
病院の勤務医である先生が、独立して開業医となることを目指したときに、ぜひとも覚えておいてもらいたいことがあります。
それは、病院の経営とクリニックの経営はまったく異なる点があることです。
例え病院の経営ができたとしても、開業医として小さなクリニックの院長になったとたんに、今までとはまったく異なる経営スタイルに、愕然とされる先生もいらっしゃいます。
「愕然」で済んだら良いのですが、経営を回復できずに、借金だけ背負ってしまうこともあります。
平井公認会計士事務所ホームページ「開業を目指す医師必見!クリニック経営の前に何を勉強すべきか?」と併せてご覧ください。
営業利益をプラスにすること
最初に覚えておいてもらいたいことは、営業利益をプラスにすることです。営業利益とは、クリニックの医療活動で黒字にすることと同義です。
利益の計算式
利益の計算式は、次の式で計算できます。誰でもご存じのことと思います。
利益=売上高-経費
売上高は、基本的に診療報酬です。経費には、テナント家賃や人件費、水道光熱費などの固定費と、血液検査の委託費やディスポの消耗品費などの変動費があります。すると、利益の計算式は、
利益=売上高-(固定費+変動費)
この利益のことを営業利益といい、この数字がプラスになるように、さまざまな事業活動を行います。
固定費と変動費の意味
固定費は、売上高とは関係なく固定でかかる費用という意味で、その総額です。テナント家賃は、患者様が何人来院しても、ゼロ人であったとしても、一定の金額がかかります。人件費は、患者様が多く来院すると人数を増やすこともありますが、基本的に一定と考えます。
変動費は、売上高に変動してかかる費用という意味で、その総額です。例えば、血液検査は患者様がゼロ人であれば委託費はゼロ円になります。患者様がたくさん来院してくれると、委託費が増えます。変動費は、売上高におおよそ比例するので、比例費とも言われます。
固定費と変動費は、「厳密には、患者様の人数に応じて費用がかかる」と思われるかもしれませんが、細かな数字は税理士に任せるとして、経営者としてはざっくりとした数字(上3桁)で把握しておけば、経営の数字を把握していると言えます。
営業外収益
売上高には、診療報酬以外にも、駐車場経営をしていたり、余剰金で有価証券を購入してその配当などの収益もありますが、それらの収益は本業での収益とは異なるものです。そこで、売上高には含めずに、営業外収益として計上します。
病院では、営業利益がマイナス(赤字)のところもあると思います。しかし、最終利益はなぜかプラス(黒字)になっているところが多いと思います。
その理由は、駐車場経営や補助金などの収益があるからです。
ところが、小さなクリニックでは駐車場経営をすることはほぼありませんし、補助金もなかなか受けられないと思うので、基本は営業利益がプラスになるように経営することを考えます。
そもそも、営業利益がプラスにならないような、また借入金が返済できないような事業計画は立ててはいけません。
利益を出すことに罪悪感は無いか?
志の高い先生の中には、利益を出すことに罪悪感を持っていらっしゃる方も見受けられます。「クリニックは公益事業なので、利益を出すことが目的ではなく、地域の人たちの健康のためにある」と思われるかもしれません。そのようにお考えの先生は、ぜひとも経営に成功してもらいたいと思います。
医療法人を院長先生が経営していたとしても、その財産は院長先生のものではなく、医療法人のものと考えます。廃業しても、財産は先生のものとはなりません。そのようなことで、「公益事業なのだから、利益は出なくても仕方がない」と考える先生もいます。さらに、利益を出すことに罪悪感を持つ先生もいらっしゃいます。
しかし、実際には「利益を最大化したい」と考えて経営する方が、経営がうまくいきやすいという現状があります。
クリニックに利益をたくさん出して、しっかりと税金を支払い、現預金を残しておかないと、クリニックで導入した医療機器の更新ができなかったり、いざというときにクリニック経営が危うくなります。しっかり利益が出ないと、スタッフにもしっかりと給料を払うこともできません。
そして、クリニックがしっかりと利益が出るのであれば、先生の給料もしっかりと取ってもらい、将来の備えとして一定金額を手元に置いていてもらいたいと思います。
ただし、節税することは大切です。節税をしていない先生が税理士を変えることで、「年間で数百万円の現金が増え、資金繰りが楽になった」という先生も多いです。クリニックの節税については、医療法人専門の税理士に相談することをおすすめします。
ちなみに、当社が推奨する税理士は、平井公認会計士事務所です。平井公認会計士事務所のブログを読んでいると、かなりガチガチに税金の計算をしてくれて、しっかりと提案してくれるようです。
患者様に来院してもらえるようにすること
経営の基本は、お客様を大切にすることです。例えば、いくら美味しい料理店でも、店のスタッフの愛想が悪ければ、美味しい店は他にもあるので、二度と行かなくなることもあります。そのことはクリニックでも同様です。
利益は患者様より得られる
「利益は患者様より得られる」とは、ごく当たり前のことです。しかし、このごく当たり前のことが判らなくて、経営を危うくする先生がいます。
営業利益をプラスにして、先生がしっかりとお給料を取ってもらいたいということをお伝えしましたが、その利益はすべて患者様からもらえるお金です。患者様が来院してくださらなければ、営業利益をプラスにはできませんから、たくさん来院してもらえるように経営する必要があります。
先生は、患者様からすると「先生」と言われます。しかし、「自分は先生だ」と鼻を高くしていると、患者様は来なくなります。
今まで大きな病院に勤めていたとすると、その病院のネームバリューで患者様が来てくださっていました。開業医になったとたん、その病院のネームバリューはいっさい通用しません。「有名な病院で名医と言われた」という先生であったとしても、クリニックを開業したと同時に患者様が来なくなってしまうこともあります。
「自分は大丈夫だ」と思わないでください。テレビに出るような名医であってもそうなる場合が多いのです。
多くの患者様に来院してもらうポイントは?
クリニックを開業して多くの患者様に来院してもらうポイントは、
- 立地条件の良い場所で開業すること
- 患者様の対応を温かいものにすること
- しっかりPRすること
- 病診連携の可能性
最初の条件が立地です。立地については、とても大切なことなので、後ほど解説します。
2つ目は顧客対応です。先生やスタッフの対応が、患者様にとって居心地の良いものであれば、Google地図やSNSなどの口コミで高い評価が得られます。対応が悪ければ、すぐに悪評を書かれてしまいます。そして、その評価は、基本的に消すことができません。
お客様の評価は、高い医療技術ではなく、温かい対応なのです。なぜなら、大病院でない限り、基本的にどこのクリニックに行っても、それほど診療内容に違いが無いからです。違いが出るところは、先生やスタッフの対応です。
3つ目はしっかりPRすることです。「高度な医療をしてきたから、腕には自信がある。だから、患者様が来てくれたら、その技術の高さに感動して、口コミも良くなる」と思っている先生が、存外多いのです。
しかし、いくら高い医療技術を持っていたとしても、クリニックの存在が知られなければ、存在しないことと同じなのです。
集患については、他にも病診連携もあります。病診連携をすることで、開業後に初月から黒字化することも可能になります。病診連携ができるかどうかは、病院によって異なります。今お勤めの病院で病診連携をしていない場合は、転職する方法もあります。
開業場所は慎重に選ぶこと
最後に開業場所について解説します。開業場所選びが、開業後のクリニック経営を大きく左右するからです。開業場所選びは、事業計画の内容に大きく影響します。
開業場所を選ぶポイント
開業前に覚えておいてもらいたいことは、「開業したら移動できない」ということです。当たり前のことなのですが、この意味がむちゃくちゃ大切です。
開業場所を選ぶポイントは、先生が開業したい地域であることを除くと、主に
- 集患のしやすさ
- 競合クリニックの位置
- 広さ×坪単価 ⇒ 家賃
- 電源設備
- 防災設備
これらは、どれも大事な要素ですが、特に大事なものが、集患のしやすさと家賃の兼ね合いです。集患がしやすい場所は、坪単価が高くなる傾向があります。反対に坪単価が安い場所は、集患がしにくい場所です。
クリニックは存在が知られなければ、何か特別な事情がない限り、患者様が来院することはありません。ホームページやSNSなどの空中戦だけでなく、クリニックや駅前などに看板を設置して存在を知らせることが基本です。
坪単価の安さだけで開業場所を選ばないこと!
坪単価の高い場所は、駅前などの繁華街といった人通りが多い場所です。そういった場所に看板を掲げることで、クリニックの存在を、地域の方々に知らせることができます。
反対に坪単価の安い場所は、いわば郊外でアクセスの悪く、人通りも少ない場所ですから、看板を掲げても認知されにくい場所です。
先生によっては、坪単価の安さだけで開業場所を選ぶという短絡的な人もいますが、集患ができなければ、本末転倒です。
特に、郊外の自宅を改装してクリニックを併設させることは、要注意です。
開業場所を選ぶコツは、オクスアイ医療事業開発ホームページ「クリニックの内装工事は坪単価の安さで選ぶと失敗する理由」をご参照ください。
開業したら移転できない
先生によっては、「集患できないなら引越しをしたらどうか?」と思われるかもしれません。しかし、一度開業してしまったら、引っ越しは出来ません。なぜなら、クリニックを移転する場合は、内装工事を解体することが必要だからです。
そして、「移転したい」と考えるタイミングは、たいてい資金難のときですから、解体する費用も出せない場合もあります。さらに、移転先の内装工事を資金で行う必要がありますが、金融機関からの融資が下りないことが多いと思います。
「移転するときに、クリニックをM&Aで売却したらいいのではないか」と考える先生もいらっしゃいます。しかし、赤字のクリニックを買いたいという人は、まずいません。
このように、クリニックの移転は難しいので、開業場所選びは、かなり慎重に行うことが大切です。開業場所の目利きは、開業コンサルタントの力量によるため、経験豊富な人に依頼することも大切です。
クリニックの運営は先生が行えるようにすること
クリニックの運営ですが、先生の考えは「ベテランの看護師を雇ったら、運営をやってくれる」と思っている人が多いことです。
確かに、その通りです。クリニックの運営のベテラン看護師であれば、棚の配置やスタッフの育成、電子カルテの操作なども行ってくれるかもしれません。
ベテラン看護師を雇う問題
ベテラン看護師を雇うのに、いくつか問題があります。それは
- ベテラン看護師を雇えるか?
- 雇えたとしても、辞めてしまったらどうなるか?
- 高い給料を払い続けられるか?
先ほど、収益は患者様から得られるため、患者様に対して良い対応ができることが大切であることを伝えました。これは、スタッフにも同様のことが言えます。先生の対応が悪ければ、スタッフは辞めてしまうわけです。スタッフが辞める原因の大部分が、先生の対応の悪さです。
まぁ、スタッフが辞めてしまっても、先生の経営の勉強でもあります。経営者として覚えることはたくさんあるので、ミスをすることも多いです。そのミスを、ミスのまま終わらせないで、反省して経営の仕方を学び、次に生かすことが大切です。
また、ベテラン看護師は、給料が高くなります。クリニックを開業した直後は、患者様の数が少ないので、赤字経営が続きます。その中で、高い給料を払い続けることは、先生の精神状態をむしばんでしまうこともあります。
クリニックの運営ができるように学んでおく
できれば、クリニックの運営はすべて先生が指示できるようにしておいた方が良いです。そういったことで、クリニックの運営を勉強するために、独立した先輩医師のところに勉強に行くこともおすすめです。ベテラン医師から、運営全体の流れを教えてもらい、把握することで、開業のイメージがしやすくなります。
先生がクリニックの運営の仕方を覚えたら、ベテラン看護師を雇う必要がありませんから、求人が容易になり、人件費も安く抑えることができます。
さて、運営の仕方を含め、経営の仕方は、失敗して反省して覚えるか、それとも過去から学ぶか。過去から学ぶ場合は、謙虚さ、誠実さ、志の高さが大切です。
良い開業コンサルタントを選ぶ
クリニックを開業させるためには、開業コンサルタントに依頼することになりますが、良いコンサルタントに巡り合うと、開業場所を適切に選んでくれたり、内装まで支援してくれたり、運営の仕方まで教えてくれることもあります。スタッフやコンサルタントなど、どのようなパートナーに巡り合うのかによっても、経営が大きく左右される場合があります。
諺に、「類は友を呼ぶ」とあります。謙虚さや誠実さ、高い志をお持ちであれば、良いパートナーと巡り合うことでしょう。
ちなみに、私の経験上、あまり良くない開業コンサルタントの傾向は、開業場所選びや内装工事の相見積もりなどを見て、「これはいいですね。これもいいですね」と「いいですね」しか言わなくて、先生に何でも決めさせる人です。先生は、開業場所や内装工事について素人なわけですから、高度がアドバイスができた方が良いわけです。アドバイスをしないコンサルタントとは、契約を解除して、経験豊富なコンサルタントを選び直してください。
ちなみに、当社が推奨する開業コンサルタントは、東京での開業あればオクスアイ医療事業開発か、医療DXコンサルティングです。開業コンサルタントの変更が言い出しにくい先生は、先ほどご紹介した平井公認会計士事務所と併せて、セカンドオピニオン相談をされると良いと思います。
経営の勉強の仕方
経営の勉強は、クリニック経営以外の業種や、異なる規模の経営について学ぶことが大切です。
よく、「自分と同じ診療科で、同じ規模のクリニックは、どのような経営をしていますか?」と訊ねられますが、その答えは、「先生と同じ経営をしています」としか言いようがありません。同じ診療科で同じ規模ですから、同じ経営をしていて当たり前なのです。
経営の勉強は、異なる診療科、異なる業種、異なる規模の勉強をすることで、それを活かして、競合クリニックに太刀打ちをするための、他院とは異なる経営スタイルを考えたり、集患のためのアイデアを出したりできるわけです。
経営で怖いことは、マンネリ化です。マンネリ化していると、新規開業するクリニックにジワジワと負けてしまう恐れがあります。クリニックは開業したら移転できない以上、何かで進化をしていき、参入障壁を構築していくことが大切です。
以上、開業医を目指す医師が経営者になる前に覚えておいてほしいことをまとめました。
最後に、経営の成否は、パートナーに恵まれることも大事です。先生が経営が苦手なままであったとしても、パートナーがしっかりと経営を見てくれたら、先生は安心して医療活動に従事できるわけです。
ただし、経営が苦手であったとしても、経営の勉強は開業後も続けていただきたいと思います。
ここでご紹介した内容は、基礎中の基礎ですから、ここからさらに覚えてもらいたいことは、損益分岐点収益といった経営分析の仕方です。これについては、当社では開業医を目指す先生向けの「決算書の読み方基礎講座」を個別開催しています。ぜひご利用ください。
また、経営の考え方を学べる毎月定期開催している「小さな会社の社長のためのセミナー」をご利用ください。
この記事の著者

経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。
