世の中には便利な製品で溢れています。
キッチンにはガスコンロがあり、電子レンジがあり、冷蔵庫があり、収納棚があります。これらが全て無かったことを考えると、ゾッとします。
これらを開発したのはすべて企業です。企業が、世の中のお困りごとを解消してきた結果、便利な世の中になりました。
しかし、人間の要望は尽きないものです。より便利なもの、より使い勝手が良いものがあれば、そちらを購入したり利用してしまうのです。
便利なもの、使い勝手の良いものを開発するためのキーワードに、「ユーザビリティ」という用語があります。
このコラムでは、次の目次に沿って、ユーザビリティについて述べたいと思います。
ユーザビリティとは?
ユーザビリティとは、「ユーザー(利用者)」と「アビリティ(できること)」が合体した言葉で、深い意味は別にあるとして、意味を簡単に述べると「使い勝手の良さ」です。使いやすいことを、「ユーザーフレンドリー」と言ったりします。
今から20年ほど前、ホームページ制作の場面で「ユーザビリティ」という言葉を始めて聞きました。
ホームページは、最上部にロゴやナビゲーションがありますが、20年以上前のホームページには、そういった決まりはなく、自由に設計されていました。それが、20年ほど前に今のようなレイアウトで落ち着きました。
考えてみたら、「ユーザビリティ」という言葉が出てくる前から、世の中にはユーザビリティの良さで溢れています。
ユーザビリティは、ホームページに関するだけの用語ではありません。製品の使いやすさ、サービスの利用のしやすさなど、さまざまなことに応用できます。中小企業が製品をイノベーションさせるためには、社長がユーザビリティの視点を持つことがとても大切です。
ユーザビリティ改善も社長の仕事
普段、何気なく生活をしていますが、どこにユーザビリティが潜んでいるのか観察すると、ユーザビリティが考慮された製品にあふれています。
今、このコラムを書いている目の前にも、ユーザビリティが満載です。
- パソコンのキーボードの「F」と「J」にポッチが付いている
- ペットボトルの蓋の横側がギザギザになっている
- 手帳にしおり(ヒモ)が付いている
- クリアファイルの開くところに指ぬき(切り欠き)が付いている
これらの工夫は当たり前のように使用していますが、もし、これらの工夫がなかったことを考えると、イライラしてしまうこともあると予想されます。
このような当たり前のことですが、誰かが考えて改善してくれたことに感謝です。これらのようなちょっとしたユーザビリティを改善する工夫が生まれ、世の中を便利にしていきました。
ユーザビリティを改善していった製品が売れて、競争に勝ち残ることを考えると、社長がユーザビリティについて考えることはとても大切なことです。コンシューマ向けの製品を開発・販売しているのであれば、せめて、社長自ら自社製品を使用するぐらいでないといけません。
一般従業員は、毎日同じ仕事を繰り返しているので、なぜかお客様がユーザビリティの悪さに困窮していることに気が付きません。社長が利用して初めて気が付くことが、本当にたくさんあります。社長からすると、「なぜこんなにマズイことをしているのか?」と、自社の製品やサービスのユーザビリティの悪さに嘆く方もいらっしゃいます。
社長はどのような方法でユーザビリティを考えたら良いのか、ヒントを述べたいと思います。この内容は、私自身にも当てはめて言えることですので、いっしょに勉強していきましょう。
不便さを感じたエピソード
ユーザビリティにあふれた世の中ですが、不便さを感じるところもあります。この不便さをイノベーションの機会として捉えることができます。
このことは、ドラッカー先生の「イノベーション7つの機会」の中の、「第2の機会、ギャップを探す」こと、その中の「プロセスギャップ」に該当します。どのようにプロセスギャップを探したらよいのかは、後術します。
その前に、不便さを感じたエピソードをご紹介します。
レーザープリンターのファームウェア更新でのエピソード
当社で愛用しているレーザープリンターがあります。印刷の速度が速くて、重宝しています。
そのプリンターは、プリンターを監視するファームウェアをパソコンにインストールして使用します。そのファームウェアは、トナーの残量を教えてくれるので、トナーの交換時期が予測できて便利です。
また、このファームウェアは、ときどきアップデートされ、更新を行う必要があります。もし更新があったら、パソコンの画面の右下に小さく「更新があります」のような表示が出て、仕事中でもジャマにならないように教えてくれます。
そのファームウェアの更新ボタンを押して更新を開始したところ、「パスワードを入力してください」と表示されます。パスワードの入力は不便ですが、パスワードが記載されている場所を教えてくれます。
パスワードは、パソコンの側面にあるラベルに、「PW:・・・」という表記で記載されています。
パソコンの側面を見たら書いてあるので、とても便利です。わざわざパスワードをメモして、記入したメモ用紙を紛失して焦ることもありません。
さて、レーザープリンターの側面のラベルを探し、いくつかのラベルが貼ってあるのを発見。重たいレーザープリンターを異動させ、後ろ側の、しかも下側に小さなラベルを発見しました。
いざパスワードを確認しようとすると、文字が小さくて見づらく、かがみこんで見る必要があり、それでも見えづらいので、虫眼鏡を使って確認しました。
この経験は、とても残念な気がしました。
- なぜ、前面の上側にラベルを貼っておけなかったのでしょうか?
- また、どの機種のレーザープリンターを使用しているのか、ファームウェアは把握しているはずですから、ラベルの貼ってある場所を、図で説明できなかったのでしょうか。
- そもそも、すでにパソコンとプリンターは接続されているのですから、そのような状態の場合はパスワードを不要にできなかったのでしょうか?
さらに残念だったのが、虫眼鏡で一生懸命パスワードを確認していた途中で、Windowsの更新によってパソコンが自動的に再起動してしまい、ファームウェアの更新がどこかへ行ってしまいました。
飲食店の券売機のエピソード
都内の立ち食いそば屋の多くは、食券機が導入されています。食券機を使うと、お金を触らなくてよいので衛生的ですし、釣銭の間違いや従業員の盗難もなくなります。会計の作業がなくなり作業効率が高まる上、税務署からの指摘も減ります。
ユーザーから見ると、立ち食いそば屋で食券機ほど厄介なものはありません。同じような商品名のボタンが並んでいる中から、目当ての商品を発掘しなければなりません。後ろに行列ができはじめたら、焦ってきて、余計に発掘作業が難しくなります。
こちらは急いでもいないのに、前の人がモタモタしていたら、なぜかイライラ感が出てきてしまいます。
店が空いているときでも、こちらが食券機でモタモタしていたら、従業員もイライラしながら見ている状態です。空いているのであれば、店員がこちらに来て、食券のボタンをいっしょに探してくれるという気配りがあっても良いのではないでしょうか。
牛同チェーン店の券売機は、写真が出ていて便利のように思います。しかし、商品点数が多すぎてカテゴリ分けも多すぎて、どこを押したらよいのか迷ってしまいます。
支払い方法を現金でなくICカード決済専門にして、口頭で注文ができる店にした方がまだ良いのではないかと思います。
購入の仕方でユーザビリティが悪ければ、購入を控える人もいるかもしれません。購入しようとしている人は、まるで崖を登っているかのような不便さです。購入のし難さを乗り越えるだけのインセンティブがなければ、わざわざ購入しようとは思わなくなってしまいます。
このようなボトルネックの解消には、カスタマークライミングという方法をおすすめしています。
このように、ユーザビリティの悪さは、製品やサービスの使用感だけでなく、さまざまな場面で発生します。顧客無視のユーザビリティの悪さは、まだまだ多く存在しているのです。
ユーザビリティの悪さに気が付く方法
中小企業では、絶え間ないユーザビリティの改善は、お客様へのサービス向上の一環として考え、社長自ら考えて取り組む必要があります。
そして、ユーザビリティの悪さに気が付く有効な方法は、
社長自ら、製品を使用したり、サービスを利用したりすること
です。社長自ら製品を使用したとしても、自社製品でしたらその不便さに気が付かない場合もあるため、他社製品を使用してみることです。そうすると、何が不便なのかを客観的に分析できるので、自社製品の改善に結び付けることができます。
成長している会社では、改善の必要性に気が付くような仕組みを取り入れているところばかりです。その仕組みとは、単純なものが多いです。
- お客様に聞いたりアンケートを取ったりする
- 営業担当に「客観情勢の変化があったら教えてほしい」と普段から伝えておく
- クレームがあったら社長に直接報告をする
- 他社製品と比較して劣っているところを探す
社員がユーザビリティの悪さに気が付いたとしても、それを報告したり、改善したりする仕組みやカルチャーがなければ、たいていの場合は放置されます。職務権限を明確にした会社ほどそのようになります。
会社には、社長よりも優秀な人材はいませんので、社長自らユーザビリティの悪い箇所に気が付くことが大切です。
社長がユーザビリティ脳を鍛える
ユーザビリティの改善は、自社製品の浮沈にかかわるところです。
社長自ら、ユーザビリティの改善ポイントに気が付くように、脳を鍛える必要はあります。その方法をご紹介します。
予期せぬ出来事を捉える
ユーザビリティの改善は、ふとした拍子で気が付くことが多いので、そのふとした拍子のときに記憶にとどめておくことができるように、普段から気を付けておくべきです。
ふとした拍子に何を気が付けばよいのか。それは、「予期せぬ出来事」です。予期せぬ出来事は、イノベーション7つの機会の第1の機会です。例えば、
- 製品を使っていて、たまたまうまくいった
- 製品を使っていて、何かに時間がかかったり、違和感を覚えたりした
- お客様からクレームがあった
- 事故のニュースを見て、自社製品に当てはめてみた
そういった出来事があったら、ユーザビリティの改善ができるのではないかと考える習慣をつけてください。
プロセスギャップを捉える
予期せぬ出来事を発見できたら、それを自社製品の使用状況や、サービスの利用状況に、理想的なものと比べてギャップがないかを確認してください。
例えば、「キッチンでトマトソースの瓶の蓋を開けようとしたが開けにくかった。」という予期せぬ出来事を発見したとしましょう。
すると、理想的には蓋は滑らないことですし、すんなり開けることができることですので、そこにギャップが発生しています。
そのギャップを埋めるための方策を、一瞬で考え出すことができます。
- 蓋を滑りにくい素材で巻く
- 滑りにくい形状にする
この方法ですと、合格点ですが、理想的とは言えません。
そこで、方策を考える前に、その状況をイメージしてください。すると、方策の可能性も増えてきます。
例えば、キッチンですので、手に水や油が付いている可能性があります。それによって、瓶の蓋が滑ってしまって、開かなくなっているかもしれません。滑りにくい素材を用いたとしても、手に油が付いていたら開けにくいものです。すると、
- そもそも、瓶ではなくチューブに入れたらどうか?
- ビニール袋などの蓋そのものを使用しない容器に変更できないか?
というアイデアも生まれてきます。
この場合は、「チューブやビニール袋というものが存在している」ということを知っていて、それを掛け合わせる「異種結合」によって新しいアイデアが生まれたパターンです。
以上、ユーザビリティについて述べてきました。このコラムの内容を実践され、さらにユーザビリティを改善して、仕事や生活が便利になるように貢献できるようにしていってください。
え? このコラムは長くて読みにくので、ユーザビリティが悪い?
たいへん失礼しました。
「自社のユーザビリティを客観的な目線で教えてもらいたい」とお考えの方は、ぜひ当社のコンサルティングをご利用ください。普段、お客様が教えてくれないようなユーザビリティの良さや悪さを、貴社に伺ってご説明し、カスタマークライミングやカスタマージャーニーといったフレームワークで、改善のアイデア出しをご支援いたします。
製品、サービス、店舗、ショールームなどのユーザビリティ改善なら、当社にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。