先日、コンサルティング支援させていただいている小さな会社の社長から、「期待していた社員が辞めてしまった」とご報告がありました。
さて、そのご報告とは、「入社して2~3ヶ月の60代ベテラン社員が、私の出した指示に怒って辞めていった」ということです。ベテラン社員に、「この業務をパソコンでやってほしい」と依頼したところ、「自分のやり方とは違うから出来ない」と激怒しました。
60代のベテラン社員は、もちろん社長よりも年上になります。
この記事では、小さな会社はベテラン社員を雇ってはいけないこと、小さな会社の社長がやりがちなダメな指示の出し方をご紹介します。
ご自身のことに当てはめてお考えください。
なぜ小さな会社ではベテラン社員を雇ってはいけないのか?
小さな会社では、ベテラン社員を雇って会社を変革していきたいとお考えの社長は多いことと思います。しかし、私の考えですが、出来ましたらまったく畑違いの人とベテラン社員は雇わない方が良いと思います。
ここでは、なぜベテラン社員を雇ってはいけないのかをご説明いたします。
ベテラン社員はプライドの塊と見た方が良い
ベテラン社員はプライドが高く、前の会社のやり方にプライドを持っている人がいて、自社に合わせて自己変革ができない人が多いのです。前の会社のやり方、成功パターンは、必ずしも自社での成功の要因になるとは限りません。
例えば、前の会社で厳しい5S活動をしていた会社で、工場長をしていた人がいて、その人を幹部として雇ったとしましょう。社長は、「ぜひとも自社に5S活動を定着させたい」という気持ちを持って、幹部として招いたとしましょう。
そして、小さな町工場で厳しい5S活動をいきなり導入されてしまったら、その厳しさについていけず、多くの社員が辞めてしまいます。
社員からすると、「今までうまくやっていた。いきなり厳しくなり、給料が安いままなので、やっていられない」と考えるからです。すると会社が立ち行かなくなるのです。
さて、ご相談いただいた社長の会社では、60代の社員を雇ったとのことでした。60代にもなって転職するのでしたら、実はベテランではなく、使い者にならない社員なのです。本当のベテランでしたら、社長や経営幹部になっている年齢です。そのような人がベテランなはずがありません。前の会社が小さな会社であれば、本当にベテランであれば70過ぎでも幹部として働いているはずです。
そして、自分がベテランだと思い込んでいる人ほど、プライドが高いです。社長からダメ出しを受けると、そのプライドが傷ついてしまうので、自己保身に走り、社長に反発するのです。
しかし、2~3ヶ月ほどで辞めていったのですから、被害が大きくなる前で良かったと思います。
小さな会社の社長の決定は「すべて正しいもの」と見なすべき
ご相談いただいた会社は、社員が数名の小さな会社です。そのような規模の会社では、社長天下ですから、王様ゲームではございませんが、社長の言葉は絶対なのです。
その言葉に従えない、素直に実施ができない人は雇ってはいけないのです。素直でない人は、社長の言ったことを実施してくれませんから、社長の発言が正しいのか間違っているのか、社長ご自身が判断できません。すると、社長も社員も成長が止まってしまうのです。
社長の成長が会社の成長につながりますから、小さな会社の場合は、社長ご自身を成長させようとしたら、素人の社員を雇うぐらいの方が、実のところ社長の成長につながり、会社の成長につながっていくのです。
ですから、社長の決定は「すべて正しいものだ」と見なされるべきなのですが、ベテラン社員ほど自分の活躍の場を求めるものですから、反発してきます。そして、社長が折れて「ベテラン社員の言うことはもっともだ」ということでそれを受け入れてしまったら、会社は自己保身を考えるベテラン社員の属人化をして、会社がうまく利用されることになります。
株主としては社長の会社なのですが、内情を見るとベテラン社員の会社に成り下がってしまい、社長の志の実現が遠のいてしまうのです。場合によっては、社長の欲が増長され、徳のない会社になっていくこともあります。
損害が出ることをわかって社長の指示通りやった社員
別の小さな会社でのエピソードをご紹介したいと思います。その会社では、「考えて動ける社員像」というものを社長が描いていましたが、社員は社長から言われたことしかしませんでした。
その会社で、次のような事件がありました。社長が、「サーバのこのデータは必要ないから消しておいて欲しい」と指示された社員は、そのデータがどういったものかを確認もしないで、バックアップも取らずに、言われた通りに削除しました。実は、そのデータは重要顧客とやり取りをしているサーバのデータだったのです。
いきなり仕事のデータを消されてしまった重要顧客の本部長が激怒し、「この会社とは取引中止!」と全社員に通達を出してしまったのです。
その会社では、他にも事件が続出しました。場合によっては、社員が「社長からの指示の通りにやると、後で大きな損害が発生する。しかし、言われた通りにやっておいたら良い」という具合でした。
損害が出ることをわかってやったのであれば、それは嫌がらせです。しかし、私は「それで良い」と考えます。なぜなら、小さな会社では社長の指示が絶対だからです。そして、自分の指示出しが問題なのか、自分の徳の無さが問題なのか、自分がしてきた組織づくりに間違いがあったのか、経営理念に問題があるのか、それを反省して改善し、自己変革を行っていくことで、会社が成長していくものなのです。
ですから、損害が出ることをわかっていて指示通りにすることは問題だと思いますが、ベテラン社員のように自分のやり方をやるような社員がいると、その社員の勝手な判断と属人化によって、会社が成長しなくなるのです。
社員に意見を出してもらいたい場合
社長の出した指示にミスが考えられる場合に、社員から意見をもらいたい場合は、社長が社員に「この指示に問題があると思ったら何か意見をしてもらいたい」と頭を下げたら良いのです。そして、提案が出てきたら、その提案がダメだと感じるものでも、提案を出してくれたことに感謝をします。
社長がプライドを捨てることができたら、その程度に合わせてプライドの低い社員が入社してくるものです。「類は友を呼ぶ」とも言われますが、さまざまな名経営者の自伝を読んでいると、それは法則として働いているのだなと感じます。
小さな会社の社長は、社員に対して甘い社長が多いと思います。厳しさも必要だとわかっていても、「厳しくしていいのだろうか?」と悩むところでしょう。中には、社員に対して意見が言えない、要望が出せない社長もいます。自分の会社なのですから、しっかりしてもらいたいものです。
甘えとは違いますが、誉めることも大事です。寛厳の比率としては、寛容さが8~9割、厳しさが1~2割ほどだとバランスが取れていると思います。そのバランスですと、社員の気持ちも引き締まって良いと思います。
高いお給料を出したのに成果が出ないベテラン社員は?
ベテラン社員を雇うとき、社長と意気投合して雇うことがあります。社長に人を見抜く目があれば良いのですが、小さな会社の社長にはそれを見抜く目が無いことは世の常ですから、入社してもらってから「本当に能力が高いのか?」の判断になると思います。
本当に能力が高い社員とは、入社した会社の実情を良く知り、社長の性格を知り、会社が自分に求める成果を正確に理解できる人のことです。大企業で、ずっと同じ部署で経験を積み上げてきた人が、本当に能力の高い人とは限りません。なぜなら、本当に能力が高ければ、幹部に抜擢されているはずです。
人の能力を見抜くのに、たいてい時間がかかりますから、大企業出身でベテランだったとしても、小さな会社に入社する人には、下積みから経験してもらうことになります。
ベテラン社員の成果の出し方を分類したいと思います。
- 2~3ヶ月ほどで辞めていくベテラン社員
- 1年間ほど成果が出ないけれども辞めないベテラン社員
- 成果が出ないことを言い訳して生き残る社員
2~3ヶ月ほどで辞めていくベテラン社員
ベテラン社員として高いお給料を約束されて入社したけれども、2~3ヶ月ほどで、これといった成果を出せない社員もいます。仕事に慣れるまでに、入社して3ヶ月くらいかかりますから、その間はこれといった成果が出せなくて悩む人もいます。
その対応は、「このように仕事をしてもらいたい」と自社のルールに基づいた要望を出しつつも、「容認」が正しいのではないかと考えます。本当に優秀な社員であれば、自分で「この会社では自分の強みが活かせない、成果が出せない」と感じたら、いずれ辞めていくものです。
社長としては、「ベテランだからすぐに何らかの成果を出してもらいたかった。他の社員からの突き上げも厳しくなってきた」ということで、解雇してしまう場合もあります。その場合には、実は社内に人材がいる場合もありますから、外部に人材を求めるのではなく、社内の人材を正しく評価するようにし、チャンスを与えてあげてください。
1年間ほど成果が出ないけれども辞めないベテラン社員
また、1年ほど成果が出ないけれども、1年したら急に成果を出し始めて、会社をあれよあれよと言う間に成長させてしまう社員もいます。この社員は会社をじっと見て、社長の理想実現のために何が必要かを考えて行動するタイプの可能性があります。
成果が出るまでは、肩身の狭い思いをします。その間、言い訳しないで、小さな成果を積み上げていく努力を重ねている人は、積小為大で何か大きなものを狙っている場合もあります。
しかし、このような社員は成果主義の強い会社では生き残れないタイプです。会社を大幅に成長させるという本物の成果が出るまでには、少なくとも3年ほどかかるからです。大きなことを考えていると、どうしても成果が出るのに時間がかかるものですが、成果がすぐに求められる会社では、生き残れないのです。
成果が出ないことを言い訳して生き残るベテラン社員
ベテラン社員が、成果が出ないことを言い訳するようなら解雇です。言い訳する人は、自己変革が難しい人が多いです。
ベテラン社員は、若手社員の手本となるような人であるべきなのですが、言い訳しているようでは、優秀であるとは言えません。
しかし、社長の言い方が強く、とっさに自己保身で言い訳する人もいますから、社長は丁寧に成果が出ない理由を聞いてあげ、何か挽回策を考えているのであれば、それを訊ねてあげてください。
社長の指示の出し方にもお作法がある
社長の指示の出し方に問題があってベテラン社員が反発する場合もあります。ベテラン社員はプライドの塊のことが多いですから、そのプライドを傷つけられたら強く反発してきます。
ここでは、一般論として社員の指示の出し方について解説いたします。ポイントは、社員の人間性の尊重とルール化です。
社員はロボットではなく人間である
人は、「心の王国を持っている」と言われるように、自由意思を持っているし、「貢献したい」「成長したい」という欲求もあります。社長からの指示出しで、単に「これをやれ」と指示されるだけでは、そこに社長への貢献しか存在しませんから、使いっ走りと同じです。
小さな会社で生き残れる社員は、「はい」か「Yes」しかありません。いつもNoを言っている社員は、社長から相手にしてもらえなくなります。そして、Yesばかり言っている社員は、他の社員から「社長の犬だ」と陰口を言われるようになり、次第にNoを言うようになっていきます。Yesを言い続けた社員は、社長にぼろ雑巾のように使い倒され、疲れ切って辞めていきます。そのようなカルチャーになっていませんか?
さて、「これをやれ」とだけ命令するような指示は、使いっ走りと同じです。使いっ走りの仕事は、ロボットにやらせるのと同じです。ロボットは、プログラミングをするとその通りに動きます。人にそのようにさせる指示の仕方は、社長の傲慢さが加わると、社員の人間性を破壊する可能性があります。社員は疲れ果て、精神的に参っていくのです。
社員は仕事の意義を知りたい
同じ指示であっても、「これをやってほしい」と言う前に、やってほしい内容の意義を知りたいと思います。やる気のない社員は別として、人は何かをやるときに、そこに意義を求めるものです。
例えば、「新幹線のチケットを予約しておいてほしい」と指示する場合は、なぜ新幹線を選んだのか、飛行機ではダメな理由は何か、どこに行くためか、何をしにいくためかといったことを伝えます。そして、値段の安さで選んだのか、時間の早さで選んだのかの基準をしめし、何か良いアイデアがあれば、それを訊ねるぐらいだと、社員が成長します。
社長から社員に、そのような説明ができたらいいのですが、社長からそのような説明がなければ、社員から社長に質問ができる環境を作ってもらいたいものです。私は、社員が社長に質問ができず、ミスをしたり、社長の意図したものが出なかったら「出来ないヤツだ」と無能のレッテルを貼られてしまう会社を、いくつも見てきました。
そのような会社は酷い会社だと思われたこととでしょう。しかし、私の見立てでは、ほとんどの会社が同じ状態だとお考えください。なぜなら、これが解消されたら、その会社は成長できるのですから。
P&Gのエピソードを聞いたときには恐ろしさを感じました。
そこでは、上司が部下に何か指示を出したときは、部下から「それは何のためですか?」「私がする理由は何ですか?」「そのような指示の出し方ではお受けできません」といった会話が成立する会社だそうです。上司が意図することが明確に伝わり、その最善策が上司と部下の両方で考えて導き出されるわけですから、たくさんのヒット商品が出て当然だと感じます。
そこから導き出される指示出しのお作法とは?
これらのことから導き出される、小さな会社の社長がぜひとも取り入れてもらいたい指示出しのお作法は、次の通りです。
- 目的や理想の状態を伝える
- 「最善策を思いついたら提案してもらいたい」と頭を下げる
- 提案を出してくれたことに感謝をする
これは基本となりますが、会社の事情に合わせて項目を追加してください。例えば、「必ずメモと口頭で伝える」といったものも入れたら良いと思います。
指示出しのお作法は、出来上がったら完成ではなく、改善していくことが大事です。社長の指示の出し方によって社員の仕事能力が高まり、社長の人格も高まっていったのであれば、その指示出しのお作法はとても良い方法となります。
すると、社員が社長の指示出しのお作法を真似するようになります。そうなったら、それをルール化したら良いと思います。
ベテラン社員を雇ったときの対応
ベテラン社員を雇ったときの対応についてもまとめたいと思います。
2~3ヶ月ほど下働きや現場作業といった仕事をしてもらう
ベテラン社員だからと言って、いきなり役職に就けることはお止めください。なぜなら、小さな会社では、ベテラン社員の強みを活かすような仕事の振り方ができないからです。なぜなら、仕事の仕方がマニュアルになっているわけではなく、ほぼすべての仕事内容が、社長の頭の中にあり、整理されていないからです。
ベテラン社員であった人ほど、他人から細かな指示をされることに慣れていない場合もあります。
幹部として雇った社員であったとしても、2~3ヶ月ほど下働きをしてもらうことをおすすめします。会社のルールややり方を知ってもらうためと、指示されることに慣れてもらうためです。
幹部として雇い、いきなり椅子に座ってもらうと、どうも社内にずっといて、現場を見ないで数字で判断する人がいます。それですと繰り出される指示が、現場に合っていない場合が多くなり、現場のスタッフが混乱します。
特に経理担当者として雇う社員には要注意です。経理担当者も営業の現場、工事現場などを知ってもらうことで、会社全体のお金や価値の流れが理解でき、数字だけでなく実情に即した意見が出せるようになります。
優秀な社員であれば、会社の全体像が見え、会社に成果を出すように、生産性が高まるように、仕組みづくりをしてくれるはずです。
入社直後はベテランにも若手同様に社員研修を
ベテラン社員であれば、「仕事の仕方は自社のルールや仕事の仕方を教えることが大事です。どのようなことを教えるべきかは、コラム「小企業で入社したての新入社員に教えるべきことリスト」をご参照ください。
もちろん小さな会社には、そのようなルールや仕事の仕方は明確化されていませんから、業務マニュアルもありません。
では、どうするのか?
当たり前のことですが、箇条書きで良いので、自社のルールや仕事の仕方をまとめるべきです。
「そのような時間は無いし、必要性を感じない」と思われた方は、厳しいようですが、今まで通りの会社のままでいてください。この明確化が、立派な会社に成長するために最初に行なう作業なのです。
ベテラン社員が入社するときには、「この仕事をしてもらいたい」とお考えのものがあるはずです。それや、その手順を箇条書きでまとめるだけでも良いのです。その小さなことでも、大きな一歩となります。
「マニュアルなんて作ってしまったら、マニュアル主義になるのではないか?」とお考えの社長もいらっしゃいます。立派なマニュアルが完成したら、そのようになるかもしれませんが、立派な会社はすべからくマニュアルで働くのです。そして、クリエイティブな社員がマニュアルを改善してくのです。マニュアル主義になる心配は、立派なマニュアルができてからでも遅くはありません。
小さな仕事から取組み少しずつ成果を出してもらい褒める
どのようなベテラン社員でも、会社を転職して仕事に慣れるまでに、少なくとも3ヶ月はかかります。ですが、ベテラン社員として入社したわけですから、3ヶ月間も成果が出せない場合には、その社員が劣等感を感じることもあります。
そこで、少しずつ成果を出すのに時間がかかる仕事を依頼すると良いです。最初は、毎日のルーチンを教えて、やってもらいます。次に、1週間ほどで成果が出せそうな仕事を出して、小さな成果を出してもらいます。その成果は、達成感でも良いです。
次に2週間、1ヶ月と少しずつ成果を出すのに時間がかかるような仕事を依頼するのです。そして、成果が出たら褒めます。
そうすると、成果を出していますから本人が居やすくなり、その実績に応じて難易度の高い仕事に取り組んでいき、自社での仕事になれていきます。
このような段階的な仕事を出していくためには、仕事内容を明確化しておくことが大事です。
ベテラン社員を雇う前に、自社のルールや仕事の仕方を箇条書きするときに、仕事内容を明確化しますが、その中から成果にかかる時間予想を出しておくと良いと思います。
以上、社長の指示出しについて、いろいろと述べました。小さな会社の社長の仕事がどのようなものなのかを、もっと知りたい方は、当社が定期開催している小さな会社の社長のためのセミナーにご参加ください。
自社の仕事のルールや仕事の仕方をまとめたい、マニュアル化したいといったご相談は、個別のコンサルティング支援にて対応いたします。
お気軽にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。