初めて行動指針を浸透させようとしたときに、「行動指針がなかなか浸透しなくて困った」とよく聞きます。
行動指針の浸透には正しく浸透させることが大事ですので、そのノウハウがないことも大きな原因であることでしょう。
ところが、社長が行動指針への思い入れが強くて、立派なものを作成してしまい、覚えきれなくて浸透しない場合もあります。
行動指針が浸透して、仕事能力が高まったら立派な行動指針でも浸透しやすいことでしょう。行動指針には、そういったジレンマがあります。
行動指針が浸透しなくて困った会社におすすめの方法が、行動指針の「あいうえお」です。行動指針の「あいうえお」とは、行動指針を重要な5つの項目に絞ったシンプルなもので、語呂合わせの単純な言葉で浸透しやすくしたものです。
このコラムでは、行動指針の「あいうえお」についてご紹介いたします。
立派な行動指針ほど浸透しにくい理由
行動指針とは、社長を含む全社員が従うべき、規則や基準です。行動指針を全社員が守っていたら、会社が目指している理想形や未来ビジョンを達成していくことができます。
そのため、正しい行動指針とは、理想形や未来ビジョンから逆算して作成されたものと言えます。
そういった行動指針は、仕事能力の向上だけでなく、人間性の成長にも触れられていて、全方位的なものが作成されていることでしょう。
そのような全方位的な行動指針は、覚えるだけでも大変なくらいの膨大な量になることもあります。また、すでに立派な企業も、膨大な量になっていることが多いです。
例えば、A4の紙でまとめられた行動指針で、50ページ以上のものになることもあります。文字数で述べるならば、40,000文字程度です。
行動指針を作成する目的は、立派な会社をつくることであって、立派な行動指針を作成することではありません。しかし、立派な会社をつくるためには、どうしても行動指針が膨大な量になってきます。
膨大な量の行動指針を掲げたとすると、確かにそれらすべてを社員全員が実践できたら、その会社は客観的にも立派に見えることでしょう。しかし、社員にそのまま浸透させようとしても、浸透するものではありません。行動指針を自ら作成した社長ですら、1ヶ月後には何が書かれていたかすべて把握できていないこともあります。
行動指針を浸透させるためには、少し大きな会社では社長ではなく、経営幹部が担当する場合があります。その場合いは、経営幹部の中に行動指針をすべてマスターして、自分の言葉で説明できるようになる人材が出てこないと、部下に行動指針の指導をすることが難しいものです。経営幹部が行動指針を覚えて行動ができるようになるまでに2~3年。経営幹部の指導力が増し、部下が行動指針を理解するようになるまでにさらに2~3年。つまり、行動指針の浸透に合計4~6年はかかるのです。
立派な行動指針を作成するのに1年を要したとして、それを浸透させて立派な会社に成長していくのに、合計5~7年かかるのですが、それでも立派な会社になるのであれば、チャレンジのし甲斐があると思います。
しかし、そこまで待てない会社もあることでしょう。立派な行動指針ではなくても、何か簡易的でシンプルな行動指針を作成し、その浸透から開始して、少しずつ膨大な量の立派な行動指針を受け入れられるように、下地をつくっていくことができるはずです。
そこでおすすめの方法は、シンプルな行動指針から始めることです。シンプルな行動指針として、社員にもわかりやすいように「行動指針の『あいうえお』」を提唱しています。
立派な行動指針を遠くにある清流だとすると、行動指針を簡易化した行動指針の「あいうえお」は、言わば近くの井戸です。水を飲みたい場合、遠くにある清流よりも、近くの井戸の方が便利です。
しかし、井戸水を飲むだけでは、多くの人が生きていけませんので、請求から水を引いてくる必要がります。また、清流にいる魚を取る必要があります。行動指針のあいうえおと、立派な行動指針の関係は、喉を潤す井戸水と、多くの人の胃袋を満たす清流の関係のようなものです。
今の喉の渇きを井戸水で潤し、清流を求める土台をつくります。
行動指針の「あいうえお」とは?
行動指針の「あいうえお」とは、特に大事な行動指針を5つに絞り込んで、シンプルでわかりやすい言葉にしたものです。まず例文をご覧ください。
行動指針の「あいうえお」例文
- 「あ」=あいさつは笑顔と礼節で「おはようございます」「こんにちは」
- 「い」=いつも早めの行動で時間を守ります。
- 「う」=うっかりミスもミスはミス。ミスしたら迷惑をかけたことを謝ります。
- 「え」=笑顔の接客はビジネスの基本。お客様に感謝。
- 「お」=思いやりの心が未来をつくる。
このように、人間性の成長と仕事能力の向上のための基本となる5つのことに絞って、「あいうえお」で行動指針をまとめた例文です。
この「あいうえお」は、あくまでも例文ですが、私達はともすれば、このような基本的なことすら忘れてしまうことがあります。
この5つの項目をそのまま使用しても良いか?
この5つをそのままご利用いただいてもかまいませんが、2つの点でおすすめできません。
- 借り物の行動指針は浸透しない
- 接客担当や製造ラインで働く人などで、5つの内容は異なる
まず、借り物の行動指針は浸透しません。借り物なので、社長ご自身がそれに沿って仕事ができないからです。社長が実施しないで、社員が実施するはずがありません。社長は、社員の鏡であることが大事です。社長が作ったものは、社長自身が実施するので、社員にも浸透するのです。
2つ目としては、営業部門や製造部門、経理部門などで、行動指針の5つの内容は異なってくるはずです。会社で共通のものを創っても良いですが、例えばその項目の1つとして「明るい笑顔」というものがあったとしたら、営業部門では「笑顔は大事だ」と思う人は多いと思います。しかし、製造部門のラインで働いている人にとっては、「笑顔ができても生産性は上がらない」と考えると思います。
作成ポイント
行動指針の「あいうえお」は、次の要素から5つに絞ると考えやすいです。
- 接客対応
- 品質
- 衛生
- 生産性
- 整理・整頓
- 時間厳守
- コミュニケーション
これらのことは、普段から気を付けるべきことで、良好に保ちたいものばかりです。そういった身近な行動指針を、部署毎に大事にしているポイントに絞ってシンプルな行動指針「あいうえお」にすると良いでしょう。
そうすると、「チャレンジ精神」といった長期的目線の内容は、「あいうえお」に入れるのではなく、行動指針そのものや経営指針に入れておくと良いでしょう。
作成方法
行動指針の「あいうえお」の作成では、5つの項目を選ぶことは難しいと思いますが、作成方法はとても簡単です。
名称は「あいうえお」である必要があるのか?
もちろん「あいうえお」でなくても良いです。語呂合わせで覚えやすければ、「かきくけこ」でもかまいません。「あいうえお」といった単純な用語を用いたくない会社であれば、「基本動作」といった名称でも良いでしょう。
また、5つでなくてもかまいません。「当社は3つで良い」とおっしゃる場合は、「いろは」や「ABC」を用いることはいかがでしょうか?
ただし、項目は5つ以上にしない方が良いです。項目が多くなると、覚えきれなくなってくるからです。「あいうえお」で大事なことは、「すぐに思い出すことができる」ということです。
項目をつくる
従業員数が30名ほどの小さな会社であれば、社長が全員を把握することができるので、社員全員で共通するものを作成したら良いでしょう。
部署がいくつかに分かれている会社であれば、部署毎に仕事で成果を出すための基本がことなります。そこで、例えば接客担当用、製造担当用で2種類作成するといった具合に、複数の「あいうえお」を作成したら良いと思います。
誰が作成するのか?
「あいうえお」を作成することは、もちろん社長なのですが、社長が5つの大事な項目を絞り込んで、それを語呂合わせにすることは社員でもかまいません。
社員が行う場合は、社長は監修役をします。そして、社長の承認を経て、全社員に公開します。
公開時には、社員全員に対して、社長自らが「あいうえお」を作成した理由、5つの解説を行うことが大事です。すると、社員が「社長がまじめに考えて作成したのだな」「社長命令なのだな」と認識します。
利用方法
会社でトラブルがあったときには、この「あいうえお」に即して考えて行動されていたかを反省することができ、同じトラブルが起きないように気をつけることができます。
上司は、部下によるトラブルがあったときに、部下に対して「あいうえお」は正しくできていたか?」と問うことで、行動指針に沿って仕事ができていなかったことに気づかされます。
それを繰り返していくことで、行動指針を受け入れていくカルチャーができてきます。
「あいうえお」を運用していく中で、この5つの項目に合致しないトラブルが出てくることは、もちろんあります。その場合は、「あいうえお」を改善したり、行動指針の方で補完していったりすることで、対応していきます。
行動指針のない会社はどうしたらいい?
行動指針のない小さな会社では、いきなり膨大な量の行動指針を作成することはできないので、「あいうえお」から作成しても良いと思います。全方位的な行動指針をゼロから作成する場合、早い人でも2年、通常であれば3年はかかるからです。
もし、社長が立派な会社づくりを目指しているのであれば、そのように時間がかかったとしても行動指針の作成にチャレンジした方が良いのですが・・・
しかし、現実的に3年も待っていられませんので、暫定的な行動指針を出す方法があります。暫定的な行動指針には、次の2種類があります。
- 行動指針のテンプレートを用いる
- 行動指針の「あいうえお」などのシンプルなものを作成する
行動指針のテンプレートを用いる
先ほど示した、行動指針の「あいうえお」例文では、誰しも大事なことだと気が付かれたことでしょう。では、なぜ「大事だ」と気づかれたのでしょうか?
それは、ビジネスでの基本だからです。このようなビジネスの基本は、どの企業でも共通しているものなのです。つまり、基本的な行動指針は、テンプレートがあるのです。
当社では、今までの行動指針作成コンサルティングで支援してきて積み上げてきた、行動指針の基本となるものをテンプレートとしてまとめました。
このテンプレートも、膨大とは言えませんが、分量はかなりあります。初めて行動指針を作成して浸透させる場合には、小さな会社であれば、少しばかり荷が重くなることがあります。例えば、「1店舗を経営している飲食店」といった従業員が数名の小さなお店の場合には、テンプレートですと荷が重くなります。
そういった小さな会社では、行動指針の「あいうえお」を作成することがおすすめです。
行動指針の「あいうえお」を作成する
行動指針のテンプレートでも荷が重いような小さな会社では、行動指針の「あいうえお」から始めることがおすすめです。
上記の例文を用いていただいてもかまいませんが、自社オリジナルの「あいうえお」を作成し、行動指針に合った仕事の仕方をするように、練習していくと良いでしょう。
社員が行動指針の「あいうえお」を受け入れて、基本動作として定着してきたら、さらなる人間性の成長と仕事能力の向上を目指して、本格的な行動指針を作成していくと、社員に浸透しやすいと思います。
以上、行動指針の作成に時間がかかったり、なかなか浸透しなくて困っていたりする企業向けに、シンプルな行動指針として「行動指針の『あいうえお』」をご提案いたしました。この「あいうえお」は、完成度の高い行動指針を必要としない小さな会社でも有効です。
行動指針の「あいうえお」の作成で、「どのようなものを作成すべきか?」を迷ったら、当社にお気軽にご相談ください。行動指針の「あいうえお」の作成のためのスポット的なコンサルティングも承っています。
行動指針の作成・浸透のことなら、チームコンサルティングIngIngの経営理念コンサルティングをご利用ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。