大手企業の企画室に入って支援してきたコンサルタントや、大手企業の新規事業を成功させた人が、コンサル会社を起業することは、よくある話です。
そして、中小企業の社長をコンサルティングするようになることもあります。その場合に、乗り越えないといけない壁があります。
それは、中小企業の社長の意思決定や行動の遅さです。
例えば、中小企業の社長をアドバイスして、社長自ら「来月までに、アドバイスされた新商品開発について部下に指示を出しておきます。」とおっしゃったとします。ところが、来月の打ち合わせになったときに、「急に忙しくなった」とか「部下が休んでしまった」とか、さまざまな言い訳が出てきます。
入念にアクションプランや経営計画ができていたとしても、最初の一歩が出ないのです。
このコラムでは、大手企業向けのコンサルタントが、中小企業の社長を支援するときにおちいりやすい落とし穴についてご紹介しつつ、考え方や解決策をご説明いたします。
中小企業の実情を暴露しているので、中小企業の経営者は読まないようにお願いします。
「やる」と言ってもやらない中小企業の社長
コンサルタントが中小企業の社長に提案をしたときに、社長が例えば「その提案は良いので、来月までにやります」と言ったとしましょう。しかし、ほとんどの場合で裏切られます。
コンサルタントとしては、社長が「やる」と言うものですから、それを信頼するしかありません。
社長によっては、何度言ってもやらないので、コンサルタントが社長に対して、強引に行動を迫ってしまうこともあります。そうすると社長から反発され、「その提案は、大手企業のやり方だ」と言われ逃げられてしまい、施策を拒否されてしまうこともあります。
コンサルタントは、クライアント企業のためを考えて、せっかく作成した提案が反故されてしまいます。それに対して、憤りすら感じるコンサルタントもいます。
そういったことにならないためにも、中小企業の社長を支援するコンサルタントには、大手企業の企画室を支援していたときにはあまり求められなかったマインド「寛容さ」が強く求められるのです。
中小企業の経営レベル
大手企業の企画室は、社長を含め優秀な人材が集まった部門です。行動がきちんと管理されていて、フォードバック分析も自ら行われています。また、大手企業では、必ず成長が求められ、企画室の社員は成長意欲もあります。
それに反して中小企業では、社長一人がすべてを決めることが多いです。中小企業に「企画室」という名称の部署があっても、機能していないことがほとんどです。
経営会議では、いろいろな部門の方々が集まって企画について前向きに議論になれば理想です。社長が考えた企画のコンセンサスを取るためだけのことであったり、必ず否定に回る古参社員に振り回されたりと、経営会議が有効に機能していないこともあります。企業によっては、言い訳会議になっていることもあります。
社長以外では、経営計画や経営戦略を立てられる人はほとんどいません。そのため、会社の変革をするためのプロジェクトを社長以外の人材が担当する場合は、その人材を一から教えて育てなければいけません。
経営計画や経営戦略の基となる経営理念すらありません。あったとしても、最初から形骸化していることでしょう。
リーダー人材が育つためには、早くて3年、若手であれば10年かかることでしょう。社長から「この人材を育ててほしい」と依頼された場合、その人たちは、経営の素人です。ビジネス書を一冊すら読んだことがありません。自分の給料がお客様から得られていることすらわかっていないことが多いので、基礎から教えていかなければいけないのです。本当に「いろは」からお教えしないといけない企業もあります。
このように、中小企業のコンサルティング支援には時間がかかります。
中小企業の社長の性質
ビジネス書はほとんど読みませんし、ビジネスセミナーに参加したことのある社長であったとしても、せいぜい無料セミナーに参加した程度のものです。そのような状態なので、経営は経験からえられた野生の直感で行われています。
経営相談は、経営者仲間や家族に相談することから始まり、あまりにも曖昧なアドバイスを信用して実施しても、成果が出るはずがありません。そして初めてコンサルタントと契約します。初めての支援内容は、売上アップや財務体質を改善したいという理由が多いことでしょう。
コンサルタントと言っても胡散臭いものです。「大手を支援しているコンサルタントなら大丈夫だろう」ということで、大手企業経験者に依頼をするのです。
大手を支援してきたコンサルタントが経験する苦労
今まで大手企業の企画室をご支援してきたコンサルタントにとっては、中小企業の社長はワガママだと思ってしまうことでしょう。実際にマガママなことが多いです。
コンサルタントが何度も何度も同じことを教えても、次回のミーティングでまた同じ問題を質問してくる始末です。場合によっては、教えたことと真逆の決定をすることさえあります。そして、成果が出ないことを、コンサルタントの責任にされることすらあります。
また、大手企業ではうまくいった方法が、なぜか中小企業ではうまくいかないこともあります。
市場の流れを読み取り、新商品開発のベストタイミングで「今、新商品ができたら、確実に利益が出るばかりか、業界ではまだ知られていないので、いっきにトップ企業になれる可能性もある。」というマーケット分析結果があったとしても、開発がスタートするのが2~3年後で後手後手になり、プロジェクトが失敗することもあります。
このように、中小企業の社長は、成長や決定にとても時間がかかります。「カニは甲羅の大きさに合わせて住処の穴を掘るように、社長の器によって会社の規模が決まる」と言われています。成長しない社長を支援していると、コンサルタントは支援している意味を見失ってしまうこともあります。
なぜ中小企業の社長は成長を求めないのか?
社長が成長しないのは、口では「売上アップ」とか「利益倍増」と言っていたとしても、本心では成長を望んでいない社長が多いからです。固定費の増大に恐怖心があったり、家族関係の事情で成長を拒んでいたりすることもあり、コンサルタントにはどうすることもできない場面もあります。
大手企業の社長は、会社が成長しなければクビになってしまいます。中小企業のオーナー社長は、会社が衰退してもクビにはなりません。クビになるときは、会社が倒産したときです。成長しなくても、今の生活に満足していて、現実に安住しているのです。
会社の成長が止まり、それに安住してしまっている中小企業の社長の支援は、実のところ今の利益が維持できるか、少し利益が増える程度の支援で良いのです。本心で成長を望んでいない社長の場合は、成長志向のコンサルティングが通用しません。
実は中小企業の社長は被害者
中小企業では、決定されたことが実行されないことは、日常茶飯事であることは、ご理解いただけたことでしょう。アクションプランの実施も、何度も何度も言って、半年後や1年後になることがあり、場合によっては2年後ということさえあります。まだ、実施されるだけましです。
要するに、中小企業の社長はコンサルタントがアドバイスしたことを実行できるような実力を持っていないのです。
社長は、「誰を信頼したら良いのか分からない」「ビジネス書を読んでも、わが社で活かせない」ということが現状です。それもそのはずです。コンサルタントは胡散臭いし、ビジネス書も大手企業の話ばかりです。実のところ、中小企業の社長は被害者なのです。
私自身、ビジネス書は15年以上かけて数え切れないぐらいの書籍を読んできましたが、最近になってようやく気が付いたことがあります。書店で売られているビジネス書の内容は、中小企業にはほとんど当てはまらないこと、当てはまったとしても書籍に書いてある内容はほぼ実施できないということです。
そして、コンサルタントに依頼するのですが、最初に依頼したコンサルタントでは成果が出ずに高いお金だけを払うことになったと感じ、社長はコンサルタント不信に至るのです。
中小企業社長の導き方
そのような中小企業の社長を、いかにして行動をしてもらえるように導くのか、チームコンサルティングIngIngでの常套手段があります。あまり言いたくないのですが、それをお教えいたしましょう。
ビジネスコーチングで導く
子供に「勉強しなさい」と言うと、「今やろうと思っていたのに、やる気を失った」と言われた経験のある親は多いことでしょう。中小企業の社長を導く場合も、これと同じような減少が起こるのです。中小企業の社長は、自尊心が高い人が多いからです。
そういった人には、あたかも自分で決めたように誘導することです。その方法として、ビジネスコーチングのスキルが有効です。
例えば、何かプロジェクトを社長に提案して実行してもらいたいとしましょう。通常であれば、「プロジェクトを実施してください」「ご検討ください」とお願いをすると思います。
ビジネスコーチングのスキルを用いると、プロジェクトの内容をあたかも社長が考えたかのように作成し、「プロジェクトを考えた社長はすごいですね。このプロジェクトがうまくいくと、多くのお客様に喜んでもらえそうですね。」という具合に、社長を肯定的で建設的な気持ちに持っていって差し上げます。中には大げさに褒めるとモチベーションが上がる社長もいます。
あまり欲望を駆り立て過ぎてはいけませんが、時には、利益、名誉、仲間、そういったものが得られるというインセンティブを持ち出して、モチベーションを上げてあげて差し上げることも大事です。
当社では、コーチング講座を開催しています。詳細は「ビジネスコーチ養成講座」をご覧ください。
自尊心を捨てる
また、コンサルタントとしての自尊心を捨て、「社長が決定や行動さえしてくれたら、自分が考えたアイデアやプランだったとしても、『社長が考えたのだ』ということで、社長に成果を譲る」というぐらいの考えを持つことです。また、プランを練ったのはコンサルタントである自分かもしれませんが、「それを決定したり実施したりした社長が偉い」と考えるのです。
当社であれば、例えば当社のWeb集客コンサルティングを導入し、ホームページ経由での新規顧客獲得数が数倍に、コストパフォーマンスが数十倍に増えたとしましょう。このような実績はよくあります。
その場合、たいてい社長から感謝されるのですが、社長に対して「いえいえ、社長が当社の支援を選び、当社の提案を受け入れたことが勝因なのです。ですから、社長が偉いのです。」という具合に、社長を持ち上げるように述べることにしています。まさしくその通りなので、社長に手柄を譲るのです。
また、提案したことが反故されてしまったとしても、寛容さでそれを受け入れて、別プランを提案できるぐらいでなければいけません。反故にされるような提案をした自分に責任があると考えるべきなのです。
段階的に導く
社長に成長を促す場合には、まずコンサルタントとしての実力を知ってもらい、信頼してもらう必要があります。当社では、まずWeb集客コンサルティングで集客の実力をお見せして、当社のコンサルティングを信頼してもらえるようにします。
Web集客ができても、社長や社員の実力が足りなければ、クロージングにまで至る割合が低くなりますし、生産性も悪いです。そこで次の段階として、社長や社員が成長できるような研修をご用意して、Web集客で増えた利益で研修を受けてもらい、新しい知識を身に着けていただいて、自分で考えて改善できる段階に進んでいただきます。
すると、少しずつレベルの高いアドバイスが理解できたり機能したりするようになるので、最後の段階として、経営理念コンサルティングや経営計画の策定などの支援ができるようになります。
まとめると、次の3段階に分けると、支援がやりやすいと思います。
- 実績を出してコンサルタントを信頼してもらう段階
- 社長を含む人材が成長する段階
- コンサルティングが機能する段階
本格的なコンサルティングに入るまで、とにかく時間がかかるので、時間稼ぎとして最初に大きな成果を見せておくことがコツです。
以上、大手企業向けのコンサルタントが、中小企業の社長を支援するときにおちいりやすい罠や考え方、解決策をご説明いたしました。大手コンサル会社から独立して、中小企業向けのコンサルティングを行う予定の方にご参考になれば幸いです。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。