なぜかFMEAが導入できない企業へ
―“できない理由”の正体とは―

FMEAの導入がどうしてもできない企業様のご相談を聴いていると、「FMEAをやらなければいけないことは分かっている」と多くの企業のご担当者様が、そうおっしゃいます。FMEAが正しく導入できると、多くのメリットがあります。
FMEAを導入したいと考えている企業のご担当者様は、次のような思いを持っています。
- 再発防止を徹底したい
- 設計品質を上げたい
- 顧客からの信頼を高めたい
その思いは本物であり、真剣にお取組みのことと思います。しかし実際には
- 会議の時間が確保できない
- 人が足りない
- やり方が分からない
- 担当者の覚えが悪い、時間がかかる
- 途中で止まってしまう
こうした声も少なくありません。FMEAを導入することは、帳票を作成することが主な作業だと思っている人が少なからずいらっしゃいます。確かにさまざまな帳票を作成するのですが、それはFMEAの本質ではありません。
この記事では、FMEAの導入が進まない理由と解決法を解説します。FMEAを正しく導入したい企業様は、ぜひ最後までご覧ください。
FMEAの導入が進まない5つの理由
FMEAを導入したくても、なぜか前に進まない。その背景には、いくつかの“構造的な理由”があります。それは決して、能力不足や努力不足ではありません。
① 忙しすぎる組織
中小企業の現場は、本当に忙しいし、経営層も忙しく時間が取りにくいことが現状です。設計変更への対応や納期調整、顧客からの急な要求、クレーム対応。そういった緊急性の高いものが毎日のように飛び込んできます。
目の前の業務に追われる中で、「将来の不具合を考える時間」を確保するのは簡単ではありません。
FMEAの活動は、クレームや故障、事故といったものを“予防する活動“です。しかし、予防は、現在起こっているトラブルからすると緊急性が低く見えます。その結果、現場だけでなく経営層も「今はそれどころではない」と後回しになってしまうのです。
けれども、本当は逆です。忙しいからこそ、再発を防ぐ仕組みが必要なのです。予防ができれば、クレームや設計変更などが減り、納期調整や急な対応にも時間が取りやすくなります。現場のスタッフたちも気持の余裕も出てくることでしょう。
② 何から始めればよいか分からない
FMEAの書籍や資料は数多くあります。当社でも、FMEAの導入方法をコラム「FMEA作成手順を徹底解説」でご紹介しています。けれども実際に始めようとすると、
- 項目が多すぎる
- 評価点の決め方が曖昧
- どこまでやればよいか分からない
といった壁にぶつかります。項目が多すぎると、何から始めたら良いのか分からなくなり、延々と終わりの見えない作業にぶつかります。
結果として、「とりあえず様式だけ作った」「過去の資料を真似した」、という状態になりがちです。FMEAは形式から入ると、必ず形骸化します。FMEAの導入は、
- 過去の失敗を振り返る
- 設計意図を確認する
- どんな失敗があり得るか対話する
という“思考のプロセス”が中心となることで、部署間の連携ができ、人材を育成することができます。しかし、その入り口が分からないと、FMEA導入の大きな障壁になります。
③ データが整理されていない
FMEAの導入のスタートは、過去の情報を収集することから始めます。
- 過去のクレーム
- 不具合発生履歴
- 設計変更記録
- ヒヤリハット情報
こうした情報が重要になります。FMEAを導入しようとしている企業では、すでにこういった情報を、資料やアーカイブとして共有しているものが存在していると思います。
しかし実際には、
- 情報収集の仕組みが不完全
- 情報が分散している
- 記録が残っていない
- 担当者の記憶に依存している
というケースが少なくありません。
FMEAを構築する上での土台となるデータがなければ、議論は推測に頼ることになります。「たぶん大丈夫だろう」、という言葉が増えたとき、FMEAは弱くなり、機能しなくなります。
④ 部門間の壁
FMEAを機能させるためには、設計だけで完結しません。製造、品質保証、購買、サービスなど、全部門での連携が欠かせません。それぞれの視点があってこそ、本当のリスクが見えてきます。しかし、多くの中小企業では縦割りの組織になっています。経営層が「いやいや、当社は横のつながりが柔軟に対応するように指導している」と言っていても、部門間での交流がほとんど無い企業もあります。
- 設計は設計
- 製造は製造
- 品質は品質
という縦割りのままでは、有効な議論は生まれません。
「それは設計の問題」「それは製造の問題」、こうした言葉が出る組織では、FMEAは進みません。また、FMEAが導入できても、不完全なものなので効果が出ないため、利用されなくなります。
⑤ 経営層の優先順位
FMEAを構築し定着させるには、
- 全部門から担当者を人選すること
- 時間の確保
- 教育への投資
- 対策費用の判断
が必要です。これらは現場だけでは決められません。経営層の判断が求められます。
もし経営層が、「まずは売上や利益を優先」という姿勢だけであれば、予防活動は後回しになります。経営層の経営判断は、売上や利益の優先順位が高くなることは承知しています。ある一定の事業規模までは売上や利益が最優先とも言えます。
しかし、一定以上の規模になると、知名度が上がってくるので、クレームや事故の再発が命取りになることが多くなります。再発による損失や信頼低下は、最終的に経営に直結します。仕組みが整っていない中で売上を増やすと、事故やクレーム処理も増え、その対応に追われることも多いのです。そうなると本末転倒です。
FMEAを正しく導入すると、事故やクレームを未然に防ぐことができるようになるので、FMEAはコストではなく、未来への投資とお考えください。経営層にこの認識が共有されなければ、前に進みません。
“できない”の正体は準備不足ではなく構造
ここまで見てきたように、FMEAを導入できない理由は、FMEA担当者個人の問題ではありません。組織構造の問題であることがほとんどです。
忙しさ、情報管理、対話文化、優先順位、これらが絡み合い、FMEAによる仕組みの構築が実現できなかったり、効果の薄いものになったりしているのです。
「ではどうしたらよいのか?」ということですが、答えは意外にシンプルです。一言で「小さく始めること」です。
- いきなり全社員を巻き込まない
- いきなり全製品に適用しない
- 完璧な様式を作らない
また、経営層がFMEA導入の位置づけを明確にすることです。まずは、
- 実際のクレーム事例を1つ選ぶ
- 「なぜ事前に気づけなかったのか」を考える
- 簡易的な形で故障モードを書き出す
これだけでも十分です。
完璧さよりも、対話を重視し、FMEAに慣れていき、考える力を養う。FMEAは組織が成長していく仕組みです。最初から完成形を目指す必要はありません。FMEAをミニマムスタートさせ、一部で定着し、効果を確認しながら、適用範囲を広げていけばよいのです。
FMEAは“できる企業”だけのものではない
FMEAは自動車や医療の分野の大企業が多く導入しています。そのため、中小企業の経営会議では、「うちはまだ早いのではないか」と意見が出ることもあります。そう感じられる企業こそ、実は伸びしろがあります。なぜなら、
- 課題を自覚している
- 改善意欲がある
- 変わりたいと思っている
からです。FMEAは、大企業だけの道具ではありません。むしろ、人材が限られている中小企業にこそ、知恵を蓄積する仕組みが必要です。
FMEAを導入して目指すものとは?
FMEAの目的は、帳票を完成させることではありません。
- 再発を防ぐこと
- 設計思想を共有すること
- 若手を育てること
- 組織を強くすること
FMEAはそのための“道具”です。
FMEAを導入できない理由があるなら、その理由を一つずつ整えていけばよいのです。焦らなくて構いません。重要なのは、組織の成長を止めないことです。FMEAを導入することは、全社で自社の製品・サービスが何のために存在するのかを考える機会になります。若手の考える力を育て、組織を強くすることができます。
まずは現状を知ることから
もし貴社が、「FMEAを導入したいが、どう進めればよいか分からない」そうお感じでしたら、まずは現状診断から始めてみませんか。どこが整っていて、どこが不足しているのか、FMEAを導入すべきタイミングかどうか、共に整理するところから、ご支援いたします。
FMEAは、できる企業だけが使う道具ではありません。準備を整えた企業が、確実に成果を出す道具です。そして、会社規模の成長を考えているメーカー企業であれば、ぜひともFMEAの導入にチャレンジしていただきたいと思います。その準備を、一緒に進めていきましょう。
FMEAセミナーとコンサルティングのご案内
当社では、FMEA導入個別セミナーを随時受け付けています。セミナーは、入門編と実践編、応用編の3種類ご用意しています。
- 入門編:FMEAとは何か、メリットや導入方法などを解説します。
- 実践編:サンプル事例(食品製造と部品製造の事例)にてFMEA導入の体験をしていただくワークショップです。
- 応用編:御社の失敗事例を元に、ワークショップを開催します。実際のクレーム事例を題材に、FMEAの考え方を体験していただく。難しい理論ではなく、現場で使える形でお伝えします。
その後に、継続的にFMEA導入を支援するFMEAコンサルティングも行っています。FMEAコンサルティングでは、ミニマムスタートを基本としています。まずは、一部の部門や製品にてFMEAを導入し、経営層や品質管理担当がFMEAに慣れ、FMEAに対応した考える力を身につけてから全社に対応させていくように導入支援をしています。
この記事の著者

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。
