学びに変える
- 未来を想像する
FMEAは、そのための一つの手段であり、再発防止に対する考え方を提供してくれます。FMEAといえども、決して万能ではありません。しかし、正しく活用すれば、中小企業にこそ大きな武器になります。
中小企業は、人材が限られているからこそ、知恵を蓄積する仕組みが重要です。ベテランによる属人化から脱却して若手が育ち、組織として強くなる。それが、FMEA導入の本当の意味だと私は考えています。
FMEA導入個別セミナーのご案内
御社が、FMEAを導入して
- 再発防止策を本気で定着させたい
- 若手を育てたい
- 技術資産を残したい
- 組織を学習体質に変えたい
そうお考えでしたら、まずは小さな勉強会から始めてみませんか。当社では、FMEA導入個別セミナーを随時受け付けています。セミナーは、入門編と実践編、応用編の3種類ご用意しています。
- 入門編:FMEAとは何か、メリットや導入方法などを解説します。
- 実践編:サンプル事例(食品製造と部品製造の事例)にてFMEA導入の体験をしていただくワークショップです。
- 応用編:御社の失敗事例を元に、ワークショップを開催します。実際のクレーム事例を題材に、FMEAの考え方を体験していただく。難しい理論ではなく、現場で使える形でお伝えします。
それぞれのセミナー時間は、ご担当者様の技量に合わせてカスタマイズいたします。
FMEAは帳票ではありません。自社の未来を守るための、対話の仕組みです。その一歩を、共に踏み出せれば幸いです。
この記事の著者

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。
