中小企業では、社長と社員の距離が近いので、社員が社長に話しやすい環境にあります。
社員の中には、仕事場での不満があったり、社長に何か提案したいことがあったり、はたまた社長と仲良く話をしてみたかったりと、いろいろな要望を持っています。
多くの中小企業の社長は、「社員の意見や話を聞いてあげたい」考えていることと思います。そして、多くの中小企業の社長は、社員の話をよく聞いていると思います。
しかし、社員によっては「社長は話を聞いてくれない」と言われてしまうことがあります。
なぜ、社員からそのように言われてしまうのでしょうか?
この記事では、零細企業から小企業の社長で、社員の話を聞くようにしているのに、社員からは「話を聞いてくれない」と言われてしまう理由や、その弊害、解決方法などを述べたいと思います。
社員の意見を全員から聞いていないパターン
社長は、会議のときに、社員に意見を求めていると思います。しかし、会議では全員が発言することはなく、一部の社員からしか意見が出てきません。
つまり、話を聞く人物に偏りがあり、全員から話を聞いていないのです。
会議では、社長は「誰でも意見を自由に言って良い」と言っていると思いますが、意見を持っている人でも、会議で話すとは限らないのです。意見を言っても、社長からすぐに否定されてしまうので、面白味がありません。
社長からすると、社員の意見として良いと感じるものは、10個中1個ほどです。社員は、会社全体のことを考えている人はいませんし、社員によっては自己保身からの提案をしてくる人もいます。
社長は、社員の積極性を見ているところもあるので、会議では積極性の高い社員の意見が優先されます。
社員が本当に自由に意見を言ったなら、それに付随して社長の話が長くなり、社長や社員は「自分の仕事が終わらない」ということになります。しかし、社長はできる限り、全員から話を聞くことが大事です。
また、社長は「何でも話して良い」と言う人が多いですが、本当に何でも話して良いわけではないことを、社員は知っています。社長によって、聞いてくれる話と聞いてくれない話があるからです。
社員は、ずっと黙ったままの人と、社長に直談判をしようとする人がいます。直談判をしようと思っている社員は、同時に会社を辞める覚悟をしていると思います。
社員の話を聞いているつもりになっているパターン
社長は、社員から話しかけられても、「聞いているつもりになっている」ことが多いです。
社長だけが話す会議
打ち合わせ会議のときに、社長は一方的に話をして終わることは無いでしょうか?
会議で「情報交流会」と称して、業務の情報を共有しようとするときに、社長が一方的に話をして、「情報直流会」になっていることが多いと思います。
それでも、「社員の話を聞いている」とおっしゃる社長は、会議で自分が話している時間を計ってみてください。当社には、囲碁や将棋で使用される対局時計があるので、お貸しいたします。
社長の中には、「自分はいつも1/3ほどしか話していない」ということで実測したところ、8:2ほどで社長が社員全員よりも4倍ほど話していることもあります。
そういった社長は、会議で社員に意見を求めても、社員からは何も意見が出てこないことが多いと思います。
社員が相談に来ると説教に入ってしまう社長
社長によっては、「社員に仕事を教えてあげなければいけない」ということで、社員が相談してきたら、説教が始まり、それが10分、20分、30分と続く場合があります。
社員としては、社長に話を聞いてもらいたいのに、反対に話されてしまって、うんざりしてしまいます。
最初は、社長から教えていただいているので、「しっかり聴かないといけない」と思うのですが、15分を過ぎてきたころから、笑顔でうなずきながらも、「そろそろ終わらないかな」と考えるようになり、内容は覚えていないことが多くなります。
社長としては、「説教が必要だ」と考えていても、それはお互いにとってムダな時間になってしまうのです。
そういった社長に対して、社員は何か相談しようと思わなくなってくるものです。私も気を付けないといけないことです。
社員のことを理解していると勘違いしている社長
「社員のことをよく理解している」と思い込んでいる社長も、社員の話を聞かない傾向があります。
社長は、「社員のことを3日で見抜く」と思っていても、実際には3年はかかるものです。その逆に、社員は社長のことを3日で見抜くものです。
私が前職の会社を辞めて、経営コンサルティング会社を設立したときには、前職の社長は「平野君にそのような実力があったなんて」と驚いていました。その会社に勤めている2年弱で、新規事業を2つも立ち上げて、会社を発展軌道に乗せる源流を創り出したのですから、私の実力くらいは見抜いてもらいたかったと思います。
会社に事業を出したときは、社長はすんなり辞表を受取ってくれましたが、社長は他の社員や社長のご婦人からは、「平野は我社にとって必要な人材だ。なぜ平野をすんなり辞めさせたのだ!」と怒られたそうです。
なぜか、社長は社員の実力が見抜くのに、時間がかかるのです。
優秀な社員は、愛社心があれば、実力が認められるまで待つこともできると思います。そうでないなら、社長が社員の話をよく聞いてあげて、社員の実力を見抜いてあげた方が良いと思います。そうすると、社員にも愛社心が出てくると思います。
社員から「話を聞いてくれない」と言われる社長の傾向
社員から「社長は話を聞いてくれない」と言われる社長には、傾向があります。その傾向をご紹介します。思い当たる点があれば、会社の発展を止めていたり、機会損失をしている場合もあるので、反省をなさってください。
社員の意見にすぐに反論するクセがある
社員に広く意見を求めたときや社員と面談をしたときに、社員の意見にすぐに反論するクセのある社員は、社員から「話を聞いてくれない」と言われることが多いです。
そして、反論が始まったら、それが過去の自慢話や自分が勉強していることを伝える時間に変化していき、いつの間にか20分も30分も時間が経過していることもあります。
会社に身内ではなく一般採用をし始めたら、社員の意見に反論をしないで、最後まで聞いてあげて、質問をしてあげるようにしてください。
もう少し会社が大きくなってきたら、社員の意見をレポートにまとめさせても良いと思います。そのレポートに対して、社長から社員に意見なりアドバイスなりをしてあげたら良いと思います。
また、反論ばかりでなく、良い点や反論をした客観的な理由、どうしたらいいのかをアドバイスしてあげてください。すると、社長の徳が上がると思います。
社員の意見を聞いている振りをしている
社長が社員の話を聞くときに、上の空で聞いているつもりになっていることがあります。社長は、いろいろなことを考えているので、社員の意見を聞いているときに、別のことを考え始めたり、携帯電話を触りはじめたり、顔はパソコンの画面に向かっていたりすることがあります。
そのようなことでも、社員は意見を言いにくくなります。
社員が意見するときは、手を止め、目線を社員に向け、社員の意見のキーワードをメモするくらいの時間を取ってあげても、会社の大きな損失にはならないと思います。
社長が話したいだけ
社長が家では話を聞いてもらえない、社長の会合に出ても立場が低い、といったことで話す機会が少ない社長は、話を聞いてくれる人をとっつかまえたくなります。また、よく勉強している社長で技術系の社長で、自分の頭の良さを誰かに認めてもらいたいと思っている方や、潜在的に思っている方は、とにかく話して話して話しまくります。
「よくご存じで」とか「とても勉強になります」などと、相づちをしてしまったら、もう大変です。話が30分や1時間はざらに続きます。そして、「あの社員は、社長であるこの私が直接教えてあげているのに、まったく仕事ができるようにならない」と愚痴っています。そして、「もっと教えてあげなくてないけない」という、逆効果なことを考えてしまうのです。
30分も1時間も説教をされたら、その内容は覚えていませんし、ぐったり疲れてしまって、仕事能力も下がり、時間も奪われてしまうのです。
そのような社長は、社員が社長を敬遠し始めます。当たり前です。
社員との面談では、自分が社員の話を聞くのか、それとも自分が話したいのか、面談の理由をはっきりさせることが大事です。
話をしたいのであれば、ビジネスコーチを雇うことも一つの方法です。ビジネスコーチであれば、話の内容をまとめて、価値あるものにしてくれます。
社員を信頼していない
社員を信頼していない社長は、そもそも社員の話を聞くようなことをしません。社長は、「社員は成長しないもの」と考えているのかもしれません。
確かに、人が成長をするのに時間と労力がかかります。社長の成長とともに会社も成長しますが、会社の成長についていけない社員も出てくることと思います。そういった場合には、社内の社員を育成することよりも、社外から優秀な人を雇った方が早い場合が多いです。
そのようなことで、成長会社は社員の入れ替わりが多いものです。
そういった会社であったとしても、社員の成長を信じてあげて、成長できるような仕組み、教育制度を取り入れてあげることが大事だと考えます。その中に、環境整備をぜひとも取り入れていただきたく思います。環境整備を行っている会社の社員は、人によって程度の違いはありますが、思いやりがあり、何でも気が付いて、それを無視しない特技が身につきます。環境整備によって、社員の成長が早いのです。
これからの会社の役割として、社員の仕事能力だけでなく人間性を高めてあげられる育成ができることが求められる時代に入っていると思います。そのような時代では、社長は「人は成長するものだ。社員が成長できないのは社長が原因だ」と考えることが大事だと思います。
社員の話を聞かない社長の弊害
社員の話を聞かない社長は、どのような弊害があるのかをご説明いたします。
- 話が長いほど時間のムダになる
- 社員の人心が離れる
- 社員が意見を言わなくなる
- 社員が独自の考えで仕事をするようになる
話が長いほど時間のムダになる
先ほど、話し始めたら止まらない社長の特性をご紹介しましたが、社員の話を聞かないで、自分だけが話をする社長の場合、その話が長ければ長いほど、その時間はムダになります。
社長は、話したいだけ話したので、スッキリするかもしれません。そして、社長としては社員にお給料を支払っているので、「ちょっとばかりは話を聞いてもらいたい」と考えるかもしれません。しかし、それは社長がスッキリすることだけがメリットなのです。
とあるスタッフが社長から、延々と叱責を受け、1時間ほど説教を喰らってしまいました。1時間後に、そのスタッフはうつむいたまま、「私は、なぜこんなに長く叱られないといけないのだろうか?」と思い、虚しくなって涙が出てしまいました。
その涙を見た社長は、「オレが叱った意味をやっと理解してくれたか」と一声かけて、開放してくれました。社長は、スタッフが流した涙を見て「自分のミスを理解し反省したものだ」と勘違いしていたのです。
そのスタッフは、叱られていた間、ただただ「開放されたい」という思いしかなく、社長が何を話していたのか、一切覚えていなかったそうです。
社員の人心が離れる
そのような社長でなくても、社員の話を聞いてくれない社長は、社員の人心が離れていってしまうことでしょう。
それもそのはずです。特定の社員の話しか聞かないし、話し始めたら止まらないし、気が付いたら説教か自慢話です。そうでなくても、社員の話を綿向かって聞いてくれないのです。
面向かって聞いてくれない社員は、「自分の話なんて、あまり聞く気持ちが無いのだな」と思ってしまい、社長に話しかけにくくなっていきます。
社内に「社長に言ってもムダ」という風潮が生まれてしまったら、特定の社員以外は、だれも社長に話しかけなくなってきます。
社長に何か志があのなら、説教や自慢話をグッとこらえて、社員に綿向かって話を聞いてあげてください。すると、勘の鋭い社員は、社長に対して「何か変わった。社長には何か実現したいことがあるのに違いない」と気が付くと思います。
社員から話しかけられなくなってきたら、社長から社員に「最近は調子はどうだ?」などといった何気ない会話をしてあげるようにしてください。
社長は、若いスタッフの話を聞いてあげられるだけの心の余裕を持ちたいものです。
社員が意見を言わなくなることの弊害
社員は、話をきちんと聞いてくれない社長に対して、話をしなくなってきます。そのうち、お客様からのクレームも社長の耳に入らなくなり、何かアイデアがあっても、「どうせ社長に話しても、反論を喰らってしまうだけなので、話すだけムダだ」「社長に話すのはもったいない」と考えるようになります。
会社が小さいうちは、社長だけの実力で会社を大きくできると思いますが、ある程度の大きさになってきたら、社員の話を聞いてあげないといけません。そして、どのような話を社長が求めているのか、方針を出していってあげないといけないのです。
社長が方針を出してあげることで、社員は社長に話しかけやすくなります。
社員が独自の考えで仕事をするようになる
社員の話を聞かない会社では、社員は社長の言うことを聞かなくなり、独自の考えで仕事をするようになります。その状態のことを、属人化と言います。
社員の実力によって仕事を組み立て、それを属人化させたら、その社員は自分の仕事を守ろうとします。社長が何を言おうと、「この仕事は自分が創り上げたものだから、誰にもできない」ということで頑なに、マニュアル化を拒み、自分にしかできない仕事にしてしまいます。
そして、その社員は「自分が会社の中でなくてはならない存在なのだ」と思い込んで、自分の仕事を守り、会社の発展を止めてしまうのです。
話をよく聞いてくれる社長の特徴
話をよく聞いてくれる社長の特徴をまとめたいと思います。話をよく聞いてくれる社長は、よく仕事ができる社長だと思います。
衣冠束帯を問わず
衣冠束帯(いかんそくたい)とは、服や帽子、ベルトのことです。平安時代は、衣冠束帯の色で階位を表していたと言われています。一般社団法人京都宮廷文化研究祖の衣冠(衣冠単)をご覧ください。
「衣冠束帯を問わず」は、近鉄の名社長、佐伯勇の言葉で、「運をつかむ」という書籍に書いてある言葉です。
佐伯勇は、社員に「会社にとって良いと思うことは、役職に関係なく、社長に直接教えてもらいたい」ということを命令しました。まったくもって、名社長の言葉です。
社員からの意見は、10に1つも良いものがないかもしれません。しかし、その1つの中に砂金が眠っている可能性があるのです。
佐伯勇は、同時に「独断はせず、衆知を集めた独裁をするのだ」と述べています。何か大きな決断をしないといけないときは、社員に聞き、専門家を訊ね、社長仲間に相談し、あらゆる情報を仕入れてから、最後は社長ただ一人で決断をすることを述べています。
時間を決めて話をする
社長は忙しい存在です。社員が話しかけられたときには、社長は考え事をしている場合が多く、その途中に話しかけられてしまったら、腹が立つかもしれません。
そこで、時間のメリハリをつけて、「10分だけなら良い」とか、「15時から時間が取れる」という具合に、時間をきちんと決める方が多いです。
また、よく仕事ができる社長ほど、のんびりしているように見えます。
社員の話を途中で遮らないで論点をまとめる
話をよく聞いてくれる社長は、話の途中で反論を始めるようなことはありません。社員の話がどのようなものであれ、とりあえず最後まで話を聞いてあげます。
話が下手な社員は、論点がまとまっていないこともあります。そういった場合は、「ようするに、これとこれが問題なのだね」と、まとめてくれます。
論点がまとまれば、社員の中ではスッキリして、「社長がすべて理解してくれた」と思うものです。論点が明確になると、社長のアドバイスが的確なものになるので、社員が納得しやすいです。また、論点がわかれば、自分で解決策を見つける人もいます。
傾聴と質問のスキルを使いこなし、社員が話しやすくしてくれる
話を聞くことがうまい社長は、傾聴と質問のスキルをつかいこなしています。傾聴や質問のスキルとは、コーティングのスキルの一つです。
社員と面向かって、「なるほど」とか「うんうん」とうなずいてあげるだけで、社員は「話しを聞いてくれた」と思うものです。話が明確でないところでは、質問をしてあげて、話の内容を補ってあげて、社員を導いてあげる社長は、社員の能力を引き出せる人です。
社長がコーチングのスキルを使いこなすことができるようになると、会社が成長するための原動力になります。
もし、会社のナンバー2から「話を聞いてくれない」と言われたら?
そのようなナンバー2は、本物のナンバー2ではありませんので、社長を支える人物としては不適格だと思います。
また、「社長に話を聞いてもらいたい」と考えているナンバー2は、社長から本当のナンバー2だと思われていない証拠です。
ナンバー2が「最近、社長が話を聞いてくれなくなった」と思うようであれば、社長から信頼されている証拠で、今まで以上に精進して社長に貢献するようにしたら良いと思います。
私がコンサルティング支援をしている企業で、何か施策を勝手に行っても事後報告をするだけの企業もあり、「平野は、自社の短期から長期まで考えて施策を考えてくれる人だ」と信頼してくださっています。そのような社長は、月1回のミーティングで話を一言聞いただけで、社長が何を考えているのか全体像が把握できるような関係ですので、勝手に施策を行えるのです。
ナンバー2は、自分の意見を社長に通すことが大事なのではなく、社長の夢を実現するために何が必要なのかを考えることが大事なのです。社長の決定には、100%Yesにならないといけません。その決定を成功に導くのが、ナンバー2の仕事です。
ですから、自分の考えを社長に話すのではなく、社長の話を聞いて、ご意向に沿って競走することが大事です。
成長企業の社長は優秀な人が多いですが、人ですから判断を誤るときもあります。
優秀なナンバー2は、社長が間違った判断を出しそうだと思うなら、あたかも社長が自分で考えたように正しい答えを導き出せるように誘導し、社長に手柄を立ててもらうように導きます。ナンバー2は、このように社長をうまく誘導できるコミュニケーション力を身に着けています。
社長は、そのような稀有なナンバー2と出会えるように、志を高く持ち続け、努力・精進を続け、徳を磨いてください。
ともあれ、社長がナンバー2から「話を聞いてくれない」と言われたり、ナンバー2が「社長に話を聞いてもらいたい」と考えるようであれば、社長とナンバー2が離れる時期を迎えているのだと思います。
以上、社員から「話を聞いてくれない」と言われる社長の特徴や、社員の話を聞かないことの弊害、考え方や解決法などを述べました。
社員の話を聞いてあげた時間が、後で何倍にもなって還ってくることもあります。社員の話をしっかり聴いて、社員から信頼される社長を目指してください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。