―本当のメリットは「不良削減」だけではありません―

この記事をご覧になられている方は、FMEAはどういったものなのか、調べている人だと思います。
FMEAをネット検索などで調べることで、「どうやら品質改善や未然防止らしい」とか「書類やツールを作成するらしい」ということはご存知のことと思います。
FMEAについて調べている人からよく訊かれることは、「FMEAを導入すると、どんなメリットがありますか?」という質問です。
この質問に対して、多くの場合、
- 不良率が下がる
- 再発防止が徹底できる
- 品質トラブルが減る
といった一般的な答えが返ってきます。
もちろん、それは正しい効果です。しかし、もしそれだけだとしたら、FMEAは単なる品質改善ツールにすぎません。
本当のメリットは、もっと深いところにあります。FMEAを導入して、この本当のメリットを享受できないと、FMEAを正しく活用できなかったり、定着しなかったりします。すると、せっかく費用と時間をかけてFMEAを導入しても、ムダに終わってしまいます。
この記事では、FMEAの本当のメリットを解説しつつ、導入するときの障壁の高さもあり、導入決定者の意思の強さも求められるので、合わせて解説します。
メリット1.「起きてから対応」から「起きる前に考える」組織体質へ
多くの組織では、クレームや不良などの問題が起きてから、その原因調査や対策に動きます。
- クレームが発生する
- 原因を調査する
- 対策を打つ
これは重要な活動です。しかし、これだけでは常に“後手”になります。
FMEAを導入すると、組織の視点が変わります。「何が起きるかもしれないか?」という問いが、設計段階から自然に出るようになります。設計段階では、当然ながら製品としてリリースした後に起こりうる問題を予想しているはずです。FMEAを導入することで、この活動を仕組み化できます。
問題は起きてから考えるのではなく、起きる前に考えること。この視点の転換は、単なる手法の導入以上の意味を持ちます。それは、未来志向の組織への転換です。この転換から、他にもさまざまなメリットが得られます。
メリット2.属人化からの脱却
中小企業のメーカーでは特に、「この製品は○○さんしか分からない」というような、品質管理が属人化していることが珍しくありません。ベテランの経験は、会社にとって大きな財産です。しかし、それが言語化されなければ、経験を生かしたり引き継ぐことができません。
FMEAの議論では、
- どこが危ないのか
- なぜその評価なのか
- 過去にどんな事例があったのか
を言葉にします。このプロセスを通じて、暗黙知が形式知へと変わります。結果として、
- 設計思想が共有される
- ノウハウが蓄積される
- 担当者が変わっても品質が維持される
という状態に近づきます。これは、企業の持続性を高める大きなメリットです。「見て覚えろ」とか「技術は盗め」という時代は終わりました。また、ベテランの中には、「せっかく自分が苦労して得た経験だから、手放したくない」ということで、秘匿したがる人もいます。FMEAは、そういったカルチャ―の継続を止める機能もあります。
メリット3.部門間の対話が生まれる
FMEAを導入するときに、製品の設計から顧客価値を得るまで、全体的に考えて構築します。そのため、FMEAの導入は品質管理の担当者一人ではできません。設計、製造、品質保証、場合によってはサービス部門も含め、多様な人材で協力し合い、広い視点が必要です。
その議論の中で、「製造ではこう見える」「品質の立場ではここが気になる」といった意見が交わされます。この議論の中で、今まで思いもしなかったような発見が得られることを、各部門の担当者が感じます。
普段は接点の少ない部門同士が、同じテーマで議論する。これが積み重なると、組織の風通しが変わります。そして、仲間意識や一体感などが生まれ、社風が一致団結するように変わっていきます。
FMEAは、部門間の対話を促進する装置でもあるのです。
メリット4.若手育成の場になる
FMEAの会議は、若手育成の場でもあります。その流れをつくるのが、次の2つの大きな問いです。
- なぜそのリスクが高いのか
- なぜその対策が必要なのか
議論を通じて、設計の考え方が伝えられます。
若手にとっては、「不具合が起きた後の話」ではなく、「起きる前に考える力」を学ぶ機会になります。若手育成と言っても、誰かが何かを教えることもありますが、若手が顧客目線、他の部署の目線に立って考え、新しい発見を得て教育されていきます。
これは単なる品質活動ではありません。思考力を育てる場です。そして、部門を超えた思考を持つようになり、品質管理担当者候補や経営幹部候補を育てます。
メリット5.再発防止が“文化”になる
「再発防止を徹底したい」。多くの中小企業がそう願っています。しかし、報告書を書かせたりルールを変更したりと、いろいろと手を打つものの、クレームや不良の再発が続いていると思います。報告書やルールだけでは、文化は根付きません。これは、経営理念を毎日唱和していても根付かないことと同じです。
文化とは、日常の会話の中にあるものです。
- それ、FMEAで検討した?
- この前の事例は反映されている?
こうした言葉が普段から自然に出るようになったとき、再発防止は文化になります。FMEAは、その文化を育てる仕組みです。急成長しているすべてのメーカーは、会社独自の言葉を持っています。FMEAの導入によって、その言葉を生み出し、文化にします。
メリット6.設計の質が上がる
FMEAを導入し、繰り返して取り組んでいる企業では、設計段階での次のような配慮が増えます。
- 安全率の設定
- 誤使用への配慮
- 保守性の検討
- 部品選定の慎重さ
これらのことは、設計段階では当たり前のことですが、この当たり前が仕組みでできていないために、問題が後手になってしまいます。FMEAを導入することで、これらが自然に組み込まれます。その結果として、
- 後工程の手戻りが減る
- 設計変更が減る
- トラブル対応コストが下がる
- 顧客満足度が上がる
という効果につながります。社内で問題が発覚した場合は、まだコスト増だけで済みますが、問題が外部で発生した場合には信用問題にもなりかねません。設計品質は、製品の信頼そのものです。
メリット7.経営への好影響
品質問題は、最終的に経営課題になります。
- クレーム対応コスト
- 信頼低下による受注減
- ブランド毀損
FMEAの導入によって、問題の発生を予知でき、その予防力が高まれば、これらのリスクを抑えることができます。さらに、
- 技術資産が蓄積される
- 若手が育つ
- 部門間連携が強化される
これらはすべて、企業価値を高め、企業を継続的に成長させる要素です。FMEAは現場の活動であると同時に、経営基盤を強化する仕組みでもあります。そのようなことで、FMEAの導入は品質管理部だけのものではなく、経緯層による「会社をより貢献できるものにしたい。高い価値が提供できるものにしたい」という決意でもあります。
メリット8.小さな成功が自信を生む
FMEAは、最初から完璧である必要はありません。小さなテーマから始め、実際にリスクを未然に防げた経験を積むことが大切です。
これは自転車に初めて乗ることと同じで、自転車の練習をするために、いきなり長距離のサイクリングを計画することはありません。まずは、自宅の前の道路で、安全な場所でテストし、少しずつ運転距離を伸ばしていきます。
FMEAの導入も同じです。最初から、自社の全製品、全ラインで導入するのではなく、テストケースでミニマムスタートさせ、少しずつ成功体験を積み、スタッフの育ちを見ながら拡大させていきます。誰しも初めて取り組むことは時間がかかるものです。FMEAを導入し、トライ&エラーを繰り返しながら慣れていって、スタッフが育ってから、適用範囲を広げていくことが大切です。
その成功体験が、組織の自信になります。「やれば変わる」、その実感が広がると、活動は自然に拡大していきます。
FMEAを導入する本当のメリットまとめ
FMEAの本当のメリットは、不良率の数値改善だけではありません。
- 未来を想像する力が育つ
- ベテランの経験が資産になる
- 部門間での対話が増える
- 次世代の若手が育つ
- 組織が強くなる
これらすべてが積み重なって、企業は進化します。そして、これらの本当のメリットを享受するためには、経営層がFMEAのメリットを理解し、目的を明確にし、導入に決意を示すことが大切です。そして、ミニマムスタートしながら、正しく導入することです。
FMEAは強力な道具です。しかし、目的を見失えば形骸化します。帳票作成が目的になれば効果は出ません。
FMEAの導入を考えたときに、最初に行うことは、「何のために導入するのか」を明確にすることです。
- 再発防止を文化にしたいのか?
- 設計力を高めたいのか?
- ベテランの知識を共有したいのか?
- 若手を育てたいのか?
- 全社的にコミュニケーションを取って連携ができる組織にしたいのか?
- 会社の信頼度を高めたいのか?
もちろん、これらすべてが目的であってもかまいません。目的がないとFMEAの導入が設計や製造の現場を混乱させて終わる場合も考えられます。目的が定まれば、FMEAは力を発揮します。
未来を守る仕組みとして
中小企業にとって、一度の大きなトラブルは、製品を使った人が怪我をするなどの重大事故です。人身事故一つだけで、企業が消し飛ぶような事態に発展することもあります。だからこそ、未来を守る仕組みが必要です。FMEAは、そのための一つの選択肢です。
派手な成果はすぐには出ないかもしれません。しかし、根気よく継続して取り組めば、確実に組織を強くします。FMEAの導入を検討している企業の多くは、上記のようなメリットを考えてのことではありません。もし御社が、
- 再発防止を定着させたい
- 設計力を高めたい
- 組織を学習体質にしたい
- 技術の属人化を解消したい
- 故障やクレームは少ないが全社をあげて何かに取り組み、活気をつけたい
このようなことをお考えでしたら、まずは小さな一歩から始めてみませんか。
当社では、FMEA導入個別セミナーを随時受け付けています。セミナーは、入門編と実践編、応用編の3種類ご用意しています。
- 入門編:FMEAとは何か、メリットや導入方法などを解説します。
- 実践編:サンプル事例(食品製造と部品製造の事例)にてFMEA導入の体験をしていただくワークショップです。
- 応用編:御社の失敗事例を元に、ワークショップを開催します。実際のクレーム事例を題材に、FMEAの考え方を体験していただく。難しい理論ではなく、現場で使える形でお伝えします。
それぞれのセミナー時間は、ご担当者様の力量に合わせてカスタマイズいたします。
その一歩を、共に進めていければ幸いです。
この記事の著者

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。
