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FMEAを正しく導入する流れ

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FMEAを正しく導入する流れ

FMEA(Failure Mode and Effects Analysis:故障モード影響解析)は、製品や工程の潜在的な不具合を事前に予測し、未然防止を実現するための品質手法です。自動車産業を中心に世界中で活用され、現在では多くの業界で導入が進んでいます。

このコラムをご覧の貴社も、FMEAの導入を考え、研究をされていることと思います。

FMEAの導入を目指す多くの企業では、「FMEAの導入=表を作る作業」になってしまい、F<EAを導入しても本来の効果を発揮していないことが現状です。

もし、FMEAを導入しても、部署間でのコミュニケーション不足により、不具合が発生するようであれば、FMEAが正しく導入できていないことを意味します。

FMEAを正しく導入できない原因の多くは、導入順序にあります。FMEAは単独の手法ではなく、製品価値の理解や機能の整理と結びついて初めて意味を持ちます。したがって導入は段階的に進める必要があります。

基本的な流れは、最初にFMEAのメリットを経営層が正しく理解することから始めます。

この順序を守ることで、FMEAは単なる分析ツールではなく、企業の品質力を高める実践的な仕組みになります。FMEAのメリットについては、「FMEAを正しく導入することで得られる8つのメリット」をご参照ください。

Step1.価値を明確にする

FMEA導入の出発点は、顧客価値を明確にすることです。顧客価値とは、顧客が製品を求めるときに求める価値のことです。どのような製品であっても、顧客が何を重視して発注しているのかが理解されていなければ、リスクを判断することはできません

例えば、顧客が製品を選ぶときに最も重視しているのが安全性なのか、耐久性なのか、使いやすさなのかによって、優先して検討すべき故障モードは大きく変わります。

しかし現実には、仕様は決まっていても「なぜその仕様なのか」が整理されていないケースが多く見られます。そこでFMEAを導入ときにまず必要なのは、顧客要求を整理し、製品の価値構造を明確にすることです。

営業、設計、品質など複数の部門が参加し、顧客の視点から製品を見直すことで、製品の本質的な価値が共有されます。この価値理解が、FMEA分析の重要度判断の基準になります。

Step2.機能を明確にする

顧客価値が整理されたら、次に製品の機能を明確にします。FMEAは「機能」を単位としてリスクを検討する手法です。したがって、製品の機能が整理されていなければ、分析の焦点が定まりません。ここで重要なのは「モノ」ではなく「機能」で考えることです。

例えば、「減衰装置」の設計・工程でFMEAを導入するとしましょう。そのときに「減衰装置」という部品名ではなく、「振動を抑える」「衝撃を吸収する」といった「機能の言葉」で整理します。このように機能を言語化することで、製品の目的が明確になり、どの機能が顧客価値にとって重要なのかが見えてきます。また、機能を整理する過程では不要な機能や過剰な設計が見つかることもあります。

機能を明確にする作業は、FMEAの準備であると同時に、製品設計を見直す重要な機会でもあります。

Step3.実案件でFMEAを実施する

価値と機能が整理されたら、実際の製品や工程を対象にFMEAを実施します。FMEAの練習ではサンプルの事例で行ってもかまいませんが、実案件で実施することによって、真剣度が増します。できれば、既存製品でクレームや設計変更などの失敗が多いもので行うと良いでしょう。

ここで重要なことは、「最初から完璧なFMEAを実施しようとしないこと」です。導入初期の目的は、手法を理解することや導入することではなく、組織の思考プロセスを変えることだからです。いきなり会社全体でFMEAに取り組むとなると、コミュニケーション不足によって不完全なものになります。

完璧なFMEAを目指すと、今までに連携をしたことのない部署ともめたり、非協力的になったりすることもあります。その思考プロセスが劇的に一瞬で変わることはありませんから、少しずつ進化させていくという考えが大切です。

まずは重要な機能を対象に、どのような失敗が起こり得るのか、その失敗が顧客にどのような影響を与えるのか、原因は何か、どのような対策が必要かをチームで議論します。設計、製造、品質など複数の部門が参加することで、製品の理解が深まり、潜在的なリスクが明らかになります。

このような実践を通じて、FMEAは書類ではなく「設計をより良くするための思考プロセス」であることが理解されていきます。

Step4.組織の仕組みに組み込む

次のステップで、組織の仕組みにFMEAを組み込みます。

FMEAの導入でよく問われることが、「すぐに品質が改善しますか?」というものがあります。しかし、残念ながらFMEAを一度実施しただけでは品質は改善しません。重要なのは、FMEAを企業の開発プロセスの中に組み込むことです。

例えば、新製品開発の設計レビューにFMEAを組み込む、設計変更や工程変更の際にFMEAを確認する、過去のトラブルをFMEAに反映するなどの仕組みを整える必要があります。このような運用を行うことで、FMEAは継続的に更新され、実際の設計や工程と常に一致した状態を保つことができます。

また、FMEAの結果は設計改善や工程改善に反映されなければ意味がありません。分析だけで終わるのではなく、改善活動につなげることが重要です。FMEAを開発プロセスの中に組み込むことで、未然防止の仕組みが組織の中に定着していきます。

Step5.組織文化として定着させる

最終的な目標は、FMEAを単なる手法として導入するのではなく、組織文化として定着させることです。製品開発の議論の中で「この機能が失敗したらどうなるか」「そのリスクは十分に検討されているか」という問いが自然に出てくるようになれば、FMEAは組織に根付いています

この状態になると、企業は問題が起きてから対応する組織ではなく、問題を未然に防ぐ組織へと変わります。また、FMEAを継続的に運用することで、過去のトラブルや設計ノウハウが組織の知識として蓄積されます。これはベテラン技術者の経験を組織全体の資産に変えることを意味します。

FMEAの定着は単なる品質改善ではなく、企業の競争力そのものを高める取り組みと言えるでしょう。

まとめ

FMEAを正しく導入するためには、単に手法を学ぶだけでは不十分です。顧客価値を整理し、製品機能を明確にし、実案件での実践を通じて思考プロセスを共有し、その成果を開発プロセスに組み込み、最終的に組織文化として定着させる必要があります。そして、いきなり完璧なFMEAを目指すのではなく、段階的に進化させていくことが大切です。

まずは、実製品でテスト的に導入し、感覚をつかんで効果を確認してから、部門や社内全体に広げていきます。

この段階的な導入を行うことで、FMEAは単なる分析ツールではなく、企業の品質力を支える基盤となります。「また仕事が増えた」という社員のネガティブな意見も出にくくなります。未然防止の考え方が組織に根付いたとき、企業はより強い競争力を持つことができるのです。

社員が部門を超えて顧客価値の提供のために連携するようになり、ベテランの技術が若手に継承され、未然防止の文化が生まれます。派手な成果はすぐに出ないかもしれませんが、根気よく継続して取り組めば、確実に組織を強くします。

FMEA導入セミナー・コンサルティングのご案内

当社では、個別開催のFMEAセミナーを随時受け付けています。セミナーは、基礎編と導入編、実践編の3種類ご用意しています。

  • 基礎編:FMEAとは何か、メリットや導入方法などを解説します。
  • 導入編:サンプル事例(食品製造と部品製造の事例)にて、IngIngオリジナルテンプレートを使って、FMEA導入の体験をしていただくワークショップです。
  • 実践編(FMEA導入ワークショップ):貴社の失敗事例を元に、ワークショップを開催します。実際のクレーム事例を題材に、FMEAの考え方を体験していただく。難しい理論ではなく、現場で使える形でお伝えします。

それぞれのセミナー時間は、ご担当者様の力量に合わせてカスタマイズいたします。

個別開催のFMEAセミナーの詳細は、「個別開催のFMEAセミナー(基礎編+導入編)」をご覧ください。

また、セミナーを受けられた企業様に限らず、FMEAを導入して形骸化してしまった企業様にも、FMEA導入コンサルティングを実施しています。実際にFMEA導入の現場にて、自動車業界にてFMEAの導入に初期から携わってきたコンサルタントが、丁寧に支援します。

FMEAは航空宇宙、自動車、医療といった分野では当たり前になっていますが、その他の業界で取り組む企業は、業界の先駆者となることができます。FMEAを正しく導入し、業界のけん引を目指す企業は、ぜひお取組みください。

この記事の著者

村上豊

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)

名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。

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