私が経営相談を受けたときは、問題点をすべて列挙することから始めます。
もしかしたら、その問題点の中に、蟻の一穴とでも言うべき根本的な問題が隠されている場合があるからです。
その中で、よくある社長の悩みが「社員がちゃんと仕事をしない」というものがあります。
もちろん、表現の仕方にはいろいろとありますが、次のようなことが該当します。
- 社員が提案をしてこない
- 役職者がその地位の仕事をしていない
- 社員が成果を出さない
こういった社員に関する問題を挙げられた中で、共通することがあります。それは、「基準があいまいだ」もしくは「基準がゼロか100かといった極端なものだ」ということです。そして、考え方からではなく「どうしたらいいのか?」という行動から知りたいというものです。
コンサルタントとして、何をしたらいいのかお教えしても良いのですが、そのお教えした方法が間違っている場合もあります。そうしたら、私は無能のレッテルを貼られるか、詐欺師扱いを受けてしまいます。
そこで、できれば考え方から入り、コンサルタントは選択肢を与えるまでにとどめ、最善策を社長ご自身でお考えいただき、自己責任で実施していただきたいと思います。
社員の能力の分類
まず、「社員の仕事能力が足りない」と悩んでいる社長のための考え方からご説明したいと思います。
社員の能力の分類には、ます3種類あります。それぞれによって対応が異なります。
- 勤勉さ
- 仕事能力
- 仕事の難易度
勤勉さとは、仕事に取り組む姿勢のことです。仕事能力は、述べるまでもありません。仕事の難易度は、社員に与えられている仕事の難易度です。
勤勉さと能力のマトリクス
勤勉さと仕事能力をマトリックスにすると、次のようになります。もちろん、人材はゼロか100かの二択で表現できるものではありませんが、簡単に考えるために4象限に分けてみました。
仕事ができない社員が、どこに該当するのでしょうか?
勤勉で仕事能力が高い | 怠惰で仕事能力が高い |
勤勉で仕事能力が低い | 怠惰で仕事能力が低い |
どの人材を登用するのかは、社長の考え方によります。直感的にどの人材が使いやすいのか、会社にとって最善なのかを嗅ぎ分けていることと思います。
もちろん、社長の直感だけで採用していては、立派な会社にはなりません。いずれは、パラメータにしていく必要があります。
質の悪そうな「怠惰で仕事能力が低い人材」
さて、この中でもっとも質の悪い社員は、怠惰で仕事能力が低い人材です。中小企業では、とても対応に困ることと思います。しかも、この社員が社長のご子息であれば、さらに質が悪いものとなります。
「仕事能力が低い」という人は、仕事能力が伸びないのかどうかを見ることも大事です。基本的に怠惰な人は、仕事能力が伸びません。勤勉で仕事能力が低い人は、本当に仕事能力が伸びない人なのかもしれませんし、入社して1~2年ほど、じっと会社の様子を見ている人もいます。
会社の様子をじっと見ている人は、2~3年目で急に頭角を現す場合もあります。私がそのタイプでした。
勤勉な人は、上司からイジメに遭っていたり、上司が押さえつけている場合もあり、仕事能力が低いように見えていることもあります。
そういった可能性を考えて、本当に仕事能力が低いのか、仕事能力が伸びないのかを見極める必要があります。
社長の方針が悪くて社員が怠惰になっていった事例
会社の方針で「売上至上主義」になっているところも要注意です。とあるソフトウェアの会社で、ソフト開発部門の成績が売上至上主義になっているところがありました。営業担当者が取ってきた仕事をこなしていくのですが、誰に何の仕事が割り振られるかによって、成績が決まるようなものです。つまり、売上高を自分の頑張りでコントロールできないのです。
営業部門は、売上至上主義ですから、とにかく値引きをしてでも売上高の目標を達成させようとします。すると、難易度が高く時間がかかる仕事にもかかわらず、売上高が低いわけですから、ソフトウェア開発部門のメンバーは、売上高を達成できません。
その会社では、ソフトウェア開発部門のモチベーションは、いつも低いものでした。そして、社長はいつも「社員にやる気がない」と言い続けていたのです。そもそも社長の方針が問題で社員のやる気が失われていたのです。
社長は、社員を勤勉にしたいがために、売上高至上主義に舵を切りました。その結果、社員全員が怠惰になってしまったのです。
何でもって勤勉だと判定するのか?怠惰と判定するのか?
さて、ここで怠惰とは「何でもって勤勉だと判定するのか?怠惰だと判定するのか?」です。これを明確にしないと、社員をミスリードする可能性があります。
モチベーションが低く見えたら怠惰なのか、目標がこなせない人のことを怠惰と言うのか、会社によって定義が異なると思います。仕事能力についても同様です。
社員は、社長が求める人材像を知りたいといつも願っています。社長の考えは、コロコロと変わるので、「統一された考えを持ってもらいたい」とも思っているはずです。
その統一された考えとは、それを「経営理念」と言います。経営理念と言える、会社で最上位の考え方があり、それを基準に、自社にあるべき社員像が明確化されるのです。
経営理念が明文化された初めて、社員は何をしたらいいのかが解るようになります。もちろん、経営理念を策定したばかりのときは、前のままの企業文化が継続しているので、企業文化が変わるまで経営理念を浸透させ続けることが大事です。
仕事能力と仕事の難易度のマトリクス
仕事能力と与えられている仕事の難易度です。社員が怠惰なのは、与えられている仕事の難易度が低くて、張り合いが出ない場合もあります。
(1) 仕事能力が高い人に、難易度の低い仕事をさせている | (3)仕事能力の高い人に、難易度の高い仕事をさせている |
(2)仕事能力が低い人に、相応の難易度の低い仕事をさせている | (4)仕事能力の低い人に、難易度の高い仕事をさせている |
(1)仕事能力の高い人に、難易度の低い仕事をさせている場合は、成長意欲のある勤勉な社員であれば、会社を去っていくかもしれません。この場合は、相応のチャレンジングな仕事を創る必要があります。
(2)仕事能力の低い人に、相応の難易度の低い仕事をしてもらっている場合は、仕事能力が高まるように仕事を教えて導いてあげることが大事です。
(3)仕事能力の高い人に、難易度の高い仕事をさせている場合は、その社員には自分で問題や課題を発見することができるように、コーチングで導いてあげることが大事です。
(4)仕事能力の低い人に難易度の高い仕事をさせている場合は、無理があります。
社員の能力を見抜くことができているのか?
ところが、社員の中に能力のある人材がいても、社長が見抜けていないことが多くあります。稀に自分の仕事能力を隠している人もいます。また、1回のミスで、「こいつは仕事能力が低い」と勘違いをすることもあります。
「社員が社長を見抜くのに3日、社長が社員を見抜くのに3年かかる」と言われています。すぐに社員の能力が低いことを見抜くことは、なかなか難しいようです。
社員が自ら自分の能力を表現できる場を与えることも大事です。その場合、上司が部下を押さえつけて、部下の本当の能力を社長が見抜けないこともあります。
私のように、会社員のときは能力が低いと見られて解雇され、その後に経営コンサルティング会社を設立するような人もいるのです。
能力の高い社員が「何かを始めたい」と言い始めたとき
勤勉で能力の高い社員は、与えられた仕事の難易度が低く感じたとき、つまり仕事に余裕が生まれ始めたときに、何か新しいことを始めたくなる場合があります。
業務改善の提案をしてきたり、新規事業を始めようとすることもあります。料理人であれば、「新しいレシピの開発をしたい」という具合です。
そのときは、社長としてはその社員の意欲を落とさないようにしてあげたいものです。その熱が冷めてしまわないうちに、何かをしてもらったらいいのですが、社長としては時間が取れずに対応できなかったり、それをサポートできる能力が無かったりする場合もあります。
その場合は、空いている時間に企画を考えてもらい、文章で提出させると良いと思います。
「何か取り組みたいことがあれば企画にまとめて出す」というカルチャーを、自社に芽生えさせることができます。
「社員が何も提案してこない」ということで悩んでいる社長は、社員に企画書の作成を指示したら良いと思いますし、企画書の書き方を教えてあげることはいかがでしょうか?
「新規事業の企画書のまとめ方を教えてもらいたい」という場合は、当社のコンサルティングをご利用ください。
社員に「もっと働いてもらいたい」と考えている社長の傾向
社員に「もっと働いてもらいたい」と考えている社長の中には、「社員を働かせたい」という発想をしている方が、少なからずいらっしゃいます。その搾取的な考えに、根本的な間違いがあります。
「社員を働かせたい」という気持ちはわかります
社長としては、給料を払っているのは社長である自分ですし、社長は能力が高いですから、自分に付いてきて成果を出してくればお給料を上げてあげられるし、優遇もしてあげられます。
それを伝えても、社員は辞めていってしまうのです。
そのような考えは良いのですが、その根底に「社員を働かせたい」という搾取の精神があります。その搾取の精神の根底には、いろいろなマインドが絡み合っています。
例えば、「会社を倒産させたくない」という恐怖心や「倒産させたら恥ずかしい」という自己顕示欲といった自己保身があります。
また、「自分は能力が高いのだが、社員は能力が低い」というものもあります。これも自己顕示欲の一つです。自慢話の多い社長は、この傾向があります。
社員の能力が社長よりも低いことは、実は良いことなのです。なぜなら、社員の能力が高ければ、その会社は簡単に乗っ取られるか、吸収合併されるかのどちらかになると思います。
能力の高い社員に恐怖する場合もあり、社長がそうならないように、社員の成長を押さえつけている場合もあります。
経営理念策定の目的が「社員を働かせるため」でいいのか?
そういった社長であっても、経営理念を策定している会社もあります。しかし、その経営理念を策定した理由が、「社員を働かせたいから」というものです。
本来の経営理念とは、社長が社会貢献をコミットメントし、社員に協力を要請するものです。自分が持つ心からの公器な夢を実現させたいという一心で、社員に対して心から要請できます。
そのような気持ちよりも、「社員を働かせたい」という気持ちが強い社長であれば、いくら立派な経営理念が完成したとしても、その経営理念が浸透することはあり得ません。
策定された経営理念が正しい経営理念で、なおかつ本物の経営理念であるときに、それを社員に心から何度も何度も要請していくことで、時間をかけて社員に浸透していき、社員のやる気や仕事能力が高まっていきます。
経営理念を策定したら、確かに社員のやる気や仕事能力が高まるのですが、それは経営理念の表面的な文面がそのようにさせるのではありません。経営理念に込めた深い意味を社員に熱く何度も語りかけ続け、知行合一で事業活動を取組続けた社長の背中を見て、浸透していくのです。
経営理念を策定することと同時に、社長の人格も高めていくことが大事です。社長の人格については、「社長の徳についての考察」をご参照ください。
「社員が成長しない」と考える社長の傾向
「社員が成長しない」と言っている社長に限って、「社員が成長した姿とはどのような姿ですか?」と訊ねても、曖昧な答えしか返ってこないことが多いです。つまり、社員が成長した姿が曖昧な人が多いことに驚かされます。
社員に「成長しろ」と注意する前に、社長にとっての「社員の成長」とは何かをお考えください。
社員に成長の方向性を明確に示さないと、社員はそのように育たない
社長にとって、社員の成長がどういったものをイメージしているのか、社員に伝えておかないと、社員が社長の理想とする人材に成長しないことになります。
社長の指示が曖昧で、相手がイメージできない場合は、社長のイメージ通りの結果が出せるはずがありません。
例えば、社員旅行で温泉旅行を社員が企画する場合、「箱根の温泉に行こう」とか「予算は一人当たり2万円以内に押さえたい」という方向性を社長が示すことで、箱根温泉に行けるわけです。そのような指示がないと、社長が温泉旅行を考えていても、社員旅行の企画を任せた社員は、自分の価値観で「東京のテーマパーク旅行に決めました」と社長の考えとは異なる提案をしてくることになります。
小企業では社長が正しい行動を示す
小企業では、社員の能力は高くないことを前提としてください。能力が高いと自負している社員であったとしても、それは局所的な能力の高さであり、社長のように経営全体を考えて判断ができる社員はいません。
それが故に、社長は小企業で社長をしていられるわけです。
社員には、成長してもらいたい方向性を相手にイメージができるように明確に示し、それを社長自ら行動を示して、社員を導いていくことが大事です。
多くの社員は、「社長にできないことを、自分たちに押し付けて欲しくない」と考える人種だからです。やってみせて、やらせてみて、出来たら褒めてあげることが大事です。
激安の殿堂ドン・キホーテの創業者は、安田隆夫(1949~)氏です。
安田氏は、「圧縮陳列」という斬新なディスプレイ方法を考案し、それを店舗に導入していきました。そのときに、従業員は圧縮陳列の方法がなかなか理解できなかったので、安田氏は自分で現場に立ち陳列をしてみせて、社員を教育していったそうです。
ここで、安田氏は「社員全員に圧縮陳列の方法をマスターしてもらいた」という明確な方針を示していました。圧縮陳列ができることがドン・キホーテの成長につながるKPIだったのです。そして、その方法を実際にやってみせて、社員に教えていきました。
経験のない新規事業の立ち上げを社員に指示する場合
会社が小企業から中企業に差し掛かる頃は、社長が経験したことのない新規事業の立ち上げを、社員に指示することが出てきます。
社長も経験したことのない新規事業ですので、その事業を経験したことのある人材を引き抜いて、新規事業に当たらせると思います。その場合は、新規事業の内容については、社長は口出しがしにくいと思いますが、会社の経営理念や新規事業の方針に加え、その社員にどのように成長してもらいたいのかを指示することが大事です。
抜擢した社員に、どのような結果を得たいのか目標を与えつつ、その目標達成のためのスキルを身に着けてもらいたいことを伝えます。
予算や人材、時間には制限を与え、定期的な報告を要求しつつも、基本的には社員に自由にやらせてみます。問題が出てきそうであれば、それに対して口出しをするようにしたら良いと思います。
その間に、社長は社員に任せ切りにならずに、社員に方針を示し、社員の経験を社長自身の経験として蓄積していくことが大事です。その社員が志半ばで退社してしまったら、その事業を引き継ぐのは社長だからです。社長ご自身の成長が大事になります。
社員の成長は給料が上がることだけか?
小企業の社員の中には、「給料が上がること」だけをもって、自分の成長と捉える人がいます。社長は、給料がどのように高まっていくのか、社員に明確に示すことはもちろん大事ですが、給料だけが成長ではないことを、社員に伝えることも大事です。
会社は、売上高や売上総利益が増加していったら給料を増やしていってあげられますが、毎年成長していくものとは限りません。小企業では、給料の上昇が停滞することは、本当によくあります。毎年給料が上がっていくことが稀な場合もあります。
給料は、結局はお客様からしか得ることができません。
お客様から利益を得るためには、社長の正しい経営判断が基本になりますが、社員一人ひとりの仕事能力を高めていくことが大事です。
つまり、給料の上昇は、社員が社長やお客様から仕事能力が高まっていることが認められていることで得られるものです。給料の上昇は、仕事能力が高まった結果で、後からついてくるものという考えを、社員に教えることが大事です。
ときどき社長の中には、「給料を上げたら、社員が働いてくれるようになるのでは?」と考える方がいらっしゃいますが、給料を上げる前に、社員に成長の方向性を明確に示すことが大事だと考えます。
社員のモチベーションの低さに悩む社長の傾向
社員のモチベーションの低さに悩む社長の中には、社員のモチベーションを吸い取るタイプの人がいます。特に体育会系のモチベーションが好きな社長は、やる気が重要視されているようで、なかなか仕事の生産性が高まりません。それを社員のやる気の責任にしている傾向があります。
そもそも社長の望みは社員のモチベーションの高さなのか?
会社の業務効率を高めたいときに考えたときに、「モチベーションが問題か?」と問われたらいかがでしょうか?
「社員のモチベーションが業務効率を高めるのだ」と考えるようでは、少し甘いと言えます。業務効率の高い仕事は、仕組みができている仕事だからです。
そもそも仕組みが出来ている業務は、社員がダラダラ仕事をしているようにさえ見えます。仕組みに乗って仕事をしている社員は余裕ができます。その余裕を見た時に、社長は「ダラダラ仕事をしているのではないか?」と考えるわけです。
社員のモチベーションよりも、業務の仕組み化をして、その仕組みに社員を乗せてあげた方が、社員が成果を出すようになると思います。社員のモチベーションを高めなくても、一定以上の効率や品質の仕事ができるようにした方が、会社としては良いはずです。
社長が話を聞いてくれるだけでもモチベーションになる
社員の積極性のところでは、社長が社員の積極性を奪っていることがあります。それは、社長の負けず嫌いの性格がそうさせていることが多いです。
例えば、社員が業務改善や新規事業の提案をしてきたときに、社長の負けず嫌いが発揮されて、ダメ出しをすることがあります。
私が、クライアント企業様の会議に参加しているときに、まるで「自分が会社で一番偉いのだ」と言わんばかりに、社長が社員にダメ出しをしている場面に出くわしたことがありました。そのご指導が、私がそっと社長の肩に手を置くまで、10分ほど続きました。
そういった会社では、社員が意見を出しにくくなり、会議でも黙ってしまいます。また、失敗を経験した社員は、社長からひどく叱られ、失敗を恐れチャレンジ精神が失われてしまいます。失敗が活かされず、ノウハウも蓄積されません。
提案が社長に認められなくても、社長が聴いてくれるだけで、社員にとってはモチベーションになります。また、ダメ出しをするだけでなく、どのようにしたら良い企画になるのかをアドバイスしてあげたら、社員は社長のことを尊敬するようになりますし、社員の成長にもなります。
もちろん、社長は社員に対して誰にでも公平に評価することが大事です。
成長と貢献が社員のモチベーションのキーワード
社員のモチベーションは、「成長」と「貢献」がキーワードです。自分が成長できたら嬉しいですし、「誰かに貢献できた」ということが、モチベーションになります。
貢献の相手は、社長や会社、お客様などさまざまです。それによって、社長から褒められたらなおモチベーションが高くなります。
会社を成長させたければ、社員の成長が大事になります。そのためには、社長の人格の成長が必要になります。
社員の育成を面倒に思わず、放置プレイで勝手に社員が育つように促すのではなく、自らの手で社員を育てるようにしてください。丁寧に育てられた人材は、部下を丁寧に育てるように育ちます
社長の指導の仕方と方針
社長の社員に対する指導は、小企業までは丁寧に始動することです。小企業から中企業に成長させるためには、その指導方法をマニュアル化して、そのマニュアル通りに部下指導するように指示を出します。
また、社員に指示を出すときは、会社の方針を具体的にイメージしやすい言葉で語ることが大事です。
曖昧な指示や方針では、船でさえ山に登ってしまいます。
例えば、成績の悪い営業担当者に「とにかく営業を取ってきなさい」とだけ指示をしたら、それを真に受けて、無理に遠く離れた顧客の営業を取ってきて大赤字になり、倒産しそうになった会社もあります。その会社では、社長の方針通りにとにかく営業を取ってきたのに叱られ、すぐに会社を辞めてしまい、無理難題の仕事だけが残りました。
社長は、「営業の範囲はどこそこまで、お客様の会社の規模や業者はこれこれといった会社。それ以外の会社は、受注前に必ず社長に相談すること。」といった具合に、明確に方針を示すことが大事です。
幹部が育たないことで悩む社長の傾向
社員の成長のことと関連しますが、幹部が育たないことに悩む社長の傾向は、「社長自ら、幹部の仕事を説明でしていないこと」が主な原因です。
大企業のように、育った幹部がいて、その幹部を目標として、自分で考えて自ら幹部に育つ企業文化があれば、社長が何か手を下さなくても幹部が育っていくと思います。
しかし、小企業ではすべて社長自ら仕組みを構築していき、長い時間をかけて企業文化を育てていかないといけないのです。
社員を自ら育てる気がない社長
とある会社の経営幹部会議では、社長お一人だけで会議に参加した全員の成績の悪さを語り、社員はうつむいたままで、1時間が過ぎ去ることを待っている状態でした。
最後に、「平野さん、社員に何か言ってあげてください」と言われたのですが、私が何かを追加することもないので「皆様、たいへんですね。」とだけ言って終わりました。社員のお一人に「毎回、このような感じなのか?」と訊ねると、「そうです」とのことでした。
社長は、社員を育てるべく、外部のコンサルティング会社に依頼し、研修を行ったり、仕組みを導入しようとしたりしましたが、何年経過しても何一つ定着していませんでした。
私はその会社の姿を見て、社員を育てる気持ちがあったとしても、社長が治外法権では、社員が育つことは無いことに気が付きました。
社長が社員にどのようになって欲しいのかを明確にしたところで、またそのような外部の研修をしたところで、経営幹部の育て方を社長が知らないと、経営幹部は育たないのです。幹部育成は他人に任せず社長自ら取り組み、その反省と努力によって幹部が育ちます。
社員は育てられたように育てる傾向がある
さて、数字の成績だけが重要視されている会社では、幹部は部下に対して、どのように始動をしているのでしょうか?
成績を出した社員は、まさしく社長から言われた通りのことを行っていました。
とある企業で、「幹部社員が部下指導をするところを見てもらいたい」とご相談があり、社長がいないところでの新規事業会議に参加させていただきました。すると案の定、部下が出した企画に対して、なぜダメなのかを延々と語り出したり、自分の方が良いアイデアがあることや頭の回転が早いことを自慢し始めたりと、散々なものでした。
私は、ここでもスーッと幹部社員の肩に手を添えました。
幹部社員は、いつも社長から散々やられているので、それと同じように部下を指導していたのです。
先ほども述べましたが、社員は、社長から指導されるように部下を指導するようになるのです。
幹部社員を育て長ければ、松下幸之助や本田宗一郎といった名社長の部下指導の表面的なところだけを真似するのではなく、丁寧に育てることが大事です。特に小企業では大事なことです。
社員の育成には何年もの時間がかかることを肝に銘じているか?
社員の育成には何年もの時間がかかります。なぜ時間がかかるかと言いますと、仕組みができるのに時間がかかるからです。
社長としては、雇った社員をなるべく即戦力として、働いてもらいたいものです。会社に仕組みがあり、その仕組みにともともと持っている能力や技能が乗っかることができたときに、即戦力になります。
まず、社長が「仕組みが大事だ」と気が付くまでに数年。仕組みができるのに数年。そして社員が育つのに数年といった具合です。つまり、社長が育ち、会社の仕組みが育ち、社員が育つのです。
このようにして、社員の育成には時間がかかります。
自社に定着する幹部の特徴は?
社員を育てても、「すぐに辞めていくから困る」とお考えの社長がいます。せっかく育てても、育った頃に辞表が出されてしまいます。
会社に定着する人は、次のどれかでしょう。
- 今の会社で居心地が良い
- 他の会社のことを知らない
- 転職ができない
定着しやすい人にもう一つあります。それは、社長に育てられた人です。社長から育てられ、社長に感謝している人は、会社に残りやすい傾向があります。
もちろん、自分が望む生活の質とお給料のバランスもあり、絶対条件とは言えません。しかし、社長の人情による経営をしているところで、社長から育てられたと感じている人は、会社に残りやすいのです。
そこで、社員を育成し、その社員が会社に定着するためには、社長が人情の経営をし、ナンバー2が仕組みを導入していくことが大事なのではないかと思います。社長は性善説で人材を見て、性悪説(性弱説)で仕組みを創ることです。
性弱説とは、「人間はそもそも心が弱いもの、怠けてしまいそうになるもの」という考え方です。それを仕組みで克服し、社員の誰もが成果を出せるようにしようというものです。
ただし、そのナンバー2が勝手な判断で仕組みを構築していったとしたら、ナンバー2の限界が会社の限界になりかねません。社長自らが経営理念を立てて、それに基づいた方針を示すことが大事です。
以上、「社員がちゃんと仕事してくれない」と悩んでいる社長の会社をいろいろと見てきて、私なりに感じたことを述べてきました。
まとめると、次のことになります。
- 社長は社員が育った状態を明確にする
- 社長の人格が社員を育てる
- 社員の育成のためには仕組みが大事
- 社長は人情の経営を、仕組み化はナンバー2に任せること
- 社長は社員育成の方法を自ら研究し、方針は社長が明確に打ち出すこと
社員の育成方法を根本から見直したい社長、社員育成の仕組みを構築したい社長は、ぜひ当社にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。