先日、ビジネスコーチを目指している当社コーチング研修の受講者の方からご質問をいただきました。「コーチングの練習をしていて、どうしても良い質問が浮かんでこない」とのことでした。
ビジネスコーチに限らず、コーチングを学び始めた方であれば、コーチングセッションの際に「良い質問が浮かばず苦しい思いをした」という経験は誰もが持っていることと思います。
オリジナルの質問リストを創って暗記しようとしても、質問が多岐に渡り膨大になるため、時間がかかることでしょう。質問のコツをつかみ、質問力を高めた方が早いと思います。
そこで、相手をインスパイアして潜在能力を引き出せる質問を自在に繰り出す方法について、コーチングのスタンスや方法、コツ、練習の仕方について考えてゆきたいと思います。
相手にフォーカスする
まず、質問の仕方を考える前に、相手にフォーカスするという、基本中の基本について考えてみましょう。
「相手の立場で話を聴く」ということはコーチングの基本中の基本ですから、相手にフォーカスすることはしっかり意識されていると思います。
ところが、相手にフォーカスしているつもりで、その実、自分にフォーカスが向いていることがあるのです。
「良いコーチでありたい」という気持ちが強いほど、相手から良い答えを引き出そうと思うあまり、「良い質問をしなければいけない」という意識が働いてしまうのです。この時、コーチのフォーカスは相手ではなく、自分に向いています。
フォーカスが自分に向いていると、質問が頭の中に浮かばなくなってしまうことがよくあります。言葉は厳しいのですが、これは「自己中心になっている」ということです。まず、コーチングのセッションでは、自分の立場を捨てて、相手に完全にフォーカスしなければならないのです。これが最初の心構えです。
キーワードと疑問詞を組み合わせた質問を考える
次に、質問の作り方について考えてみましょう。
オープンクエスチョン組み立て方
実際には、質問のパターンはそれほど多くはないのです。オープンクエスチョンに使う疑問詞は、5W1Hの6種類しかないのです。つまり、選択肢は6つしかないのです。
ですから、この6つの疑問詞と、相手が話したキーワードを組み合わせるだけで良いのです。
例えば、クライアントさんからの話で、「人の問題で困っているんです」とおっしゃったとしましょう。
この一文をセンテンスで分解してみると、「人」、「問題」、「困っている」という3つのキーワードに分けることができます。そこで、それぞれのキーワードに疑問詞を組み合わせてみましょう。
- 『人』とは誰のことですか?
- どんな『問題』なのですか?
- なぜ『困っている』のですか?
このように、クライアントさんが話した文章の中のキーワードを拾うことで、いくつかの質問がすぐに出てくるはずです。
相手の話を聴き、センテンスを分け、キーワードを選び出す訓練をすれば、いくつかの質問の選択肢が瞬時に浮かんでくるようになります。
その中で最上の質問を選び出せば、よい質問が繰り出せる確率が高まるわけです。
リフレインによる方法
また、「人の問題でお困りなのですね?」というキーワードをそのまま質問で返すリフレインだけでも、十分、次の会話の局面に移るための質問になります。
要は、会話の“局面” が動けば良いのです。
「局面が動く」といっても将棋と違うのは、質問の“悪手”を指してしまったとしても、相手が考えにくそうな反応をしてくれますから、そのような場合は「次の質問をすればよい」と考える余裕も大事だと思います。
リフレインとは?
リフレイン(refrain)とは、音楽用語で繰り返しを意味します。辞書で調べると、「控える」や「断つ」などの意味もありますが、それらは語源が異なる同音異義語のようです。
リフレインは、一般的なコーチングのスキルでは、「オウム返し」のことですが、オウム返しだと、機械的に反復するような意味にも取れますので、当社では、心の通った意味にも取れる「リフレイン」を用いています。
良い質問を次々と繰り出せるように、センテンスを分解して、疑問詞をつけてみる練習をしてみてください。
質問される立場に立ってみる
さらに、良い質問を出すコツとして、自分が繰り出す質問を「自分が質問される側だったらどうか」と考えてみる方法があります。
先ほどの「センテンスをキーワードに分けて疑問詞をつける」というやり方で、複数の質問を書き出してみてください。その中で「どの質問をされたら、相手から返答の言葉が豊富に出てくるか」を考えてみましょう。
先ほどの例で、クライアントさんの立場に立って考えてみましょう。「人の問題で困っているんです」という言葉に対して、「なぜ困っているのですか?」と聞かれても答えにくいことが分かると思います。
そのように答えにくいと感じた質問を選択肢から消します。こうして一番効果的だと思う質問を残す練習をすると良い質問が瞬時に選べるようになってきます。
抽象的な言葉は「明確化」のスキルで具体化する
つぎに、相手の言葉が具体的か抽象的かを考えることも大事です。
「人の問題で困っているんです」という例の場合、人物が特定されず、問題の内容も明確でなく、お困りごとの内容も不明確です。
このように相手の言葉が抽象的な場合には「明確化のスキル」を使うと効果的です。
明確化のスキルとは、クライアントの不明確な言葉を明確化するための質問スキルです。
明確化スキル質問事例
クライアントが「人の問題で困っているんです」とおっしゃった場合、次のような質問をすれば、お困りごとの具体的な内容を話してくださることでしょう。
- 具体的に教えていただけますか?
- 具体的にはどんな問題なのか教えていただけますか?
返答としては、「私が信頼していた社員が会社の誹謗中傷をしていることが発覚したんです」「人手不足で困っていて、募集しても良い人材が集まらないんです」などといった具合です。
そうなれば、「それはお困りですね。では、理想の状態とはどのようなものですか?」と、ゴール設定に関する質問をすることもでき、局面を動かしていくことができます。
相手の立場に立った良い質問をするために、相手の状況が写真や動画のようにイメージできるようにすると効果的です。
質問力を高めるための練習方法
以上、コーチングで質問のコツをつかみ、質問力を高める方法を様々に述べてきました。
この中で「相手の話を聴き、センテンスを分け、キーワードを選び出す」という訓練方法と、「複数の質問を書き出し、相手の立場に立ってみて、言葉が豊富に出てくる質問を残す」という質問力を高める練習方法をお伝えしました。
最後に、練習相手がいる場合に有効な、質問が上手になるための練習の方法を2つご紹介したいと思います。コーチングの練習会などで取り入れてみてください。
練習1. 1000本ノック風質問練習
1000本ノック風質問練習は、「質問の質は問わず、会話が成り立たなくても良いので、とにかく速く、次々と質問を繰り出す」という質問力を高める練習方法です。
相手の言葉から単語を1つ選び、それに「なぜ」を付けます。「なぜ○○なのですか?」という質問を素早くします。その答えから単語を選び、「なぜ」をつけてさらに質問します。これを5分間繰り返します。
この練習をする際には、会話が成り立たなくてもお互いに気にせず、コーチ役の人はとにかく質問をすることに慣れることだけを目的に行ってください。
「速く質問する」「繰り返す」ことによって、筋トレのような効果があり、速く質問を繰り出す力が身に付きます。
練習2. 熟考質問練習
熟考質問練習は、クライアントさんの思考を刺激する、良い質問をする練習です。クライアントさんのことをしっかり考えながら、クライアントさんの心の深いところに届くような質問力を身に付けるためのトレーニングです。
練習相手を前にして、前述した「複数の質問を書き出し、相手の立場に立ってみて、言葉が豊富に出てくる質問を出す」ということを行います。
慣れるまで質問に時間がかかりますが、コーチングセッションの全過程で、「クライアントさんにとって良い質問とはどのようなものなのか」を掴めるようになります。
コーチを目指される方は、コーチングの基本的なスタンスを忘れず、基礎練習を繰り返し行ってください。また、ときどき基本に立ち返るという意味で、コーチング基礎講座を再受講されることをおすすめいたします。
質問は力です。
相手の考え方のパターンを変え、相手の思考を刺激し、新しい発想を引き出し、クライアントさんの未知の可能性を拓く力です。ぜひ、コーチとしてその素晴らしい力を発揮していただきたいと思います。
この記事の著者
経営理念コンサルタント
関山 淑男 (Sekiyama Toshio)
経営理念の構築・浸透とビジネスコーチングのスキルに親和性があることに気づき、研究や実績を重ね、経営理念コンサルタントとしてのスキルを確立していく。社長としての経営経験や赤字企業の業績回復支援の経験から掴んだ教訓、ピーター・ドラッカー先生や一倉定(いちくらさだむ)先生などの経営理論を融合させ、独自の経営理念コンサルティング・メソッドを開発。