5Sとは
5Sとは、一般的に「整理/整頓/清掃/清潔/躾(習慣)の各言葉の頭文字、アルファベットで構成される言葉」です。
確かにその通りなのですが、それは単に「5S」という言葉、名前の由来を説明しているに過ぎないと思います。5Sをビジネスの中に導入する場合には、「5Sには役割や目的がある」ということを忘れてはなりません。そこで私は、5Sを「5S改善活動」と言う場合もあります。
私は、5S活動を効果的ならしめるため、動態的(ステップ的)な理論として、「5Sの3段階理論」を提唱し、自ら、製造業や物流業など種々のお客様と共に5S活動を実践してまいりました。この理論は、実践を通して凝縮された理論の1つです。
5S活動を成功に導く「5Sの3段階理論」とは
「5Sの3段階理論」はその名のごとく、3段階で5S活動を導入していきます。段階ごとにご説明いたします。
1段階目、職場環境をスッキリさせる
「5Sの3段階理論」の1段階目が「職場環境をスッキリさせる」ことです。この目的、効果は、職場ではたらく従業員の皆さんが、
- 気分が、すがすがしくなる。
- ポジティブなマインドとなる。
- さらには、お互いに他人を思いやることができるようになる。
ひいては、美しい職場に変貌します。
職場環境がスッキリして美しく変貌した工場や職場にお客様が見学にみえて、思いやりのある従業員と接した場合、大変良い印象を持たれることでしょう。いわば、工場がショーウインドウに化します。
こういった、お客様の印象や評価に関連するものとして、故松下幸之助翁の有名な逸話があります。工場を見学に来たのですが、その前にトイレによりました。床や壁や鏡など汚れやチリ1つない状態であるばかりか、便器までもその裏側などの細部に亘り、ピカピカに掃除されていたのです。そこで、「よし、わかった。もう工場は観るまでもないでしょう」と、居合わせた社長や工場長などに告げ、気分よく帰られた、といった話です。ここでは、仕事の基本精神や基本動作の大切さが述べられています。
職場環境をスッキリさせることで、仕事の基本精神や基本動作を身に付けるという、5S活動のベースができるわけです。
2段階目、改善につながる問題点を見える化する
しかし、この段階でストップしていては、これ以上の成長はあまり期待できません。職場が美しくなり、従業員の皆さんがお互いに思いやりを持つようになっただけです。企業の成長のためには、常に、改善や改革といった創造活動につながらなければなりません。
そこで、2段階目が「職場をすっきりさせることで、改善につながる問題点を見える化する」ことです。問題点が目で見えるようになれば(視認性の向上)、あとは、「5回のなぜ?」により、真因や本質を究明し、対策することで問題点は解消されます。
もちろん解消された問題が元に戻る歯止めとして、仕事の手順・方法などを書き出した張り紙を用いるなどの標準類に反映し、教育訓練などにより、新たな知恵を従業員で共有化することはもちろんです。
このように、当たり前のことを行うだけで、製造業や物流業の会社を成長させられます。ただ、そうは言っても、数多くの工場を経験してきたなかで、この2段階目が、意図的に、しっかりやられているのは、まれにしか見られませんでした。というか、「5Sがいいね」といわれる工場でも、「5Sはきれいにすること」という初期段階で止まってしまっている、1段階目で停止している会社がほとんどのようです。
この2段階目が工場に浸透し、日常的に改善活動が行われるようになることを是非めざしたいものです。もちろん、5S先進企業では、この2段階目まで、しっかりやられているとは思います。
3段階目、「5Mベースの5S」理論を導入する
続いて最後のですが、3段階目は「5Mベースの5S」理論と私が呼んでいるものです。これこそ実践の中で得られた方法です。すぐれものですが、シンプルなものです。以下、「5Mベースの5S」理論をご紹介いたします。
「ものづくり」や「事務仕事」といったあらゆる仕事には流れ(フロー)があります。デザイナーの仕事や、仕事とはいえないかも知れませんがアート(芸術)にもあてはまると思います。アートにも、「知識創造サイクル」(SECHIモデル)という基本手順や流れがあると言えます。この流れは、工場でいえば生産ラインのことです。以下、工場の生産ラインで「5Mベースの5S」理論を説明したいと思います。
工場の生産ラインは、部材の受け入れから、部品加工、段取り、運搬、組み立て、仕上げ、検査、出荷など、多くの工程(ラインを構成する最小単位のこと)から成り立っています。工程はプロセスとも呼びます。たとえばプレス加工の工程があります。
各工程には、必ず「5M」といった5つの要素が存在します。それは、
- MAN(人)
- MACHINE(設備、治工具)
- MATERIAL(素材/副資材)
- METHOD(方法/手順)
- MEASURING(計測)
の5要素で5Mです。最近、MANは、差別用語ということで、私はなるべく、PERSONやPEOPLEをつかうようにしています。また、MEASURING(計測)は、各工程のアウトプットを評価するものですが、一般的には、Q(品質)、C(コスト)、D(納期/スピード)、S(安全)、M(モラール)、E(環境)、H(健康/衛生)などがあります。
これらの5Mの内容は、生産ラインでどういった製品(成果物/顧客価値)を生み出すかによって、フローや工程は大きく変わりますので、5Mも大きく変わってきます。
「5Sは、環境整備である」と、経営コンサルタントの故一倉定氏は言われていましたが、私は、この5Mのことを、狭義での環境と位置づけ、5S活動の対象としています。これが、「5Mベースの5S」の意味です。
もちろん、日常的に行う5S、特に先述の1段階目や2段階目の5Sの場合では、職場環境全体の、広義の環境を対象にしています。つまり、5Sの環境には、狭義、広義の2つがあるといえます。この「5Mベースの5S」では、狭義の環境、5Mを対象にしています。
「5Mベースの5S」を応用し、実際のクライアント様の種々のニーズに応じて、活用してきました。
「5Mベースの5S」理論の5つの実践方法
「5Mベースの5S」で工場や職場を改善していくために、以下に示す、5つの実践方法を開発してきました。これらを体系化したものを「5Mベースの5S」理論と呼んでいます。
一般的な5Sと大きくことなることは、問題やニーズに応じて、ライン全体の中のどの工程がもっとも重要な工程か、私は「本丸工程」と呼んでいますが、この本丸工程にフォーカスし、5S活動のエネルギーを集中させます。
5S活動で工場が美しくなっただけでも意味はあります。しかし、本来の改善の目的はより多くの利益を生み出す工場に成長させることです。そういった意味で、目的志向的、戦略的であり、効果的・効率的で、いわゆる「儲かる5S」を目指すものです。
5つの実践方法を簡単に述べると、
1. 問題点解決型
設備故障、品質不良、クレーム、人身事故などの問題を、効果的・効率的に解決し、従業員や顧客に迷惑をかけない工場にする。
2. プロセスイノベーション型
リードタイム短縮による大幅生産性向上を目指し、顧客ニーズに応えられる工場にする。
3. プロダクトイノベーション型
新しいプロダクトやサービス、新顧客価値に対応する新たなラインを再構築し、将来性のある商品やサービスを提供できる体制を整える。
4. デジタル構造改革型/DX型
IoTやAIを駆使しすることでデジタル化したラインを再構築し、より高品質・低価格な生産体制を整える。
5. 創造型
「5ゲン7カンループ」を駆使することで、世にないラインを構築し、業界トップを目指す。
今回は、5つの実践方法のリストアップまでとし、詳しくは次回以降のコラムにて、状況により適宜ご紹介していきたいと思っています。
この記事の著者
製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。