経営理念を構築したら、それを社員に浸透させることで、経営理念が機能しはじめます。経営理念を早く浸透させることができたら、会社のカルチャーも早く変わります。
経営理念の浸透で思いつく方法として、代表的なものは、製本して配ったり、朝礼で毎回唱和したり、勉強会を開いたりといった方法です。経営理念の浸透で悩んでいる社長の多くは、浸透の方法が気になることと思います。
そもそも、経営理念の浸透しやすいかどうかは、理念浸透の方法だけでなく、経営理念の内容と社長のスタンスがあります。
このコラムでは、経営理念を浸透させたいと思っている社長向けに、経営理念の内容と社長のスタンスについて解説いたします。
経営理念の内容
経営理念の内容によって、浸透しやすい経営理念と浸透しにくい経営理念に分かれます。それらは、真逆の内容と言えますが、理解しやすいように両方のことについて、解説したいと思います。
浸透しやすい経営理念の内容
まずは、浸透しやすい経営理念の主な内容を説明いたします。ここで述べていることは、すべて含んでいると、浸透しやすい経営理念と言えます。
1.公器な経営理念
構築された経営理念を実践していくと、会社が社会に貢献できるかどうか。また、一歩進んで述べるとするならば、社会が豊かになるかどうかが、公器な経営理念の意味です。
会社が何を目指して、どのような方向に向いて進んでいるのかが盛り込まれますが、それが公器な内容であればあるほど、社員の心を感化できるものになります。
2.チャレンジのし甲斐のある目標
新しいことにチャレンジすることは辛いことです。失敗やストレスもあります。そういったものを乗り越えて、チャレンジしていく中で、会社に一体感が生まれます。
3.具体的な仕事内容
経営理念は抽象化された一言であることが多いですが、それを分解して具体的な仕事内容が導き出されるものであれば、社員が意味を理解して、仕事に取り入れることができます。
あいまいな表現の場合は、行動指針などで具体的に示す必要があります。
4.社員の得になる内容
経営理念の実現が、社員各々の自己実現と直結するならば、社員は自ら経営理念の実現に取り組むはずです。経営理念の内容が、自己実現とつながる内容になっていれば、それだけ浸透も早くできます。
浸透しにくい経営理念の内容
逆に浸透しにくい経営理念について考察したいと思います。浸透しやすい経営理念としにくい経営理念を見比べることで、浸透しやすい経営理念づくりがしやすくなると思います。
1.自社都合の経営理念
経営理念が実現し、会社が発展したときに、社会に精神的・物理的に公害をまき散らすようなものであれば、心ある社員には経営理念が浸透しにくくなります。
そのような経営理念であれば、社員の心が成長していきにくいので、会社の成長も止まってしまうことでしょう。
2.意味が何とでも取れる経営理念
経営理念の内容があいまいだったときに、社員は経営理念に基づいて価値判断ができなくなります。例えば、行動指針に「クレームは適切に処理する」と書いてあった場合、「適切」とはどのようなものをいうのか、社員は理解できません。
自分なりに適切に判断して処理したときに、後で上司から叱られてしまった場合は、その社員は経営理念を信用するでしょうか?
3.社長ばかりが得をする/社員が損をする経営理念
経営理念の実現によって、会社が発展したとしましょう。会社の発展に貢献した社員の処遇が悪いものだと予想される場合、あるいは、その努力に報いがないのであれば、社員に経営理念を受け入れようとはしないはずです。
また、経営理念の内容が間違っている場合、経営理念の実践をすればするほど、社員の成績が下がってしまうことがあります。
例えば、「利益がすべて」と書かれていたとしましょう。そこに顧客無視が発生し、商品やサービスの品質が下がり、顧客が離れていってしまいます。すると社員の成績は下がり、会社が倒産する可能性も出てきて、社員が損をしてしまいます。
これらに該当する場合は、本物の経営理念とは言えません。
社長の経営理念に対するスタンス
社長の経営理念に対するスタンスによっても、経営理念の浸透のしやすさに影響します。浸透しやすい社長のスタンスとしにくい社長のスタンスを比べて、社長がどういったスタンスを持てばよいのか、ご理解いただけることでしょう。
経営理念が浸透しやすい社長のスタンス
まずは、経営理念が浸透しやすい社長のスタンスをご紹介します。
1.社長自ら経営理念を浸透させようと努力している
大企業であれば、経営理念浸透プロジェクトを立ち上げて、専門スタッフが担当することはあることでしょう。しかし、その大企業もほとんどが零細からスタートしているはずです。零細のうちは、社長自ら経営理念を浸透させようと努力していることがほとんどです。
社長自ら経営理念を何度も何度も発信し続けると、社員は「社長は本気だ」と気が付き、経営理念を受け入れようとします。
2.社長が経営理念を熱く語ることができる
経営理念は社長自ら、長い時間をかけて、何度も何度も書き換えて構築されたものです。この経営理念を実現することが、社長の使命そのものです。
そのような経営理念を社員に語ると、どうしても熱く語ってしまいます。経営理念発表会で、予定時間をオーバーしても熱く語り続ける社長もいるぐらいです。それぐらいで本物の社長だと言えます。
3.社長自ら経営理念を実践する
経営理念は社長自らの有言実行が必須条件です。経営理念に描かれている社長の夢を志にして、社長自ら率先して取り組むことで、社長の本気度が社員に伝わり、社員に経営理念が浸透していきます。
4.社長の情熱がみなぎっている
経営理念の浸透や実施において、社長の情熱がみなぎっていることで、社員にその情熱が伝わり、経営理念が浸透していきます。その情熱を有言実行、凡事徹底に結び付けることで、経営理念が少しずつ成果に結びついていきます。その成果を見て、社員も社長の情熱を感じ取り、社長の背中を見て経営理念が浸透していきます。
浸透しにくい社長のスタンス
逆に、経営理念が浸透しにくい社長のスタンスについて考察したいと思います。浸透しやすい場合の社長のスタンスとはほぼ真逆になりますが、2つを見比べることで、経営理念が浸透しやすい社長のスタンスをイメージしやすいと思います。
1.社長が経営理念を浸透させようとしない
社長が経営理念を構築した後に、「経営理念の浸透は社員の仕事だ」と考えたとしましょう。
経営理念を理解し、正しく解説できる人は、経営理念を構築した社長ただ一人ですので、社員にはいません。何の解説もなく浸透を担当した社員は、朝礼などで経営理念を暗唱させることで、経営理念の浸透をしていると勘違いすることがほとんどでしょう。
2.社員を働かせるための経営理念を作った
「社員は社長の性格を1週間で見抜く、社長は社員の性格を見抜くのに3年かかる」と言われています。社員を働かせるために作られた経営理念は、社員は1週間で見抜いて、無視するものです。
そういった場合には、そもそも社長は社員から信頼されていない可能性があります。社員にしてみたら、「また何か社長が始めたらしい」と冷めた目で見ることがほとんどです。
3.口先だけの経営理念で、社長が経営理念を実践していない
経営理念にいくら良い言葉が並べられていたとしても、その内容を社長自ら実践できていない場合には、社員は社長の背中を見て育つものですので、社長も経営理念を実践しようとしません。
強制的に経営理念の内容を実践させられたとしても、社員が進んで行うものではないので、経営理念は浸透しないことでしょう。
例えば、経営理念に「感謝」と書かれていたとして、社長が普段から感謝できない人だったらどうでしょうか?
4.社長が経営理念の実現を心から願っていない
良心はあるが社長の場合、経営理念に描かれていることは立派な内容であることがほとんどです。しかし、良心があっても欲の強い社長の場合は、経営理念の実践と欲の実践が真逆のことになり、良心が傷ついてしまうので、社長は治外法権で独自の甘い基準を作ってしまうことがあります。
例えば、経営理念に「ムダを徹底的に省け」と書かれていたとして、社長が女性の接待を伴う飲食店が大好きだった場合に、会社の経費で毎週のように飲みに行っている場合です。
そのようなことは、経理担当者をはじめ、社員全員が薄々と気が付いているはずです。そのような状態で、社員が経営理念を受け入れるでしょうか?
5.社長の熱が冷めてしまった
経営理念を構築した直後は、社長に情熱があったとしても、次第に情熱が冷めてしまった場合です。そういった場合でも、経営理念の率先垂範や凡事徹底が続いているならば、それは情熱が続いている状態だと言えますが、経営理念の実践まで放棄してしまった場合です。
放棄されてしまった経営理念は、「形骸化してしまった経営理念」と言えます。
6.社員教育の仕方を勉強をしていない
経営理念が浸透していない会社の社長を見ていると、ほとんどの方が次のことに合致します。
- 教え方が下手
- 言語化が下手
教え方と言語化が下手な社長のもとで、経営理念を理解し仕事能力が高まっていく社員がいたら、とても優秀な社員だと思います。そういった優秀な社員は、50人に1人ぐらいでしょう。
言語化で言えば、例えば経営理念に「社員の幸福」と書かれていたとしましょう。では、「幸福」とは何でしょうか? 「幸福とは、こういう意味です。」と即答できるようであれば、言語化ができていると言えますが、どうでしょうか?
社員から「幸福とは何ですか?」と聞かれたときに、「自分で考えろ!」と考える材料を与えずにすぐ怒鳴ってしまう社長は、言語化が下手な証拠だとお考えください。
社長は社員教育の仕方を勉強すべきです。
社長のスタンスがこれらに該当する場合も、本物の経営理念とは言えません。
本物の経営理念の条件
これらのことを踏まえると、本物の経営理念とはどういったものなのかまとめると、次のようになります。
- 社長自ら悩んで何度も書き直して構築したもの
- チャレンジのし甲斐のある目標が含まれている
- 会社が進むべき方向がわかる
- 成功哲学が盛り込まれている
- 会社にとっての善悪の価値基準が盛り込まれている
- 具体的な経営判断や仕事内容を導き出せる
以上、浸透しやすい経営理念/浸透しにくい経営理念についてまとめました。経営理念の浸透をお考えの方に、参考になったでしょうか。正しい経営理念を構築し、社長自ら経営理念を実践して正しく浸透させるようにしてください。
もし、経営理念の浸透にお悩みなら、チームコンサルティングIngIngまでお気軽にご相談ください。
この記事の著者
経営理念コンサルタント
関山 淑男 (Sekiyama Toshio)
経営理念の構築・浸透とビジネスコーチングのスキルに親和性があることに気づき、研究や実績を重ね、経営理念コンサルタントとしてのスキルを確立していく。社長としての経営経験や赤字企業の業績回復支援の経験から掴んだ教訓、ピーター・ドラッカー先生や一倉定(いちくらさだむ)先生などの経営理論を融合させ、独自の経営理念コンサルティング・メソッドを開発。