
製造業の現場では、思いもしなかったような事故が発生するものです。新製品をリリースした後はなおさらです。
新製品を大々的に販売した後に事故があると、SNSなどですぐにネガティブなイメージが広がってしまいます。そういったことで、近年、品質問題や製品事故が社会的に大きく取り上げられるたびに、「未然防止」の重要性がなお一層語られるようになりました。
「未然防止の方法は何か?」ということですが、その中心にある手法がFMEA(故障モード影響解析)です。
FMEAは、起こり得る不具合を事前に想定し、その影響を評価し、優先順位をつけて対策を講じる体系的な方法です。自動車、医療機器、インフラ分野などでは広く活用され、未然防止の代表的手法として確立されています。すでにFMEAを導入している企業が増えています。
しかし、ここで一つ問いかけたいのです。
FMEAは本当に正しく導入されていますか?
- 表を作ることが目的になっていないでしょうか?
- 監査対応のための資料作成になっていないでしょうか?
そのような状態では、FMEAが本来の機能を発揮しないため、失敗していると言えます。FMEAは強力な手法です。しかし、前提となる思想が欠けていれば、形骸化します。本稿では、FMEAの導入で失敗する組織が理解していない、FMEA導入の本質や前提(QFD・VE)についてお伝えします。
FMEAが失敗する理由
FMEAがうまく機能しない企業には、共通点があります。
- 設計思想が曖昧なまま分析を始める
- 顧客価値が整理されていない
- 重要機能が定義されていない
- 経営層が関与していない
酷い場合には、「何か新しいことをしたい」という理由だけで、目的が曖昧なままFMEAの導入をする企業もあります。その結果、どうなるか。
設計や製造でのリスクの洗い出しはするものの、優先順位がぶれる。対策が現場任せになる。やがて活動が止まる。このようなことが起こっていないでしょうか。そして、「FMEAは導入しても意味が無い」と勘違いしていることもあります。これはFMEAの問題ではありません。導入の前提が整っていないことが原因です。
FMEAを成功させるための前提(QFD・VE)
FMEAを本気で導入するなら、その前提にQFD・VE統合思想が必要です。QFDとは品質機能展開、VEとは価値工学です。
FMEAは「リスク分析」の手法です。しかし、「何を最も守るべきか」を定義していなければ、分析は浅くなります。
そこで重要になるのが、QFDとVEです。
QFD(品質機能展開)
QFD(Quality Function Deployment)は、顧客の声を整理し、設計仕様へ展開する方法です。
顧客が求めるのは、単なる性能だけではありません。例えば、
- 安心
- 信頼
- 耐久性
- 環境配慮
- 企業姿勢
こうした広義の価値を構造化することが、FMEAの出発点になります。
VE(価値工学)
VE(Value Engineering)は、「価値=機能/コスト」という考え方を持ちます。
ここで重要なのは、機能を言葉で定義することです。製品にはいろいろな価値が求められます。例えば、
- 支える
- 遮断する
- 保護する
- 伝達する
- 安心させる
機能が明確になれば、製品のどの部分が壊れると致命的かが見えてきます。
FMEAを成功させるための正しい順序
FMEAを成功させるための前提として、QFDとVEがありました。FMEAを成功させるための手順は、
- QFDで守るべき価値を定義する
- VEで本質機能を整理する
- その上でFMEAを実行する
すると、製品に求められる価値が明確化され、その価値が維持されるように開発が行われるようになります。この順序が極めて重要です。順番が逆になると、
- 価値なき高品質
- 目的なきリスク分析
- 理念なきコスト増
が発生します。
FMEAの導入はゴールではありません。統合思想を土台に導入されたFMEAは、組織を変える力を持ちます。
FMEA導入が企業体質を変える理由
上記のように、しっかりした土台があり統合思想の上に立ったFMEAは、単なる分析活動ではありません。組織に次の変化をもたらします。
- 「なぜ」を深く考える文化が定着する
- 設計と製造の対話が増える
- ベテランの属人知が形式知になる
- 若手が育つ
- 設計変更が減る
特に中小企業にとって重要なのは、暗黙知の言語化です。顧客から求められる価値が明確になり、製品開発のコンセプトが明確になるので、出来上がる製品も顧客からすると良いものになります。そして、顧客の信頼も高まるわけです。
ベテランの経験に依存する体質から、組織知で動く体質へ。そして、組織全体の活動が変わる。
これが企業体質の変革です。中小企業が大企業に成長していくためには、どうしてもこのような障壁を乗り越える必要があります。そのための方法としても、FMEAを活用できます。
日本の中小企業にこそFMEAが必要な理由
日本の製造業は中小企業であっても、高い技術力を持っています。しかし、中小企業では未然防止の体系化が弱い場合が少なくありません。
- 不具合が発生してから対応する
- クレーム後に対策を講じる
- 設計変更が繰り返される
こうした後追い型の品質改善では、利益は削られ、社員は疲弊します。FMEAを導入することで、不具合やクレームを未然に防止することができるようになります。
FMEAの導入を検討している企業の多くが、「品質管理担当者の時間が取れない」という企業が少なくありません。しかし、リソースが限られているからこそ、失敗のコストに耐えられないからこそ、未然防止の仕組みが必要なのです。FMEAの導入は、もう一段の成長を求める中小企業では、踏ん張りどころです。FMEAを導入することで、時間や利益を生み出すこともできるようになるわけです。
FMEAは大企業のためだけの手法ではありません。本来は、中小企業こそ活用すべき戦略的手法です。
FMEAの導入を検討前に問うべきこと
FMEA導入を検討する前に、経営者に問いかけたいことがあります。
- 品質を経営戦略と位置づけているか?
- 未来の失敗に時間を投資する覚悟があるか?
- 組織の弱点を直視できるか?
- ベテランの属人化を解消し、若手を育成することを行うのか?
これらの問いは、経営者に向けてのものです。FMEAの導入は品質管理部門や設計・製造部門が行うものではなく、経営者が陣頭指揮や意思決定を行うものです。これらの問いに、経営者が「はい」と答えられるなら、FMEAは必ず力になります。
とは言うものの、FMEAの導入は時間と労力がかかります。そこで、FMEAの導入を会社全体で取り組むのではなく、1つの部門や1つの製品から始めるといった、ミニマムスタートをおすすめしています。そして、FMEAの実施に慣れて、定着してきたところで、少しずつ適用範囲を広げていきます。
私たちの支援
私たちチームコンサルティングIngIngのFMEA導入支援は、単なるFMEA講習は行いません。もちろん、初めてFMEAを導入しようとする企業には、FMEAがどういったものなのかを解説する入門セミナー等を行っています。そして、まず、導入前提となる思想整理から始めます。
- 価値定義ワークショップ(QFD視点)
- 機能整理セッション(VE視点)
- 実案件でのFMEA実践支援
- 定着化コンサルティング
単なるFMEA講習ではなく、「導入前提の思想整理」から始めませんか。FMEAの目的は、表を完成させることではありません。企業体質を変えることです。
FMEAセミナーのご案内
FMEAは強力な手法です。しかし、それは道具に過ぎません。重要なのは、その背後にある思想です。顧客価値を定義し、本質機能を見極め、その上で未来の失敗を潰す。
この統合的アプローチが、企業を持続的に強くします。品質とは、社会に貢献するための約束です。FMEAは、その約束を守るための仕組みです。もし、「自社をもっと社会貢献ができる会社にしたい」と考え、その方法を模索しているようであれば、ぜひFMEAの導入にチャレンジなさってください。
当社では、個別開催のFMEAセミナーを随時受け付けています。セミナーは、基礎編と導入編、実践編の3種類ご用意しています。
- 基礎編:FMEAとは何か、メリットや導入方法などを解説します。
- 導入編:サンプル事例(食品製造と部品製造の事例)にて、IngIngオリジナルテンプレートを使って、FMEA導入の体験をしていただくワークショップです。
- 実践編(FMEA導入ワークショップ):御社の失敗事例を元に、ワークショップを開催します。実際のクレーム事例を題材に、FMEAの考え方を体験していただく。難しい理論ではなく、現場で使える形でお伝えします。
それぞれのセミナー時間は、ご担当者様の力量に合わせてカスタマイズいたします。
個別開催のFMEAセミナーの詳細は、「個別開催のFMEAセミナー(AIAG&VDA対応)基礎・導入編」をご覧ください。
すでにFMEAを導入している企業には、FMEAが機能するためのボトルネックの発見や解消を支援するコンサルティングを提供しています。
その一歩を、共に進めていければ幸いです。
この記事の著者

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。
