先日、新聞折込で宅配パスタの珍しいチラシを発見しました。私は商売柄、ほぼ毎日、新聞折込チラシをチェックしているので、「珍しいデザインのチラシだな」と思って確認したところ、近所の高級イタリアンのお店が宅配パスタを開始したという内容でした。
高級イタリアンのお店がパスタの宅配を始めた背景
チラシを配布した高級イタリアンのお店は、大通りから少し入った人通りの少ないところにあり、座席数30ほどの、隠れた名店です。
このコラムを書いている2020年5月19日現在、都内では緊急事態宣言が解除されていませんので、多くの人は街中を出歩いていません。このお店も、緊急事態宣言の影響を受けて、来店数が激減していることでしょう。
店舗にお客様が来て下さらない理由は、「不特定多数の人と近づいて、病気がうつされることが心配」ということですので、宅配を始めたと、容易に考えられます。
パスタの値段は、他のお店の1.2~1.5倍程度と決して安くない値段ですが、オープンから10年以上のお店で、常連客がいたはずです。このお店は、もともとテイクアウトをしていたのですが、常連客も来てくださらなくなった可能性があります。
近所の限定ですが、自宅まで運んでもらえるのであれば、「外に出かけたくない」というお客様ニーズに応えているため、ある程度の売り上げが見込めることでしょう。
このお店の偉いと感じたところは、「お客様ニーズの変化に合わせて、『お店に来てもらう』という固定観念を改めた」ことと、「その変更点をチラシでPRした」ということです。
いくら良い商品を販売したとしても、知られなければ売れません。仮に店の前にある看板や店の中に、「宅配パスタはじめました」と記載しても、それを知ることができる人は、店舗に訪れた人のみです。
宅配サービスを利用しないという選択
都内には飲食店の料理をネットで注文して、自宅まで運んでくれる宅配サービスがいくつかあります。宅配を始めた多くの飲食店が、宅配の仕組みを構築したプラットフォームを利用しています。
この高級イタリアンのお店は、ネットの宅配サービスを利用しても良かったはずです。しかし、チラシを見る限りでは、ネットの宅配サービスを利用している気配はありませんでした。とても興味深いことです。
もし私が1店舗のみ飲食店を経営していたら、おそらくネットの宅配サービスを利用しないと思います。そして、厳密な宅配のルールを作り、宅配の体制を整えます。宅配サービスを利用しない理由はいくつかあります。
1. 販売を他人任せにしてはいけない
1つ目は、「販売を他人任せにしない」ということです。販売とは、簡単に述べると現金と商品を交換することです。販売がなければ、現金が入ってきません。すると飲食店は倒産です。飲食店だけでなく企業であればすべてですが、販売を他人任せにすると、その他人が何らかの影響で販売できなくなってしまったら、今までの収益を失ってしまうことになります。
もし、配達員の対応が悪かったら、お店の評判も落ちてしまうことでしょう。
駅ビルの地下や1階では、お惣菜やスイーツの熾烈な競争が行われています。ところが、その熾烈な競争は駅ビルが開店している間にしか起こりません。駅ビルが閉鎖されている今、誰がお惣菜店やスイーツ店を救ってくれるのでしょうか?
そういったことから、販売は自己責任で行うべきであり、販売チャネルを複数持つということは、これからは当たり前に考えていく必要があります。ネット集客もその中の一つでしょう。
飲食店の場合は、ご来店が主となりますので、宅配は2の次になります。ですので、宅配のノウハウを持っているお店は少ないことでしょう。お店によっては、宅配だけの販売に舵を切ることもできますが、お店を利用する顧客の性質が大きく異なるため、お客様の研究が必要になります。
できれば自分自身で宅配行って、ノウハウを蓄積しておきたいところです。
2. お客様ニーズの変化をつかむ
2つ目は、「お客様ニーズの変化をつかむ」です。販売を他人任せにしていると、お客様ニーズの変化をつかみ損ねる恐れがあります。小さな会社の社長は、自らお客様のところに足を運んで、お客様ニーズをつかまなくてはならないのです。私自身にも当てはまることなのですが、その変化をとらえて、自らをイノベーションさせていくと、お店の売上を伸ばすことが容易に行えます。
お客様ニーズの変化を、競合店よりもいち早くつかむためには、できることなら、社長自らお客様のところに出向き、お客様と直接会って、迷惑がられない程度にヒアリングも行い、肌で変化を感じるようになることです。
最初はなかなかお客様ニーズの変化をつかむことは難しいかもしれませんが、何度も続けていると、少しずつ変化をつかめるようになります。
3. お店の志を知ってもらう
この飲食店は、1店舗のみで営業している地域密着型の飲食店です。なぜこの地を選び、飲食店を開店させたのか。そこには志があるはずです。
飲食店を利用するお客様は、店長やオーナーが持つ志の成果物を食べに来ていることを、ご存知でしょうか。その志が具現化して、料理の味になり、お店のレイアウトになり、スタッフのお客様対応になっているのです。
創業の精神と言ってもよいのですが、志に共感した顧客はリピート客になってくれる可能性が高まります。まだお店に来たことのない人が、「いずれはお店に行きたい」という期待感を抱くことでしょう。
志を伝えることができる人は誰でしょうか。それは、店長やオーナーご自身でしょう。しかし、このお店はオーナーシェフのお店です。オーナーは、料理を担当しなければいけませんので、フロアースタッフの誰かが配達を担当することでしょう。
その場合には、配達スタッフに料理を手渡すときに「料理と楽しさを運んでください」と、お店のコンセプトを伝えるだけでも効果的です。
社長自ら情報をつかむ(まとめ)
お客様ニーズの変化をいち早くつかむためにも、社長自らお客様のところに出向き、変転するお客様ニーズを見極め、それに応えるべく社内に変革をもたらすことです。変革をもたらすことができるのは、小さな会社であればあるほど、社長ただ一人なのです。
社長がお客様のところに伺えない場合は、少なくとも営業担当者に、「何かお客様ニーズに変化があったら教えてくれ」と毎回指示を出して、小さな変化でも社長に報告することを癖になるぐらいにしておくべきです。
最近では、宅配サービスの採算が取れないということで、ニュースになっていました。宅配サービスが群雄割拠の時代に入ったため、価格競争で利益が下がっていると思われます。
また、テイクアウトをしているお店を検索できるサービスも流行してきています。もしかしたら、テイクアウトを自分の代わりに取りに行ってくれるサービスが出てくる可能性もあります。
どのようなお店やサービスが流行していくのか、これからもウオッチを続けていきたいと思います。