社長の夢実現への道

5S活動の目標設定の本質と目標設定の方法(5S活動戦略的計画)

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5S活動の目標設定の本質と目標設定の方法

5S活動は、とくに製造業では、製品開発から設計、購買、生産、検査、出荷などあらゆる業務プロセスと関係してるので、成果物としての製品やサービスの品質、コスト、生産性など、企業活動の重要指標に大きな影響を与えます。

5S活動を、「単なる整理、整頓、清掃などの行為」と思い込んでいる企業が少なからず見受けられます。確かに、初歩の5S活動はそうです。社内に1人でも5S活動の経験者がいれば、予備知識を社内で共有できるので、どこの生産現場でもすぐに始めることができます。

しかし、そこに落とし穴があります。

今現在は、海外に依存していた生産が国内に戻ってきつつある時代です。しかし、世界の工場と比較しても、国内の5S活動は劣っていることが現状です。このような環境変化が激しく、国内事情も厳しい中で、思いつき的、属人的な活動では、生存をかけた競争で勝てるわけがありません。

5S活動を導入する際には、必要最小限のシンプルなものでもよいので、包括的で戦略的な「5S活動戦略的計画」を作成し、組織的かつ戦略的に進めることが厳しく要求されます。

5S活動の大切さは、ある程度理解している企業は多いと思います。しかし、5S活動の戦略や基本計画もないまま活動しているのでは、やがて改善のネタ切れとなります。何を目標としたらよいのか分からず、行き詰っているような企業が多いように見受けられます。

本コラムでは、そういった5S活動の目標設定で悩んでいる企業のために、以下に述べる、「5S活動戦略的計画」のあり方、目標設定の本質や目標設定の方法などについてご説明いたします。

5S活動戦略的計画を作成するための3つの質問

5S活動戦略的計画を作成するために考えるべきことは、以下の3つがあります。

  1. なぜ5S活動が必要なのか、なぜ5S活動をやらなければならないのか?(Why)
  2. 5S活動で、どういったことをやるべきなのか?(What)
  3. やるべきことを達成するには、5S活動をどのようにすすめたらよいのか?(How)

これを、「戦略的5S活動の3つの質問」と名付けます。以下、なぜこの3つの質問が戦略的5S活動につうながるのか、順に、シンプルにご説明していきたいと思います。

なぜ5S活動が必要なのか、なぜ5S活動をやらなければならないのか?(Why)

「Why」は、5S活動を実施する理由であり目的です。「なぜやるか」です。「企業全体の活動計画の骨組み」に対応させてご説明します。

「Why」は、企業で言えば経営哲学「経営理念」に該当します。基本理念、会社の使命やミッション、あるべき理想の姿や存在意義、未来ビジョン、経営方針、行動指針、などより構成されるものです。

5S活動における「Why」は、以下のようなことが該当します。

  1. 工場をきれいにして、お客様に好印象をもっていただき、営業成果に結びつけたい
  2. 整理・整頓により、職場をすっきりさせ、問題点を見える化し、改善に結びつけることで、改善活動の活発なやりがいのある職場を構築したい
  3. 生産ラインで、品質不良が多発する、設備の故障が頻発する、在庫が多すぎる、などの問題点を解決する手段として、5S活動を活用し、利益を増やしたい
  4. 生産ラインで、不良や在庫などの「7つのムダ」を削除し、ライン全体のトータルリードタイムを短縮し、生産性を大幅に向上させたい
  5. 価値を増大させる新たな開発製品に対応できるように、生産技術と5S活動の合わせ技により、本丸工程(最重要工程)を中心にラインの再編成をおこないたい
  6. 労働者減少対策として、IoTなどのデジタル改革(DX戦略)を、5S活動とリンクさせて、進めていきたい
  7. 画期的な新製品に対応できる、新生産技術を導入した画期的ライン構築で、ダントツの競争力をつけたい

これらが、5S活動の目的・理由(Why)です。ちなみに、この例の7種類は、少しずつレベルた固まっていくステップになっています。貴社では、どのようなことを理想として、5S活動の目的・理由とするでしょうか?

要するに、「5S活動戦略的計画」の1つ目の戦略的要素は、自社のニーズに合致する、Whyを明らかにすることです。

5S活動で、どういったことをやるべきなのか?(What)

「企業全体の活動計画の骨組み」でいえば、「ビジョン」のことです。ビジョンには、以下の「3つの構成要素がある」というのが私の考え方です。

1. 目標(ことがら)または目標数値

最初に、目標(ことがら)ありきです。次に必要なのが、目標(ことがら)を数値化した目標数値の設定です。経営でいえば、売上げや利益などが該当します。

目標の設定レベルは、現状レベルに縛られず、ある程度の無理は承知で、思いっきり背伸びをすることが必要といわれています。

数値目標があって、はじめて、目標をどの程度達成したかといった定量的なフィードバック分析が可能となります。

2. ありたい姿

目標設定の次に「ありたい姿」を描きます。ここでは、5S活動の「ありたい姿」ですので、何年も先に実現される姿ではなく、1年~数年で達成できるビジネスモデルとほぼ同じような方法で考えます。顧客にどういった製品や価値を提供するのか、といったビジネスの核の部分です。

イメージ可能な範囲で、ありたい姿をシミュレーションします。例えば、売り上げ金額が、頑張れば達成できる可能性があるのか否かチェックします。つまり、「ありたい姿」をベースに5S活動のシミュレーションをします。

そして得られるであろう売上結果の目標値が、ある程度の射程距離内に入るような、ものでなければなりません。どう検討しても、目標値が達成できそうにない、可能性がほとんどないようでしたら、現状の実態レベルと比較して、目標設定が高すぎる可能性があります。その場合は、目標を少しづつ下げ、目標がある程度の射程距離内に入るような適正なレベルに設定し直して確定します。

しかし、一方、安易に目標レベルを低くすることは、達成の可能性は高まりますが、得られる成果は小さく、つまり、ローリスク・ローリターンとなり、問題は残ります。たとえば、組織としての能力の向上・蓄積は期待できませんし、会社の成長速度が遅くなります。

以上より、目標の設定レベルは、5S活動の成果に大きく影響するものであり、「5S活動戦略的計画」の中で、戦略的で、かつ本質的に極めて重要な位置づけにあるといえるでしょう。

3. 課題

上述の、「1. 目標(ことがら)または目標数値」や、「2. ありたい姿」のレベルを、5S活動で達成するために、なすべきことがらのことが「課題」です。

この課題も、目標の設定レベルと、密接に関係してきます。つまり、目標と現状の実態レベルとの乖離度合いにより、量的にも質的にも、課題の難易度は随分と異なってきます。

たとえば、製品開発力が不足している場合、「高度な製品開発を行う」といった課題では、いくら背伸びしても対応困難となります。

これらビジョンの3つの構成要素を、「ビジョンの3点セット」と名付けたいと思います。この中でも、目標の設定レベルは、本質的に極めて重要な位置を占めると言えるでしょう。

やるべきことを達成するには、5S活動をどのようにすすめたらよいのか?(How)

5S活動計画の戦略的要素の3つ目になります。

経営戦略では、ビジョンの3点セットのことを重視し、「中核戦略」ということがあります。この中核戦略を達成するための戦略のことを、「基本方針」とか「展開戦略」などと呼ぶようです。

5S活動の改善項目は、ビジョンの3点セットの「課題」の中から適切なものを選択し、それをさらに細分化していくことで、いくつか自動的に得られるはずです。それを各個撃破していくことにより、「目標(目標値)」や「ありたい姿」を最終的に達成することができるのです。

改善事項が全て完了したら、目標レベルを高めることで、あらたな課題が得られます。あるいは、目的の入り口を変えていく方法もあります。さらには、競争環境の変化により、製品や生産ライン、工程なども徐々に変化していきますので、新たな5S活動が求められます。

そのように5S活動を進めることによって、5S活動や改善のネタ探しで悩むことは、現実的にはないと断言できるでしょう。

まとめ

以上で、「5S活動戦略的計画」を作成するための3つの質問「Why、What、How」について、一通り簡単な説明をしてきました。次回のコラムでは、「Why、What、How」を実際に活用することができるようになるために、具体的な事例を用いてご説明したいと考えています。

ちなみに、本コラムにて、「なぜ、5S活動が必要なのか、なぜ5S活動をやらなければならないのか?(Why)」の節で、5S活動の入り口として、7種類の例をご紹介しました。

この入り口の部分の7種類の例は、活動結果としての付加価値や成果のスケールが、徐々にステップアップしていく構成内容になっているので、目的やニーズの入り口に応じて、また、何をやりたいのか、その狙うレベルに応じて、応えてくれる優れものです。「5S活動戦略的計画」を策定する際の効果的なツールとなっています。

この7種類は、大きく3段階に分類できます。私はこの分類を「5S活動の3段階理論」と呼んでいます。「製造業改善改革いろは」で、コラム「5S活動の3段階理論」にて詳しくご紹介しておりますので、是非ご覧下さい。

この記事の著者

村上豊

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)

名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。

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