経営理念を作成しようと考えた方であれば、必ずと言ってよいほど悩むことがあります。それは、経営理念とはどのようなもののことを言うのかです。
公益財団法人日本生産性本部が編集した書籍「ミッション・経営理念【社是社訓 第4版】 -有力企業983社の企業理念・行動指針-」を眺めていても、経営理念の定義は各社ばらばらです。
さまざまな経営理念を調べたり、ご自身で経営理念を作成された社長を取材したりしてきた中で、さまざまな傾向性が見えてきたので、その中間報告の意味を込めて、考察いたします。そこから、「どのような経営理念が自社にとって正しいものなのか」を読み取っていただけたらと思います。
事業内容が掲げられた経営理念
私が、初めて出会った社長とお話をするときには、よく「経営理念をお持ちでしょうか?」と聴きます。とある従業員数がアルバイトを合わせて10名弱の会社の社長は、次のような経営理念をお持ちでした。
●●事業を通じて、世の中の会社業務を便利にする
あなたは、この経営理念をどのように思われたでしょうか?
世の中のほとんどの会社が経営理念を作成していないことを考えると、経営理念を作成しただけでも立派だと思います。
この経営理念には、事業内容や会社の方向性が示されています。
もし社長が、この経営理念実現を本気で臨み、がむしゃらに働いて、その経験から経営哲学が生まれてくれば、立派な会社に成長させることも可能ではないかと思います。
時勢が変わったらどうする?
ちょっとイジワルなことを述べるとするならば、「●●事業」が世の中で通用しなくなったらどうするのでしょうか?
そのような時代が来ても、「●●事業」の実現のために、がむしゃらに働くことは可能でしょうか?
時勢によって変更せざるを得ない経営理念は、もう少し練り込んで作る必要があるかもしれません。
どの企業にも当てはまる経営理念
また、「●●事業」のところを変えたら、どのような企業にも当てはまり、あまり面白味がない気もします。
ソフトウェア事業に換えたらソフトウェア会社に当てはまりますし、事務機器事業に換えたら事務の事務機器屋さんにも当てはまります。電話事業、オフィス家具、文房具など、何でも当てはまります。
経営理念に面白味を求める必要はありませんが、オリジナリティのあるものの方が良いと思います。
従業員は具体的に何をしたらいいのだろうか?
また、従業員はこの経営理念を聞かされて、「具体的に何をしたらいいのだろうか?」と考えてしまうことでしょう。
経営理念を作成して社長が舞い上がってしまったら、さぁ大変です。従業員に対して、「経営理念について考えろ!」と経営理念の一言だけを押し付けられても、従業員は何を基準に考えたらいいのか分かりません。ましてや、考えたことを提出したところで、社長から「考えが甘い」と否定されて終わりです。
ご紹介した経営理念の事例では「世の中の会社」と書かれていますから、いずれは全世界の会社を相手にしなければなりません。自社を世界企業に育てていくための経営哲学、企業ビジョン、経営指針、行動指針、事業プラン、戦略、戦術など、すべて従業員が考えて、社長にレポートしなければならないのでしょうか。
もし、従業員が具体的なプランを作成できたとしたら、その従業員は異例の抜擢をすべき逸材です。
このとき社長に、「経営理念をなぜ作ろうと考えたのでしょうか?」と訊いたところ、「経営理念がいろいろな経営の書籍の中で『大切だ』と書いてあったから」とのことでした。経営理念の大切さを伝える書籍は多いのですが、経営理念の具体的な作成方法まで言及した書籍は少ないものです。
社長は経営理念を「とりあえず作成してみた」というレベルだったようで、経営理念に対する思い入れもありませんでした。そのためか、従業員が10人ほどと少ないのにもかかわらず、経営理念は浸透させていませんでした。従業員に経営理念を伝えたところで、「あぁそうですか」と言われて終わることだろうと、思われたようです。
社長に「経営理念が実現できたら、社会にどのような価値が提供できますか?」などと訊いたところ、社長の創業時の夢などを語ってくださることを期待したのですが、「●●製品を開発して提供したい」というような、現状の課題ばかり話されました。
経営理念に期待することとは?
社長は、経営理念を掲げて浸透させた結果、どのような効果を期待するのでしょうか?
会社のイメージアップや社長自身のやる気を引き出すこともあるでしょう。会社の方向性を社員に示すことも、経営理念の効果の一つです。
社長が経営理念に期待すること
会社の事情などによって異なることですし、さまざまあることでしょうけれども、経営理念に期待することは、結局のところ次のような人材のところに集約されるのではないでしょうか。
- 従業員のモチベーションが高まる
- 従業員が仕事で成果を高めてくれるようになる
- 経営幹部が会社の方向性を理解して経営判断してくれるようになる
会社は人で成り立っています。従業員たちが、他社よりも質の高い仕事をしてくれることで、顧客から選ばれ、会社が発展していきます。
経営理念を浸透させるということは、経営理念が従業員に伝わり、理解されることです。経営理念に、従業員や経営幹部を育成できる要素が含まれていると、浸透させた結果、上記のような効果を期待します。
社長から経営理念を聞いた従業員の反応
経営理念を聞いた従業員はどのように思うのでしょうか?
最初は、「社長がまた何か言っているぞ」と、無視されたり警戒されたりするものです。そのうち、社長が繰り返し同じことを言うものなので、従業員の中から、「それなら社長が目指すものを、いっちょ手伝ってやろうではないか」と、社長の熱意にインスパイアされて行動してくれる人が出てきます。
その従業員が、経営理念に従って行動していくと、仕事で成果を高められるようになってくると、最初は「自分には関係ない」とか「その経営理念に納得できない」と遠くから眺めていた従業員もだんだんと影響を受けていきます。
立派な会社に少しずつ成長していき、遠くから眺めていた社員までも経営理念に納得していただけるようになったら、経営理念が浸透したと言えると思います。これが、経営理念の策定と浸透の流れの一般的なパターンではないかと考えます。
従業員がインスパイアされる経営理念とは?
従業員が経営理念の浸透を受けて、仕事に対する熱意が高まり、成果を出せるようになっていくようであれば、良い経営理念だと言えます。
従業員の中には、経営幹部もいます。経営幹部は、社長に代わって仕事をしていかなければなりませんので、正しい経営判断ができるような内容も経営理念に含めておく必要があります。
しかし、いくら成果が出せるものだったとしても、従業員に受け入れられなければ、経営理念は正しいものだとは言えません。
従業員が受け入れてくれる経営理念とは?
従業員に受け入れられる経営理念とは、どういったものでしょうか?
それを考える前に、従業員の性質について述べたいと思います。それは、心ある従業員みなは、今やっている仕事が世のため人のためになると信じられたとき、仕事のやる気がみなぎるものです。
私自身が、とある企業の従業員だったとき、その仕事が環境問題の解決につながると信じていました。そこでは、誇りを持って仕事に取組むことができました。
人は、人から評価されたいという気持ちがあります。それを目的としなくても、人のために貢献したいという気持ちもあります。会社が目指す方向が社会貢献につながるのであれば、従業員のモチベーションは高まります。
また、仕事を行っていった結果、自分たちの会社がどのように成長していくのかがイメージできるような経営理念だと、将来の自分たちの処遇を言われたようなものですので、なおさら受け入れてくれることでしょう。
そのような従業員の数が増えてくると、社内の空気が変わり、優良企業へと成長していきます。
正しい経営理念に含まれる要素
では具体的に、従業員が受け入れ、仕事に対するモチベーションが高まり、より成果が出せるようになる正しい経営理念の要素とは、どのようなものでしょうか。
先ほどの内容から、次のものが含まれていることが考えられます。
- 会社の仕事を通じての社会貢献・社会変革
- 将来の会社像がイメージできるもの
- 会社は誰に対してどのような貢献をするのかの方向性
- 経営幹部が正しい経営判断ができる指針
- 仕事で成果を高める方法
- 従業員の評価基準
1つ目の社会貢献・社会変革は、社会に対する役割ですので、パーパスと呼ぶ人もいます。2つ目の将来の企業像がイメージできるものは、企業ビジョンのことです。企業ビジョンの究極の姿、つまり経営理念が達成した姿のことを、当社では「全社目標」と呼んでいます。
1から3をまとめて一言で表したものを、経営理念として一言で表す企業もあります。当社では、そのことを「基本理念」と呼んでいます。4つ目は、経営指針です。5と6が合わさって行動指針になります。
1から3ないし4を合わせたもので「社是」、4ないし5から6を合わせたもので「社訓」としている企業もあります。
社長自らが経営理念を率先垂範しているか?
さて、正しい経営理念ができましたが、社長が自ら率先して経営理念を実践し、模範を示すことで、浸透しやすくなります。
逆に社長が治外法権であれば、従業員にとって経営理念は「やらされ感」が出て、浸透しにくくなります。
例えば、行動指針の中に「整理整頓」が書かれているのにもかかわらず、社長の机の上はいつも書類の山で埋もれているという具合です。また、「ムダをなくせ」と書いてあったとして、社長が自社の経費でいつも飲みに行っていたら、従業員も経営理念をおろそかにすることでしょう。
正しい経営理念を作成するためのスタンスとは?
最後に、正しい経営理念を作成するためのスタンスについて述べたいと思います。
1.社長自ら作成すること
社長自ら率先して実践するためには、社長自ら経営理念を作成することです。それしかありません。
社長よりもの能力の低い従業員が経営理念を作成するとどうでしょうか。その経営理念を見ても、社長は熱意が高まりませんし、社長自ら率先垂範できるはずがありません。
社長の悩み苦しんだ経験から得らえた教訓や、先人の書かれた書籍で学んだこと、先輩経営者から教わったことなどを実践し、智恵になったものが、経営理念のパーツとして盛り込まれていきます。
社内には、社長よりも会社経営について知っている人はいません。もし、社長よりも優れた経営理念を作成できる社員がいたとしたら、社長を交代してもらった方が良いでしょう。
焦らず、静かな時間にじっくり考えて、少しずつ作っていくと良いでしょう。
2.経営哲学に基づいていること
従業員に成果を出してもらうためには、実務能力は必要です。仕事を完結させることができて成果となりますし、利益を出すためには、より効率よく仕事をこなす必要があります。
しかし、従業員に「考えて仕事をやれ」と指示を出しても、従業員は普段から経営の勉強をしている人は皆無なので、従業員からすれば「どのように考えたらいいのか」と迷ってしまうはずです。
そこで、社長は経営理念を作成するときは、実務能力以外のところの、自ら学び実践し経験して智恵として結晶化された経営哲学に基づいて、経営指針や行動指針も作成すべきです。
HONDAグループの創業者、本田宗一郎の経営哲学は「夢」や「120%の良品」などが有名です。本田宗一郎を支えた藤沢武夫は、「万物流転の法則に逆らえ」と「松明は自分の手で」といったものでしょう。
そのような普遍の原理に則って経営理念を作成し、そして率先して経営理念に基づいて会社経営をするのです。すると、「社長の言っていることは一貫性がある」と社員から信頼されるようになります。
普遍の原理に則った経営理念は、社員教育のテキストにも使用できます。また、経営理念に則っての仕事の実践は、人材育成にもつながります。
3.事業を行う理由を考えること
社長は、会社をどのようにしたいか、頻繁に考えていることと思います。「今の事業をこのように展開したい。」「将来、このような事業に取り組みたい。」といった具合です。そういった将来に取り組みたいことがあれば、その理由をお考えください。
これを考えるのに有効なのは、「なぜなぜ質問」です。なぜを繰り返していき、もうそれ以上考えつかないことまでたどり着いたなら、それが、本当に実現したいもののはずです。
なぜなぜ質問の例
例えば、「将来的にシステム開発をしたい」と考えたとします。「それはなぜでしょうか?」と自問してください。すると、「会社によっては、パッケージソフトでは業務内容に合わない場合が多いので、ムダが多い。」と考えたとします。
「なぜ、会社のムダをなくしたいのですか?」と自問してください。すると、「社内業務の生産性を高めてあげたい。」と考えたとします。
さらになぜを繰り返し、「なぜ社内業務の生産性を高めてあげたいのですか?」と自問し、「会社の利益が出るようにして、会社を発展させてあげたい。」と考えたとします。またなぜを繰り返し、答えが「日本の製造業を復活させたい。」となり、それ以上の答えが出ないようであれば、会社の目標は、「日本の製造業の復活」となります。
そのように目標設定をすると、システム開発だけにとどまらず、さまざまな事業展開も考えられるようになります。
このようにして、なぜを繰り返して、形而上学的な答えにたどり着いたなら、それを会社の目標に掲げ、経営理念に盛り込むと良いでしょう。
経営理念に社長の熱意が込められますし、経営理念に基づいた新しい事業を行いたい場合に、従業員にその理由や目的をしっかり説明することができるようになり、従業員が納得して動くことができるようになります。また、オリジナリティも出しやすくなります。
以上、正しい経営理念とはどういったものかを考察しました。
このコラムを読まれて、「自分で作った経営理念に自信がない」「経営理念の要素が足りない」「経営理念を浸透させられない」といったお悩みの方は、ぜひ当社の経営理念コンサルティングをご利用ください。
今まで経営理念づくりに悩んでいたことが嘘のように、次々と経営理念の言葉が出てきて、想像以上の早さで正しい経営理念を完成させられるようになります。ご利用いただいたほとんどの社長から、「コンサルティングを受けるたびにやる気がみなぎる」といった高い評価をいただいています。
経営理念コンサルティングのご相談は、当社までお電話(03-6821-1277)、もしくはメールフォームからお問い合わせください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。