従業員を何人も雇っている企業の社長であれば、経営理念に基づいて会社全体が運営され、社員がイキイキと働いている状態にしたいとお考えのことでしょう。
しかし、経営理念を策定し、浸透させた後にもかかわらず、経営理念に基づいて社員が働いてくれないことが、本当によくあります。
要するに理念経営が実現していない状態です。それどころか、社員のやる気がますます失われていく会社もあります。
社長からすると、「経営理念が浸透した」と思っていても、実際には浸透していないケースもあります。そういったケースでは、理念経営以前の問題です。
経営理念の浸透は、正しく行わないと社員のやる気が損なわれます。そして、経営理念の浸透には何年も時間がかかることもあります。
どういった状態であれば「経営理念が浸透した」と言えるのか?
最初に確認しておきたいことは、社長が「経営理念を浸透させた」とおっしゃっていることが前提ですが、「本当に浸透したのか?」ということです。
経営理念の浸透には段階があり、経営理念を正しく浸透させることによって、理念経営が実現していきます。
ときどきある社長の勘違いは、「経営理念を復唱できるようになった」ということで、経営理念が浸透したと勘違いすることです。
経営理念を社員に唱和させることは良いと思いますが、社員は経営理念が昭和できたところで、経営理念に込められた崇高な意味を理解することはありません。
社長としては、「社員が経営理念を覚えてくれた」と勘違いしているのですが、社員はしらけている状態ですので、やる気が出るどころではありません。社員は経営理念を唱和できるようになったぐらいでは、経営理念の内容を理解できるはずがないのです。経営理念という崇高なものを理解することは、社員にとってはハードルが高いため、社長が直接社員に詳しく解説すべきなのです。
社長が熱意でもって、経営理念に込められた思いや、会社が求める社員像を社員に、何度も何度も、何年も語り続けたり、解説し続けたりすることによって、少しずつ浸透していくのです。社員が経営理念を復唱できなくても、浸透させることが可能です。
要するに、経営理念に基づいて仕事ができている状態が、経営理念が浸透した状態なのです。つまり、経営理念の目指す社員像に向けて、社員の仕事能力が向上し、人間性が成長していたら、経営理念が浸透していると言えます。
経営理念が浸透していない状態で大きな目標を示したときの反動
さて、経営理念が浸透したら、次に経営理念に基づいた経営計画を立てます。経営計画に掲げられた目標は、今までとは違って大きな目標となることが多いです。
実際には経営理念が浸透していないのにもかかわらず、経営計画を立てて、それを実施に移したら、社員の人間性が失われていくことにご注意ください。
社長と社員の熱意のギャップ
経営理念が浸透したと勘違いしている社長は、「社員はやる気に満ちているだろう」と勘違いしています。ところが、社員にはやる気がありません。
経営理念を浸透させた後に、社長が取り組むことは、経営理念に基づいた経営計画を立てることです。そのような目標、とてもチャレンジングな内容です。
やる気のない社員に、チャレンジングな目標が掲げられたら、社員はどのように思うのでしょうか?
「いっちょやってやるか!」と言われることを期待していた社長とは裏腹に、社員はやる気失墜のどん底です。
このように、社長と社員の熱意には、天と地ほどのギャップがあります。
社員がやる気失墜になる理由
社員には経営理念が浸透していないので、チャレンジングな目標を背負わされた場合、社員は別の理念を掲げようとします。
その理念とは、「社長はどうせまた俺たちを酷使して儲けたいだけだ」というものです。
社員たちは、社長が経営理念を掲げた理由をはき違えて、「社員を働かせるために経営理念を作成したのだ」とか、「経営理念を作る暇があるなら、社員の仕事を手伝ってもらいたい」とかいった、冷めた考えを持つようになります。
社長が経営理念を掲げたのにも関わらず、社員は別の理由を掲げてしまうのです。
経営理念が浸透しない理由
経営理念が浸透しない理由には、社長が原因であることと、社員が原因であることの2種類があります。
ここでは、社員が原因で浸透しない典型例をご紹介いたします。
経営理念浸透の陣頭指揮を部下に依存し、社長自ら浸透に取り組まない
経営理念が完成し、浸透させる段階になったときに、経営理念の浸透を部下に依存してしまう社長がいます。
社長の言い分としては、「私は人前で話すことが苦手だから」ということなのですが、そのようなことでは経営理念は浸透しないのです。
なぜなら、経営理念には社長が死に物狂いで会社を経営してきた魂や考え方などが込められています。そのような経営理念を、部下が末端社員に解説できるでしょうか?
解説できたとしても、字面が伝わる程度で、社長の熱意は伝わりません。
経営理念を浸透させるためには、社長自らが経営理念の浸透を重要プロジェクトと認識して、プロジェクトリーダーとなって推進することをお勧めします。
経営理念の練り込みが不十分
次に考えられることが、経営理念の練り込みが不十分なことです。
経営理念の練り込みが不十分だと、社長自身が経営理念に込められた未来ビジョンの実現に懐疑的になるのです。社長が懐疑的なものを、社員が信じて実行できるでしょうか?
経営理念が完成したら、「この経営理念の内容を社員全員が実施できれば、未来ビジョンが必ず実現できる」という社長の強い確信が得られるかどうか。そして、社長ご自身に、事業活動への情熱が沸々と湧き出てくるかどうかをご確認ください。
社長ご自身で、100%の確信や情熱が出てきたかどうかを確認し、100%でなければ足りない部分を補うように、経営理念を見直して修正したり、作り直したりすべきです。
経営理念の内容がどのようなものにすべきかは、コラム「自社の経営理念は社員のやる気を引き出せる内容か?」をご参照ください。
社長だけ治外法権
論外のことなのですが、「経営理念の実施は社長だけ治外法権だ」と考える社長がいます。
「経営理念ができたので、お前らこれに基づいて仕事をしていろ。オレ様はゴルフでも行ってくる」という具合です。
社長自らが取り組まないものを、社員が進んで取り組んでくれるでしょうか。
もし、社員が進んで取り組んでくれるとしたら、その社長はとても徳の高い社長だと思います。徳の高い社長は、有言実行の人です。つまり、経営理念に掲げたことを社長自ら実行する人なのです。
経営理念に基づいて仕事をしている社員を誉めているか?
また、経営理念を浸透させるときは、社員を誉めてあげることも大事です。
社長自らが社員を誉めたり、社員のインセンティブになるような誉める仕組みを導入しないと、経営理念は浸透していきません。
なぜなら、社員からすると、自分自身が経営理念に基づいて仕事をしているのかどうかの基準がないからです。どのレベルで、どのような仕事の仕方ができたら、経営理念に基づいて仕事をしている状態なのかを教えてあげる必要があります。
経営理念の浸透は時間がかかることを肝に銘じる
先ほど、社長の中には、「経営理念を唱和することができたことを、経営理念が浸透したものと勘違いする人がいる」と述べました。
経営理念の浸透で、経営理念の学習会を2~3回開催し、経営理念の1文を暗唱することができたら、それで浸透したものと勘違いする社長がいます。社員がそのような状態に、2~3回経営理念を解説したぐらいで、なるはずがありません。
経営理念が浸透した状態とは、経営理念の内容に込められた意図を社員がくみ取り、社長に成り代わって経営判断をしたり、業務を行ったりしている状態です。また、社員の仕事能力が向上し、人間性が成長していっている状態です。
経営理念の浸透は、根気よく、何度も何度も、何年も浸透し続け、カルチャーに昇華するまで続ける必要があるのです。
朝礼をしている会社では、社長が経営理念から1つのテーマを取り上げて訓示をします。時には昼休みに社員をつかまえて、いっしょにランチしながら経営理念について語ります。
会社が何のために存在しているのか、何を目指しているのか、目的を達成するために全社員がどのように判断し、働かないといけないのかといったことを、何度も何度も、何年も伝え続けるのです。
経営理念が完成してから浸透の大まかな流れ
経営理念が完成した後の浸透の流れは、大まかには次のようになります。
- 経営理念が完成
- 経営理念研修(浸透開始)
- 経営理念に基づいた経営計画
- 経営理念に基づいた新規プロジェクト
- 経営理念に基づいた人事考課
企業の規模によっては、4番目の新規プロジェクトと5番目の人事考課が何年か先になることもあります。
2番目の経営理念研修のことを、経営理念の浸透と勘違いする社長がいらっしゃいますが、実のところ、2番目以降が、すべて経営理念の浸透なのです。
経営理念研修は、2~3回やったら終わりではなく、ずっと続けるものです。経営理念に基づいた人事考課までできるようになって、経営理念がカルチャーとして浸透していくものと思います。
以上、経営理念を浸透させても理念経営が実現しない理由を述べました。まとめると、理念経営を実現したい企業では、次のことを肝に銘じてください。
- 経営理念の浸透には時間がかかること
- 経営理念の浸透は、社長が率先して経営理念を実践し、社員一人ひとりに解説し続けること
経営理念が浸透しなくてお困りの社長、会社の未来ビジョンをぜひとも実現したい社長は、ぜひ当社の経営理念コンサルティングをご利用ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。