社長は何か信念があって起業した人が多いことでしょう。そのビジョンをモチベーション(ミッション)として、経営をがんばっておられると思います。
もし目指すものがなかったとしても、事業である程度の成功を収めたら、信念が芽生えてくることもあります。
どちらにしても、信念のない経営は挫折しやすいことになっているのが、世の常です。
社長の信念が実現した姿を明文化したものが、企業ビジョンや経営ビジョンです。この2つは同じ意味ですので、この記事では「企業ビジョン」を用います。
以下、社長が掲げた企業ビジョンを社員に浸透させ、それを実現していくための方法をご紹介いたします。
なぜ企業ビジョンを浸透させるべきなのか?
企業ビジョンを浸透させることが、企業経営においていかに大事なのかは、述べるまでもありませんが、念のためご説明いたします。
企業ビジョンは経営理念に付随したものです。経営計画が達成されたときの、最終的な姿をイメージ化したもの、明文化されたものが企業ビジョンです。
経営理念や企業ビジョンが末端まで浸透していなくても、企業は仕組みで仕事が回ります。しかし、末端ではさまざまな人間関係のトラブルや自己保身などが発生し、場合によっては経営危機を迎える場合もあります。
企業ビジョンが浸透していないと、末端社員は経営目標を「経営者が良い生活をするための単なるノルマだ。そのためにオレたちは働かされているのだ。」と、自暴自棄に考えるようになってしまいます。
経営者は「当社は理念経営をしている正しい会社なのだ」と思っていても、末端社員は「なんて守銭奴な会社なのだ」と考え、経営者に復讐心さえ持っている人も出てきます。
企業ビジョンが浸透していないことがカルチャーにまで昇華されてしまったら、いくら経営理念や企業ビジョンを浸透させようとしても、誰も聞く耳を持ちません。頑丈な城壁を攻めるような感じになり、倒産しかかった大企業のように、会社を一度解体するぐらいまでの作業が必要となります。
会社がそうなる前に、社長は世のため人のための会社づくりを目指し、経営理念や企業ビジョンを正しく浸透させることの大切さを知ってください。
正しい企業ビジョンを作成すること
企業ビジョンが浸透するためには正しい企業ビジョンを作成する必要があります。正しい企業ビジョンがあると、企業ビジョンを見たり聞いたりした社員が奮い立ち、仕事に対する意欲が増すものです。
社員の意欲が下がる企業ビジョンとは?
企業ビジョンとは、社長が目指したい会社の姿のことですが、社長の私欲がむき出しの企業ビジョンであれば、社員のやる気は失われてしまうことでしょう。
例えば、「会社は社長である自分のものである。そこで働く社員は、社長の私欲のために誠心誠意働くべきである。そういった会社を目指したい。」という極端な企業ビジョンであれば、社員は全員辞めていってしまいます。
また、あまりにも遠い未来の企業ビジョンで実現の可能性が低いものだと、意欲は下がらないと思いますが、社員の意欲は上がりにくいです。
社員の意欲が上がる企業ビジョンとは?
では、社員の仕事に対する意欲が高まる企業ビジョンとは、どういったものでしょうか?
それは、事業を通じて社会貢献をし、会社が成長していってお給料が増え、自分たちの生活も豊かになっていくというものです。そのためには、次の4つのことが企業ビジョンに含まれているか、連想できるものになっている必要があります。
- 事業活動を通じての社会貢献
- 将来の会社の規模
- 将来の事業内容
- 将来の社員の処遇
企業ビジョンができたら、この点検項目でもって「本当に正しい企業ビジョンができたのか?」と自問自答してください。
企業ビジョンは、「わが社は何のために存在するのか?」という問いの答えが実現した姿です。つまり、ミッションが実現した姿が企業ビジョンです。企業ビジョンを作成する前に、ミッションから作成することが理想です。
どれくらい未来の企業ビジョンを作成すべきか?
初めて企業ビジョンを作成する場合は、30年先といったあまりにも遠い未来の企業ビジョンを作成する必要はありません。10年先までのもので良いですが、最低でも3~5年先のものを作成してください。
仮に1年先という短期の企業ビジョンを立てて、全社員が奮闘しても実現できることはそれほど大きなものではないと思います。そのため、社員は意欲が高まりにくいことでしょう。
3~10年先の企業ビジョンを立てて、それが実現していったときに、社員に自信がついてきて、社長の先見力も増してくるので、より長期の企業ビジョンを作成し、浸透させることができるようになります。
正しい企業ビジョンが作成できない場合
社長によっては、どうしても私利私欲が優先してしまって、大義名分となるような正しい企業ビジョンを作成できない場合があります。そういった社長は、自分に正直で嘘がつけないタイプの社長かもしれません。
そういった社長の場合は、私利私欲の部分を取り除いた、自分が理想とする企業ビジョンを作成してください。それを理想として掲げ、「自分はまだまだ未熟であるが、この理想と言える企業ビジョンを目指しているのだ」と、自分に言い聞かせてください。
正しい企業ビジョンの作成方法は、コラム「会社のビジョンとは?ビジョンの内容や作成方法など」のビジョンの作成方法をご覧ください。
企業ビジョンを実現するための経営方針を立てる
正しい企業ビジョンを作成しても、それを実現するための方法が明確でなければ、社員は何をしたらいいのかわかりません。また、経営幹部は社長に代わって経営判断をしていかなければいけませんが、その基となる考え方が必要です。
企業ビジョンを実現するための方法を、全方位的に網羅したものを「経営方針」や「経営指針」と言います。
当社では、30年先といった経営理念が実現した姿をビジョン化したものや、長期的な企業ビジョンを実現するための方法を「経営指針」と定義しています。また、それよりも短期的な経営計画を実現するための方法を「経営方針」と定義しています。
企業ビジョンと経営方針の関係
立てた企業ビジョンが短期的なものか、長期的なものかによって、経営方針の内容が異なってきます。
つまり、次の図のように企業ビジョンが短期的であれば具体的に、長期的なものであれば抽象的になります。
実のところ、企業ビジョンを達成するためには経営方針の内容が具体的であるべきですが、長期的な企業ビジョンになると不確定要素が多くなることや、市場動向によって経営方針が変化するので、抽象的であるべきです。
経営指針の内容は、社長に代わって経営判断する経営幹部の指針となります。短期的な経営方針は、経営幹部を含む全社員が、それに従って事業活動をすることになります。
短期的には、どのような経営方針を立てるべきかということですが、次の3つのことに注意して立ててください。
- 社長自ら作成すること
- 過去の反省を盛り込まないこと
- 具体的な内容であること
それぞれ、ご説明いたします。
1.経営方針は社長が立てること
「経営方針を考えるのが社員の仕事だ」とお考えの社長もいらっしゃることでしょう。優秀な社員であれば、経営方針を考えることができると思います。その社員は、社長よりも実務的な実力があると言えます。
ここで、お考えいただきたいことは、会社を発展させられる実力を持つ社員が実績を出してしまったら、その社員はどうするでしょうか?
もちろん、その実力と実績を携えて、処遇の良い他の企業に転職してしまいます。その結果、発展に貢献した社員がいなくなるわけですから、会社がガタガタになってしまうということです。場合によっては、部下を引き連れて起業してしまい、弓を引いてくる可能性もあります。
社長自ら、企業ビジョンを達成するための経営方針を立てて、社員に実行責任を負わせ、結果責任は自分で負うことが大事です。もちろん、経営方針を立てる上で、幹部社員や経営コンサルタントの助力を得ることはしても良いですが、その助言を鵜呑みにしないで、社長自らの意思で決定をしてください。
2.過去の反省を盛り込まないこと
経営方針を決めるときの間違いとして、よくあることは、過去の反省から今後どのようにしていくべきかを考えることです。これをやってはいけません。
過去の反省をして、それを今後の方針に活かすことは大事だと思います。しかし、過去に実施したことだけが注目されがちになり、本当に打つべき手が隠れてしまうことがあります。企業ビジョンは理想が描かれたものですので、理想の会社を創っていかなければいけないからです。
経営方針を考えるときは、次のようなことを全方位的に考える必要があるので、過去の反省は大事だとしつつも、今後打つべき手のみを社長自ら考えるべきなのです。
- 販売方針
- 顧客方針
- 商品方針
- 未来事業方針
- 内部体制方針
3.経営方針は具体的な内容であること
方針は明確にする必要があります。社長が立てた方針が曖昧だと、社員は具体的でないと動けませんので、今まで通りのことしかできません。今まで通りのことしかできないのであれば、会社は今のままです。
曖昧な方針を立てるということは、「自由にやってよい」「何もしなくても良い」「企業ビジョンが達成しなくても良い」と宣言しているようなものです。
例えば、社長が「販売を強化せよ」と命令を出したとします。具体的に何をしたら「販売を強化した」と言えるのでしょうか?
社員の中には、「チラシを撒いたらいいのではないか?」とか「既存顧客にあいさつ回りをしたらいいのではないか?」とか、さまざまなアイデアが出ることでしょう。それらのアイデアは、社長が明確な条件を出さない限り、実行されないまま終わってしまうことが大半です。
チラシを撒くにしても、「何の商品のチラシをいついつまでい作成し、どこの範囲にチラシを撒いたらいいのか」という具体性に欠けるからです。
社長自ら繰り返し述べ伝えること
社員の仕事に対する意欲が高まる企業ビジョンができたら、企業ビジョンの浸透に入ります。企業ビジョンの浸透方法は、簡単です。社員に、何度も何度も繰り返し述べ伝えることです。
「そろそろ企業ビジョンが伝わったかな?」と思っても、社員には浸透していません。そのように思ったり、社員から言われたときがスタートだとお考えください。
企業ビジョン研修を行ったり、会議のときにビジョンを伝えたり、毎朝の朝礼で話しても良いですし、昼休憩のときに社員とちょっと話をするときに企業ビジョンを伝えても良いです。社長の口から、何度も何度も伝えることです。
社員から、「社長、もうわかりましたから」と言われることもありますが、社員は企業ビジョンの本質のところを理解できていないと思います。そういわれても根気よく伝えてください。企業ビジョンを語るときに、夢を語るように伝えると効果的です。
何度も伝えているうちに、社長の実力も上がってきて、社員が「もしかしたら、社長が本気だ」とか、「社長なら実現するに違いない」と思ってもらえるようになったら、浸透してきた証拠となります。
企業ビジョンに向けての実践も合わさり、実績が出てくると、社員が企業ビジョンの実現を確信できるようになります。そうすると、企業ビジョンが浸透したと言えます。
インセンティブを設けること
インセンティブとは動機のことです。社員にとってのインセンティブとは、主に承認と待遇です。
承認は、社員のがんばりを認めることです。社長から「おい、最近がんばっているな」と言われただけでも、やる気の出る社員は多いことでしょう。また、待遇とは、昇給や昇進などの処遇のことです。
そういったインセンティブがあると、社員は企業ビジョン実現に向けて、引き続き努力してくれるものです。
では、「その努力とはどのような方向のものか?」ということになりますが、企業ビジョンを実現するためには、社員の人間性が成長し、仕事能力も向上してもらわなければなりません。社員の人間性と仕事能力の理想の姿を行動指針として明文化し、その実現を昇給や昇進の基準とします。
その行動指針では、企業ビジョンを実現している社員の姿をイメージしながら作成します。
行動指針をゼロから作成すると、とても時間がかかります。経営理念コンサルタントの支援を受けて作成したとしても、初めて行動指針を作成する場合は、早くても2年ほどかかります。
そこで、行動指針のテンプレートを用い、企業ビジョンの浸透と併せて、テンプレートの行動指針の浸透をしていくと良いでしょう。
行動指針のテンプレートは、当社オリジナルの「正しい行動指針」をご用意していますので、ぜひご相談ください。
社長自ら企業ビジョン実現に向けて考え・行動し・成長すること
当然のことですが、社長自らが先頭に立って、企業ビジョンの実現に向けて、陣頭指揮を執る必要があります。そして、社長の言動が経営理念と一致している必要があります。
極端な対極の例を述べるとするならば、社長が「自分はゴルフをして遊んでおくので、社員はみんなこの企業ビジョンを達成するように奮闘せよ。もちろん社長が遊べるように、利益もしっかり出しなさい。」と命令したとしましょう。
このような命令は、明らかにおかしいと思われたことでしょう。社員全員が仕事のやる気を失せてしまうことは必至です。
社長が企業ビジョン実現に向けて率先して考え、行動し、成長することが大事です。
そういったことから、企業ビジョンの実現に合わせて、社長ご自身の人生計画を立てていくこともおすすめです。当社の経営理念コンサルティングで、社長の人生計画を立てるご支援しておりますので、ご利用ください。
中間管理職の育成
少し大きな会社になってきたら、中間管理職が出てきます。社長の実力によっては多くの社員を把握することができると思いますが、会社の社員数が50人を超えてきたら、把握は難しくなってくると思います。
そういった場合に、中間管理職が実力をつけていかないと、そのうちに会社の成長が頭打ちになってしまいます。場合によっては、自社よりも2~3倍程度の大きさの会社に勤めていた中間管理職の人材を採用しないといけなくもなると思います。
この中間管理職の社員が、社長からの目標伝達を、単に数字と方針だけを伝える人が多いのです。
社長からの目標伝達を伝言ゲームするだけであれば、ペッパーくんでもできます。
中間管理職の仕事の一つに、社長から出た目標を社員の立場で翻訳して、経営理念や企業ビジョンと組み合わせて伝達しなければいけません。
そうしないと、冒頭でご説明したように、社員はその目標や方針を実施する理由に、自分の先入観を入れてしまいます。すると、たいてい「経営者が良い生活をするための単なるノルマだ。そのためにオレたちは働かされているのだ。」となってしまいます。
中間管理職は、社長の「理念経営をやり遂げたい」という気持ちを純粋に汲み取り、社長の言葉を翻訳して末端社員に伝えることが大切です。
そのような末端社員の気持ちを理解し、社長の立場も理解しなければなりません。中間管理職は、そのような能力が求められる役職ですので、従来の中間管理職と比較して、中間経営職という言葉も出てきています。
そのような中間経営職の育成は、従来型の中間管理職育成プログラムよりも、経営理念コンサルタントによる経営理念浸透研修の方が効果的です。
企業ビジョンを達成したらどうするのか?
企業ビジョンを達成してしまったら、次の企業ビジョンをかかげてください。
例えば、3年先をイメージして企業ビジョンを立てていた場合は、次の3年後をイメージして企業ビジョンを作成すると良いでしょう。
社長が長年事業経営をしてきたことで、より遠くの企業ビジョンもイメージできるようになってきている場合は、もっと先の企業ビジョンをかかげても良いです。その先を見通す能力のことを、先見力といいます。
10年先の企業ビジョンがイメージできた場合は、中間となる3年先や5年先の企業ビジョンをイメージすべきです。なぜなら、社員には10年先のことを言われてもピンと来ないからです。具体的な企業ビジョンであればあるほど、具体的に行動しやすいのです。
ただし、その場合も10年先の企業ビジョンは浸透させないのではありません。10年先の企業ビジョンを長期ビジョンとして示しつつ、「その中間目標として、3年先はこのようなことを実現したい」という具合に、中期ビジョンも浸透させるのです。
以上、正しい企業ビジョンの作成方法、企業ビジョンの伝え方、インセンティブを設けること、社長自ら成長していくこと、企業ビジョンを達成した場合の次の企業ビジョンの掲げ方といった、企業ビジョンを社員に浸透させ、それを実現していくための方法をご紹介いたしました。
社長の信念の実現のためには、多くの人が関わって実現するものです。多くの人が集まるためには、正しい企業ビジョンを掲げ、正しく浸透させることが大事です。
正しい企業ビジョンの作成や浸透のご支援をお求めであれば、ぜひチームコンサルティングIngIngにご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。