ビジョンとは、会社が向かうべき方向を示したものです。ビジョンが浸透できると、社員たちのモチベーションを高め、一体感のある組織にしてゆくことができます。
「そのような会社をつくりたい」と考え、企業ビジョンを打ち出している社長は先見の明がある方であると思います。
ところが、「ビジョンを策定し、浸透させようとしたが、肝心の社員たちがなかなか実感をもって受け入れてくれない」という壁にぶつかることがあります。
そのような時、どのようにすれば、社員たちの心を動かし、全社的にビジョンを浸透させることができるのでしょうか。
このコラムでは、ビジョンが浸透しなくて困っている企業向けに、ビジョンの内容の点検項目と浸透方法をご紹介いたします。「ビジョンが浸透しない」とお悩みの方はぜひ参考になさってください。
当社ではビジョンの策定や浸透のご支援を承っています。正しいビジョンを策定し、正しく浸透させて、「社員のモチベーションや一体感を高めたい」とお考えの企業様は、ぜひご依頼ください。
ビジョンが浸透しない場合の点検項目
ビジョンが浸透しない場合は、ビジョンの内容に問題があることが多いです。ビジョンの内容が、以下の点に当てはまる場合、社員たちの心をつかみ、浸透を図ることは難しいと言わざるを得ません。
- ビジョンが会社の規模の拡張や業績向上のみに終始している
- ビジョン実現の戦略、道筋が不明確だったり、説得力がない
- ビジョン実現に協力した社員たちに対する処遇が約束されていない
では、このようなビジョンが浸透しない理由について述べてゆきたいと思います。
【ビジョンが浸透しない理由1】
ビジョンが会社の規模の拡張や業績向上のみに終始している場合
人間と動物の違いとは何でしょうか。
たとえば、「人は道具を作り出すが、動物は道具を作らない」「人は自制心を発揮して道徳的に行動を選択するが、動物には自制心がない」など、さまざまにあるでしょう。
しかし、ひときわ大きな違いは「人間には夢を持ち、それを実現する力がある」ということではないでしょうか。
人は、誰もが潜在的に「他の人の役に立ち、喜ばれたい」という気持ちを宿しています。
若いうちは、仕事や家庭生活を通じて、意識しなくても他の人の役に立っているため、ことさらに「人の役に立ちたい」と考えることはあまりないかもしれません。
しかし、年を取り、自分のことができなくなった時に、「人様の役に立てなくなった自分はもう世の中から必要とされていない」と感じ、生きる気力を失う方が多くいらっしゃいます。
このように、人は潜在的に他の人の役に立ちたいという思いを持っています。
貴社の社員たちもすべて同じです。ビジョンが会社の規模の拡張や業績向上のみに終始している場合は、そのビジョンの浸透は難しくなります。
ですから、企業ビジョンを掲げる際には、「会社が発展することで、これだけ多くの人の役に立てる」「これだけ多くの人が困っていることを解決できる」という、大義を立てることがとても大切です。
そのために、いま一度、創業の精神に立ち返り、「わが社は何のために存在するのか」という根本について考え抜く必要があります。
それに対する答えこそが、社員たちの心に響き、彼らのモチベーションを高めるカギになるものです。
もちろん、企業を存続、発展させてゆくためには、売上高や利益などの数字が大事です。しかしその業績目標は、目的があってこそ正当性が出てくるのです。
人は感情で動く動物です。ぜひ、社員たちに感動を与える素晴らしいビジョンを練り上げて頂きたいと思います。
1.ビジョンにわが社の存在理由を入れる
【ビジョンが浸透しない理由2】
ビジョン実現の戦略、道筋が不明確だったり、説得力がない場合
社員たちに夢を与えられるような理想を掲げたら、次に「そのビジョンをどのようにして叶えてゆくか」という戦略、道筋を立てることが必要です。
目的地が明確になっても、どんな方法で、そこに辿り着くのかがはっきり示されなければ、社員たちは「“絵に描いた餅”だ」と感じてしまい、ビジョンが浸透せず、社員の行動を変えることにもつながりません。
そこで、ビジョンをいかにして実現するかについて、具体的な戦略を立てることが大事です。
- 顧客は誰なのか。
- どのような商品やサービス、または新事業を創り出すのか。
- 既存の商品やサービスをどのように改善してゆくのか。
- その商品やサービスを、どのような手順で、いつまでに創り上げるのか。
- 商品やサービスをどのように販売するのか。
- そのために組織編制をどうするのか。
ビジョン実現のために、これらのことについて考え抜き、十分な説得力を持った戦略を創り上げ、それを明文化することが重要です。
2.ビジョン実現の戦略や道筋を立てる
【ビジョンが浸透しない理由3】
協力した社員たちに対する処遇が約束されていない場合
誰もが「やりがいのある仕事がしたい」という気持ちを持っていますから、ビジョンを示し、「多くのお客様の役に立つ」という具体的な方向性を示すことはとても大切です。
ところが、お客様に喜ばれ、会社が発展したときに、社員たちに対する処遇が約束されていないケースでは、どうしても社員たちは自分事として受け止めにくい面があります。
ビジョンの実現に貢献しても、自分への報酬が期待できなければ、仕事が大変になるだけムダだと思います。社員がそのように感じたら、ビジョンを浸透させようとしても、受け入れることはありません。
「会社のビジョンを実現する、主役の一人になろう」という強い思いを持ち、良い仕事をした人には、相応の報酬を約束することが重要です。
会社に必要な内部留保額を決め、それを超えて成果が上がった分を賞与原資に加え、働きに応じて分配するなど、努力が報われることを示すことが大切であると思います。
3.社員たちに対する処遇を約束する
ビジョンの浸透方法
ここまでで、「ビジョンに大義名分を盛り込む」「ビジョン実現の戦略を策定する」「相応の報酬を約束する」というビジョンの内容の点検項目について述べてきました。
では、素晴らしいビジョンを練り上げたら、どうやって浸透を図ればよいでしょうか。ビジョンの浸透方法をご説明いたします。
1. ビジョンは経営幹部から浸透する
ビジョンが出来上がったら、これを共有する機会を持つことが大事です。ミーティングのときに伝える方法もありますし、ビジョン共有の研修を開いても良いでしょう。その際に大切なのは、上から下に浸透を図るということです。
まず、経営幹部とビジョンを共有することから始めます。経営幹部がビジョンの実現に使命感を持ち、管理職に語れるように導いていくことが出発点になります。
そして、管理職が一般社員に、一般社員がパートやアルバイトの皆さんに熱意を持って語れるような風土を作っていくことが大事です。
そのためには、ビジョンを図化したり、部下に説明できるように文章化したりして、目で見、耳で聞いて分かりやすいようなツールを作り、活用すると効果的です。カルチャーブックを制作しても良いでしょう。
2. ビジョンと具体的目標を同時に伝える
ビジョンを固める中で具体化した戦略を、今度は数値化して、明確な目標にすることが必要です。
ビジョンと目標を同時に示されたら、「ビジョンが実現したら世の中のお役に立ちつつ、相応の報酬も得られる」ということで、その実現のために示された目標をも受け入れ、目標達成に向けて前向きに取り組む人が出てくるはずです。
3. 繰り返し訴えかけ、ビジョンを受け入れる社員を増やしていく
社長にとっては未来を切り開くことが重要な仕事ですが、社員たちは現在の仕事をこなし成果を上げることに関心が集中しているものです。そのため、ビジョンを掲げ、実現への道筋を立てて戦略化して伝えても、すぐに全員がビジョンに意識を向け、賛意を示してくれることは少ないかもしれません。
しかしそれに負けずに、社長から率先して繰り返し語りかけることが大事です。会社が輝かしく発展してゆく姿、社員一人ひとりの素晴らしい未来が開けてゆく様を、熱意を込めて、語り続けることが大切であると思います。
ビジョンの浸透には時間がかかるものと考え、繰り返し繰り返し伝えていくようにしてください。
4. 社長が背中を見せる
社長が会社の明るい未来を語り続け、そして、朝から晩までその実現のために熱心に挑戦を続けていると、その姿自体が社員たちを感化してゆくようになります。
最初は「そんな大きなこと、実現出来るわけがないじゃないか」と思っていた社員たちも、社長があきらめずに努力し続けている姿を見ているうちに、「社長は本気だ」ということが伝わっていきます。そして、少しずつ成果が出てくるにしたがって、だんだんと社長の掲げたビジョンを信じる人が増えていきます。
やはり、社長の山をも動かすような強い信念、自信に満ちた言葉が、感化力の源泉になるものです。
ぜひ、社長ご自身がビジョンの実現を心の底から信じ続け、積極的な言葉で皆を励まし、ビジョンの実現に向けた行動を起こし続けて頂きたいと願います。
以上、ビジョンの内容の点検項目と浸透方法をご紹介いたしました。「ビジョンが浸透しない」とお悩みの方はぜひ参考になさってください。
当社ではビジョンの策定や浸透のご支援を承っています。まずは、お問い合わせフォーム、もしくはお電話をください。
この記事の著者
経営理念コンサルタント
関山 淑男 (Sekiyama Toshio)
経営理念の構築・浸透とビジネスコーチングのスキルに親和性があることに気づき、研究や実績を重ね、経営理念コンサルタントとしてのスキルを確立していく。社長としての経営経験や赤字企業の業績回復支援の経験から掴んだ教訓、ピーター・ドラッカー先生や一倉定(いちくらさだむ)先生などの経営理論を融合させ、独自の経営理念コンサルティング・メソッドを開発。