企業ビジョンとは、企業が目指していることをビジョン化したものです。当社ではそのように定義しています。
この記事では、企業ビジョンの意味、事例、作成するメリットなどをご紹介いたします。
経営理念を策定しても、それが浸透しにくかったり、社員が受け入れてくれなかったりすることがありますが、そういった場合には企業ビジョンが作成されていない場合もあります。
会社のビジョンを定めて全社で目指す方向性を明確にし、社員の気持ちを一体とし、世の中に大きく貢献する会社づくりを目指してください。
企業ビジョンとは?
そもそも「ビジョン」とは、理想や未来の姿をイメージしたものです。すると、企業ビジョンとは、社長がイメージしている、全社が目指す目標をビジョン化したものです。
企業ビジョンと事業ビジョンの違い
企業ビジョンは、会社が全精力をあげて目指す目標をビジョン化したものであるならば、事業ビジョンは、事業部や新規プロジェクトが目指すものをビジョン化したものです。
例えば、会計システムの新しいクラウドシステムを新規開発しているとしたら、その新規事業の事業ビジョンの例は、「クラウドの分野で、大手会計システムに勝ちたい」といった具合です。
そのように事業ビジョンが立てば、どのようなシステムを開発すべきか、どのようにPRをすべきか、顧客対応やサービスはどういったものを構築すべきか、といったことが明確化されます。
企業ビジョンは、あまりにも長期な目標になることが多いので、企業ビジョンからそういった方針を明確に立てることが難しい場合が多いです。そこで、企業ビジョンからは、経営指針や行動指針といった形而上的な指針を定めることになります。
企業ごとに用語の定義が異なる場合が多い
実は、経営理念の用語は、企業によって定義が異なることが多いです。
当社では、先ほどご説明したように企業ビジョンを定義しています。そして、会社が目指す最終目標としての企業ビジョンのことを「全社目標」と定義しています。
企業によっては、当社で定義しているところの企業ビジョンのことを、「事業ビジョン」や「ミッション」と言ったりしているところもあります。
「どれが正しいのか?」と疑問になられたことでしょう。これは、明確な定義がなされていないので、会社ごとに定義をしたら良いと思います。
当社が経営理念の作成をご支援させていただいた場合は、経営理念解説書の中に、経営理念に用いた用語の意味を載せるようにしています。
基本的に当社の意味に合わせていただくことが多いですが、社長にこだわりのある場合もあるので、会社ごとの経営理念用語を定義されたらよいと考えています。
なぜなら、経営理念を作成する目的は、「経営理念を正しく作成すること」ではなく、「社長の志を実現すること」です。用語の意味にあまりとらわれることなく、社長の想いや考えを言葉にするべきです。
とは言うものの、やはりある程度の定義を知っておくことは大事かと思います。当社が定義している経営理念用語の意味は、経営理念の用語解説Q&Aをご覧ください。
企業ビジョンの事例
企業ビジョンの事例を、いくつかのパターンでご紹介いたします。
経営理念を補完する企業ビジョンの事例
経営理念は、当社にて「基本理念」と呼んでいるような「一文で表されたもの」であることが多いです。本田技研工業ですと、社是として次の一文が定められており、当社で述べるところの基本理念に該当するものです。
わたしたちは、地球的視野に立ち、世界中の顧客の満足のために、質の高い商品を適正な価格で供給することに全力を尽くす。
この内容は、本田技研工業ホームページの「Hondaフィロソフィー」に掲載されている内容です。このページの内容を見ていると、本田宗一郎の理念が継承され、今現在も理念経営が行われていることが分かります。
さて、今現在の本田技研工業では、「EVやFCVに力を入れる」と発表されていますが、この内容からは、「E」の字すらなく、何を目指しているのかが具体的にわかりません。そこで、「事業 & イノベーション」のページに、何を目指してどのような事業を行っていくのかが記載されています。
このように、基本理念の一文を見ただけでは分からないことを、企業ビジョンを定めることによって、誰でもイメージしてもらえるようにすることができ、会社が何を目指しているのかが理解できます。
例えば、経営理念の一部に「お客様に貢献する」と書いていたとします。この一文だけでは、誰がお客様で、どの程度貢献するのかがわかりません。企業ビジョンに「特定の分野のシステム開発で、日本一を目指す」と書いてあれば、日本中のお客様に貢献することがイメージできます。
経営理念の一文は、企業ビジョンと組み合わせて浸透させることで、社員が経営理念の内容を理解しやすくなります。
未来の事業内容がわかる企業ビジョンの事例
自社の事業が限定されたものであったとしても、将来、会社の事業規模が大きくなってくると、他の事業も行う場合があります。
例えば、とある町中の住宅リフォームの工務店が、基本理念として「家族の幸せは住まいから。住まいのあらゆるお困りごとを解消する。」という内容のものを掲げたとしましょう。
すると、住まいのあらゆるお困りごとは、リフォームのことだけではなくなります。不動産のこともあれば、スズメバチの駆除もあるかもしれません。社長の志が今の事業内容だけでは収まらない場合、「いずれは、戸建て建設や不動産など、コンシューマ向けにトータルサービスができるようになりたい」と考えるものです。
そうした場合に、基本理念だけでなく企業ビジョンとして「未来のロードマップとして、戸建て事業、不動産事業なども行いたい」と明言しておくことが大事です。
将来のことを指し示しておかないと、新規事業を始めたときに、社員は「社長がまた思いつきで何か新しいことを始めた」と冷ややかに見られてしまいます。そういった状態では、社員からの協力も得られにくいことと思います。
企業ビジョンで将来の事業内容をあらかじめ指示しておくと、社長が新規事業を始めたときに、社員の反発が減るばかりか、「社長が前から言っていた事業拡大を目指している」ということで、社員が燃え立ち、協力も得られやすいくなります。
段階的な企業ビジョンの事例
当社では、企業ビジョンの最終形態のことを「全社目標」と定義していることを述べました。
全社目標を掲げた場合、その目標というものは、社員からするとあまりにも壮大であったり、遠い未来のことのように感じられたりして、社員には実感が湧いてこないことがあります。実感のないものには、熱意も沸いてきません。
そこで、全社目標の途中段階となる企業ビジョンをいくつか立てて、そこを通過点としていくことで、社員にも実感してもらいやすくすることが大事です。
例えば、お菓子を製造している地方のメーカであれば、全社目標として「いずれは、全国津々浦々に当社の販売店でお菓子を購入していただき、幸せな家庭、幸せな友達付き合いをしていただきたい」というものを立てたとしましょう。
社員からすると、「まだ販売店が工場の横に1店舗あるだけなのに、全国津々浦々だなんてイメージができない」と考えてしまいます。社長が、社員にイメージできないことをやろうとすると、社員から「社長、そのような無謀なことは止めてください」と言われてしまいかねません。
そこで、第一段階の短期企業ビジョンとして、「全国菓子博覧会で名誉総裁賞の受賞を目指す」というものを掲げ、社員にそのことだけに集中してもらいます。
それが達成したら、次に第二段階の中期企業ビジョンとして、「通販部門でベストお取り寄せ大賞を狙い、ブランドを創る」という具合です。次に、第三段階の長期企業ビジョンとして店舗販売を行い「地元と東京・大阪で店舗展開をする」という具合です。
このように、段階的に成長していく企業ビジョンもあります。
このお菓子メーカの企業ビジョンの例では、いずれ通販部門と店舗販売部門ができるはずです。そのときは、それぞれの部門に「ベストお取り寄せ大賞の受賞」と「地元と東京・大阪で店舗展開をする」という事業部毎の事業ビジョンを担ってもらえたら良いと思います。
もちろん、本田宗一郎のように社員を引き付ける力があるのであれば、社員数が20~30名の段階から、「わが社は世界一のオートバイを製造するのだ!」と豪語しても良いと思います。
企業ビジョンと経営理念の関係
ここまでご覧になられた方は、経営理念はいくつかのパーツで構成されていることをご理解いただけたことと思います。先ほどご紹介した本田技研工業の経営理念は、「Hondaフィロソフィー」と称しており、次のパーツで構成されています。
- 基本理念
- 人間尊重
- 三つの喜び
- 社是
- 運営方針
1つ目の「基本理念」は、社是や運営方針を定める上での哲学に該当するものです。社是は、当社で述べる「基本理念」に該当するものです。3つ目の運営方針は、当社で述べるところの「経営指針」です。
興味深いことに、これらの中に、「オートバイ」や「自動車」といった言葉は一切入っていません。あくまでも、「会社の理念」として存在しています。つまり、本田技研工業は、たまたま「オートバイ」や「自動車」などの事業を通じて人を創り、喜びを提供している会社なのです。
現在の事業を発展させていくことを当然として、このHondaフィロソフィーを追求し続けることで実現できることをイメージにしたものが、企業ビジョンになります。
先ほどご説明したように、基本理念だけでは、何を目指しているのか具体的でない場合が多く、理解しにくい人がいます。
経営理念を作成する中で、企業ビジョンも作成し、経営理念のパッケージの一つとすることで、社員が経営理念を受け入れやすくなります。
企業ビジョンを作成するメリット
先ほど、「経営理念の一文に企業ビジョンを組み合わせると、経営理念が浸透しやすい」ということを述べました。経営理念に基づいて企業ビジョンを作成し、それを経営理念のパーツとして入れることは、他にもメリットがあります。
すでにご説明してきたことと同じ内容になるかもしれませんが、そのメリットを述べたいと思います。
仕事の優先順位を正しく決められる
会社が小さければ小さいほど、社長には細かな仕事が降り注いできます。そういった細かな仕事の中にも、大事なものがありますが、たいていは社員の誰かにやってもらえたら、社長は未来のことを考える時間をつくることができます。
しかし、たいていの場合は「自分がやった方が早いから」ということで、社長が作業をしてしまいます。すると、未来のことを考える時間が取れないので、いつまで経っても会社が成長していきません。
企業ビジョンを作成しようとすると、そういった時間を社員に振り分けないといけません。つまり、社長の仕事が、優先的に会社の未来のことに振り向けられたことになります。
そして、企業ビジョンができたら基本理念だけでは曖昧だった目標が明確にされるので、社長が目指すものが明確になり、社長の仕事や指示の優先順位を正しく決められるようになります。
経営資源が会社の成長のために集中される
社長によっては、「今月は利益が出そうだから、ちょっと飲みにでも行こう」ということで、経費の使い方に計画性がない人もいます。
企業ビジョンが明確になると、将来から逆算して経営計画や経営方針といったスケジュールを立てていくことができます。すると、予算が決まるので、経営資源が企業ビジョンの実現に振り向けられるようになります。
社長が使命感に目覚め熱意が高まる
企業ビジョンが、公器的な目標でチャレンジングなものであるほど、社長が使命感に目覚め、熱意が高まります。
社長の熱意が、会社の発展の原動力となります。何があっても不退転の気持ちが出てきます。
新しいことにチャレンジをすると、問題が山のように出てくるものです。そういったときに、社長の熱意と不退転の気持ちがあれば、その問題を乗り越えて、会社を発展させていけるものです。
新規事業を開始しても、社員からの反発が少なくなる
社長が、予告もなくいきなり新規事業を始めると、社員から反発が出てくる場合があります。幹部からは、「ただでさえ経費が少ない中で、何を余計なことを始めたのか」と反発されます。
企業ビジョンには、「将来はこういった事業を行いたい」という社長の要望が含まれています。その内容が、社員に向けられた予告にもなっています。
企業ビジョンに基づいて新しい事業を立ち上げたとしても、社員に対して予告されていたことなので、社員が混乱しにくくなります。
社員がビジョンの実現を目指し始める
社長が企業ビジョンを作成して発表しても、社員は「どうせまた途中でフェードアウトするだろう」と考えているものです。
ところが、段階的な企業ビジョンを1つずつ達成していくと、社員は「社長が本気だ」と気が付きます。そして、社員の気持ちが前向きで、建設的なものになって、協力者が増えてきます。
企業ビジョンがあると、社員が何を目指したら良いのかが分かりやすいので、協力的になりやすいのです。
以上、企業ビジョンについていろいろと述べてきました。企業ビジョンをまだ作成されていない社長は、ぜひ企業ビジョンの作成にお取組みいただけたらと思います。
その企業ビジョンが社長の心からのものであれば、社長の熱意が爆上がりし、「無駄な仕事をしている場合ではない!」と、本業に情熱を注ぎこむことができるようになります。
そういった、社長の情熱を引き出す企業ビジョンが、どうしてもできない場合は、ぜひ当社の経営理念コンサルティングをご利用ください。
経営理念コンサルタントが、毎回のコンサルティングで社長のモチベーションを最高潮に高めるご支援をするので、その状態で企業ビジョンを作成していただきます。
当社の経営理念コンサルティングは、企業ビジョンを作成するだけでなく、毎回のコンサルティングで「自分の情熱を高めてくれる」ということで、多くの社長にご好評をいただいています。
「情熱が高まる企業ビジョンを作成したい」とお考えの社長は、まずは、コンサルティングの体験をご利用ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。