企業が新商品を開発する目的はいくつかあります。判りやすい目的としては、売上アップや市場占有率の増大でしょう。他にも、「顧客により良い商品を提供したい」という社長の気持ちもあることでしょう。
ともあれ、新商品を開発するからには、それを成功させたいものです。新商品開発を成功に導くための労力は、商品と市場をそれぞれ既存でいくか新規に挑戦するかで異なります。
新商品開発戦略のフレームワークとして、アンゾフの「成長マトリクス」というものがあります。後ほど簡単にご説明いたしますが、中小企業経営者にとっては、判りにくいものです。そこでご紹介したいものが、一倉定が提唱していた「多品種化と多角化」という考え方です。
このコラムでは、一倉定が提唱していた「多品種化と多角化」や、それに基づいての増収増益を行いたい場合の考え方、多品種化での注意点などをご紹介いたします。
アンゾフの成長マトリクス
イゴール・アンゾフは、20世紀後半に活躍された戦略経営の専門家で、経営コンサルタントでもありましたが学者でもあったため、仮説による演繹的な戦略経営を提唱しました。アンゾフの書籍は世界中で翻訳され、多くの経営者や経営コンサルタントに影響を与えました。
アンゾフが残したフレームワークでもっとも有名なものが、成長マトリクスです。次の図をご覧ください。
横軸に(商品でなく)製品、縦軸に市場があります。それぞれを既存か新規かで採用すべき戦略が異なることを表しています。
製品 | 市場 | 戦略 | 説明 | |
---|---|---|---|---|
(1) | 既存 | 既存 | 市場浸透 | 既存市場の客数と客単価を増やす。 |
(2) | 新規 | 既存 | 新商品開発 | 既存市場の顧客に新商品を販売する。 |
(3) | 既存 | 新規 | 新市場開拓 | 自社の既存製品を別市場に販売する。 |
(4) | 新規 | 新規 | 多角化 | 新しい製品で新しい市場に参入する。 |
これら4種類の戦略の中で、成功させやすさは、もちろん(1)既存製品×既存市場です。この市場が飽和してしまっていたとしたら、次の手として(2)既存市場に新製品を投入するか、(3)既存製品を持って新市場に参入するかですが、前者の方が成功させやすいです。
4つ目が、新製品を新市場に投入させる方法ですが、これを成功させるためには、3年ぐらいはかなりの努力と赤字垂れ流しを覚悟して真剣に取り組む必要があります。それに耐えられる資本があれば良いですが、そうでなければ、それこそ社運をかけての取り組みとなります。
一倉定の多品種化と多角化
一倉定は、イゴール・アンゾフと生まれが同じ1918年です。一倉定も20世紀後半に経営コンサルタントとして活躍しました。アンゾフの理論と比べると、一倉の理論は中小企業向けであり実践的です。
一倉定が提唱する多品種化と多角化は、アンゾフの成長マトリクスとほとんど同じですが、考え方と若干の名称の違いがあります。
これを、一倉定のマトリクスと仮名しましょう。これをアンゾフの成長マトリクスと比較すると、特徴は次の3つです。
- 販売して利益を出すことを前提としている
- 名称が覚えやすい
- 新規商品もしくは新規市場を狙うことを前提としている
販売して利益を出すことを前提としている
特徴1は、販売を前提としていることです。アンゾフの成長マトリクスでは翻訳の関係で「製品」となっていますが、一倉定では「商品」と記載されているように、販売して利益を出すことを前提としています。
アンゾフの成長マトリクスでは、4つの象限のどれに取り組むかを決めたなら、それぞれどのように戦略を立てるべきかを述べているかのようです。つまり行動ありきのマトリクスのように見えます。
一倉定のマトリクスでは、多品種化か多角化で増収増益を考えたときに、どれに取り組みどのような戦略を立てるべきかを述べているかのようです。つまり顧客設定を前提としたマトリクスのように見えます。
名称が覚えやすい
特徴2は、名称が覚えやすいことです。アンゾフの成長マトリクスと異なり、多品種化と多角化しかありません。
新規商品もしくは新規市場を狙うことを前提としている
特徴3は、新規商品もしくは新規市場を狙うことを前提としている理論ですが、既存商品×既存市場をおろそかにしているわけではありません。一倉定は、新商品を開発する前に、商品の改善や販売方法の見直しを検討すべきということを述べています。私もそうすべきだと思います。
成長戦略の難易度は、アンゾフの成長マトリクスでご紹介したものと同じです。販売力強化がもっとも成功しやすく、次に多品種化、その次が多角化です。
多品種化と多角化の組み合わせについてですが、これで成功したら派手に見えますし、テレビに出演する企業もあり大きな武勲を立てられるように思えます。多品種化と多角化の組み合わせは、社長の信念でどうしても取り組みたいのであれば「やってはいけない」とは申しませんが、この取り組みを自社だけで行う場合は、先ほどご説明したように、3年ぐらいはかなりの努力と赤字垂れ流しを覚悟しておいてください。
間違いを恐れずに述べますが、アンゾフの成長マトリクスは、巨大組織向けの「強者の兵法」の考え方をも含む汎用性の高い理論だと思います。一倉定のマトリクスは、中小企業が負けない戦いをする「弱者の兵法」の考え方に近いと思います。
多品種化よりも多角化の方が難易度の高い理由
多品種化では、新商品開発のために新しい技術を身に付けなければいけなくなり、難易度が高いように思われたかもしれません。それに比べて、既存商品を新規市場に投入することは、すでに技術を持っているため、赤子の手をひねるぐらいのもののように思われます。
なぜ、多角化よりも多品種化の方が、難易度が低いのでしょうか。
それは、既存市場ではすでに営業チャネルが開かれているからです。
新規市場は市場占有率ゼロの洗礼を受ける
新規市場に参入する場合、そこにはすでに競合が存在しています。その市場に、新参者で占有率ゼロの企業が参入したら、顧客はその商品をどのように扱うでしょうか。下手したら顧客から「そんなに市場参入したいなら、サンプルをもっとよこせ」と無理難題を押し付けられる可能性もあることでしょう。
新しい市場がブルーオーシャンであったとしても、市場規模が大きなものであれば、強敵がすぐに出現する可能性もあります。
新規市場は取引の仕方が既存と異なる場合が多い
また、新市場では取引の仕方が既存市場とは異なる場合もあり、そのための勉強が待ち受けていることもあります。
例えば、食品卸をしていた会社が、コンシューマ向けにネット通販を開始したとします。今までは顧客から買い叩かれはしたものの、少ない商談と伝票処理で販売できていたとします。コンシューマ向けでは、電話対応や通販物流、現金回収や入金消込の仕組みを整備したり、そのための人材育成をしたりすることも必要となることでしょう。
多品種化は仕入れても良い
では、多品種化についてですが、一倉定は「新製品」とは言わずに「新商品」と言ったところにミソがあります。製品は自社開発するような聞こえがありますが、商品は売るものです。つまり、自社開発しなくても、すでに世の中に存在している商品を仕入れて既存市場に販売しても良いのです。
すでに取引のある企業に対して、顧客のニーズを読み取り、信頼されているところにニーズのある新商品を持っていくことで、成功率が高くなります。
多品種化での注意点
多品種化は、何も1つの商品を増やすこととは限りません。顧客のニーズに応じて、品数を増やしていっても良いのです。その場合に注意すべきことが2点あります。それは、
- 商品点数を会社のキャパシティ以上に増やさないこと
- 対象顧客を絞り込むこと
商品点数を増やしていけば売上高が高まっていったとしても、管理費の割合が高まり、利益が出にくくなることもあります。そこで、総花的に商品を扱うのではなく、どのような顧客のどのようなニーズを満たすのかを明確にし、顧客満足度を高めるための品ぞろえをしていくべきです。
私の業務で例えますと、私はWeb集客コンサルティングをご提供していますが、ホームページ制作を行うとなると、どうしても私の苦手とするWebデザインの提供も必要となります。そこで、Webデザインはパートナー企業から仕入れ、「集客ホームページ」というパッケージ商品として提供するようにしています。
また、絞り込みのところでは、当社ではネット誹謗中傷対策やMEOなどのサービス提供も可能なのですが、「ホームページを改善・刷新して売上アップしたい」とお考えの顧客に絞り込んでいるので、そのようなサービスは研究をすれども提供はしておりません。
売上アップを狙って新商品開発するなら、企画段階でご相談を
新商品開発の経験が少ない企業様で、売上アップを狙っての新商品開発をする前に、できれば企画段階で当社にご相談ください。もしかしたら、既存商品、既存市場にて、商品の改善や販売方法の改善を行うだけで、あまり投資をせずに売上アップできる場合があるからです。
また、すでに新商品を開発してしまった企業様で、新商品が売れずに困っている場合でも、当社にご相談ください。新商品が、とある条件に合致すれば、ホームページの改善もしくは刷新にて集客が可能だからです。
Web集客コンサルティングは、初回の面談から企画提案まで無料ですので、お気軽にご連絡ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。