会社の成長のために経営理念が大事なことは、日々経営の勉強をされている社長であればご存じのことでしょう。
「経営理念で飯は食えない」とか、「経営理念を作ってもムダだ」と考えている社長もいます。それもごもっともです。
社長には何らかの志をお持ちのことと思います。その志が大きなものであった場合、その実現のために多くの人の協力が必要となります。多くの人の協力を得るために、経営理念が非常に大事なのです。
そこで、「経営理念を作ろう」ということになりますが、経営理念の書籍を読んだり、いろいろな会社の経営理念を参考にしたり、経営者仲間に聞いても、今一つどういったものが正しい経営理念なのか、ピンと来ないと思います。
そして、正しい経営理念がどのようなものなのか理解でき、作成に取り掛かったとしても、明文化に戸惑うことでしょう。明文化できたとしても、しばらくすると、しっくりこないし納得がいかないものになっていることもあります。
このコラムでは、大きな志があり、理念経営を目指している中小企業の社長向けに、どのような経営理念が良いのかをご説明いたします。
経営理念の事前解説
小さな会社の経営理念についてご説明する前に、経営理念について事前解説をしたいと思います。なぜなら、「経営理念」という用語は、人によって定義や解釈が異なるからです。まずは、当社の考える経営理念の定義や解釈をご説明いたします。
会社の成長と経営理念の関係
経営理念を作っても会社が大きくならない企業は、社長の想いが弱かったり、経営理念が中途半端なものであったりすることが多いです。
ということは、想いの強い社長の場合、しっかりした経営理念を作成したら良いわけですが、何をもって「しっかりした経営理念か?」ということが疑問として出てきます。
当社が考える「しっかりした経営理念」は、なかなか作成できるものではありません。しっかりしたものを誰かに作成してもらったり、経営理念の例を見て真似をしたり、テンプレートを用いたりしながら作成しても、そのような他所から持ってきた借り物の経営理念は、社長の想いが高まらないので、会社は大きくならないのです。
では、「しっかりした経営理念を、自分の手で作成しよう」ということになりますが、そのためには次の難関を乗り越えなければいけません。
- 何でもって「しっかりした経営理念」と言えるのか、正しい基準を持つ
- 正しい基準を持ち、「しっかりした経営理念」を完成させるためには、多大な時間がかかる
- 「しっかりした経営理念」を浸透させ、会社が成長し始めるまでも時間がかかる
この3つは、本当に時間がかかり根気のいる作業です。この3つを取り組む中で、考えて考え抜いていく中で、社長の想いが強まっていくことも事実としてあります。結局のところ、社長の想いの強さと、その継続が、会社が大きくなる原動力となります。
正しい経営理念とは?
当社では、「しっかりした経営理念」のことを「正しい経営理念」と呼んでいます。正しい経営理念の内容はどういったものなのか、「機能する正しい経営理念とは?経営理念の構成要素」に詳しく解説しているので、ご参照ください。
正しい経営理念は、次の4つのパーツで構成されています。
- 基本理念
- 全社目標(企業ビジョン)
- 経営指針
- 行動指針
この内容の詳細は、上記のリンク先の記事をご覧いただけたらと思います。簡単にご説明すると、次の通りです。
基本理念とは、経営理念の中核となる一言で表されたパーツです。基本理念から、会社が目指す方向や、どのような事業で社会貢献をするのかなど、わが社の存在理由が明文化されたものです。
全社目標とは、基本理念が実現した姿をイメージできるもので、会社が目指す最終目標でもあります。企業ビジョンとは、将来の会社の姿のことです。全社目標はとても遠い未来のことと思います。そのように遠いビジョンは、誰もイメージしにくいものです。そこで、その途中形態を企業ビジョンで表現します。
経営指針とは、基本理念や全社目標を実現するために、経営陣が経営判断するときの基準です。この経営指針は、わかりやすい内容で完結に箇条書きされたものが多いです。
行動指針は、社長を含む全社員が仕事に取り組むうえでの、考え方や行動の仕方がまとめられたものです。行動指針は、企業によっては膨大な量になる場合があります。いえ、大企業ほど膨大な量になっていると思います。
経営理念の作成と浸透に時間がかかる理由
これらを作成するために、自力で取り組まれたら、10年かかっても完成させられないことでしょう。
経営理念の作成に時間がかかる理由
経営理念の作成に時間がかかる理由は、社長の成長と共に経営理念が進化するものですし、正しい経営理念が完成したのかどうか、時間をかけて浸透させて初めて理解できるからです。
経営理念の作成に取り組まれた社長は、とりあえずできた段階の経営理念にて、浸透させます。最初の経営理念はダメなものばかりですので、浸透に失敗します。それでも経験は積まれているのですが、そこで諦めてしまう社長が多いと思います。
しかし、諦めないで経営理念の練り直しにかかる社長がいます。そして、修正された経営理念を浸透させようとして、「またダメだった」となり、今度はいろいろな本を読んだり、経営理念の研修に参加したりします。そのようなことで、社長の知識や経験などの、経営理念の実力が高まっていき、正しい経営理念が完成し、浸透させる方法も熟練していって、会社が成長していくのです。
このようにして、経営理念には社長の経営の悟りとも言うべき哲学が盛り込まれていくのです。その哲学を醸成していくのに、時間がかかるのです。
面白いことに、社長が経営の第一線から退くときが、いちばん正しい経営理念ができるときとも言えます。では、「引退直後に経営理念を作成したらいいのではないか?」とも考えられますが、それでは会社は大きくならないので、社長の経営の悟りも進まないため、正しい経営理念が完成しません。
なるべく時間をかけずに正しい経営理念を作成したい方は、当社のような経営理念の作成を支援してくれる経営理念コンサルタントに依頼されると良いでしょう。経営理念コンサルタントと称していても、経営理念の浸透だけを行うコンサルタントもいるので、経営理念の作成から支援してもらいたい方は、ご注意ください。
経営理念の浸透に時間がかかる理由
また、経営理念の浸透にも時間がかかります。その理由は、経営理念によって社員の人間性が成長し、仕事能力が向上するまでに時間がかかるからです。
経営理念の浸透のゴールは、経営理念が暗唱できることではありません。社員全員が、会社が向かっている方向を理解し、それに向けて質の高い仕事ができるようになることです。
そのためにも、経営理念に基づいて仕事ができるように成長しなければなりませんが、その成長に時間がかかるのです。仕事能力の高い人で1~2年、一般社員で3~4年ほどかかります。
経営理念を浸透させて、社員の人間性や仕事能力が高まっているかどうかを分析することで、正しい経営理念が出来上がったかどうかが分かるのです。
経営理念がなくても恥ずかしくはない
どのような会社にも経営理念があれば理想です。経営哲学を学ぶことができるセミナーに参加すると、「経営理念が大事だ」と言われることがほとんどです。
しかし私は、「小さな会社であれば、経営理念がなくても恥ずかしいことではない」と考えています。
上記のように、正しい経営理念を作成するために、ものすごく時間がかかることをご理解いただけたことと思います。「いずれ経営理念を完成させたい」と考えていて、日々研鑽されている社長は、とても素晴らしい社長だと思います。
経営理念に反したことをしている企業の方が恥ずかしい
反対に、立派な経営理念を掲げても、社長の行動が経営理念の真逆の社長も、いることはいます。
とある会社の新規開拓のご支援をさせていただいたときのことです。その会社は社訓のような経営理念を掲げておられる会社で、その中に「お客様への貢献」や「社員の幸せ」がありました。
その会社の営業会議にオブザーバとして参加したときのことです。社長が営業担当者に「売上~、売上~」と連呼し、ガンガンに叩いていました。
困り果てて言葉を失っている営業担当者に対して、社長から「平野さんからも、何か言ってやってください」と言われたのですが、言葉につまりました。
そのようなことでは、経営理念にかかげる「お客様への貢献」が二の次になってしまい、経営理念が浸透しません。せめて、「売上が立たないのは、お客様への貢献が足りないからではないか?」と言ってもらいたいものです。
そういった、経営理念を掲げて真逆のこととやっている会社よりは、今は経営理念がなくても、経営理念の完成を目指して日々研鑽している社長の方が、立派な社長だと思います。
経営理念を掲げていないことを指摘されたら?
もし、誰かから「なぜ経営理念を掲げていないのか?」と詰め寄られたら、焦って経営理念を作成するのではなく、「恥ずかしながら、社長である私の経営の精進が足りず、納得のいく崇高な経営理念ができないのです。それに代わって、暫定的に●●●を定めました。」と言ってください。
その●●●とは、次の3つです。
- 未来ビジョン
- 行動指針の「あいうえお」
- 利益計画と経営方針
未来ビジョンと行動指針の「あいうえお」が経営理念に当たる部分です。利益計画と経営方針が、経営理念を実現するための具体策になります。
未来ビジョン
未来ビジョンの内容は、会社の未来の姿をありありと描いたものです。未来ビジョンは社長が実現したいことをありありとイメージできることを、明文化したものです。「どうしてもそれを実現したい」という社長のモチベーションやパッションの部分でもあるので、とても大事です。
未来ビジョンを掲げて、社長の気持ちが高揚することはとても大事です。その高揚した気持ちが、会社を発展させる原動力になるからです。そして、未来ビジョンが大きなものであればあるほど、多くの人たちのご協力を得なければ実現できません。多くの人たちが「ぜひとも協力したい」と思って頂けるような未来ビジョンを掲げ、なおかつ社長の気持ちが高揚するようなものであることが大事です。
多くの人たちのご協力が得られる未来ビジョンであるたためには、未来ビジョンの中に次の2つのことが含まれている必要があります。
- 会社が事業活動を通じて世の中に対して貢献している未来の姿が描かれていること
- 社員がそれを目指すことで、幸せにつながったり、自己実現ができたりすること
未来ビジョンを思いつきで考えられたとしても、それによって自分の気持ちが高揚するようなものは考えられないことでしょう。また、自分の気持ちが高揚するようなものであったとしても、協力してくださる多くの人たちの気持ちを高められるものではありません。
そういった未来ビジョンを完成させるためには、社長の実力が高まり、考えるコツをつかんで深く考えられるようになり、時間をかけて醸成させる必要があるのです。
すると、「いつまで経っても未来ビジョンを掲げられないではないか」、「未来ビジョンがないとそれが実現しないのに、未来ビジョンができなければ永遠に小さな会社のままではないか」と考えてしまいます。
そこで、気持ちが高揚しやすい未来ビジョンを暫定的に考えることをおすすめいたします。その実現に向けて取り組むうちに社長の実力が高まり、正しい未来ビジョンを考えられるようになっていくという、「最初の段階の未来ビジョンがあっても良いのではないか」と考えました。
最初の段階の未来ビジョンとして、次の2つのことを掲げると良いと思います。
- ナンバー1
- 会社が生き残るための最低ライン
なぜ、「この2つが良いか?」ですが、考えやすいからです。本物の未来ビジョンを立てるとなると、とても時間がかかります。
それぞれ解説いたします。
「ナンバー1」を目指す
未来ビジョンの内容とは、どういったものか。それは、「ナンバー1」です。
「何のナンバー1を目指すか」が疑問になりますが、そのサンプルとして、次のようなものがあります。
- 「地域ナンバー1」「業界ナンバー1」「日本一」などの、商圏のナンバー1
- 「技術でナンバー1」「味でナンバー1」「満足度ナンバー1」などの、商品力のナンバー1
- 「社員の満足度ナンバー1」「給料が地域ナンバー1」などの、社員の処遇のナンバー1
1つだけのナンバー1を掲げても良いし、「地域の中で技術ナンバー1」という具合に絞り込んでも良いと思います。また、「業界ナンバー1を狙いつつ、社員の満足度ナンバー1も目指す」という具合に、これらの複合でも良いと思います。
当社では社長向けのセミナーを定期的に行っていますが、セミナーの中でよく「何かでナンバー1を目指してください」とよく伝えています。先日も、「何かで一流を目指してください」とお伝えしたところです。
大きな未来ビジョンを掲げるためには、社長の自信が何よりも大事です。その自信は、根拠がなくても良いのです。自信の源は成功体験です。何かでナンバー1の会社になったら、さらにその上のナンバー1を目指すことができます。そのようにして会社が立派になっていくと思います。立派な会社や急成長していく会社は、何かでナンバー1のものがあります。
本田技研工業と言えば、世界一のオートバイメーカーです。世界一を65年ほども維持しているので、とても立派な会社です。そのような本田技研工業も、中小企業の時代がありました。
本田技研工業が、やっとのことで浜松から東京に進出して2年目、1951年のことです。国産としてナンバー1の性能を持つエンジンを開発し「ドリームE型」を発売。日本中で本田技研工業の名が知られるようになりました。
箱根越え伝説のドリームE型誕生。『4ストロークのHonda』、ここに始まる / 1951(HONDAホームページより)
売上高は1年で4倍ほど伸びて、日本トップクラスのオートバイメーカーに仲間入りしました。
ナンバー1には、なかなかなれるものではありません。「ナンバー1なんて無理だ」と考える社長は多いし、なかなかイメージできるものではありません。ナンバー1を目指すことは、センスがいるのかもしれません。
しかし、今現在ではナンバー1になることはムリであったとしても、いずれナンバー1になれたら、嬉しくありませんか?
1年や2年でナンバー1になることはムリでも、10年や20年という長期間ですと可能かもしれません。自分だけの実力ではムリでも、ビジネスパートナーに恵まれて相乗効果で会社の実力が増し、いずれはナンバー1になれる可能性はないでしょうか?
ナンバー1になれないとしても、ナンバー1を目指さなければ、偶然にはナンバー1になれないことも事実としてあります。
未来ビジョンの内容の最低ライン
未来ビジョンは、明るいものであった方が良いのですが、最低ラインもあります。それは、倒産しないラインです。
企業は、景気変動や物価高など、さまざまな経営危機につながる外部要因に晒されています。売れ筋の商品がいきなり売れなくなることもあります。最大の取引先から、いきなり契約を打ち切られることもあります。
中小企業の生き残りのための最低ラインとは?
会社が倒産してしまったら、多くの人にご迷惑をかけてしまいます。そういった外部要因に対して耐えて、倒産しないようにしないとけません。そのための、経営的な体力を持たなければなりません。
そのような体力のある会社にしていくためには、すぐに使えるお金をたくさん用意しておくことを思いつきます。王道としては、高収益の商品を複数持ったり、波状攻撃で新商品を出したりして、利益を出す必要があります。お客様もオンリーさんではなく、さまざまな性質のお客様を持つ必要があります。販売ルートもいくつも持っておいた方が安全です。自己資本も増やしていった方が良いです。
川崎重工業は、航空宇宙や船舶、電車の製造をしています。水素エネルギー活用にも力を入れています。それらの事業とは、まったく業界の異なるコンシューマ向けのオートバイの製造もしています。オートバイの製造をしている理由は、「コンシューマの声を直接聞くため」だそうです。立派な会社の社長は、方針も立派です。
オートバイの部門は、「パワースポーツ&エンジン事業」として四輪の部門や汎用エンジンの部門などがあります。その事業の売上高は、川崎重工業の全体の1/3を占めているので、相当力を入れていることがわかります。
このように、1本の道しかないと、その道が通れなくなったら、ゴールにたどり着けません。道がいくつもあった方が、会社としては安全です。
このように、未来ビジョンの内容には、「いついつまでに利益をどれだけ出したい」というものもあれば、「いついつまでに新規事業を立ち上げ、成功させたい」という目標も考えられます。
最低ラインの未来ビジョンは、チャレンジングな内容になる
そういった会社を防衛していくための最低ラインの未来ビジョンを考え、それを具体的な数値で表したら、会社はチャレンジングな目標でもって成長せざるを得ないものです。実のところ、社長の考える明るい未来ビジョンよりも、さらにチャレンジングな未来ビジョンになることが多いです。
会社が生き残るためには、その最低ラインをクリアーしないといけないため、社長が必至になります。その必至さが、会社が成長するための意欲になります。
そういった未来ビジョンの立て方も大事です。
いつの未来ビジョンを立てたら良いのか?
どれくらい先の未来ビジョンを立てたら良いのか、気になることでしょう。これは、社長の直観力や先見力によって異なります。
成長意欲の高い社長の場合は、10年や20年先のものを考えられたらなお良いのですが、ビジョンを考えたことのない社長はなかなかイメージできるものではありません。そこで、5年よりも先であれば良いと思います。
現状維持を考えている社長であれば、3~5年ほどでも良いと思います。ただし、人口構造や産業構造の変化を感じている業界であれば、10年後の未来を予想してビジョンを立てることが大事です。
出来上がった未来ビジョンが心躍るものか?
未来ビジョンが出来上がったときに、社長にとってワクワクするようなものなのか、心躍るようなものか、嬉しさがこみ上げてくるものなのかを点検してください。さらには、未来ビジョンが完成して1ヶ月ほど経過しても、そのワクワク感が消えないもので、「ぜひとも挑戦したい」「寝ても覚めても未来ビジョン実現のことを考えてしまう」といったものであれば、それは本物の未来ビジョンだと思います。
そのような未来ビジョンでなければ、有言実行はできませんし、社長自ら率先して実現に取り組むことができないと思います。
未来ビジョンを発表するときには、社員は「また社長はゴルフをして遊び、社員に実現を押し付けるのだろう」といった具合に冷めて見られることが多いです。しかし、社長のワクワク感によって社員が感化され、社長自ら未来ビジョンの実現に向けて取り組み、社員に浸透していきます。
未来ビジョンの変更
未来ビジョンに「ナンバー1」や最低ラインを掲げてチャレンジしていくと、会社が成長していって、数年後にはそれらの未来ビジョンを達成するはずです。もしくは、達成が見えてくるはずです。
そうしたら、未来ビジョンをさらにチャレンジングなものに変更するときです。
そのころには、未来ビジョンを立てることに慣れているはずですので、会社の事業活動を通じて実現したいことを、いろいろとイメージングされたら良いでしょう。
行動指針の「あいうえお」
行動指針とは、先ほど説明したように、社長を含む全社員が仕事に取り組むうえでの、考え方や行動の仕方がまとめられたものです。
行動指針は、企業によっては膨大な量になる場合がありますが、小さな会社で膨大な量の行動指針を指し示しても、経営理念に慣れていない社員には浸透するものではありません。そこで、特に大事なものに絞り込んで、子どもでも理解できるような内容のものを作成します。
行動方針の「あいうえお」とは、特に大事な行動指針を5つに絞り込んで、わかりやすい言葉にしたものです。
次の例文をご覧ください。
行動指針の「あいうえお」例文
行動指針の「あいうえお」の文例は、次のようなものです。
- 「あ」=あいさつは笑顔と礼節で「おはようございます」「こんにちは」
- 「い」=いつも早めの行動で時間を守ります。
- 「う」=うっかりミスもミスはミス。ミスしたら迷惑をかけたことを謝ります。
- 「え」=笑顔の接客はビジネスの基本。お客様に感謝。
- 「お」=思いやりの心が未来をつくる。
行動指針の「あいうえお」の概要
例文でもあるように、とても分かりやすい内容だと思います。
「このような幼稚な内容で良いのか?」と思われた社長もいらっしゃることでしょう。しかし、このような幼稚な内容でさえ、会社で実行できていないことが現状です。できていないのであれば、最初はこれくらい単純な内容で良いのです。
この5つの分かりやすい内容であったとしても、この内容の意味を理解して、仕事に活かすまで時間がかかります。つまり、浸透に時間がかかります。
このような行動指針を、貴社独自で作成してください。社長が項目を5つ出して、社員たちと「これを、『あいうえお』に当てはめた文章を作りたい」と提案しても良いでしょう。社員のコミュニケーションが取れて良いと思います。そして、自分たちで決めた内容なので、行動指針を守りやすくなると思います。
行動指針の「あいうえお」の浸透
浸透させようとした当初は、この5つの内容ですら覚えられないものです。そのため、壁に貼り紙をしたり、1回だけ唱和したりしたら終わりではなく、社長自ら何度も何度も、行動指針の「あいうえお」の必要性や、内容の解説をしてください。
行動指針の研修
企業ビジョンと併せて、行動指針の「あいうえお」を説明する研修を開催しても良いでしょう。この研修は社長が教鞭を取って行われるべきです。なぜなら社長しか解説ができないからです。初めのうちは、経営理念コンサルタントの支援を受けて開催しても良いでしょう。
課長や部長などのリーダーがいる会社では、この研修は、彼ら向けに行います。課長や部長が行動指針を理解できたら、社員への研修を彼らに行なってもらいます。「教える」ということも、行動指針の理解を深めるためにも大事だからです。
社長自ら実践
何より大事なことですが、決められた行動指針は、社長自らが守らないといけません。社長が治外法権で守っていないものを、社員が守るでしょうか。そして、この5つの行動指針すら守れないようであれば、未来ビジョンの達成は夢で終わってしまいます。社長自ら未来ビジョンの実現に向けて、率先して行動指針に従って仕事をする必要があるのです。
社長の背中を見て、フォロワーが出てきて社長に従うようになり、その人たちが実績を出すようになると、全員がその内容が正しいものだと信じはじめます。
業務上で何かトラブルがあった場合
会社で何かトラブルがあったとします。例えば、お客様からクレームがあったとします。そうしたときに、行動指針の「あいうえお」に反した行動をしていなかったのかを点検し、反省するように促してください。
そうしているうちに、行動指針の「あいうえお」が合言葉のようになってくると思います。
そして、社員が行動指針に基づいて行動ができるようになり、会社が少しずつ優良企業になっていくと、行動指針の「あいうえお」だけでは足りなくなってきます。そのときには、行動指針の「あいうえお」を進化させたり、項目を増やして、立派な行動指針を作成していったりしてください。
未来ビジョンを掲げ、それに向けてどのように行動したら良いのか、その基本まで示すことができました。未来ビジョンと行動指針の「あいうえお」を合わせて、経営理念と称することで良いと思います。
行動指針の「あいうえお」の詳しい説明は、行動指針の「あいうえお」のすすめをご覧ください。
利益計画と経営方針
次は、企業ビジョンの実現に向けて、それを数値化した販売計画を作成します。それを実現するための、具体的な事業活動の方針を決めます。
未来ビジョンと行動指針の「あいうえお」が、会社経営での抽象的な方向性を指し示すものです。それを具体的な数値な方針に落とし込んで、初めて未来ビジョンの実現に向けて行動ができます。
その基本となるものが、次の2つです。
- 利益計画
- 経営方針
これらの内容をご説明いたします。
利益計画の内容
未来ビジョンを実現するためには、投資が必要です。投資のための費用は、未来へのコストです。そのコストがどこから調達するのか。基本は利益からです。ですので、どのくらいのペースで利益を上げていくのかを計画しなければ、未来ビジョンの達成が難しくなります。
未来ビジョンから逆算して作成
未来ビジョンが明確になれば、将来の事業内容や経営規模が明確になります。それが明確であれば、未来の売上高や利益などの金額に換算することができます。それが、将来の利益計画であり、将来の損益計算書です。
直感的に「どれだけの売上高が必要か」を計算できる社長もいれば、利益から逆算して将来の売上高を計算する社長もいます。
利益計画の指標
営業会社や販売店であれば、未来ビジョンが実現したときの売上高から逆算して、毎月の売上高目標や利益目標まで出します。
機械類を販売している企業であれば、「どの機械が、いつまでにどれだけ売れたら良いのか」という計画でもかまいません。幼稚園であれば、将来の学年毎の園児の人数や、いつまでに満三歳児クラスや年少組の申し込みを得るべきなのかといった目標でも良いでしょう。
それらの販売数が分かれば、どれだけ利益が得られるかがすぐに計算できるからです。また、社員にとっては、売上高よりも販売数量の方が理解しやすい場合もあります。
そのように、将来の数字の指標となるものを作成します。
経営方針の内容
経営方針とは、利益計画を実現するための方針です。正しい経営理念の中の項目である、経営理念を実現するための経営方針とは異なるものです。
経営方針の内容は、次のような項目の方針を具体的に決めたものです。
- 対象顧客はどのような企業や人か?(顧客の方針)
- どのような商品群をそろえるのか?(商品の方針)
- 営業や販売をどうしていくのか?(営業方針、販売方針)
- 新商品開発をどうしていくのか?(開発方針)
- 製造設備をどうしていくのか?(設備方針)
- それらを実現するための要員をどうするのか?(要因方針)
- それらを実現するための財務体質をどうするのか?(財務方針)
これらの内容を具体的にご説明すると長くなるので、別の機会に詳しく解説したいと思います。
営業方針と販売方針について
これらの中で社長が最も気になるのが、「営業や販売をどうしていくのか?」です。そこだけ、少し解説したいと思います。
対象顧客が決まると、顧客のニーズや競合他社が分かります。それに対して、どのような商品を取りそろえるかが決まります。競合他社に打ち勝って、顧客を獲得していくわけですが、その活動が営業と販売です。
営業方針は、戦略的な内容になります。販売方針は、具体的な方法を取り決めることです。
営業方針では、販売エリアはどこまでとするのか、重点地域をどうするのか、どの商品がどれくらい売れたら勝ちなのか、どのような集客方法に力を入れるのかといった具合です。販売方針は、ホームページを改善するのかどうか、リスティング広告やSNSをどうするのか、チラシをどうするのか、どのような経路で営業に回るのかといった具体的な行動です。
販売方針から入るのは緊急性の高い企業のみ
販売方針は、営業方針が決まってから正しく決めることができます。販売方針よりも営業方針の方が上位にあります。営業方針よりもさらに上位にあるのが、顧客方針です。対象顧客が決まらないと、どの商品を販売すべきなのか曖昧ですし、営業方針が決められません。
さらには、顧客方針も利益計画や未来ビジョンがなければ、正しく決めることができません。わが社は誰に何の事業で、どれだけの人に貢献するのかを決めることによって、根拠のある正しい顧客方針が決まるのです。
売上が落ちている会社では、焦っているので、まず販売方針から尋ねられることが多いです。「わが社はホームページをどうしたらいいのでしょうか?」とか「ホームページを作ってもらったら売上が上がりますか?」とか訪ねて来られます。
売上が著しく落ちてしまって、緊急性のある会社であれば、とにもかくにも売上の確保が大事ですので、「どうしたら手持ちの商品が売れるのか?」を検討するのですが、何でもかんでも売れたら、売上高や利益はアップするかもしれませんが、その会社にとって幸福かと言えば、そうとは限らないのです。
やはり、社長が「わが社の未来ビジョンはこれだ。これでナンバー1を目指したい」という思い入れがあれば、未来ビジョンに描いた商品を開発し、それが売れるようにしてあげた方が幸福です。
当社では、営業コンサルティングのご依頼があれば、社長の短期ビジョンや中期ビジョンから逆算して、販売方針にまで落とし込んで、集客方法をご提案するようにしています。
経営方針の浸透と実施
経営方針ができたら、社員と具体的な方策を検討し、社員に実施をお願いします。
経営方針の発表
経営方針の発表は、期首に発表すると良いタイミングだと思います。未来ビジョンや行動指針の「あいうえお」と同時に発表することが望ましいです。
経営方針を社員に出したときに、社員からは「このようなムチャな方針には従えません。」という反発は、絶対にあるものと思ってください。社員の中には、今まで通りのやり方にしがみついて、新しいことを受け入れられない人もいます。
社長に説得力がなく、社員の要望を受け入れてしまったら、会社は成長できません。説得力の根源として、未来ビジョンがあるのです。そこは社長の胆力が試されるときです。
社員からすると、「経営方針が間違っている」と思うことがあります。その場合は、経営方針の検討段階で社長に諫言するようにしてください。社長も、社員からの諫言を聴いて、経営方針の変更の必要性を検討してください。
社員とのコンセンサスを気にされるのであれば、個別に経営方針の発表前に経営方針の内容をほのめかせておいたり、社員に相談したりして、根回しをしておくと良いでしょう。
経営方針の具体的方策と実施
経営方針が決まったら、社長を含む全社員は何があろうとも、それに従わなければいけません。なぜなら、社員が勝手な方針でやっていたら、立てた方針が正しかったのか、間違っていたのかが分かりませんので、社長の経営方針を立てる実力が高まらないのです。
具体的方策は、部門がある企業であれば部門長と、社員が数名であれば全社員とで、具体的な方策を決めていきます。具体的な方策とは、例えばホームページの改善・運営をどうするのか、営業活動の内容をどのように改善していくのか、商品開発プロジェクトの立ち上げなどです。
経営方針が発表された後の経営会議では、社員が経営方針通りに実施しているのか、その結果のチェックのみです。経営方針通りにできていない社員を叱り、結果責任を問わないようにしてください。結果責任は、経営方針を決定した社長ただ一人の責任だからです。社員には、実施責任を負わせるのです。
経営方針を変更しても良い場合
経営方針を実施している途中でも、変更しても良い場合があります。それは、市場に急速な変化があった緊急のときか、未来ビジョンや利益計画の実現が早まる前向きな意見のときのみです。
例えば、「ある取引先との取引金額を増やしたい」との経営方針を立てていたとします。ところが、その取引先が自社との取引を止めようと検討していたとします。その経営方針まま取引を続けていたら、売上高がアップするどころか、反対に減ってしまいます。そういった場合は、経営方針を緊急で変更する必要があります。
また、経営方針が当たって、思ったよりも売上高が上がる場合があります。経営方針がそのままですと、チャンスを逃してしまう場合があるので、上方修正する必要があります。そういった前向きの変更は、ぜひとも行ってください。
以上、小さな会社に最適なミニマムな経営理念の内容や作り方、浸透方法などを解説いたしました。
現在、理念なき企業は淘汰されていっている時代に入ったと思います。志のある社長は、ぜひ経営理念づくりにチャレンジしていただき、社長の成長とともに経営理念を進化させていって、いずれ「正しい経営理念」を完成させていただきたいと思います。
当社では、経営理念コンサルティングにて経営理念の策定、浸透、経営理念に基づいた経営計画の立案を支援しております。また営業コンサルティングでは、経営計画の実現に向けた具体的な方針の策定もご支援しております。
理念経営を目指されて、その実現が進まなくてお困りの方は、ぜひ当社の経営理念コンサルティングをご検討ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。