会社の強みを活かして事業活動をすることは当たり前のことだと思います。このことを否定される方は少ないことでしょう。
ところが、中小企業では、その当たり前である「強み」を勘違いしている企業がとても多いことに驚かされます。
私自身も経営コンサルティングを始める前は、勘違いをしていた一人でした。
このコラムでは、企業の強みは何なのか、その定義をしつつ、本当の強みの見つけ方と事例をご紹介いたします。
強みとは何か?
経営のご支援をさせていただいている企業の社長に、「貴社の強みは何ですか?」と聞くと、たいてい間違った答えが返ってきます。例えば、食品製造をされている企業であれば、「我社の強みは餃子の製造です」といった具合です。
餃子の製造ができる企業は、日本国内にたくさんあるはずですので、強みではないと思います。餃子の製造は、強みではなく「できること」です。
強みとは?
強みとは、「強み」の対局に「弱み」があります。この強弱は、何かと比較をしています。つまり、競合他社と比較をしているのです。
では、「どのようなことで強弱の比較をしているのか?」ということになります。
顧客から選ばれるための「外部の強み」
強い企業というものは利益がたくさん得られます。それは、利益率の高い商品を、たくさん販売しているからです。そういった企業は、顧客から選ばれている企業ということですが、顧客にとって付加価値の高い商品を販売しているか、付加価値の高いサービスを提供しています。
また、競合他社が現れたときに、競争が起こります。その競争に打ち勝って生き残ったり、市場で一番になったりすることでも、「強み」というものが発揮されてのことです。
市場には、顧客と競合他社がありますが、顧客から振り向いていただけるように、競合他社と競争しています。それに勝利するための要素が強みということになります。
競合よりも利益が出るという「内部の強み」
顧客に対する強みは、会社の外部に対する強みです。会社の内部の強みもあるはずです。
それは、「営業利益率」や「粗利益率」、「歩留まり」などといった、生産性の言葉で表すことができる強みです。
同じ顧客数、同じ単価で販売していたとしても、利益を出しやすい企業と、利益が出にくい企業とがあります。利益が出やすい企業の仕組みや組織力といったものは、「強み」と言えます。
つまり、他の企業との差別化によって顧客から選ばれ、利益がたくさん出ている理由が、企業における「強み」ということになります。
特長と強みの違い
強みと似た言葉に、「特長」というものがあります。特長の意味合いはメリット、長所のことです。
メリットは、顧客から見たときに「得られる利点」です。その特長を競合他社と差別化できるものであれば、「その特長は強みである」と言えます。
また、特長と似た言葉に「特徴」があります。特徴の意味は、メリットとデメリットを含んだ違いを表しているものと思われます。つまり、「特徴の中に特長があり、特長の中に強みがある」と言えます。
強みとベネフィット
ベネフィットとは、簡単に述べると得られる利益のことです。
例えば、冷蔵庫を購入するときのメリットとしては、「食物を冷やすことができること」です。食物を冷やして得られる利益としては、「食物を美味しく長期間保存できること」や「調理が楽になる」というベネフィットがあります。
食べ物を長期間保存するのであれば、乾物でも可能です。しかし、乾物も美味しいのですが「素材のままの美味しさ」となると生のものになります。また、生のものを夕食だけのために準備するとなると、毎日夕方に買い物にいかなければなりません。冷蔵庫があると、3日に1回の買い物で事足りる生活が可能です。
そういったベネフィットを得られる商品を強みとして持つ企業の場合、異なった業界の競合他社が現れる可能性があります。
例えば、メルセデス・ベンツ社の競合他社は、直接的にはトヨタ自動車かもしれませんが、ルイヴィトン(LVMH社)も競合他社になり得ます。自動車メーカーとしての競合他社は、すぐに思いつくことができます。ベンツのベネフィットである「ステータス」や「優越感」を得るということでは、別の競合他社が現れてきます。
自社の強みの見つけ方
自社の強みの見つけ方は、顧客の動向、競合他社の動向を調査しつつ、マーケティングの3C分析を行います。
マーケティングの3C分析の詳細なやり方は、「マーケティングの3C分析とは?手順や活用法の徹底解説」をご参照いただき、ここでは自社の強みとしての顧客と競合他社の価値についてご説明いたします。
顧客が求める価値
強みは、顧客が求める価値であればこそ「強み」だと言えます。なぜなら、顧客が求めていない価値を提供したとしても、ほとんど意味がないからです。
顧客が自社、もしくは商品やサービスに求める価値には、次のような種類があります。
- 品質の良さ
- 価格(値ごろ感)
- 提供方法
- 提供の速さやタイミング
- サービス対応の良さ
自社の強みの見つけ方として、自社が与えられる価値を、顧客が求めているかどうかの確認をしてください。
競合他社が与えられる価値
続いて、その価値を、競合他社が与えられないものかどうかを確認してください。自社と同じ価値を競合他社も与えられるようであれば、それは強みとは言いません。
もしその逆に、顧客が求めている価値を、自社が提供できていない状態であればご注意ください。その価値を競合他社が与えられているようであれば、その価値が「自社の弱み」です。自社の弱みを発見したら、弱みを打ち消すことをご検討ください。
強みが弱みになることも
自社の強みを発見しても、それが永久に続くわけではありません。強みであったことが、弱みになってしまう場合があります。そういったことに気が付いて、早めに手が打てるように、自社を取り巻く客観情勢の変化をつかむようにしてください。
強みが弱みになった事例
私が研究対象としている本田技研工業で事例を述べたいと思います。
1950年代、たくさんのオートバイメーカーがあり、各社技術力を競っていました。その中で抜き出たのが本田技研工業でした。1960年代に入ると、オートバイのオリンピック、マン島TTレースで優勝した本田技研工業のオートバイは、エンジンパワーが他社のワンランク上位のエンジンと同等のパワーを出すようになっていました。
その勢いでF1に参戦して優勝し、スポーツカーまで開発・販売するようになりました。本田技研工業のエンジンは、世界に類を見ない高回転・高出力の空冷エンジンを主流とし、世界から一目置かれていました。
ところが1970年代になり、高回転・高出力のエンジンが弱みとなってしまうのです。
それは、自動車の排ガスによる公害問題の勃発です。本田技研工業のエンジンは、高回転ですのでその分だけ排気ガスも出ます。その対応に追われてしまったのです。
そこで、本田技研工業はさまざまな難局を乗り越え、水冷エンジンにて世界初の環境対策エンジンであるCVCCエンジンを開発するに至ります。
この事例のように、強みであったものがいきなり弱みに変わってしまうこともあります。例えば、コロナ前であればオフィスを構えていることが強みだったかもしれませんが、コロナが流行しだすと、オフィスを持っていないことがコスト安で経営ができるという強みとなりました。
このように、環境や客観情勢の変化があったときに、顧客が求める価値や競合他社が与えられる価値を見直すことが大事です。定期的に行うとするならば、中小企業であれば半年~1年に1回が妥当なところでしょう。
会社の強みになり得る項目と事例
企業の強みは、商品・サービスの強みをイメージしやすいですが他にもあります。会社の強みの例をご紹介いたします。
商品・サービスの強み
商品やサービスの強みとなると判りやすいと思います。競合他社よりも優れた商品を開発、販売し、その優れている箇所を顧客が欲しているのであれば、その優れたところは強みだと言えます。
ラーメンを例にすると、二郎系ラーメンではトッピングの量で、家系ラーメンでは豚骨醤油の太麺で差別化して、ブランディングされています。商品やサービスを利用した人が、強みに驚きや感動があれば、ファンが増え認知度が高まる可能性が高まります。
価格の強み
価格の安さも、強みになることが多いです。スーパーマーケットだけでなく、パソコンもそうですし、あらゆるものが安いに越したことはありません。
例えば、商店街で2軒の八百屋さんがあったとしましょう。片方は愛想が良いが価格が高い。もう片方は、不愛想な店員だが価格が安い。主婦は10円でも安いお店に行くものですので、後者の八百屋さんに人が入ります。
オフィス街の近くには、居酒屋があります。その中には、ビールやハイボールが格安のお店がありますが、平日はいつも満員です。居酒屋ではお酒はほとんど調理をしなくて良いので、利益が出やすいです。お酒が格安の居酒屋は、その利益を削ってでも黒字が出せる仕組みを作っています。
販売力の強み
販売力とは、商品を売る力のことです。商品を開発したり、生産したりしても、販売できなければ在庫の山です。
サイゼリヤの創業者、正垣泰彦氏の名ゼリフを思い出します。それは、「おいしいから売れるのではない、売れているのがおいしい」。
販売力を高めるためには、営業担当者の育成や販売方法の刷新、業界ナンバー1や市場占有率ナンバー1を目指したり、ブランド力を高めたりと、いろいろな方法があります。
生産力の強み
いくら販売しても、生産が間に合わなければ機会損失となり、ムダが発生します。また、生産性を高めていけば、価格の強みにもつながります。
古い話ですが、老舗の自動車メーカーフォード社では、1908年にT型フォードを発売しました。今まで、自動車は高くて庶民の手には届かないものでしたが、ベルトコンベアによる流れ作業によって同じモデルのものを大量生産することで、価格の常識を破壊し、世界トップの自動車メーカーになりました。
企画力や開発力の強み
企画力や商品開発力が競合他社よりもある場合は、それが市場に対する強みになる場合があります。
ケーキ屋さんでも、同じケーキを何年も販売し続けている老舗もあれば、季節ごとにケーキのラインナップを変えていくケーキ屋もあります。どちらが悪いとは言えませんが、固定客が少ないのであれば、ラインナップを変えていくケーキ屋の方が生き残る確率は高いのではないかと考えます。
自動車メーカーでも、毎回同じようなデザインの自動車を販売していたら、消費者は飽きてしまいます。先ほどご紹介したフォード社では、T型フォードが売れに売れていたので20年ほどモデルチェンジしませんでした。その間に、GM社がいろいろな色の自動車を販売するようになり、T型フォードが売れなくなって経営危機になりました。
人材の強み
人材にも強みがあると思います。開発や販売、生産をするのは人です。人間力や仕事能力が優れている社員が多ければ、優れた会社です。「競合他社よりも優れた人材がいる」ということは、強みになり得ます。また、社長をはじめとする社員が熱意にあふれる人達であれば、それも強みとなり得ます。
社長は、「わが社は人材に強みがある」と思えたら、それを社外に自慢しても良いぐらいです。
すぐれた人材と言える2つの条件
強みのある人材は、2種類の強みを持っている人のことです。1つ目は、美徳のある性格の持ち主である人物。2つ目は、仕事能力において他人よりも優れているものを持っている人物です。この両方を兼ね備えていることです。
例えば、誠実な人物でも仕事能力が低ければ、強みとはなりません。また、仕事ができる人でも、他人との協調ができなければ、個人プレイの範囲を出ないので、会社としての強みにはなりません。基本的に、その両方が優れている人物が会社にいる場合、その人材が会社の強みとなります。
社員が、そのような優れた人材に成長していける会社が、成長していく会社の条件です。そのためには正しい行動指針を作り、浸透させることです。行動指針の詳細は、「従業員が共感する行動指針の作り方と正しい浸透方法」をご覧ください。
社長が優秀であることも「人材の強み」
社長も人材のお一人です。社長が優秀であることも、人材の強みとなります。倒産しそうな会社でも、社長が交代したら急成長することがあるからです。
社長の優秀さも、上記の2つの条件と同じですが、社員より高度な美徳のある性格と仕事能力が求められます。
社員とは異なる高度な見識と先見性も求められます。それを鍛えるために、社長は日ごろから勉強し、反省して、この強みを蓄積していかなければなりません。このことは当たり前すぎて、私が述べるまでもないことでしょう。
もし、中小企業の社長で「今まであまり勉強してこなかった。少しずつでもいいから勉強したい」と思われた方は、中小企業経営の基本が学べる当社のセミナー「小さな会社の社長のためのセミナー」をぜひご利用ください。
財務体制の強み
財務体質の良し悪しは、入ってくるお金と出ていくお金のバランスです。基本的に、競合他社よりも残る利益が多ければ、「財務体質の強い会社だ」と言えます。
また、会社に不況が訪れた場合に頼りになるものが現金です。現金が少なかったとしても、流動資産が多い場合もあります。銀行との連携が優れている場合もあります。小企業や零細企業では、社長の手持ちの現預金も財務体質に影響します。
そういった財務体制が競合他社よりも優れていたら、「会社に持続性がある」ということで、強みとなり得ます。
自社の強みを知ることが、市場を知ることにつながります。これらのような強みをトータルで活かして、競合他社との競争に打ち勝って、我社が生き残こったり、市場占有率を拡大したりすることができれば、強みを活かせたことになります。
孫子の兵法にもあるように、「彼を知り己を知れば百戦殆からず」です。顧客や競合他社を知ることで、自社の強みと弱みを知ることができます。会社の強みを活かした事業活動を行って頂ければと思います。
また、強みがなくて競合他社にいつも負けている場合は、マーケティングの3C分析を行うことで、会社をイノベーションさせる方向性が分かります。また、会社をイノベーションさせていくことで、社員の人材育成にもつながります。
当社では、貴社の強みを発見するためのコンサルティング支援を行っています。
- 自社の強みが分からないので、いっしょに考えてもらいたい
- 自社の強みを考えたけれども正しいかどうかわからないので教えてもらいたい
- 社員に会社の強みを発見する方法を教えて欲しい
もし、これらのようなコンサルティング支援のご要望がございましたら、お気軽にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。