経営指針とはどういったものなのか、ご説明したいと思います。
その前にお伝えしておくべきことは、「経営理念用語の種類はたくさんある」ということと、「それぞれの用語は企業によって定義が異なる」ということです。
そのようなことで、経営理念を作成しようとする社長は、書籍などを調べれば調べるほど、経営理念用語の意味が解らなくなり、どういったものを作成したら良いのか混乱する人も多いです。
当社では、経営理念を作成しようと思ったら、その前に、それらの経営理念用語を理解することから始めることを、おすすめしています。
そういった意味に統一感のない経営理念用語ですが、当社で定義した用語でよろしければ、経営理念の用語解説Q&Aをご参照ください。
さて、経営理念用語の一つとして「経営指針」があります。
このコラムでは、経営指針について、当社で定義している意味や経営指針を作成する理由、全社員への浸透方法などを解説していきます。
経営指針とは?
経営指針とは、未来ビジョンを実現するための経営判断基準のことです。読み方は、「けいえいししん」です。
経営判断をするのは経営幹部たちです。経営指針があると、経営幹部はそれを基準として、社長に代わって経営判断をしてくことができるようになります。
経営指針は、箇条書きでまとめられていることが多く、社長の経営の悟りが高いと、その箇条書きの数が少なくなっていく傾向があります。かといって、箇条書きの項目が少なすぎたら、経営幹部が経営指針に込められた深い意味を理解するのに苦しみます。
経営指針の項目数は、事業規模が小さいうちは項目を多くしておいて、経営幹部が育ち、事業規模が拡大していったら、経営指針の内容を昇華させていくと言いますか、バージョンアップさせていくと良いでしょう。
経営指針の別名
経営指針は、いろいろな名称で呼ばれることがあります。例えば、「経営方針」「社是」という名称で呼んでいる企業もあります。
「経営方針」は、経営計画に付随する経営方針と名称が被ってしまうために、当社では経営指針と呼んでいます。
「社是」は、老舗企業が用いる名称です。社是の意味は、会社が是とするもの。つまり「この指針に従って経営を行っていきなさい」というものです。
トヨタ産業記念館の敷地に入ったところに、当時の事務所が遺されており、その1Fに「社是」が掲げられています。その内容は圧巻です。
とは言え、平成や令和に起業した会社であれば、経営指針や経営方針を用いると良いと思います。
経営指針と経営理念の関係
経営指針は、経営理念の構成パーツであることを、ご紹介したいと思います。その前に、経営理念とはどういったものなのかを、簡単にご説明いたします。
経営理念とは?
経営理念とは、これも企業によって定義が異なります。当社では、次の3つの問いに答え切り明文化したものが、経営理念と呼んでいます。
- わが社の存在理由は何か?
- 将来の事業内容や事業規模は?
- 社員は何をしたらいいのか?
社長がこれらの問いに答え切り、わが社をどのようにしたいのかを明文化していきます。それを浸透させることで、社員のやる気が引き出され、人間性が高まり、仕事能力が向上していくものであれば、本物の経営理念だと言えます。
二代目以降に社長に就任した人の中には、社長になった瞬間に「社長の仕事は何だろう?」と悩まれる方もいらっしゃいます。結局のところ、社長のお仕事は、会社の目的や目標を定め、経営判断をして、会社をイノベーションさせていくことです。そのための方向性ややり方を示したものが経営理念です。
ここで、経営理念と経営指針の関係性が気になられたことでしょう。
経営理念を構成する4つのパート
経営理念の中に、上記の3つの問いを全方位的に網羅すると、経営理念の内容はとても長いものになります。とても覚えられるものではありません。
そこで、膨大になりがちの経営理念を、次の4つのパートで構成することで、作成や浸透を比較的容易に行えることが分かりました。
- 基本理念
- 企業ビジョン(全社目標)
- 経営指針
- 行動指針
このパートの3番目に、経営指針が出てきます。
3つの問いの答えを連想できる一言で表したものが基本理念です。1つ目と2つ目の問いの答えが企業ビジョンになります。3つ目の問いに答え切ったものが経営指針と行動指針になります。
この4つのパートだけでは浸透が難しい場合には、4つのパートを簡易的に表現した「行動指針のあいうえお」や「スローガン」であったり、部署毎の行動指針であったり、この4つのパートを補完するためのパートを作成します。
経営指針を作成する理由
経営理念を持つ会社は、経営理念が実現した姿である未来ビジョンを作成していることと思います。当社では、企業の未来ビジョンのことを企業ビジョン、また経営理念が実現した最終的なビジョンのことを、全社目標と呼んでいます。
企業によっては、ミッションと言ったり、2030年ビジョンという具合に期限を決めて定義したりしています。
そのような未来ビジョンがチャレンジングな目標であれば、社長一人だけでなく経営幹部を育成し、経営幹部はさまざまな経営判断をしていかなければなりません。その判断基準となるものが、経営指針です。
経営幹部は、経営指針に基づいて経営判断することによって、未来ビジョンの実現に貢献できる有用な人材に成長していきます。
経営指針の内容
経営指針の内容は、箇条書きになっていることが多いです。例えば、次のような内容の箇条書きです。
経営指針の例
- 顧客マインド
- チャレンジ精神
- 公平無私
- 不動心
この内容は、あくまでも例ですが、なかなかレベルの高いものと思います。しかし、これだけでは、社長がどのような意図でこのような箇条書きにしたのか、意味がさっぱりわかりません。そこで、経営指針を説明するための資料が必要です。
そのような資料のことを、当社では経営理念解説書と呼んでいます。経営理念解説書には、経営指針の解説だけでなく、経営理念の他の項目の解説も含まれた全体的なものを作成します。
経営理念解説書については、後ほどご説明いたします。
また、経営指針だけでは全部門に対応できない場合には、部門毎の経営指針を作成することもあります。
例えば、上記の経営指針例を昇進の基準に当てはめてみましょう。すると、顧客に貢献しチャレンジ精神を発揮して成果を出した人が昇進していくことが予想されます。公平無視で全員が平等に昇進するようであってはいけません。そこで、人事部門の経営指針として、「実力主義人事」というものをピシッと入れておき、その言葉に込められた意味を解説してくと、昇進で迷うことがなくなります。
経営指針の浸透
経営指針を作成したら、それで終わりではありません。社員に浸透させて初めて、経営指針を作成した意味が出てきます。
経営指針を浸透させる対象者は?
経営指針を浸透させる対象者は、先ほどご説明したように、経営幹部たちです。
経営幹部は、社長から経営指針の解説を受け、理解し、未来ビジョンの実現に向けて経営指針に基づいて、社長に代わって経営判断をしていきます。そうすることで、経営幹部は経営者としての実力が高まり、大きな仕事ができるようになっていきます。
経営幹部の中には、会社が立ち上がった初期の頃から経営幹部をしている人もいます。そういった人の中には、残念ながら会社が成長しても、経営幹部として成長できずに、事業規模と役職に合った仕事ができていない人もいます。また反対に、能力があっても経営理念に背く経営幹部が出てくる場合もあります。
会社にはそういった経営幹部もいるので、経営指針の理解度や実績で評価するようにしてください。経営指針を正しく理解し、正しく実施できる人が昇進していくことが望ましいです。
場合によっては、厳しい人事が必要になることもあります。
経営理念解説書
とは言え、経営指針の箇条書きの内容を見ただけでは、言葉としては理解できたとしても、社長が経営指針に込めた意味が理解できる人はいません。
そこで、社長自身が経営幹部に向けて、経営指針の解説をしなければいけません。そのためのテキストが、経営理念解説書です。
経営理念解説書には、4つのパートすべての解説を含めたものになります。経営幹部には、これら4つの項目すべての意図を理解し、基本理念の意味や行動指針の内容を一般社員に解説できるようにならなければいけません。
経営理念は社長ただ一人で作成するものですが、社長一人で社員全員に経営理念を解説して回る時間がないので、そこは経営幹部が担当します。
経営理念浸透プロジェクトの実施
まず、経営理念浸透プロジェクトを計画します。そして、そのリーダーは、もちろん社長ご自身です。経営理念を浸透させて、会社をイノベーションさせるという、チャレンジングなプロジェクトですので、社長以外に適任者はいません。
経営理念浸透の流れ
大きな組織の場合には、次のような流れで経営理念を浸透させていきます。
社長 → 経営幹部 → 部課長 → 一般社員
経営幹部や部課長への浸透
経営理念が完成したら、経営幹部だけに経営理念の発表を行います。その後に、社長が講師となって、経営幹部や部課長に経営理念の解説を行います。部課長までは、経営指針を含めた経営理念の4つのパートすべての解説をし、理解を深めてもらいます。
部課長であっても重要ミッションのプロジェクトリーダーには、社長自ら経営理念を指導するべきです。部課長に解説する講師は、経営理念を理解できた経営幹部が担当してもかまいません。経営幹部よりも、社長の方が経営理念に対する熱い思いを持っているので、それを社員に伝えた方が良いからです。
一般社員への浸透
経営幹部や部課長が経営幹部の理解を深めた時点で、全社員向けの経営理念発表会を行います。
一般社員への経営理念浸透は、部課長が担当します。小さな会社であればともかく、基本的に一般社員の講師は、社長が行わない方が良いです。経営理念の熱い思いをそのまま伝えてしまって、受け入れ態勢ができていない一般社員が大やけどをする場合があるからです。
全社員向けの経営理念発表会では、4つのパートすべてを発表しますが、一般社員向けの浸透では、経営指針はあまり深く解説しなくても良いです。一般社員にとっては、経営判断をする場面がほとんどないからです。
経営理念の解説は、座学と実地があります。座学で学んだものを仕事場で実際に活かしていくことで、少しずつ浸透していきます。
経営理念の浸透方法について、おおざっぱに述べましたが、他にもやるべきことはたくさんありますので、別の機会にご説明したいと思います。
経営指針は誰が作成するべきか?
すでに述べましたが、経営指針を作成できるのは、社長ただ一人です。なぜなら、経営指針は社長や経営幹部がそれに従って経営判断をしていく基準だからです。
もし、経営指針を部課長が作成したとしましょう。その経営指針に従って、社長が経営判断できるでしょうか?
会社の最高責任者で、会社の全責任を背負っている社長だからこそ、唯一経営指針を作成することができるのです。
基本的に社長以外の人物が経営理念を策定してはいけませんが、経営理念の作成を支援してもらうことは可能です。例えば、経営理念の策定をコンサルタントに支援してもらったり、企業ビジョンの作成を経営幹部に相談したりという具合です。
ときどき経営幹部に相談することで、経営幹部には「今、社長として会社の未来のことを考えているのだ」ということを間接的に伝えることができます。経営理念の策定は時間がかかるので、経営幹部が「社長は仕事をやっているのか?」と心配になる場合もあります。経営幹部に相談することで、そのように思われることを回避できます。
部門毎の未来ビジョンや経営指針、行動指針などの作成は、部門長にも相談した方が良いでしょう。このような根回しをすることで、部門長が経営理念を受け入れやすくなります。これは、あくまでも相談であり、決定責任は社長にあります。また、部門毎の経営理念も、会社全体の経営理念を補完するものでなければなりません。
経営指針の作成・浸透支援なら当社にお任せください
社長は、社長ご自身を含む経営幹部たちにとっての経営判断の指針になり、社長が掲げる未来ビジョンを実現する正しい経営指針を作成し、正しく浸透させることが大事です。
そうすることで、経営幹部が行う経営判断が統一され、経営幹部が育ち、社会により大きく貢献ができる会社に成長させることができます。
そのような経営指針の作成や浸透なら、当社の経営理念コンサルティングをご利用ください。
コンサルタントが社長の気持ちを高め、その気持ちを紡いで言葉にしていき、経営指針を含む4つのパートを作成し、機能する生きた経営理念に仕上げます。
社長お一人で経営理念の作成に取り組まれるよりも早く、立派な経営理念ができるので、初めて経営理念の作成に取り組まれる社長には、特におすすめです。行動指針については、当社のテンプレートを使用することで、経営理念作成の時間をさらに短縮できます。
経営理念の作成・浸透支援なら、チームコンサルティングIngIngをぜひご利用ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。