自社生産している商品の売れ行きが悪くなってきたときは、2つの方向性があります。
1つは商品を切り捨てることです。もう一つは、商品を改善して付加価値を高め、商品を売れるようにしたり、利益率を高めたり、商品が売れる寿命を延ばしたりすることです。
商品の改善には時間がかかる場合があります。商品改善のタイミングを見逃してしまい、競合他社に圧倒的に負けてしまって、取返しが付かなくなってしまうこともあります。
このコラムでは、中小企業で開発を担当している社長や経営者向けに、商品改善のタイミングを見落とさないための分析方法として「移動累計による分析」をご紹介いたします。
もし、「分析をいっしょにやってもらいたい」、「分析の方法を習得したい」」とお考えであれば、当社にご相談ください。
商品改善のタイミングの兆候をつかむ
商品改善の主なタイミングは、商品の売上高が下がってきたり、利益率が悪くなってきたりしたトレンドをつかんだときだと思います。
商品改善のタイミングは、商品によっては、時期が押し迫ってから改善を行っても間に合わない場合があります。商品構成を大幅に変更するためには、緊急で大手術でもしなければ、基本的に時間がかかるものです。
また、売上高が伸びていても、競合他社の売上高の伸びよりも悪い場合には、市場占有率を落としていて、弱者になりつつあることを意味します。
それらの前兆にいち早く気が付いたら、早めに手を打つことができます。
売上高や利益率のグラフを読むだけでは気が付かない場合もある
商品改善のタイミングは、もちろん売上高や利益率が下がったタイミングで行えば良いです。また、市場占有率を落としている場合には、競合他社の売上高、もしくは売上高がつかめない場合には、その傾向を調べる方法を発見して分析します。
しかし、商品の売れ行きには細かな変動があり、また商品によっては季節変動もあるので、それらをグラフにしただけでは、改善のタイミングをつかむことが難しい場合が多いです。
そこで「移動累計」という方法を使います。
移動累計のグラフは、細かな変動や季節変動を取り除き、数値が純粋に上がっているのか、下がっているのかなどの傾向を調べることができます。移動累計をグラフにして、数値の傾向を読み取ることで、商品改善の号令を出すタイミングを判断できます。
その判断方法は、後ほどご説明します。
移動累計とは?
移動累計とは、毎月の売上高や仕入れの金額などの指標となる数値を、過去12カ月分を合算した数字を並べたもので、季節変動を無くした数値で分析することができます。
例えば、2022年12月の数値は、過去12カ月ですから2022年1月から12月までの数字を足したものです。2023年1月の数値は、2022年2月~2023年1月の数値を足したものです。
このように過去12カ月分の数値が合算されたものを、1ヶ月ずつ移動して累計したものですので、「移動累計」と言います。もしくは、年間で数値を計算したものは、「移動年計」と言います。
移動累計と似たグラフで、Zチャートというものがあります。Zチャートを作成して分析する人もいますが、商品改善のタイミングを見る場合は、Zの上側のグラフ(移動累計)のみを使用します。
何の数値で移動累計を計算すべきか?
商品改善のタイミングは、商品の売上高や販売数量が下がってきたときですので、商品の売上高や販売数で移動累計を計算し、グラフにしてください。Excelなどの表計算ソフトで簡単に作成できます。
ドラッグストアのように多品種のものを扱っている場合には、カテゴリ毎の売上高でもかまいません。会社全体の売上高が下がっている場合には、会社全体の売上高で移動累計を出します。
季節変動を含めた傾向をつかみたい場合は、6カ月の移動累計を計算してみてください。
移動累計のグラフの傾向は5種類
さて、移動累計をグラフにすると、図のような5種類のなめらかな曲線を描きます。
これらの曲線に、それぞれ名前を付けたいと思います。
- 右肩上がり
- 右肩下がり
- 横ばい
- 山型
- 谷型
これらの中から、商品改善のタイミングに関係するものは、大きくは「右肩下がり」と「山型」です。条件によっては、右肩上がりで業績が良くなっていると見えても、商品改善のタイミングが来ている場合もあります。
山型や谷型は、緩やかなカーブを描くことがほとんどですが、ときどき「くの字」に折れ曲がる場合もあります。そのときは、「くの字」に折れた月に何かの施策がダメだったか、功を奏したのかのどちらかです。それを振り返ることで、今後の会社のイノベーションに役立てることができます。
移動累計による商品改善のタイミングの発見
商品改善のタイミングは、売上高や利益率が下がっている場合と、競合他社と比べて自社の売上高の伸びが悪い場合です。これらの兆候を、移動累計でつかんでください。
売上高や利益率が下がっている場合
具体的には、売上高や利益率で移動累計を取ったときに、移動累計が右肩下がりや山型になっている場合は、商品改善のタイミングです。
移動累計が右肩下がりであれば、すぐさま商品改善の検討を行うべきでしょう。
また、移動累計が山型になったり、上昇が弱くなってきたていずれ山型になる兆候をつかんだときは、改善のタイミングです。このときは、まだ売上高だけのグラフでは、売上高下落の兆候はつかめませんので、いち早く商品改善に取り組むことができます。
競合他社よりも売上高の移動累計が伸びていない場合
次に、競合他社と売上高の比較ですが、競合他社の売上高はつかみにくいものです。そこで、売上高と連動する数値、例えば販売個数や来客数などを移動累計にします。
このときに、図のように、自社商品が競合他社商品よりも伸びていないのであれば、商品改善のタイミングです。
自社商品の移動累計を取るだけでは、右肩上がりなので商品改善のタイミングに気が付かないことでしょう。ところが、競合他社の伸びよりも悪ければ、それは経営危機でもあります。それは、自社の商品の市場占有率が下がっていることを意味するからです。
市場占有率が下がってしまったら、顧客からそっぽを向かれてしまいます。そして、原価率が高くなり、赤字に転落していきます。
商品を改善して、市場の伸び以上に自社商品が売れるようにすり必要があります。
顧客ニーズをつかんでいるはずなのに、売上が下がっている場合の分析の方法をご紹介いたします。もしかしたら、マーケティングとは異なる部分で売上がダウンしている可能性もあるからです。
もし移動累計が山型で「くの字」に折れていたら
商品の売上高や利益率の移動累計を取ったときに、通常であれば滑らかな曲線を描くのですが、図のように、山型に「くの字」に折れていることがあります。
その場合は、「くの字」に折れたこの月、もしくはこれよりも1~2ヶ月前のときに、何か方針転換をし、その方針が間違っていた場合に起こる現象です。
会社の売上高で、くの字に曲がった山型が発見されたのであれば、「社長が間違った指示を出した」とか「重要な社員が辞めてしまった」とか、「管理システムを導入した」とか、何かイベントがあったはずです。元に戻せる場合には、すぐに戻してください。
特定の商品や、特定のカテゴリの売上高でこのような現象が現れたのであれば、その商品に関して何か間違った方針を取ったか、強い競合商品が現れた可能性があります。
反対に、何か良い経営方針を出したり、良い施策をしたのであれば、移動累計のグラフは「V字」で上昇に転じます。
「くの字」で折れた要因を分析することで、今後の会社のイノベーションに役立てることができます。
移動累計の応用
移動累計は、売上高や利益率だけでなく、さまざまな経営の数値で行うと、いろいろなことが分かります。
例えば、ドラッグストアのように会社全体の利益率が下がってきている場合、商品点数があまりにも多く、どれが原因しているのか分かりにくいものですが、カテゴリ毎の売上高や仕入れ先毎の移動累計を取るとその原因がわかる場合があります。
移動累計による経営分析は、商品改善だけでなく、さまざまな経営判断のタイミングを教えてくれます。
私は、SEO対策の効果計測に移動累計を活用し、お客様からご好評をいただいています。
移動累計の活用方法は、別の機会でご紹介したいと思います。
以上、移動累計による商品改善のタイミングの発見の仕方をご説明いたしました。このコラムでは、次の1つだけでも覚えておいてください。
売上高が伸びていても、競合他社に負けている場合がある。
もし、「分析をいっしょにやってもらいたい」、「分析の方法を習得したい」」とお考えであれば、ぜひ当社にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。