「経営とは?」といきなり禅問答のように聞かれたら、返答に困ります。
その答えには、「経営とは未来創造だ」とか「経営とは、資源を活用してその総合計以上の価値を生み出すことだ」など、いくつかの答えがありますが、「経営はバランスだ」という答えもあると思います。
先日、とある社長とお食事を共にしました。その社長の会社は、数か月前から売上が少しずつ下がってきており、「製造に力を入れていたので、販売がおろそかになっていた」と反省されていました。
つくづく「経営はバランスだな」と思った次第です。
このコラムでは、経営のバランスについて、いくつかの見方を述べたいと思います。
鳥の目と虫の目
会社の社長は、会社全体を見渡し、会社の将来についての決定をする人です。会社の全体を見るということで、これを「鳥の目」と言います。
そうかと言って、仕事の細かな部分も見えている必要があります。細かなところを見るということで、これを「虫の目」と言います。
中小企業の社長であれば、鳥の目として会社全体が見えていなければいけませんが、虫の目としてそれぞれの社員がやっている仕事内容や人間関係など、細かなところも見えていなければいけません。
中小企業では、社長が見ていないところで社員がサボっていることが、よくあります。
例えば、営業部門の社員であれば、お客様のところに行っているかと思いきや、喫茶店でサボっていることもあります。何を隠そう、私も若かりし頃に、ときどきやっていました。
また別の例で、いつも自動車で外回りをしている社員が、会社の就業時間ギリギリでいつも帰社してくるので、その会社の社長は「いつもギリギリまで仕事をしてくれて、頑張ってくれているのだな」と思っていたら、実は「残業しないですぐに帰宅できるように、自動車の運転速度を調整して、会社の到着時間を就業時間と合わせていた」ということを聞いたことがあります。
人によっては、仕事をしていないのに、仕事をしたことにしてウソの報告をする人もいます。
このように社員の一部は、社長が見ていない場所、大企業であれば上司が見ていないところで、サボることがあります。
あまりにも厳しく取り締まると、ストレスがたまりすぎて良くない場合もあるので、許される範囲内で許すこともあると思いますが、サボることが露骨になったり、常習化したりしたら問題だと思うので、叱咤すべきです。
ときどき叱咤しないと、組織がゆるくなり、サボることがカルチャーになってしまう恐れがあります。
社長は、会社が小さいうちは、できれば社員の細かな仕事まで把握しておき、評価できるようにしておくべきです。
反対に、社長が虫の目ばかりが気になり出したら要注意です。社長は、社員よりも会社の未来について考えておかなければいけないからです。
そういったことで、鳥の目と虫の目のバランスが大事です。
短期と長期のバランス
商品開発では、短期的視点と長期的視点のバランスが大事です。
短期的には、「現在の主力商品の改善や1年後程度の未来に新商品を投入していく」といった商品開発があることでしょう。
長期的には、市場の変化の傾向をつかみ、我社が生き残る、もしくは成長していくための将来のわが社の事業を考えることです。
長期的に自社の事業を変えていきたい場合は、少しずつ準備をしていく必要があります。短期的な努力に加え、長期的な努力のバランスも大事になります。
このバランスは、会社の規模や業種、社長の考え方などによって異なります。個人事業の場合は、長期的なものをおろそかにしがちですが、経営資源の1割程度を長期的なものに割いていくべきだと考えます。
生産と販売のバランス
製造や開発が得意な人が社長をしている会社は多いと思います。そういった社長は、販売が弱いことがよくあります。
そういった社長は、会社の売上が安定してくれば、「販売は大丈夫だろう」ということで製造や開発ばかりに力を入れて、「製品やサービスを提供できる体制を整えていけば良い」とだけ考えがちになります。そこに落とし穴がある場合が多いです。
つまり、ひとたび販売量が落ちてきたら、再び販売に力を入れ出すわけですが、販売数が回復するのに通常は半年以上かかります。回復してくる間の半年間は、資金繰りに苦労するわけです。
資金繰りが悪くなりすぎると、お金のことばかりが気になって、販売が強引になりがちになり、会社の信頼が下がってしまう場合があります。
やはり、販売が好調のときにも、極端に生産ばかりに力を入れるのではなく、販売への力配分を若干下げることはあっても、販売にも力を注ぎ続けるというバランスが大事です。
また、販売が本当に苦手な社長の場合は、営業部門を任せられる人材をナンバー2として起用して、製造・開発と販売のバランスを取ることが大事です。
製造・開発と販売のバランスや、どのようなナンバー2と組むべきか、本田宗一郎と藤沢武夫の歴史を勉強するととても参考になります。お二人のことを詳細に分析した情報を「トップの夢を実現するための条件研修」で解説しますので、営業部門強化やナンバー2論にご興味のある方は、この研修にぜひご参加ください。
どの商品の販売を強化するか?
いくつかの種類の商品を扱っている企業であれば、「どの商品の販売を強化するか?」の検討をすることが、よくあると思います。その力配分も、バランスが大事になります。
商品には性質によって、主に次のように分類できます。これらの中で、どの商品の販売を強化するのか、営業の力配分をするのかによって、会社の運命を分けます。
- 新商品
- 主力商品
- 売れ行きが落ちている商品
- まったく売れていない商品
- オーダーメイド品
これらの商品の中で、最も力をいれないといけないものは「新商品」です。我社の将来のために生み出された商品ですから、販売に力を入れることは至極当然のことです。
次に力を入れるべきものは主力商品です。現在の会社の粗利益の多くを稼ぎ出している商品です。この商品は売れ筋の商品ですから、販売を強化することで、さらに売れることが見込まれます。
売れ行きが落ちている商品は、販売に力を入れるように考える社長が多いのですが、販売よりも改善に力を入れた方が良いです。なぜなら、競合他社商品が出てきたり、お客様が飽きてきたりして売上が落ちていることが多いので、製品やサービスの見栄えや質などを改善して回復を狙います。
改善してしばらく様子を見て、それでも売上が回復しないのであれば、営業に力を入れずに成り行きにします。そして、赤字にならないぐらいのところで切り捨てをします。
まったく売れていない商品で、トータルで赤字のものは、何も考える必要はありません。すぐさま切り捨てです。社長が開発をした、思い入れのある商品であれば、社長が決断して切り捨てなければいけません。
オーダーメイド品の場合は、充分に利益が出て、主力商品と同等のものであるならば、販売に力を入れて良いでしょう。しかし、売れすぎたら優秀な人材の人手が取られることが多いので、積極的に売ることは避けた方が良いと思います。
利益率の悪いオーダーメイド品であれば、できるだけ販売しないで、切り捨てです。
どの商品の販売を強化すべきか、どの商品を切り捨てるべきか、社長でないと判断できない部分があるので、その力加減のバランスは社長が決めるべきでしょう。営業が苦手な社長で、営業部門を任せた人材がいるならば、その人に任せ切らないで、相談しながら決めていくべきです。
以上、社長が考えるべき経営のバランスについて述べました。このようなバランスを考えて、「我社をどのように経営していくか」を定め、経営方針を決めて、それを経営幹部に発信していく必要があります。
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この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。