12月になると経営計画を立てようとされる経営者の方は多いと思います。
私は、年末年始のお客様から電話がかかってこない時期を狙って、3日間ほど集中して、長期経営計画の見直しと1年の短期経営計画を作成するようにしています。そして年始の祈願で願掛けをしています。
さて、「長期経営計画と短期経営計画のどちらを先につくるべきか?」ということですが、理論的には長期経営計画が先です。しかし、社長によっては短期経営計画を作成した方が良い場合もあります。
このコラムでは、社長である貴殿が、長期経営計画からつくるべきか、短期経営計画からつくるべきか、短期経営計画をもつくる必要がないのかを明確にいたします。
理論的には長期経営計画が先
「長期経営計画と短期経営計画のどちらを先につくるべきか?」ということですが、理論的には長期経営計画が先です。
長期経営計画の内容は?
長期経営計画とは、我が社が実現したいことを長期的な視点で考え、毎年何を実現していくのかということを計画にしたものです。
例えば、「5年後の年間の売上高をいくらにしたい」という具合です。売上高目標を立てる場合は、その売上高を実現する理由や根拠が必要です。理由や根拠は、もちろん経営理念や企業ビジョンの実現からの逆算が本来のものです。他にも、「5年後までに手形を無くしたい」とか「5年後に生産設備を一新したい」という、自社の事情によるものもあります。それらを実現するための利益目標や理想的なB/Sなどがあり、そこから逆算して売上高目標を立てます。
長期経営計画の内容は、金額や生産量などの数字は上三桁まで、内容も具体的に決める必要はありません。
例えば、新規の工場を立ち上げたい場合に、場所を細かく決める必要はありません。「この計画からすると、どの程度の規模の新規工場を、いつまでに建設し本稼働させる必要がある」という具合で良いです。具体的なことは、その時期になると事情が変わる可能性もあるからです。
新商品開発は、具体的なものは必要なく方向性だけで良いです。例えば、「A商品を成り行きで切り捨て、B商品を伸ばしていく」という具合です。会社によっては、「5年後にこの売上高を埋め合わせる、利益率がいくら程度の商品Xが必要だ」という、曖昧な計画を立てているところもあります。私はそれで良いと思います。商品Xは何になるかわかりませんが、「マーケティング分析から、リスクが低く自社の強みが活かせ、自社の規模に合った商品を2年以内に検討する」という具合です。
工場を建てることも、新商品を開発することも、計画を立てておき気にしていれば、自然と情報が入ってくるものです。
長期経営計画や短期経営計画の期間は?
期間は5年から10年といった期間で、1年後毎の経営の数字を計画します。経営の数字とは、将来の財務三表のことです。例えば、「5年後の我が社の財務三表の数字を、このようなものにしたい」といった具合です。
おそらく、その経営の数字を実現するためには、何か新商品を開発しないといけませんし、新規顧客をたくさん獲得しないといけません。また、新工場を建てないといけないかもしれませんし、従業員の育成をする体制を整えないといけないかもしれません。
そのようなことを考えて、将来の財務三表を作成します。
その長期経営計画の中から、来年1年だけの売上高目標を取り出し、その数字を12ヶ月に分割したものが、短期経営計画になります。
長期計画は最低でも5年くらいは先のことを計画してください。社長によっては、「3年後の長期計画を立てたい」という方もいらっしゃいますが、3年後はあっという間に来てしまいますから、最低でも5年計画を立てることをおすすめします。
新規事業を計画した場合、それが軌道に乗り、利益を出すようになるためには、3年ほどはかかってしまいます。新規事業を立ち上げて軌道に乗せるまでの3年計画を中期計画として、長期計画では5年や10年先に何を実現したいのかということを、お考えいただきたいと思います。
5年や10年先のことを考えられない社長は短期経営計画から
ここで、初めて経営計画を立てようとする社長は、「5年どころか3年先の我が社すら考えることができない」と思われるはずです。
長期ビジョンのイメージができることはセンス
もし、初めて経営計画を立てるときに、10年先の我が社の姿(企業ビジョン)がイメージできたとしたら、それはセンスのある人です。今までいろいろな社長の経営計画を立てるご支援をしてきましたが、そのような社長は10人に1人もいませんから、ご安心ください。
そのセンスは天性のものもあるかもしれませんし、今まで社長ご自身が培ってきた能力かもしれません。宗教観や死生観に目覚めてセンスが磨かれる社長もいますし、偉人伝を読んでいて目覚める人もいます。
自社の将来の姿をイメージできるかどうかは、先天的なセンスもありますが、後天的に磨かれて得られる部分もあります。少なくとも、「死ぬまでに、世のため人のために何を実現したいのか?」ということを考え続けることで、センスが磨かれていく傾向があります。
ただし、センスが磨かれるまでには、5年や10年といった時間がかかる場合があります。ちなみに私は、独立起業してから5~6年ほど経過してから、たまたま偉人伝を読んでいて強烈に目覚めた記憶があります。
将来の姿がイメージできない社長はどうしたらいいのか?
未来についてイメージできない社長に、「将来に何を実現したいですか?」と訊ねることは、ある意味でナンセンスです。
そういった社長は、経営計画を立てることに慣れていただいて、社長の実力が増していき、自信がついてきたら、3年先、5年先、10年先とイメージしていただくようにしています。
ですから、ほとんどの社長は1年間の短期経営計画をつくることから始めると良いと思います。そして、10年先をイメージできる社長は、イメージできる最長の年数から逆算して長期経営計画、短期経営計画と立てていきます。
センスを磨く訓練「大ぼら吹き大会」
ちなみに、私どもと提携している一部のコンサルタントは、30年~100年の経営計画を立てる訓練を、2~3年に1回開催しています。その訓練では、「IngIng流の経営理念の立て方を世界標準にする」とか「ニューヨーク支社を設立する」といった目標を立てます。ある意味で「大ぼら吹き大会」になり、楽しい訓練です。
その目標は、期限を決めませんからノルマでもありませんし、「できたらいいな」というものですから、それが実現しなかったとしても苦痛にはなりません。しかし、その実現に向けて何かを始めるわけですから、確実に一歩を進めることになります。
どのような大ぼらでも、「どのようにしたら実現できるのか?」が大切であり、打つ手は無限(牟田学先生のお言葉)なので、方法はあるはずですから、誰もその大ぼらを否定することはありません。大ぼらに誰もが肯定してくれて、どうやったら実現できるのかを考えてくれますから、ワクワク感が止まらない大会です。
もし、大ぼら吹き大会を経験した社長がいらっしゃいましたら、経営理念コンサルタントが個別にスポット対応させていただきます。
短期経営計画の作成方法
短期経営計画の作成方法について解説いたします。結論は、「具体的」です。
短期経営計画の内容とは?
短期経営計画の内容は、零細企業では主に販売計画と方針書で構成されます。小企業から中企業では、利益計画と資金運用計画、方針書で構成されます。
販売計画とは、「毎月、何をどれだけ売るのか」を数字で表したものです。1年間の売上高の目標を12で割って、毎月に振り分けます。
資金運用を厳しく計画している企業であれば、販売計画よりも、毎月どれだけの利益を生み出すのかを計画した利益計画の方が良いと思います。利益計画から逆算して販売計画が立てられます。
自社に複数の事業カテゴリがある場合には、カテゴリ毎で利益率が異なるため、売上高をカテゴリ毎に分配して計画を立てるべきです。例えば、塗料メーカーであれば、施工と塗料販売で分けるべきです。
布団の販売などのように、季節変動があるものは、毎年の傾向で振り分けてもかまいませんが、1年後の結果は同じ売上高になるので、毎月に当分に分けてもかまいません。松下幸之助先生は、石油ファンヒーターの売上高の目標を12等分し、夏も冬も毎月同じ販売目標にしたと言われています。
方針書は、方針や具体策が書かれたものです。この方針のことを短期経営方針といいます。販売計画はあっても、具体的な方針書がなければ、販売計画は絵に描いた餅です。方針書に従って事業活動をすることによって、販売計画が実現されるのです。
方針書に記載される具体策とは?
方針書の具体性について、もう少し詳しく解説いたします。具体的に、「いつ、だれが、何を、どこで、どれくらいするのか?」ということが明確にされなければ、計画が実現できません。
例えば、月次の売上高目標を1,000万円と定めたとします。その1,000万円を売り上げるためには、販売をしなければいけません。業企業までの販売は社長が主となりますから、具体的には「社長が、毎月既存のお客様を20社訪問し、ホームページから毎月5社からお問い合わせを得て、毎月10社から平均100万円の受注をいただく。既存のお客様には、年始にご挨拶廻りで配るカタログを今月中に作成してDMを送って・・・」という具合です。
このような具体的な方針を12ヶ月分作成して、「そのような活動を繰り返して、本当に毎月1,000万円の売上高になるのかどうか?」と自問自答してください。「来年末には必ず1億2,000万円の売上高を実現できる」と思えるような経営方針を立てるのです。
これを方針書としてまとめ、短期経営計画が完成です。
方針書にまとめられた内容は、本当に販売目標を達成するのかどうかは、社長のマーケティングや財務のセンスにかかってきます。来年からは月次決算をして、実現度合いから反省をして、経営方針を変更して社員に指示を出していくと良いでしょう。そうして社長のセンスが磨かれていきます。
堅実な計画にすべきか?チャレンジングな計画にすべきか?
短期経営計画を立てるときには、現実に即した堅実な計画を立てようとする社長と、どう考えても実現が不可能にも思える内容の計画を立てようとする社長がいらっしゃいます。
「どちらの計画が良いのか?」ということですが、どちらも良くありません。そもそも、その考え方が良くないのです。
前者の社長は、例えば「わが社の強みからして、来年はこれだけの売上高を見込むことができる。」という現状を積み上げていった計画を立てます。そこには、「わが社をどのようにイノベーションさせていきたいか?」というチャレンジングな目標はありません。
また、後者のように実現が不可能に思えるような計画を立てて、「自分や社員を奮い立たせたい」とお考えの社長もいらっしゃいます。しかし、その計画の具体策が示され、それを実施できるかどうか、社長ご本人が本心から確信できていたら良いと思います。社長ご本人が確信できていないのに、社員が実施できるはずがありません。
それらの社長への提案は、前期の10%増しはいかがでしょうか?
短期経営計画を立てることが苦手な人は?
今まで短期経営計画を立てたことのない社長は、従業員数が数名までの小さな会社のことと思います。
苦手でも短期経営計画をたてるべき社長は?
社員を1人以上雇用されている社長は、短期経営計画を立てることが必須だとお考えください。ですので、社員を雇っていらっしゃり、短期経営計画を立てることが苦手な社長は、できれば当社のコンサルティング支援をお受けなられることを、おすすめします。私がワン・オン・ワンで支援させていただきます。
私のご支援を受けないで「初めて計画を立てたい」とお考えの方は、少しずつ計画を立てることに慣れていっていただきたいと思います。経営計画を立てる本を読んでも、難しいし、判らない用語がいっぱい出てくるし、自社のケースに置き換えて考えるようになるのに時間がかかり、経営計画をすぐに立てられるようにはなりません。何度も何度も繰り返し読むことで理解が深まり、経営計画を立てられるようになりますが、時間がかかり過ぎてしまいます。
具体的な指示が出しにくい社長の場合
経営計画を立てても、社員に具体的な指示が出せない社長もいらっしゃいます。具体的な指示が出せない場合は、要望を出すようにしてください。
全社員に具体的な指示が出せない場合には、社員一人ひとりに、「1日1,000円分のプラスαとなるスキルアップ、工夫、進歩、変化をしてもらいたい」と依頼すると良いと思います。
その内容は、社員それぞれに何でもかまいません。「本を読んで勉強をした」とか、「工夫をして生産性が少し上がった」とか、「GDPの意味が解った」とか何でも良いです。無用の用でも良いのです。
ちなみに、チームコンサルティングIngIngのコンサルタントには、「1日、最低でも10,000円の成長をしてもらいたい」とお願いしています。
短期経営計画すら立てなくても良い社長とは?
短期経営計画すら立てなくても良い社長の条件があります。それは、次のすべてに合致する社長のことです。
- 個人で経営されている
- どれだけの売上高を毎月上げるべきか感覚でつかんでいる
- 会社の成長を考えていなし、自分や家族が食べていけたらそれで良い
例えば、個人で経営コンサルタントをされている方であれば、毎月の売上高が60万円ほどあれば、可処分所得が30万円以上得られ、生活が充分に成り立つことと思います。すると、月平均の売上高が60万円を超えるように運営をしていけば良いと思います。つまり、その毎月60万円の売上高の実現が販売計画になります。
このように、自分一人がどのような活動をしたらどれだけ売上高を上げることができ、自分の生活が成り立つのか、これが感覚的に判っている人は、短期経営計画を立てる必要はありません。
以上、長期経営計画と短期経営計画について、どちらを先に作成したら良いのか。また、それらの経営計画を作成すべき社長はどのような社長なのかを解説いたしました。
長期経営計画や短期経営計画をつくりたいとお考えの社長は、ぜひ当社にご相談ください。また、計画を立てることが苦手な社長は、「小さな会社の社長のためのセミナー」にご参加ください。
このセミナーでは、毎月1回、1年間かけて異なるテーマで、小さな会社の社長が考えるべきことをおおよそすべて網羅した内容となっています。このセミナーの内容を把握することで、経営計画が立てられるようになることを、1つのゴールとしています。
オンラインにて格安な料金でお受けいただけるので、ぜひご参加ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。