会社のお客様が一社しかない、もしくは売上高の大部分を一社に依存している状態のことを、「一社依存」と言います。
一社依存になりやすい企業は、個人企業から零細企業に多いと思います。小企業でも、一部には一社依存のところもあります。一社依存は倒産のリスクが高いので、当社で開催している社長向けのセミナーでも、強く戒めているものです。
一社依存には、顧客の一社依存と仕入先の一社依存があります。どちらの場合も経営を危うくするリスクとなります。
このコラムでは、一社依存のリスクについて述べたいと思います。
一社依存とは?
一社依存には、「顧客の一社依存」と「仕入先の一社依存」があります。
顧客の一社依存は、売上高のすべて、もしくは大部分を一社に依存している状態です。仕入れの一社依存も同様です。
顧客数が数社あったとしても、メインとなる顧客の売上高が50%を超えているようであれば、一社依存と言えます。
一社依存していない状態は、せめて2社のメインクライアントや取引先を持ち、1社当たり1/3未満の取引金額に、できれば30%以下の取引金額にすべきです。
どういった企業が一社依存になりやすいのか?
顧客と仕入先の一社依存になりやすい企業のパターンをご紹介します。それに合致する場合は、ご注意ください。
顧客の一社依存
顧客が一社依存になってしまうパターンは、主に次の3種類です。
- 営業力が低い
- 一社からの収益で満足している
- 子会社
営業力が低い会社では、集客ができないのですが、たまたま集客できた一社で会社が成り立っている状態です。そちらの対応が忙しくなり、営業をしている時間がないので、一社依存のままでいます。
一社からの収益で満足している会社もあります。営業力や開発力がなく、一社からの収益で会社が成り立っている状態が続いています。
子会社の場合も一社依存になりがちです。その一社とは親会社です。
どれも、お客様一社から切られてしまったら、自社は倒産危機に直面してしまいます。
仕入先の一社依存
仕入先とは、原材料や製品を仕入れる取引先のことです。製造業であれば、原材料を仕入れて加工し、それを販売します。その原材料を仕入先から仕入れます。仕入先の一社依存も、経営のリスクになります。
仕入先が一社依存になりやすいパターンは、次の通りです。
- 仕入先との長い付き合いがある(特に先代からの付き合い)
- 原材料を調達する子会社を持っている
- 仕入先が業界で一社しかない
どれであれ、仕入先から仕入れられなくなったら、自社は経営危機に直面します。しかし、どれも顧客の一社依存よりは何か手を打つ方法があります。
以下、顧客一社依存のリスクと回避方法についてご説明します。
顧客の一社依存のリスク
顧客が一社依存の場合は、その顧客から取引を切られてしまったら、倒産の危機です。
営業力が低い企業の場合
個人企業や零細企業では社長の営業力がそのまま会社の営業力となります。営業力が低い会社は、社長は営業が苦手です。
そこで、「社長である自分が営業力を身に着けないといけない」と奮起すれば、まだ良いのですが、営業職のベテランだと称する人物を雇うことがあります。営業職のベテランは、実のところ能力が低いのですが、それを知らずに「20年も営業をしてきた」という人を雇ってしまうのです。
なぜ、20年も営業をしてきた人は能力が低いのかと言いますと、本当に営業の能力が高い人は10年くらいで起業をするからです。また、20年も営業をしてきて、本当に実力があるのであれば、その会社が手放さないと思います。転職の事情はいろいろとありますが、本当に優秀な営業担当者であれば、社長よりも給料を多く出してでも留めておかないといけない人材なのです。
今まで出会った本当に優秀な営業職のベテランは、すべからく独立起業していました。また営業のベテランと称して転職したところ、1年後に転職先の会社にとんでもないダメージを与えて退社していった人もいました。
零細企業から小企業までは、社長が営業力を高めることが、一番の解決策となります。
一社からの収益で満足している社長の場合
営業力が低く、積極的に一社依存から脱却を試みない社長の場合は、どうすることもできません。
とある企業では、中堅企業の一社依存で10年以上継続していた企業がありました。その企業が、親会社に買収されることになり、外注先が見直されることになりました。一社依存のお客様からその企業に、「親会社に買収されることになったが、すぐに合併するのではない。今までの取引もあるので、2年は取引を続けられる。」とのことでした。つまり、「2年以内に当社以外の取引先を見つけてほしい」という嘆願でした。
この企業は、2年間も猶予を頂いたのですから、こういった取引先には感謝です。
とある老舗の大手企業は、衰退産業であったため、再建のために会社が始まって以来初めて同族の社長ではなく、米国人のプロ経営者を社長に据えました。すると、そのプロ経営者は、今までの長年の仕入先を無残にもバサバサと切っていき、再建に成功しました。
今まで長年の取引をしてきた仕入先に対して、その担当者が「私には切ることはできない」と断ったそうですが、社長はその社員に対して「切り出しにくい場合は『社長が外人なので話が通じない』と言え」と命令されたそうです。
今までの取引先とのお付き合いよりも、やはり会社の存続の方が優先されることが、経営では当たり前のことだと思いました。「長年の取引先だから安心」ということは通用しない時代です。長年の取引で安泰だと信じて、一社依存で満足していては危険です。
子会社の場合
子会社の場合は、親会社が順調なときは、あまり問題がありません。しかし、親会社の業績が下がってくると、真っ先に行なわれることが、子会社への値引き要請です。
最初は親会社だということで、値引きに従い、社内の生産性の向上や外注先の調整をして、何とかしのぎます。そして、生産性が上がると、その情報は親会社に筒抜けで、更なる値下げ要求です。値下げ要求が通らなくなってくると、最後は子会社の吸収合併です。
子会社の社長は、そこで合併に応じるか、それとも独立したままを願うのか、選択を迫られます。子会社とは言え、社長が苦労して経営してきた会社ですので、簡単には手放せません。独立を選択するのであれば、自社が親会社以外の取引先を見つけないといけません。
親会社の一社依存していた子会社が、独立したままを宣言し、親会社以外の取引先を持つということは、場合によっては親会社からすると反旗を翻したように思われてしまう場合もあります。反旗と取られてしまった場合は、早ければ1年後には取引停止です。
顧客の一社依存から脱却する方法
顧客の一社依存から脱却する方法は、基本的には社長の営業力の強化と、売れる新商品の開発です。
社長の営業力の強化
営業力が低くて一社依存の場合は、「営業力を高めたらいいのではないか」と簡単に考えてしまいますが、実は営業力を高めることは並大抵のことではありません。
「営業力の低い企業」とは言っても、個人企業から零細企業では、会社の営業力は社長お一人の営業力にかかっていると言えます。
社長が、今まで考えたことのなかった営業戦略を立て、その方針に基づいて社長自ら販売活動を行い、自社の悪い膿を出して出して改善し、そのような難行苦行に耐えて初めて営業力が身に着くのです。
社長の営業力の矛先は、第一には新規顧客の獲得です。そして第二が、既存顧客から切られないようにするための顧客維持です。
新規顧客獲得で最も有効だと考える手法が、Web集客です。Web集客に成功したら、新規顧客が自社を発見してお問い合わせしてきてくれるようになります。Web集客も同様にたいへんな労力を要しますが、直接営業のノウハウを一つずつ蓄積していくことと比較すると容易です。
営業力を増して会社を一社依存から脱却するまでの期間は、営業力の強化を真剣に取り組んでから2年ほどかかります。営業をして新規の取引が開始され、売上高が少しずつ上がっていき、一社依存から脱却できるようになるまでに1年以上かかることが多いからです。
売上高目標で考えた場合、2年で売上高を2倍以上に増やすようにするわけですから、真剣に取り組んだ場合は、難行苦行になることは避けられません。
その2年間は、依存している一社から切られないように、積極的に営業をかけるようにしてください。
そのときに、社長が自社の商品やサービスに愛着があることが大事です。社長自ら商品やサービスを売るのですから、愛着があればあるほど売りやすいのです。
ただし、愛着があり過ぎても問題となることがあります。「営業は商品を売り込むことだ」と勘違いして、相手の要望を聞かずに一方的に商品やサービスのことを話し続けてしまい、相手から嫌われてしまうこともあるからです。
ともあれ、営業や販売をしてうまくいかないことがあれば、それを反省し、次に生かすことが大事です。
社長が自ら営業をして、そして販売の成功パターンを構築してください。それを仕組み化できたら、営業職希望の新人を雇い、その仕組みに沿って営業してもらうようにすることが、正しい営業職の雇い方です。
売れる新商品の開発
自社の商品やサービスが売れない場合には、商品そのものが他社と比べて見劣りする場合があります。そういった場合には、自社商品の見直しや改良、新商品開発が必要となります。
まずは、今現在取り扱っている商品やサービスを次のカテゴリに分類してください。
- 斜陽化している商品
- 横ばいの商品
- これから伸びていく商品
これらの分類は、自社の売上高や市場全体の売上高の推移を調べてみたらすぐに判ります。
自社商品が斜陽化しているのであれば、その商品は成り行き任せにして、新商品の開発に取り組んでください。斜陽化している商品の販売に力を入れても、どちらにしてもじり貧になることは変わらないからです。
横ばいの商品であれば、改良をしてもっと売れるかどうかを検討してください。その商品やお客様は気に入って使ってくださっているので、その商品が売れ続けることで、自社が生きながらえ、一社依存からの脱却のチャンスも増します。横ばいのまま変わらないと判断されるようであれば、いつ斜陽化し始めるか分からないので、斜陽化している商品と同様の扱いをします。
これから伸びていく商品であれば、積極的に他の企業にも販売していくようにしてください。他の企業に販売すれば、一社依存しているお客様よりも高い価格で購入してくださる可能性があります。
以上、一社依存している企業の特徴やリスク、顧客の一社依存を回避する方法について述べてきました。会社を経営していく中で、社長の役割としてもっとも大事なことは、売上高を伸ばすことでも、ヒット商品をつくることでもありません。会社の危険を回避することです。
会社を危険から守り、その土台の上に会社の発展があります。
一社依存の他にも、単品商売や一つの業界に住み着くという危険もあります。単品商売で一社依存していたら、さらに危険が増大します。単品商売や一つの業界に住み着くことの危険については、また別の機会で述べたいと思います。
小さな会社を経営される社長は、「社長の仕事とはどういったものなのか?」と疑問に思われている方は多いことでしょう。当社では、そういった社長向けのセミナーを提起開催しています。
ぜひご利用ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。