社長の夢実現への道

経営理念とは?社長のための経営理念作成浸透マニュアル

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経営理念とは?社長のための経営理念作成浸透マニュアル

世の中には、たくさんの企業があり、ある程度の事業規模の会社は、必ず経営理念を作成しています。

経営理念とは、会社が目指す方向や、それを実現するための哲学や考え方を指し示したものです。

社長の志が高く、事業規模を大きくしたいと考えている方であれば、必ずと言ってよいほど経営理念の作成を考えます。そのときに、経営理念に関する書籍を読んだり、他の企業の経営理念を参考にしたりして、作成を試みることと思います。

多くの上場企業の経営理念を分析すると、それぞれの企業で経営理念の定義が異なっているように思います。また、経営理念に関する書籍を読んでいても、経営理念の定義がバラバラです。

経営理念を作成しようとした社長は、さまざまな企業の経営理念を参考にしたり、経営理念に関する書籍を読んだりすると思いますが、経営理念の意味がわからなくなり混乱する方が多いようです。私自身も、経営理念の調査研究を開始したときに、定義のバラバラ度合いを目の当たりにし、かなり混乱しました。

「経営理念を作成して立派な会社を創りたい」とお考えの立派な社長のために、私と同じような混乱をすることを防ぐお手伝いをしたいと考えました。そのことが、この記事を書くエネルギーとなりました。

この記事では、経営理念とはどういったものなのか、当社が現時点にて考える「経営理念」の意味、作成方法など、経営理念を全方位的にご説明したいと思います。

もちろん、ここに記載された内容が全てではありませんし、違った考え方もあると思います。批判もあるかもしれません。私自身でさえ、来年になったら、経営理念に対して別の考えを持ち、この記事を編集しているかもしれません。

特にこれから経営理念の作成に取り組みたい方のご参考になればと思います。

長文になってしまったので読むのが大変かもしれませんので、このコラムの内容を小冊子にしてプレゼントにしたり、座学でお教えする講座を開催したりすることを考えています。ご興味のある方は、お問い合わせフォームにてご予約をください。

経営理念とは?当社における経営理念の定義と内容

「経営理念」という言葉には、いろいろな定義が存在します。経営理念の作成を本気で取り組まれた社長の多くは、「経営理念」という言葉の正確な意味が理解できなくて悩まれます。

そこで、経営理念の意味を自分なりに定義し、その定義に基づいて経営理念を作成していくことになります。

ここで一つ、大胆にも経営理念の定義について考えたいと思います。現在、経営理念の定義に悩まれていたとしたら、当社の定義を参考にしていただけたらと思います。

経営理念とはどういったものか?

経営理念は、全社員が従うべき会社の取り決めのことです。それは、社長も例外ではありません。経営理念は、社長の考えよりも上位にあるものです。

経営理念の内容は、一言であったり、箇条書きのものであったりしますが、会社が目指すもの、それを実現するための考え方や方針が明文化されたものです。

経営理念とは、経営の理念ですので「社長が会社経営において大切にしていること」や「全社員が従ってもらいたいもの」です。

社長の目指すものには、社長個人の内向きのベクトルと外向きのベクトルがあります。内向きのベクトルは「欲」、外向きのベクトルは「利他」です。経営理念とは、このベクトルが一致する内容のものであり、それを実現するための大きな方針です。

経営者の死に物狂いで事業経営をしてきた中から、たくさんの学びがあり、そこから得られた教訓、人生観、宗教観、哲学、信条などに基づいてつくられたものです。

経営者は、自分の時代が終わっても「次の時代に自社を引き継いでもらいたい」という気持ちを込めて、経営理念を策定することもあります。

そのようにして作られた経営理念によって、立派な会社を目指していくことができます。

正しい経営理念と本物の経営理念

経営理念には、「正しい経営理念」と「間違った経営理念」があります。経営理念の定義が間違っていたら、出来上がった経営理念は「間違った経営理念」になる可能性があります。

正しい経営理念は、社員が受け入れてくれる内容であるかどうかです。

また、当社では「本物の経営理念」というものを提唱しています。本物の経営理念は、社長ご自身のやる気が出てくるものかどうかで判断できます。

作成された経営理念が、正しい経営理念であり、かつ本物の経営理念であるときに、経営理念が浸透していき、立派な会社を目指して成長していくことができます。

後ほど詳しくご説明いたしますが、正しい経営理念や本物の経営理念には、それぞれ条件があります。その条件を簡単に述べるならば、社長の内向きのベクトルと外向きのベクトルが一致した内容のものであることです。つまり、社長が利他を自分の欲求として、利他に取り組む姿勢を示すことです。

正しい経営理念を構成する4つの要素

当社では、「正しい経営理念」というものを、「全社員が従うべき取り決めのことで、次の4つの要素がパッケージ化されたもの」と定義しています。

  1. 基本理念
  2. 企業ビジョン(全社目標)
  3. 経営指針
  4. 行動指針
正しい経営理念を構成する4つのパーツ

この4つのパーツは、図のように上流に位置するものが基本理念です。内容もシンプルなものになります。上から下に流れていくように、パーツが構成されます。

作成していく順序も、基本的には上から作成していく流れになります。

これら4つの意味は、次節にてご説明いたします。

もちろん、この4つで構成された経営理念が完全に正しいものかと言えば、そうは思いません。結局のところ、どのような経営理念であったとしても、社長が想い描く会社の姿が実現するのであれば、それが正しい経営理念なのです。

上記のこのように定義した理由は、経営理念を作成し浸透される理由が、一言で「立派な会社にしたいから」というものです。この「立派」とは、他社と比較しての場合もありますし、社長が抱く志を実現し得る企業のことを指す場合もあります。それを実現するために、当社の今までの経験上、上記の4つの要素が必要だということに至りました。

当然ながら、これら4つの名称は、企業によって異なることが多いです。経営理念を作成したら、浸透時に言葉の誤解を防ぐために、最初の方のページに、言葉の定義を記載しておくと良いと思います。

経営理念の4つの要素の解説

上記の経営理念の4つの要素についてご説明いたします。

基本理念

基本理念とは、自社の存在目的や、自社で大切にする価値観、目指すものなどがイメージできる一言で表されたイデオロギーです。

基本理念の一言から、自社のすべてが始まり、すべてが終わるようなものです。つまり、この一言で書かれた内容を実現するために自社の存在が許され、そしてそれが実現されたら自社が必要なくなります。そのときに、新たな経営理念が出来上がっていきます。

当社の基本理念は、「泥中の花」です。泥中を混沌とする社会をイメージしています。その中でも、美しい花を咲かせていこうとする企業があります。泥中の花を実現するために自社が存在し、泥中が花で満たされたら当社の使命は終わりです。

また基本理念は、一言で表現されたものですので、そこに込められた深い意味は、作成した本人以外は理解し難いものです。そこで、企業ビジョンや経営指針、行動指針といった要素で補完します。基本理念は、会社でのすべての基準となる一言です。

企業ビジョン(全社目標)

企業ビジョンとは、会社が目指すものをイメージにしたものです。そして、全社目標とは、企業ビジョンの最終目標のことです。

当社であれば、基本理念が泥中の花ということですが、それが実現した姿が全社目標です。その途中段階として、長期企業ビジョンから短期企業ビジョンが存在します。つまり、全社目標を時系列で割ったものが企業ビジョンで、時系列の長さに応じた企業ビジョンを立てます。

壮大なビジョンを浸透させようとしても、社員が理解できなかったり、イメージできないので、浸透しません。そこで、全社目標を分割して、企業ビジョンとして示します。

後ほど、経営理念浸透の注意点のところでもご説明しますが、壮大なビジョンを与えてショック療法をするのではなく、リハビリのようにイメージできるところから浸透させていくことが大事です。

企業によっては、社員が理解しやすくするために、企業ビジョンを図や絵にしているところもあります。そのような図や絵のことを、当社では未来創造マップと呼んでいます。

経営指針

会社の目標や方針を立てる責任者は社長です。しかし、すべての業務の目標や方針は、各部門の専門家が立てていくようにすることで、会社が成長します。そこで、経営担当者は、基本理念や企業ビジョンが実現するために、社長に代わって経営判断をしていかなければなりません。

経営指針は、社長に代わって経営判断をしていくための指針のことです。

経営指針の内容は、一般的な社訓のように箇条書きで表されることが多いです。社長の哲学が崇高であればあるほど、その箇条書きの数が3つや4つといった、少ない数になりやすいです。

例えば、経営指針の中に「安全衛生」という項目があったとします。経営担当者は、社長から出される会社全体の目標や方針に沿うように、自分が担当する部門で「安全衛生」を考慮して、自分で考え目標や方針を立て、部下に実施してもらいます。

また、経営指針の項目に優先順位が付いている場合もあります。例えば、「第一が安全衛生、第二が顧客満足」といった具合です。経営担当者が、何らかの経営判断に迫られたときに、この優先順位が経営判断の材料になります。

「3つや4つといった少ない項目数では、経営判断に誤りが出てしまう」とお考えになる経営者もいますが、それは時代に応じて解説を加えていくことが、経営担当者に求められます。

経営担当者は、経営指針に沿うように経営判断を行っていくことで、正しい経営判断ができるようになり、経営能力を高めることができます。

行動指針

行動指針は、基本理念を実現するために求められる人間像が定義されたものです。

基本的には、会社が理想とする人材像として、人間性と仕事能力について書かれており、企業や業種によって、特有のものが加えられることが多いです。

立派な会社に成長させるためには、社員の人間性や仕事能力が立派であってこそ実現できると思います。そのための指針を示すものが、行動指針です。行動指針に基づいた考えや仕事ができる人材は、とても優秀だと言えます。

新入社員、一般社員、リーダー社員といった具合に、役職が上がっていくと、求められる考え方や仕事能力が異なってくると思います。そこで、それぞれの役職で、行動指針に基づいた「求められる人材像」というものが作成されます。それを人事考課に取り入れることによって、経営理念の浸透が進みやすくなります。

行動指針の具体的な内容については、「行動指針はどのような内容にすべき?例文でご紹介」をご覧ください。

以上、当社が提唱する「正しい経営理念」の4つの要素をご説明いたしました。この4つの要素の詳細は、経営理念の構成要素をご覧ください。

経営の悟りが高い社長ほど経営理念がシンプル

経営の悟りという言葉は、あまり聞きなれない言葉だと思います。松下幸之助先生や本田宗一郎先生、佐伯勇先生、稲盛和夫先生など、そういった大経営者の方々が遺された言葉からは、何とも言えないオーラを感じます。そのような経営の至言を残された経営者のことを、「経営の悟りの高い経営者」と呼んでいます。

そして、経営の悟りの高い経営者が作成した経営理念の内容は、何ともシンプルなものである傾向があります。

シンプルでない経営理念がダメではない

経営に精通した社長ほど、経営理念の内容が多くなります。「あれも必要だ、これも必要だ」という具合です。

ある企業の経営計画書を見させてもらったところ、経営理念やら基本方針やら、ミッションやら、ビジョンなどで、あらゆる内容が書かれていて、「これを読む社員は困るだろうな」と感じるものがあります。

そのような経営理念が、ダメではありません。社員からすると、読むのは大変ですが、会社の方向性が具体的に決められていることで、考えて行動しやすくなります。社員が考えて行動しているうちにトラブルに遭遇し、社長は経営理念を作り直すことになります。

社長が成長段階にあり、経営理念も社長の成長に合わせて成長していくのです。そのうちに、作成された経営理念に物足りなさを感じたり、必要に迫られるなどして、いろいろなパーツが組み込まれていくものなのです。

もし、経営理念がツギハギだらけのように見えて、シンプルにまとめたいと感じたら、経営理念を刷新するタイミングだと思います。

シンプルな基本理念の例

経営の悟りの高い社長になると、経営理念の内容はとてもシンプルであることが多いです。経営指針の内容も、3ヶ条ほどしかない企業もあります。

事例として、とある立派な会社で、基本理念が「情熱」といった、基本理念が一言だけの会社があります。

このシンプルな基本理念から、会社全体の方針が決まっていくことに不思議さを感じられたことでしょう。

この「情熱」という基本理念を、私なりに少し解説したいと思います。

シンプルに「情熱」とだけありますが、情熱を向ける方向を考えると、次の3ヶ所が見えてきます。

  1. 社外
  2. 社内
  3. 社長自身

社外に情熱を向けるということは、自社がお客様や社会に対して価値の高い商品やサービスを提供しいて貢献していくための情熱です。それを実現するためには、社員が立派な仕事をしてくれなければいけません。そこで、社内に情熱が向けられ、社員の人間性や仕事能力を向上させていきます。

そして、社外や社内に情熱を向けるための根源となるものが、社長をはじめとする経営幹部の情熱です。

つまり、「情熱」という言葉一つから、このようなお客様や社会に対する貢献、理想とする社員像、経営幹部の考え方や経営の仕方などをイメージすることができます。

基本理念を補完するものが必要

ただし、「情熱」の一言だけの経営理念では、社員は基本理念に込められた深い意味を理解ができないことでしょう。例えば、社員が業務で何かミスをしたときに、上司から「お前は情熱が足りない!」と注意されても、社員にとっては意味不明ですし、具体的なアドバイスが欲しいと思います。

そこで、全社目標や経営指針、行動指針があることで、基本理念の意味や実現方法を理解することができます。

また、それらの経営理念のパッケージは、全社共通の内容なので、個別具体的なものが必要となります。例えば、仕組みづくりや業務マニュアルといった、さまざまなもので基本理念を補完します。

理念経営とは?

理念経営とは、理念に基づいて経営を行うこと。もしくは、そうなっている状態のことです。

もちろん、経営理念が出来上がっただけでは、理念経営ができているとは言えません。経営理念が浸透して、経営理念に基づいて事業活動することがカルチャーとして根付いた状態が、理念経営に至った状態です。

正しい経営理念には、崇高な言葉が並んでいることと思います。ですので、それが完全に実現することは、まずありえないことです。

実のところ、経営理念の実現を目指し、それに向かって成長している企業が、「理念経営ができている企業」なのではないかと思います。

経営理念の類語

経営理念に関する用語は、本当にたくさんあります。最近では、フィロソフィーやパーパス、ミッション、ウェイなど、流行もあるのだと思います。これからも、たくさんの用語が生まれてくることでしょう。

当社の定義した経営理念の意味と同じ用語は、「企業理念」です。当社では、経営理念と企業理念を同じ意味で用いています。使い分けは、クライアント社長に合わせています。

また、経営理念の類語に「社是」と「社訓」があります。当社が定義する経営理念によると、次の位置づけになるものと考えています。

  • 社是=基本理念
  • 社訓=経営指針

また、「パーパス」や「ミッション」というものがありますが、パーパスとミッションを組み合わせたものが、当社で述べるところの基本理念に該当します。

当社で経営指針と呼んでいるものは、企業によっては「経営方針」と定義しているところもあります。当社では、経営方針を「経営計画に付随する経営方針」と定義しているので、経営理念の要素となっている経営陣の経営判断基準のことを、「経営指針」と銘打ちました。

行動指針は、行動規範と言われることもあります。

このように、経営理念の用語には似たものがたくさん存在し、企業によって定義が異なります。どのような定義をしたら良いのか難しく考えるよりも、しっくり来るものを利用したら良いと考えます。

何を定義したら良いのか分からない方は、一般的によく利用される用語について、「経営理念の用語解説Q&A」に記載しているので、ご参照ください。

経営理念を作る理由

経営理念を作る理由は、先ほど述べたように、一言で述べると「立派な会社をつくるため」です。

立派な会社のイメージは、社長によって異なります。もちろん、同じ社長であったとしても、会社の規模によって異なります。

共通することは、社員が立派に働いて、お客様に貢献している姿がイメージできます。そのイメージを明文化したものが経営理念です。

間違った理念作成理由の典型、「社員を働かせるため」

そのことを、一部の社長は勘違いをして、「経営理念は、社員を働かせるために作るものだ」と考えている方もいらっしゃいます。しかし、そのような考えで作られた経営理念は、搾取のための経営理念ですので、会社を崩壊させてしまうことが、容易に想像できます。

例えば、社長が強権で、馬車馬のように社員を働かせるための経営理念を作ったとしましょう。そのような経営理念は、発表された瞬間に社員が全員辞めていってしまいます。

また例えば、立派な経営理念だったとしても、社長だけが治外法権で、毎日ゴルフ三昧だったらどうでしょうか?

経営理念には立派なことが書いてあったとしても、社長ご自身の考えや行動がそれに合っていなければ、社員はそのような経営理念には従えません。

経営理念を作る目的

経営理念を作る目的は、社長の志や使命感によって、「会社を大きくして、より多くの人を幸せにしたい」と考えたときに、社員にどのように働いてもらい成果を出してもらうのかを示すためです。そして、会社の永続的発展の基礎を築き、立派な会社を創ることです。

そのためには、社長の成長も必要です。実のところ、経営理念を作る理由は、経営理念の作成は、本当の目的は「社長の自己変革のためにある」と言っても良いと思います。

経営理念を作成する目的は、社長を奮い立たせ、「社長が馬車馬のように働くため」、「社長の脳みそが溶けるまで会社の未来のことを考えるため」にあると思います。そして、その健気に働く姿勢でもって社員を説得して、「社員にご協力いただく」という考え方が正しいと思います。

経営理念の目標

経営理念を作成し浸透させるための目標は、社長はもちろんのこと、社員が基本理念や企業ビジョンの実現に向けて事業活動に取り組んでいる状態にすることです。

基本理念や企業ビジョンに描かれたことを実現するために、社員が一丸となって事業活動をしている状態にすることです。社員が自ら高い目標を持ち、それを実現するためにモチベーションが高い状態を維持している状態です。

そうなるためには、経営理念を口頭で伝えるだけではいけません。もちろん、経営理念を普段から口頭で伝え続けることは大事なのですが、口頭で伝えるだけでは、経営理念が浸透した状態を創ることはできません。

経営理念の浸透では、経営理念を実現するための仕組みをつくることも、目標の一つとなります。

正しい経営理念の条件

正しい経営理念について、4つのパーツで構成されているものを、提唱いたしました。しかし、その4つのパーツで構成されているものが、「完全に正しい経営理念なのか?」と問われたら、当社としては否定します。

4つのパーツで構成された経営理念の解説を補足することを兼ねて、正しい経営理念の条件について述べたいと思います。

優れた会社にある優れた経営理念

会社には必ず存在理由があり、その内容は、一部の例外を除いて「社会やお客様に利益をもたらす」といったものです。社会やお客様にもたらす利益があるので、お客様は自社の商品やサービスを選び、それにお金を支払ってくださいます。それによって、会社が生き残ったり、成長したりできます。

お仕事の代金は、お客様に貢献して得られるものです。その貢献あることで、会社が生き残ることが許されるのです。お客様が支払ってくれる代金の年間の合計が「年商」です。年商の大きな会社は、「社会に大きな利益をもたらしている会社だ」と言えます。

そのような大きな会社には、必ず優れた商品やサービスがあります。優れた商品やサービスの前に、優れた経営理念があり、それが企業文化として定着しています。それによって、優れた商品やサービスが生み出されています。つまり、理念経営が実現した姿がそこにあります。

優れた経営理念を持つ会社に起きること

優れた経営理念を作成し、それを浸透させるによって、次のようなことが起こります。

  • 自社や自社製品・サービスが、社会から受け入れられ続ける
  • より多くのお客様が自社製品・サービスを利用し続けてくださる
  • 社員が生産性の高い仕事をして成果を出し続けてくれる
  • そのための仕組みが出来上がっていく

自社や自社製品・サービスが社会から受け入れられるためには、社会貢献がポイントです。自社都合の製品やサービスは、基本的に社会に受け入れられるものではありません。そして、より多くのお客様が自社製品・サービスを利用していただくことで、会社が成長していきます。

社長や経営幹部は、事業活動によってどれだけのお客様に利益をもたらすのかを知り、経営計画を立て、それを実現できる人材を増やしていく必要があります。社員が良い商品・サービスを開発し、量的・質的な生産性を高めていく必要があります。

それを実現するための仕組みが、会社のノウハウとして蓄積されていくことが大切です。

ときどき「わが社を『学習する組織』にしたい」とお考え、仕組みづくりの前に、社員研修ばかり求める企業もあります。社員に研修を受けさせることだけが学習する組織ではないと思います。それは単に「研修させる組織」です。全社員が事業活動を通じて学習し、それをノウハウとして組織に蓄積し成長していける組織が、学習する組織だと考えます。

正しい経営理念の3つの条件

これらのことが明文化されている経営理念が、正しい経営理念だと言えます。つまり、次の3つのことが正しい経営理念の条件となります。

  1. 会社がどのような社会貢献をするのかが導き出せる
  2. 将来の事業規模がイメージできる
  3. それらを実現するためのあるべき働き方や考え方が導き出せる

これらの内容が全方位的に明文化された経営理念、もしくはこれらの内容から全方位的なものが示唆される経営理念が「正しい経営理念」です。

多くの経営理念を分析していると、書いてある文言は違えども、同じような業界で同じような規模であれば、経営理念の内容が似てくる傾向があります。

正しい経営理念のあるべき姿

経営理念は、社長の悟りが高まればシンプルなものになることを述べました。

しかし、シンプル過ぎたら、社員の誰も経営理念に込められた深い意味を理解することはできません。つまり、機能しない経営理念になりかねないのです。

機能しない経営理念は、正しい経営理念とは言えないはずです。そこで、経営理念をいくつかに分解して理解しやすいものを構築する必要があります。

「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺があります。風が吹いたら、なぜ桶屋が儲かるのでしょうか?

風が吹くことと、桶屋が儲かることの間には、「何らかのプロセス」があります。これを、会社に当てはめたとすると、「わが社は、世のため人のための会社だから、質の高い仕事をするように」と言われたようなものです。ほとんどの社員は理解ができませんし、完全に理解できる人は、社長お一人のことでしょう。

ここで、「世のため人のため」ということが基本理念に該当するもので、「質の高い仕事」が結果を得るための行動です。その間には、いくつものプロセスに相当するものがあります。それが、次のようなものです。

  • 企業ビジョン(全社目標)
  • 経営指針
  • 行動指針
  • 仕組みづくり
  • マニュアル化

基本理念が実現した姿が企業ビジョンです。その究極が全社目標です。それを実現していくための経営判断の基準となるものが、経営指針です。そして、質の高い仕事をしていくために、全社員が基準とすべき考え方や、仕事の仕方が、行動指針です。

それらに基づいて、会社が仕組みで動けるようにイノベーションさせていきます。出来上がった仕組みは、誰でも成果が出せるようにマニュアル化をします。もちろん、仕組みやマニュアルは、理想に近づけるように改善されていき、全社員がより質の高い仕事ができるようにします。

経営理念という大きな仕組みで質の高い事業活動ができ、全社目標の実現のために永続的にイノベーションしていける組織を創り上げる会社にする経営理念が、正しい経営理念のあるべき姿です。

経営理念のメリット

次に経営理念のメリットをご紹介いたします。経営理念のメリットは本当にたくさんあるので、基本的なものをご説明いたします。

もちろんメリットを得るためには、正しい経営理念を作り、正しく浸透した場合に限ります。

社長の事業活動への情熱がみなぎる

経営理念を作成することの最大のメリットは、社長の事業活動への情熱を高めることです。

会社の規模は、社長の情熱の量に比例すると言われています。これは、稲盛和夫氏の理論です。

経営理念は、社長の公器な志を明文化したものです。それを自分自身で、時間をかけて、じっくりと練り込んでいくのですから、その練り込み度合いが高まれば高まるほど、社長の事業活動への情熱が高まり、社長のエネルギーが企業ビジョンの実現に集中するので、会社の業績が上がり始めます。

経営理念の作成に取り組み始めると、今までさまざまな情報に振り回されていた社長が、信念を持ち、本業に取り組むようになります。

経営理念の作成に取り組まれると、社長の情熱とエネルギーが本業に集中していくので、経営理念が完成する前から、会社の業績が上がり始めるのです。このことは、経営理念の作成を本気で取り組み始めた社長に共通するメリットです。

社員の気持ちが一つになる

多くの社長が、経営理念を作成する理由は、「社員の気持ちを一つにする」という理由にあるのではないでしょうか?

経営理念のメリットには、社員の目指す方向が一つになるというメリットがあります。社員の目指す方向が一つになれば、社員はそれを実現するための提案をしてくれるようになります。

経営理念がなかったときには、社員は社長が何を目指しているのかさえわかりませんでした。そのような状態で、社長に提案などできるわけがありません。

社長の願望

そのためには、社長の願望には大まかに2種類のタイプがあることを先に述べたいと思います。そのタイプとは、次の2種類です。

  1. 自分の欲望を満たしたい
  2. 世のため人のために事業活動をしたい

多くの社長が、実のところ前者の考えをお持ちなのではないかと思います。しかし、そのようなことを感じている社長であったとしても、それを恥じてはいけません。なぜなら、社長をしているだけでも、とても偉いことだと思うからです。

起業する理由が、自分自身の欲望を満たすためということは、よくあります。例えば「お金持ちになりたい」とか、「勤めていた会社に一矢報いたい」といった理由です。そのような欲望で起業したとしても、起業できるためにはそれなりの実力が必要だからです。起業した時点で、その実力を試そうとしているのです。

さて、そのような「自分の欲望を満たしたい」という理由だけでは、会社を大きくできません。なぜなら、そのような社長を支えようとする社員は出てこないからです。会社を大きくしたければ、社長を支える社員が出てこなければなりません。

そのような、「欲望を満たしたい」と考えでは、社員は定着しませんし、社員が良い仕事をするわけがありません。それが経営の壁になります。そこから脱却し、「世のため人のために事業活動をすべきだ」と悟る段階があります。そのときが、経営理念の作成を考える本当のタイミングでもあります。

優秀な社員が求めていること

会社を大きくしたければ、社長を支えようとする社員が出てくる必要があります。そのためには、社長が支えようとする社員から魅力的に見える必要があります。しかも、そのような社員は優秀である必要があります。

優秀な社員から「この社長に付いていきたい」と思われるためには、社長の目指しているものが、「世のため人のため」である必要があります。

「そうは言うものの、『世のため人のため』なんで、なんと青臭いのか」と思われた方もいらっしゃることでしょう。そう思われても仕方ありません。

しかし、世の中の優秀な社員が入社してくれなければ、会社は大きくなりません。そして。起業したての小さな会社に入社するための大義名分が必要となります。

ここで、「お給料さえ出せたら優秀な社員は雇うことができる」という考えもあるかと思います。そのような考えで雇った社員は、「お給料の切れ目が縁の切れ目」となるのです。

優秀な社員は、お給料以外の働く理由、大義名分を求めているのです。

社員の気持ちを一つにする経営理念

優秀な社員は、大義名分で仕事をするところがあります。その大義名分が経営理念になります。

そして、経営理念の実現に向けてひたむきに取り組む社長の後ろ姿を見て、優秀な社員が付いて行きます。

優秀な社員が尊敬する社長の姿を見て、一般社員が社長を尊敬し、大義名分に従うのです。

経営理念は、正しい経営理念であることはもちろんのこと、社長ご自身がそれに従うことがセットになって、社員に浸透させることができます。

社員が何をしたらいいのか分かりやすくなる

大企業であれば、経営理念が作成され、それに従って経営がなされているため、社員はすでにカルチャーとして経営理念を受け入れている状態です。中小企業では、経営理念どころか、社長が何を目指しているのかさえ分からないので、社員は社長から何を求められているかわかりません。

そのような何をしていいのかわからない状態で、社員は勝手に成長してはいけないので、社長に対して何を目指しているのか、何をしたらいいのか訊ねると思います。正しい経営理念が立ち上がると、会社がどのような人をお客様として、どのような価値を提供していくのかが明確になります。

「理念は利益率」と言い放った社長の事例

とある小会社で、その会社に転職したばかりの社員が社長に理念を訊ねたところ、「当社の理念は利益率だ。仕事で利益を出してもらいたい」と、間違ったことを述べました。それを聞いた社員は、数か月後に会社を辞めてしまいました。

社員にとっては、自分の将来がかかった会社勤めで、社長が何を考えているのか、とても気になります。社長が示すビジョンが、自分自身の将来を決めるのです。

利益のために働くことを命じられたら、社員は「社長から働かされている」と感じます。そこに、仕事に対する喜びはありません。まさしく搾取です。

その会社の社長は、社員に利益率を高めることを求め続けました。しかし、社員はその経営理念を受け入れませんでした。そして、社長は利益に苦しんでいました。

社員にとってのお給料は、お客様から得られます。お給料は社長が払っているようなものですが、実のところお客様からお仕事を頂いているために得られるものです。つまりは、「利益率」という間違った経営理念ではなく、最低でもお客様のことを経営理念として即答してもらいたいものです。

社員の仕事に対する喜びを感じるときは、誰かに貢献できていることを実感したときです。そして、自分の成長を感じたときです。正しい経営理念が掲げられると、社員は自ら何を考え、どのような行動をしたら良いのかを考えるようになります。それが実現できたら、世のため人のために自社があることに誇りを持つようになります。

ちなみにその会社は、社員は長くても3年ほどしか定着しませんでした。社員は、一部の優秀な社員を除いて、社長に対して協力的にはなりませんでした。ちなみに、その優秀な社員は、2~3年ほどで独立起業していきました。

「お客様への貢献」という内容を自社独自の言葉で社員に伝えることによって、社員は奮い立つものです。そして、それを実現するために社員は工夫してくれるようになります。

愛社心のある経営幹部や部門長が育つ

経営理念の浸透では、経営理念研修を開催します。一般社員向けに開催する経営理念研修は、社長に代わって経営幹部や部門長が行います。

そのときに、経営理念の理解が浅いと、経営理念が浸透しにくく、会社をイノベーションさせられないかもしれません。社長から重責を担った経営幹部や部門長は、必死に経営理念を理解しようと、経営理念に込められた意味を深く理解するために、何度も何度も経営理念を読み返すことになります。

経営幹部や部門長は、最初は経営理念の内容を、「このような簡単な内容だったら、自分でも作ることができる」と思っている人もいます。経営幹部や部門長は、社長が作成した経営理念を深く理解しようとすればするほど、経営理念の内容の深さに驚くことになります。経営理念研修で社員に解説していく中で、入念に練り込まれた経営理念に感動さえ覚えるようにさえなる人もいます。

そして、そのような奥深い経営理念を作成した社長を、心から尊敬するようになります。

自社を立派な会社にイノベーションさせていくことを決意して、経営理念を本気で作成し、社長自ら実践していく後ろ姿を見て、経営幹部や部門長が鼓舞されて、成長していくのです。

経営理念に基づいて事業活動をしている社長は、会社と一体のものですので、その気持ちが愛社心につながります。愛社心を持った経営幹部や部門長を育成したいのであれば、正しい経営理念の存在が必須です。

経営理念は誰が作成するべきか?

経営理念は誰が作成すべきなのか、悩まれる社長もいます。文章が苦手ですし、どのような内容のものを作成したらいいのかもわかりません。

そこで、社員に任せてみたり、コンサルタントに作ってもらったりと、いろいろな人に作ってもらう人もいます。他の会社のものを、そのまま真似する社長もいます。

ここまでご覧になられた方は、経営理念を作成できるのは「社長ただ一人だ」ということに、すでにお気づきのことと思います。そのことについて、ご説明いたします。

経営理念を作成できるのは社長ただ一人

経営理念とは、社長以下、会社に所属する人材すべてが、経営理念に従って仕事をするものです。社長も例外ではありません。

すると、経営理念を作成できる人材は、自社のことを最もよく知っている人物で、経営の専門家であること。つまり、社長ただ一人です。

なぜなら、他人が作成した経営理念を社長ご自身が、それに従うことができないからです。

会社の最高決定権を持っているのは、社長ただ一人です。その決定を経営理念に基づいて行うわけですから、他人が作成した経営理念ではいけないわけです。他人が作成した経営理念に基づいて社長が決定するとなると、その会社は社長のものではなく、経営理念を作成した他人のものなのです。

そういったことから、経営理念を作成できる人材は、社長ただ一人なのです。

経営理念は他の会社から字面をコピーしただけでは機能しない

経営理念を他の会社のものをそのままコピーして使用した社長がいました。零細企業では、私はそれで良いと思います。

守破離と言われるように、最初は、尊敬する先輩経営者を真似して、自分オリジナルの経営理念を作成していけば良いのです。

字面だけを真似しても、経営理念の内容の深い意味を理解していなければ、経営理念が機能することはありません。そのため、一般採用が始まり、小企業から中企業を目指す段階では、そのままコピーした経営理念ではいけないと考えています。

経営理念は、社長の考えが明文化されたものであることが、社長の情熱を高めるものです。そのためにも、社長の考えに基づいて、オリジナルなものを作成すべきだと思います。

ちなみに、当社の基本理念である「泥中の花」は、尊敬する先輩経営者が作成した経営理念の一部をコピーしたものです。

先ほど、立派な会社の経営理念で「情熱」というシンプルなものをご説明しましたが、その社長を尊敬し、「自社の経営理念も『情熱』にしよう」ということで、「情熱」と毛筆で書かれた色紙を額縁に入れて、社長室に飾っているだけでは、何も起きないのです。

社員に経営計画を作成させた社長

経営理念ではありませんが、とある会社で経営計画を社員に作成させていた社長がいました。

社長は、出来上がった完璧なまでもの経営計画を見て、一言、言い放ちました。「よし、これで良い。君がリーダーとして、これを実現させてくれ。」

私は、「この会社は、社長がオーナーで、この社員が社長だ」と思いました。

その会社では、人心が離れ、社員の入れ替わりが激しい会社となりました。

経営理念も同じです。経営理念は、経営計画よりも上位に位置づけられるものです。その経営理念を社員に作成させようとしている社長もいます。

経営理念を社員に作らせた会社

経営理念は、経営のプロである社長が作成すべきことは、述べるまでもありません。その経営理念を、次の世代を担う社員に作成させようとした会社がありました。

次の世代を担う社員に作成させることは、「社員にも経営に関わってもらい、経営幹部に成長してもらいたい」「社員に主体性を持ってもらいたい」という社長の想いがあり、一見すると良いことかと思います。しかし、その社長は、次の3つを間違っていました。

  1. 経営を知らない社員に作らせようとしたこと
  2. 社員の中から、経営理念作成の参画を希望した優秀な社員を20名ほど選び、全員で作らせようとしたこと
  3. 社長は一切の口出しをしないと約束したこと

結局、その会社はどうなったか分かりませんが、社員のモチベーションは高まることは無く、今まで通りの会社になっていったと予想します。

経営理念が必要となるタイミング

正しい経営理念が必要となるタイミングは、一般採用を始めたときです。社長お一人やご家族、身内や知り合いといった方々だけが社員のときは、経営理念は必ずしも必要ありません。会社の組織規模(従業員数の増加)によって必要になり、規模の成長と共に経営理念も成長させていくものとお考えください。

会社の組織規模と経営理念成長の関係

簡易的な経営理念が必要となる時期は、「零細企業から小企業へ成長するとき」です。そして、上記の「正しい経営理念」が必要となるタイミングは、自社が「小企業から中企業へと成長するとき」です。

零細企業のときは、経営理念は必ずしも必要ない

会社が設立されたときの従業員は、多くの場合は社長お一人やご家族、知り合いなどの身内だけでスタートすると思います。そして、何年かの努力を経て少しずつ事業規模が拡大し、身内や知り合いを採用していくと思います。

身内や知り合いは、社長からするとコミュニケーションの取りやすい人材です。そして、人数は少ないので、社長が持っている経営哲学や事業活動に関する考え方などは、それらの人材に直接伝えることができます。いわゆる零細企業の文鎮型組織です。

そういった事業規模の場合には、経営理念なるものは必要ありません。優れた商品・サービスを持つことがスタートです。そのために必要なものは、社長の先見力です。それによって売れる商品やサービスがつくられ、実績を出します。その実績に可能性を感じて、社員がついてくるのです。

ただし、そのときに次の成長に向けての布石が必要となります。それがなければ、会社の停滞を招きます。その布石にはいくつかありますが、思いつくところで述べるとするならば、次のようなものです。

  • 会社が何を目指しているのかを社員に普段から話す
  • 仕事内容を固めて、それをマニュアル化する
  • 社員にどのように働いてもらいたいのか、さまざまな目標を紙に書いて出す
  • 仕事をしている中で得られた教訓を、紙に書いて残す
  • 社員からの報告は、紙に書いて提出してもらう

これらの内容は、会社の成長に向けての訓練になります。

社員は、自社が将来どのようになるのかを気にしている人が多いです。社長は、社員のために会社が何を目指しているのか、普段から話してあげてください。1回話しただけでは、社員は本気にしません。何度も話しているうちに、社員は理解してくれるようになります。

そのためにも、会社の将来のことを社員に話せるような内容にまとめておいた方が良いです。

将来に事業規模を拡大したいと考えている社長であれば、経営理念は必要ないとしても、社長の志や未来ビジョンは明確にしておいた方が良いです。未来ビジョンとは、社長が個人として目指しているビジョンです。

また、小企業に成長するまでに、短期経営計画づくりや事業活動の仕組みづくりを行って、正しい経営理念をつくるための「社長の悟り」を高めていってください。

零細企業から小企業に成長するときに経営理念が必要

零細企業から小企業に成長するときに経営理念が必要となります。なぜなら、社長の目の届く範囲では、社員は指示通りに仕事をするのですが、社長の目の届かないところでは悪気なく指示通りに働いてくれなくなるからです。

ただし、完璧な経営理念ではなく、将来に経営理念を完成させることを念頭に置いての、経営理念の原型とも言えるもので良いです。

小企業で経営理念がなかったときの弊害

社員数が増えてくると、社長の目の届かない社員が出てきます。社員の人数は、20人ほどかと思います。その人数になってくると、何人かの社員は普段から社長と接することがないため、社長が直接理念や大義名分を伝えることができません。

そうすると、社員は自分が働く意味を求めるようになるので、社長の事業活動に対する考え方とは異なる独自の考え方を理念として定め、それに基づいて仕事をするようになります。

その理念とは、たいていは「利益の最大化」です。その利益は、会社ではなく自分自身の利益になることが多く、業務の属人化が発生し、お客様へのサービスが低下します。営業担当者の場合は数年後にお客様を引き連れて辞めていくことになりやすいです。

社員が、自分自身の利益が最大化するために働くことは、とても良いことだと思います。その結果、会社にも利益がもたらされる場合もあるからです。しかし、個人の利益だけを目的としてしまった場合には、会社にとってはマイナスになりかねないのです。つまり、社員の集まりが「烏合の衆」になっている状態で、組織戦で戦えていない状態だと言えます。

会社に根拠のある基準が存在しない状態なので、社員の仕事態度が悪かったり、目標を達成してくれなかったりしても、注意できません。社員同士の人間関係も悪い状態になりやすいです。

そのような状態だと、店舗経営をしている会社であれば、社長が回れる範囲の店舗では、社員は正しく働き、売上が上がっているのですが、社長の目の届かない店舗では売上が落ちます。その店舗を支援すべく、社長が巡回し始めると売上高が回復します。ところが、別の店舗の売上高が落ちるのです。

経営理念の原型を作成

そこで、零細企業から事業規模が拡大し、小企業と言える段階までくると、ここで経営理念の原型が必要となります。原型となる完成度の低いものでも良いので、会社の存在意義を経営理念で示し、会社の目指す方向性を全社員に知ってもらうことが大事です。

経営理念の原型は、次のものです。

  • 事業の定義付け
  • 企業ビジョン
  • 簡易的な行動指針

事業の定義付けとは、後ほどもご説明しますが、自社や自社の商品やサービスなどが持っている機能から事業活動の定義付けをします。自社の定義付けは、「自社は何のために存在するのか?」を考え続けて出てくる言葉です。商品やサービスについても同様に、何のために存在するのかを考え続けてください。

事業の定義付けができると、自社はどのようなお客様に、どのような価値を提供していくべきなのかが分かります。また、バリュープロポジションを明確化することにもつながります。

この段階では、社長はまだ社会の一員として利他に生きる決意ができていない方が多いと思います。そこで、社長の自己実現としての未来ビジョンを作成します。未来ビジョンの達成を目指して、事業活動に取り組んでいく中で、公器性に目覚めていく社長が多いです。その目覚めが、経営の壁を突破させる原動力にもなります。

企業ビジョンに「ナンバー1」を盛り込む

その社長個人の未来ビジョンを、企業の未来ビジョンに変換したものが、企業ビジョンです。企業ビジョンを立てるときに、何らかの「ナンバー1」を盛り込むようにしてください。例えば、「地域ナンバー1を目指す」「技術力でナンバー1を目指す」といった具合です。

ナンバー1を目指すことを記載しなかったとしても、それを示唆させるような内容にしてください。

会社が成長するためには、優秀でない社員が優秀な社員と同程度の成果を出すように仕組みをつくることが大事です。しかし、その仕組みは優秀な社員でないと作れません。優秀な社員が入社してくれるためには、「ナンバー2以下で良い」という会社と「ナンバー1を目指す」という会社のどちらに入社したいと考えるのか、火を見るよりも明らかです。優秀な社員は、自分の能力を発揮できそうな会社を選び、その能力が発揮できる会社に居続けるものです。

行動指針は、いきなり完成度の高いものを社員に突き付けても、社員は受け入れられるものではありません。これは、まるでオリンピック選手が、小学生の徒競走の仕方を教えるようなものです。できれば5つ程度の箇条書きの簡易的な行動指針を作成されると良いと思います。簡易的な行動指針については、後ほどもご説明いたします。

仕組みづくりに取り組む

経営理念の原型ができ、それを浸透させつつ、社員には経営理念実現に向けての仕組みづくりに取り組んでもらうことが大事です。

仕組みづくりは、優秀な社員でなくてもお客様に価値を提供できるように戦力化できる体制を整えることです。

社員が経営理念の意味を理解して行動できるようになるためには、とても時間のかかることです。その前に、経営理念に基づいて仕事ができるように仕組みを創り整えていきます。

最初は、社員の誰しも仕組みづくりに取り組むことができる人材はいません。仕組みづくりを社員としていく中で、社員が育っていって、仕組みづくりの仕組みが出来上がっていきます。

「社員の考えが変わることと、行動を変えることは、どちらが先ですか?」と聞かれることがありますが、感情は行動に従うものです。特別優秀な社員や理屈を大事にしている社員は別として、「経営理念に基づいた仕組みによる行動が先だ」とお考えください。

仕組みづくりについては、行動指針に盛り込んでも良いし、経営理念を補完するための経営方針に盛り込んでも良いです。社長の方針として、仕組みづくりを明文化することが大切です。

小企業から中企業に成長する過程で経営理念がおおよそ固まる

小企業からさらに事業が拡大し、中企業を目指すようになってくると、経営理念は進化してきます。人数は50人を超えてきていることと思います。

そこで、「経営理念は変えてはいけない」という固定観念にとらわれてはいけません。経営理念は、基本的には変えないことになっていますが、それは大企業での話です。中小企業では、経営の実態に合わせて進化させることが大事です。

経営理念は、会社の成長に合わせて「前向きに進化させることが大事」であり、最終的な正しい経営理念に創り上げられていくものなのです。経営理念を頑なに守って、会社の成長を止めたり倒産させたりしたら、本末転倒です。

小企業から中企業に成長させるためには、経営幹部や部門長を育成する必要があります。経営幹部や部門長の育成は、社長に代わって経営判断を行い、実績を積み重ねることで行われます。そのときに、社長が経営幹部や部門長に方針を示し、社長に代わって経営判断をしてもらいます。

そうすることで、社長が繰り出す方針が正しいものかどうかを、社長ご自身が知ることになり、その経験を基にして、経営理念の要素の1つである経営指針が醸成されていきます。

この段階での経営理念の内容は、上述した4つの要素に仕上がっていきます。

  1. 基本理念
  2. 企業ビジョン(全社目標)
  3. 経営指針
  4. 行動指針

経営理念がここまで固まり、浸透された状態になると、言葉の言い換えや行動指針の項目追加はあるものの、経営理念が大幅に変更されることは、ほとんどありません。

ただし、ここで行動指針を固めていくためには、膨大な時間を要する場合があります。そこで、行動指針の基本的な内容については、テンプレートを基にして、それを修正して利用した方が良いです。

行動指針の基本的な内容が網羅されたテンプレートを使用されたい場合は、当社にご相談ください。

経営理念作成への取り組みは早い方が良い

簡易的な経営理念が必要となるタイミングは、自社が「零細企業から小企業へと成長するとき」と述べました。零細企業から小企業と言っても、従業員数が5人から50人と幅が広いです。

「では、従業員数が何人のときか?」と聞かれたら、それは条件によって異なります。

なぜなら、経営理念が社長の経営に対する悟りによって完成していくのであれば、従業員数が多くなった会社の方が、それだけ社長の悟りが高いと言えるので、良い経営理念ができるからです。しかし、従業員数が多くなればなるほど、会社のイノベーションに対する反発が強くなってしまいます。

社長の経営の悟りが高まり、「世のため人のための会社を創りたい」と考えるようになったら、簡易的な経営理念を早い段階から作成し始めることをおすすめします。

経営理念を初めて作るときの作り方

初めて経営理念を作成するときの作り方をご説明いたします。

経営理念を初めて作成しようと考えた社長は、おそらくは社員が数名で、会社の成長が止まり、社員の気持ちが未来に向かず、社長は未来のことを考えたくても目先の業務に忙殺されていることと思います。

ここでご紹介する方法は、あくまでも「正しい経営理念」であり「本物の経営理念(後ほど解説)」の作り方ですので、とても手間のかかる方法です。何かフレームワークを実施したら手軽に出来上がるといった、簡単な経営理念ではありません。

しかし、経営理念創りに手間をかけたらその分だけ、社長を燃え立てるような情熱の塊にしてくれるはずです。

1. 最初の経営理念作成のための準備

最初に作られるべき経営理念は、社長が実現したいことや社会貢献、社長の経営哲学や事業経営の考え方、ノウハウをシンプルにまとめたもので構成されます。

  • 社長の志
  • 社会貢献
  • 経営哲学や事業経営の考え方
  • 事業経営のノウハウ

社長は、これらについて考えをまとめたり、心に決めたり、体得したりすることで、それが基になって経営理念を作成することになります。

志を聞き続けてくれる相手を見つける

経営理念を作りたいとお考えの社長は、自分自身の志や夢、実現したい社会変革などを、話せる相手を見つけて話すようにしてください。誰かに話しているうちに、考えがまとまってくるものです。私自身は、妻が毎日のように対応してくれています。

とは言うものの、志を立てることや、立てた志を固めることは、誰かに相談してできるものではありません。

経営コンサルタントに相談しても、「志を立ててから来てください」と言われることが多いです。なぜなら、志を立てること、立てた志を固めることは、とても時間のかかることですし、成果が出にくいものだからです。また、多くの経営コンサルタントは、志の立て方を知りません。

伴侶や知り合いの経営者に相談しても、たいていの相手はイライラしてくることと思います。場合によっては、語った夢を否定されたり、「売上高1億円を達成してから言いなさい」と言われたりと、現実に戻されてしまいます。

話し相手は、自分の私見を挟み込まずに、ただひたすらに話を聞いてくれるような、聞き上手であることが大事なのですが、そういった人は稀なのです。

志を話せる相手が見つからないときは、基本的には、社長お一人で考えて考えて考え抜いていただきたいと思います。

しかし、目先の仕事に忙殺されて、どうしても集中できるものではありません。志をいっしょに立ててくれる相手がいたら、10倍くらいの早さで志が立っていくものです。そのお相手に理想的な人は、経営コンサルタントではなくビジネスコーチです。ビジネスコーチのセッションを受けることで、社長の志を明確にしてくれるだけでなく人生計画も立ててくれます。

当社の経営理念コンサルティング支援のサービスの一つ、志を立てて固めるためのスポットコンサルティングをご利用ください。

経営や哲学の勉強をする

経営理念の基になる考え方や盛り込むべき内容、言葉といったものは、書籍でも学ぶことができます。

たくさんの先輩経営者やコンサルタント、宗教家や哲学者、軍師や兵学者といった方々で、名の知られた方が説かれた智恵、教訓、教えなどから学ぶことができます。大先輩の会社の社史なども勉強になります。

何も知識のない中で経営理念を作成するともなると、苦労します。それらの勉強をたくさんして、先人たちの至言をストックしておくと、経営理念が作成しやすくなります。日本では、幸運なことにも、世界中の多くの書籍が日本語になっているので、勉強がしやすいです。

それによって経営の課題や問題に取り組み、智恵を得ることができたら、それが経営の悟りとなります。

メンターを持つ

また、勉強が苦手な社長の場合は、メンターを持つことをおすすめします。メンターは、志を聞き続けてくれる相手にもなってくれます。

メンターは知識や情報、智恵、アイデアの宝庫です。経営のいろいろな課題や問題に対する考え方、事例、アイデアを出してくれます。社長の実務的な能力が高かったとしても、より上位概念の原理からのアドバイスが得られます。

メンターのアドバイスを経営理念に盛り込むと、社長ご自身が経験しての言葉ですので、説得力の高い経営理念になりやすいです。

当社の経営理念コンサルタントや経営コンサルタントも、メンターになりますので、当社のサービスをどうぞご活用ください。

2. 社長の志を立てて固める

まずは社長ご自身の志を固めることから始めます。「志として固まった状態」とは、社長が人生をかけて実現したいことを発見し、それを信念として固めたものです。

社長は、何か思うことがあって起業したことと思います。その思うことが、初めは「お金持ちになりたい」といった自分中心なことだったかもしれません。しかし、お金持ちになるためには、お客様にとって価値のある商品やサービスを開発し、販売して、お客様に貢献しなければいけません。

また、さらに事業を拡大していくためには、自社が社会から受け入れられないといけません。そうならば、社会貢献を目的とした企業を目指すべきです。

事業が拡大し、「そろそろ経営理念を作成しないといけない」とお考えになられた頃には、社会や人々に対して貢献する何か志していることと思います。その志を明文化して、何度も読み返して「本当にこれが私の志なのだろうか?」と繰り返し考えます。「これ以外に考えられない」という、大きな目標が見つかると思います。それを実現することを誓い、過去の自分と訣別するのです。

志を立てるときは、人生計画を同時に立てると考えやすいです。

3. 未来ビジョンを企業ビジョンに変換する

社長の志が立ち、固められたら、その志が実現した姿を「未来ビジョン」としてイメージ化し、企業ビジョンに変換します。

未来ビジョンと企業ビジョンの関係

社長の志は、個人的な欲望を満たすことではなく、社会貢献だと思います。つまりは、今現在世の中に満たされていないものを満たし、豊かな社会を実現するための志だと思います。それが実現した姿が、社長の公人としての未来ビジョンになります。

それを会社の事業活動に落とし込んだものが、経営理念の要素の一つである「企業ビジョン」です。

社長が人生をかけてご自身の未来ビジョンを実現させていきますが、ご自身の人生は会社と共にあります。しかし、会社が自分の手を離れていくときも訪れます。社長が会社を離れても、企業ビジョンは生き続けるわけですから、実のところ社長ご自身の未来ビジョンよりも、企業ビジョンの方が大きい可能性もあります。

ですので、社長ご自身の未来ビジョンは、「大きな企業ビジョンを実現できる永続性のある会社を創りたい」というものでも良いのかもしれません。

事業の定義付けをすると企業ビジョンが考えやすくなる

企業ビジョンを作成するときに大事なことは、事業の定義付けをすることです。事業の定義付けとは、自社や自社の商品やサービスが何のために存在するのかを考え続け、それらが持つ機能を考えることです。

事業の定義付けをすると、そこから将来にどのようなお客様に対して、どのような商品やサービスを開発していくべきかが明確になります。

例えば、ホームページ制作を事業としていたら、ホームページが持っている機能を考えます。当社では、ホームページの機能を「売上アップのツール」と定義しています。

ホームページで売上アップをするためには、ホームページを制作するだけでは出来ません。すると、お客様を取り巻く環境や市場、強みなどの分析、商品やサービスの体系化も必要となります。場合によっては、お客様に商品やサービスの改善も要求しなければいけません。

なぜ、このような定義付けが大事かと言いますと、それは事業の定義が、我社の存在理由や将来の事業規模を表すからです。そして、事業の定義付けが、将来的に「基本理念」に進化していくものだからです。

定義付けから企業ビジョンを考える例

例えば事業の定義を、「ホームページ制作」と定義したならば、自社はホームページ制作から抜け出すことができません。いずれ価格競争に入り、ホームページ制作でナンバー1企業にならなければ、淘汰されていく運命にあります。

ホームページ制作を「売上アップのツール」という具合に、機能で定義したならば、ホームページ制作以外にもやることがたくさん出てきます。ホームページ制作を通じて、立派な会社づくりに貢献することになります。

そこで当社では、立派な会社をたくさん輩出することを企業ビジョンとして立て、経営理念作成支援や新商品開発、販売支援、ブランディング、経営計画策定などのサービスも提供できるように成長できました。

4. 簡易的な行動指針、それを補うルールやマニュアルを作成する

社長の志が固まり、企業ビジョンが明確化され、社長が本気でその実現を目指したときに、多くの協力者が必要であることを悟ります。

また、その協力者は、たいていは社長よりも優秀な人はいません。なぜなら、社長よりも優秀な人は独立起業してしまうからです。ちなみに、この段階で優秀な社員が入社してきたら、「いずれは独立起業していくものだ」と考えた方が良いです。

そのようなことで、会社が優秀でない人でも成果が出せるように仕組みづくりをしていく必要があります。仕組みづくりができる人材をも育成できるように、仕組みづくりをするのです。

そのときに、社員全員が良い仕事ができるようになるための、全社員が従う行動指針と、部門毎の特有の行動指針や、それらを補うルールやマニュアルを作成します。その内容は、簡易的なものでかまいません。

ルールやマニュアルは、行動指針では具体的でない作業の部分を補うものです。全社員は、行動指針やルール、マニュアルに従って仕事をするようにします。

簡易的な行動指針の内容については、「行動指針の『あいうえお』のすすめ」をご覧ください。

5. 行動指針やルール、マニュアルをブラッシュアップし共有する

行動指針やルール、マニュアルができたとしても、もちろん最初はトラブルだらけです。トラブルが発生する理由は、社員が原因ではなく、行動指針やルール、マニュアルに問題があるからです。

トラブルが発生する度に、行動指針やルール、マニュアルをブラッシュアップしていき、ブラッシュアップされたら関係のある社員全員にすぐに共有します。

ここで、ブラッシュアップとは、行動指針やルール、マニュアルの内容を検討して、トラブルが発生しないように変更したり、追加したりすることです。ブラッシュアップのときは、顧客サービスを優先するのか、それとも企業ビジョン実現を優先するのかといった、優先順位が出てきます。ブラッシュアップの検討は、最初は社長が率先して検討に入るようにしてください。

このようにして、会社オリジナルの行動指針やルール、マニュアルが固まっていき、その実施がカルチャーとなります。

カルチャーとなったら、社員はわざわざ行動指針やルール、マニュアルをいちいち読み返すことはありません。カルチャーになっているので、自然に行動指針やルール、マニュアルに従って行動ができています。何かトラブルが発生するときは、行動指針やルール、マニュアルに従って活動ができていないときです。

そういったときに、行動指針やルール、マニュアルを確認し直すことになります。

行動指針やルール、マニュアルの作成には、ものすごく時間がかかる場合があります。行動指針の作成を時短されたい社長は、当社の行動指針フォーマットの導入と、経営理念コンサルティング支援の導入をご検討ください。

ルールやマニュアルの作成方法については、別の機会に述べたいと思います。

6. 経営幹部や部門長を育成すべき段階で経営指針を作成する

行動指針やルール、マニュアルが固まってくると、顧客から選ばれる企業に成長していき、さらに事業規模が拡大していきます。社員が育ちやすく、成果を出しやすくなっていると思います。すると、社員がすぐに会社を辞めないで定着するようになります。

社員数が増えて小企業を超えて中企業に成長させる段階になれば、経営幹部や部門長を育成すべきときです。

行動指針やルール、マニュアルのブラッシュアップを検討する担当者の中から、経営の知識や部門毎の専門性の高い知識・経験を持ち、社長に意見してくれる人材の中から、経営幹部や部門長に抜擢するようになります。

経営幹部や部門長には、社長から目標や業務改善などを行う経営方針を与え、社長に代わって経営判断し、目標達成に責任を持つようにします。経営方針には、短期的なものから長期的なものがあります。まずは経営哲学となる長期的なものと、1年間の短期的なものの2種類を提示することから始めます。

これらの方針も、前向きに変更することはかまいません。

経営幹部や部門長が育ち、社長とそん色のない経営判断ができるようになってくると、社長は会社の未来に向けた仕事をする時間ができるようになります。

このように、経営理念は作成したら終わりではなく、進化させていくことが大事です。

経営理念作成での注意点

経営理念の作成では、いくつかの注意点があります。

時間がかかることを肝に銘じること

経営理念は会社の運命を決めてしまうものです。ですので、短時間にパッとできてしまうようなものは、経営理念とは言えないと断言します。本物の経営理念は、何かツールやフレームワークを使って、パッと出来るようなものではないのです。

経営理念の作成に取り組み、納得のいくものができるまでに、10年ほどを要する社長もいらっしゃるくらいです。当社がコンサルティング支援をさせていただいても、経営理念の完成までに、早い方で1年以上を要しています。

下手な経営理念を作成し、社員の人間性をムチャクチャにしてしまうくらいであれば、まだ経営理念が無い方がマシです。

経営理念が完成するまでの間は、社長は社員に口頭で会社の目指すものを話すようにしてください。

最高のものを仕上げること

経営理念は会社の運命を決めてしまうものであれば、最高の内容に仕上げる必要があると思います。

経営理念を作成するときに、社長によっては、現実では到底達成できないような、とても壮大な未来ビジョンを想い描く方がいらっしゃいます。「このような盛大なことを考えても良いのだろうか?」と遠慮されて、現実に即したものを想い描き直す場合もあります。

未来を想い描けるということは、それが実現できる可能性を意味します。経営理念を作成したときに、町工場のオヤジだった社長が、世界を代表する会社にまで成長させた例も、数多くあります。本田技研工業然り、IBM然りです。

未来を想い描けることは、社長のセンスです。その想い描く力が、未来の会社をつくります。

経営理念は、今の会社の現状を超えて、社長の想い描くことができる最高の理想を実現すべく、作成してください。

集中できそうなとき、気分の良いときに作成すること

経営理念を作成するときは、集中することが大切です。経営理念を作成し始めたら、そのことだけに集中して、他のことを一切考えなくても良い時間をつくることが大切です。そのようなことから、経営理念の作成は、気分の良いときに行ってください。

「気分の良いとき」とは、仕事のストレスやトラブル、悩みがあるときでない、気分転換ができたときのことです。

イライラしている状態で、会社の未来のことを考えたときに、いい経営理念ができるはずがありません。

事業経営に取り組んでいる社長で、仕事の悩みのない人はいません。経営理念を作成する社長には、悩みを断ち切って、集中できるための能力が求められるのかもしれません。

集中できる場所で作成すること

悩みや余計な思いを断ち切るということで、仕事場所から離れたところで経営理念を作成することをおすすめします。

経営理念を作成する時間をつくるために、会社から離れて喫茶店に行ったり、温泉に行ったり、パワースポットに行ったりする人もいます。

会社で作成していたら、いいところで社員から話しかけられ、集中している状態(ゾーンに入っている状態)から現実に戻されてしまうからです。

経営幹部に心配をかけないこと

経営理念を作成している数か月から数年は、経営幹部たちは「社長は何をこそこそ作成しているのか?」と思っていたことと思います。場合によっては、「社長が何か宗教にはまったのかもしれない」とさえ社内で噂されることもあります。その期間を耐えて、社長は経営理念の完成を目指してください。そして、経営幹部には経営理念の作成をしていることを伝えておいた方が良いです。

経営幹部の中には、経営理念の重要性や作成の難易度の高さを、心底知っている人はいません。経営理念の作成に本気で取り組んだ人にしか、その難易度はわからないのです。

ですので、会社にとって最重要な「経営理念の作成」を、万難を排して取り組んでいただきたいと思います。

経営理念が完成して満足しないこと

経営理念の完成には、多大な時間と労力が必要であることは述べた通りです。

経営理念が出来上がるまでに、精魂が尽きてしまう社長がいます。気が抜けてしまう社長もいます。そういった場合に、浸透のところをおろそかにしてしまって、経営理念が社員に浸透せず、会社のおイノベーションが起こせない企業を、少なからずお見受けします。

経営理念は出来上がってからも大事で、浸透させなければ経営理念を作成した意味がないのです。

経営理念浸透の陣頭指揮は、社長自らが行うべきです。なぜなら、経営理念を作成したのは社長ご自身ですし、社長が経営理念の意味を最も理解している人材だからです。

また、簡易的な経営理念を作成した場合には、上記の「経営理念の4つの要素の解説」でご説明したような、正しい経営理念の完成に向けて進化させていくことが大事です。

出来上がった経営理念の点検(本物の経営理念か?)

経営理念は、4つのパーツで構成されていることを述べ、それが「正しい経営理念」であることを述べました。次に、その正しい経営理念が、本物の経営理念であるのかどうかを点検する方法を述べたいと思います。

その点検項目は、次の2点です。

  1. 経営理念が社長ご自身の文章で書かれたものか?
  2. 経営理念を見て、社長ご自身の情熱が掻き立てられるものか?

経営理念が社長ご自身の文章で書かれたものか?

経営理念は、正しい内容であったとしても借り物であったら、それは社長ご自身の経営の悟りではなく、あくまでも借り物です。

経営理念を受取る側からすると、社長がどうしたいのか、社長の言葉を聞きたいのです。ですので、最低限でも基本理念と全社目標(企業ビジョン)は、社長の言葉で書くようにしてください。

また、経営指針や行動指針の内容の一部に、古典などの名言を引用される方がいらっしゃいます。それは、説得力が出てくる場合があるので、良いことだと思います。引用をされた場合は、その解説文を社長の言葉で書くようにすると良いでしょう。

また、何かの経営書に書かれている内容をそのまま引用したい場合であれば、社長の解説を独自に作成し、経営書の内容はそれの補足説明として使用すべきです。経営理念を分析していると、松下幸之助先生や稲盛和夫先生、一倉定先生、ドラッカー先生の言葉が引用されていることを、ときどき目の当たりにすることがあります。当社のご支援では、古典や仏典、聖書なども引用することがあります。

社長の説得力を高めるための補佐的な材料として利用してください。

経営理念を見て、社長ご自身の情熱が掻き立てられるものか?

経営理念作成において、これが最も大切なものなのですが、「経営理念を見て、社長ご自身の情熱が掻き立てられるものか?」ということです。

小さな会社を経営される社長は、あらゆる業務をこなしていくオールマイティな人物でなければいけません。そういった意味で、社長ができているということは、とても多能である優秀な人物と言えます。

しかし、会社が成長するにつれて、その多能性も限界を迎えます。そこで、会社の成長のために自分に足りない能力を、自分よりも高い能力を持ったプロフェッショナルに手伝ってもらう必要があります。

そういったプロフェッショナルが社長と共に、会社の成長に貢献してくれるためには、もちろん社長の先見力や実務能力から来る将来性も感じるのですが、社長の情熱が絶対に必要なのです。どのような事業も、情熱がなければ絶対に大きくならないからです。

そういった意味で、経営理念を作成する段階に至った社長は、「情熱が仕事をする」という段階に来ているのだと思います。

その社長の情熱の源泉となるものが、「わが社が何のために存在するのか?」を考え抜いて得られた大義名分を明文化した「基本理念」なのです。基本理念を読み返すことによって、事業活動に取り組む情熱が出てくる基本理念であれば、「本物の経営理念だ」と言えます。

ですので、他人ではなく社長ご本人の言葉で書かれたものしか、本物の経営理念には成り得ないのです。

経営理念の進化について

経営理念は、社長が考える会社の法律です。最初は自我を満たすための経営理念だったものが、「世のため人のために事業活動をしたい」と考えるように社長の心境が進化し、簡易的な内容のものを作成することをお伝えしました。そして、経営理念を進化させていって、正しい経営理念に構築していくことも述べました。

そのような経営理念の進化は、社長の心境の変化によて行われていくようにも思います。明治・大正から昭和にかけて、一代で大企業を構築された先人、大事業を成し遂げた偉人たちを調べていると、次の3段階で経営姿勢が成長していることが分かりました。

  1. 自我の経営
  2. 利他の経営
  3. 天下国家のための経営

この成長段階に合わせて、経営理念も進化させていくべきことを解説いたします。

自我の経営

最初の経営の成長段階である自我の経営について、少し解説したいと思います。

「自我の経営」とは?

私自身もそうだったのですが、会社を設立したときは、自分の欲望を満たしたいという気持ちが強いものです。会社の経費が公私混同されている状態です。

その状態の経営を、「自我の経営」と名付けました。

この段階ですと、社長にとって会社とは「自分の財布のようなもの」なので、会社は公器なものではありません。

経理担当者は奥様が行っていることが多いと思います。奥様の中には、社長の金遣いについては指摘するのですが、当の本人は治外法権で自分のために会社のお金を使っている場合もあります。

そのような社長でも、表向きには「お客様のため」や「世のため人のため」、「社員のため」と言って経営をしています。しかし、本心では「ゴルフに行きたい」とか「クラブで遊びたい」というもので、社長の自我を満たすために事業活動をしているようなものです。欲の主なカテゴリは、「お金持ちになりたいこと」と、「有名になりたいこと」、「誰かの上に立ちたいこと」です。

自我の経営は、完全な悪なのかと言えばそうではありません。自我の経営でも、はやりお客様に価値が提供できていなければ会社は淘汰されるため、何らかの価値が提供でき、社会に貢献しているのです。一見すると、社長が乱脈経営をしているようであっても、会社が小さいので社長の直観力によって経営が成り立っている状態です。

税理士さんや税務署さんに叱られて、「これはダメだったのか」と反省をして、少しずつ勉強をしていきます。

自我のマインドが引き寄せるものとは?

社長が間違ったマインドを持っていると、そのマインドがマイナスの仕事をするものです。「類は友を呼ぶ」とか「引き寄せの法則」と言われるものは、本心のマインドがそれを引き寄せるものです。

そのときの社長の信念が、自我を満たすことですから、表向きはいいことを言っていたとしても、本音では社員に対して「ゴルフに行きたいから、お前たちはしっかり働きなさい」、お客様には「クラブで遊びたいから、この製品を売ってあげますよ」といったものです。

そのため、この経営姿勢のときに経営理念を作成したとしても、それは社長の本心が反映されていない「間違った経営理念」なのです。間違った経営理念を社員に浸透させようとしても、社員はすぐにそれを見破って、経営理念を受け入れることはありません。

一見すると正しい経営理念であったとしても、社員が社長の本心を知ったときにガッカリするものです。実のところ、そのガッカリ感を与えてしまうよりも、社長の本心の経営理念を作成した方が、まだ社員は納得する場合が多いです。

自我の経営からの脱却

自我の経営であったとしても、経営部門がしっかりしていたら、会社の支出をコントロールし、倒産を免れて、会社を小企業まで成長させられる場合があります。しかし、経理部門の担当者が見かねて、会社が社会的な害悪になる前にインフレファイターとしての役割を果たし、会社の成長を止めにかかります。あるいは、経理部門から見放されて、会社を倒産させてしまいます。

そのときに社長は反省をすることになります。その反省で、表面的な反省ではなく、自分の経営に対する気持ちに問題があったのだと気が付いて、自己変革に対する反省をされた社長は、次の経営姿勢の段階に進むことになります。それを「利他の経営」と呼びたいと思います。

利他の経営

自我の経営の次の段階が「利他の経営」です。少し解説いたします。

「利他の経営」とは?

利他の経営は、社長が「地域貢献」や「お客様の利益のため」、「社員の幸福」といった考えで会社を経営する姿勢です。単にそれらのことを考えるだけでなく、それらの実現に責任を感じる段階です。社長のマインドが言動と一致している状態です。

今までは自分のために会社を経営していたのですが、自分の欲望が満たされ、それでは満足できずに、欲望を満たすこと以上に「自分以外の人を幸せにしたい」と考える心境です。このときに、会社が公器なものへの転換点を迎えます。

今まで自我の経営をしている中で反省をして、「わが社は何のために存在するのか?」という問いを考え続けて、そこで得られた結果が「利他」という悟りに至ると思います。そのような社長の思考の転換が重要で、これによってもう一段大きな会社への成長が始まります。

利他の経営と経営理念

この心境に至った社長は、マインドと言動が一致しているので、社長は尊敬されてファンができ、支援してくれる人も見つかります。開発される商品も、一段と磨きのかかった良いものになります。それらに伴って、売上高も高まります。

社長のファンができると、社長は大忙しです。そこで、経営理念を立てて、経営理念に基づいて社員が仕事をしてくれるように、仕組みをつくります。

今までは社長が一人で走り回っていて、社員は言われたことしかしていなかった状態だったと思います。そこで経営理念を立てる、もしくは経営理念の前段階の自社の定義付けや社長の志、企業ビジョンなどを立てて、社員に浸透させる段階です。

それを悟ったときに、今まで自我の経営では得られなかった情熱の高まりや幸福感が出てきます。そのときに、我社の存在理由を経営理念、特に「基本理念と全社目標」を作成すると良いと思います。

そのようにして作成された経営理念は、社長の言動が一致するので、社員も受け入れてくれやすいものになります。

利他の経営からの脱却

この経営姿勢の段階では、社長の実力によってある程度までの事業規模、例えば売上高が3億円や10億円といった規模まで成長させられます。

ほとんどの社長は、この段階で満足されることと思います。また、この段階が社長にとって最もやりがいがあり、自分の自由になるときです。引退のときに「このときが社長として一番幸せなときだった」と述懐される社長も多いです。

しかし、この段階にある社長であっても、「もっと世の中のお役に立てるのではないか」とか「地域を超えて、多くの人が幸せになれるようにしたい」という大きな考えが出てくる場合があります。

そこで、さらに前向きな反省をして、事業経営の大きな本質に気が付き、社長ご自身のマインドをさらに進化させたときに、次の段階に進みます。それが「天下国家のための経営」です。

この段階で「天下国家のための経営」を考えてはいけないのか?

もちろん、利他の経営の段階で「天下国家のための経営をしたい」と考えてもかまいません。

しかし、段階を踏んで成長していかないと、会社の規模が停滞することになります。なぜなら、社長の言動が一致しないので、社員がその考えを受け入れてくれないなからです。今まで自我の経営をしてきたことを見てきた社員ですから、いきなり「天下国家のための経営をしたい」と豪語しても、社員は信じません。

この段階で社員が信じるものは、社長の実績です。お客様の幸せのことを本気で考え、社員の幸せのことも本気で考え、キリスト教的な「隣人愛」を発揮できて、その実績を見続けて、雪解けのように少しずつ社員が社長を信じるようになるのです。

このときの経営理念には、天下国家の経営を考えつつも、表面的な経営スタイルは「利他の経営」を行い、全社目標として天下国家のための経営を盛り込むと良いと思います。

天下国家のための経営

次の経営の成長段階が「天下国家のための経営」です。

「天下国家のための経営」とは?

今までは、自社に関係のある人たちを幸せにするための経営姿勢でした。この段階では、社長は天下国家の発展・繁栄に自己責任を感じ、「天下国家のために経営をしていくぞ」という決意をします。

これからは、自分たちに直接利害関係のない人たちをも幸せにしていこうと、社長の信念が進化したために、経営理念の内容も利他の経営から天下国家のための経営に進化させるときです。

天下国家のための経営ですから、目指す事業規模も相当大きなものになります。

社長は、利他の経営で仕組みを構築することを経験しているので、「大事業を成していくために、どういった人と組んでいったらいいのか?」ということを考え始めます。それは、財務のプロと言えるナンバー2のことです。

この段階での経営理念は、基本理念や経営指針はとてもシンプルなものなのですが、行動指針やそれを補完するためのルールなどは、とても膨大な量になりやすいです。天下国家のための経営ですから、社員に対する要求も多く、より高くなって当然です。

しかし、それがカルチャーにまで浸透したら、経営理念の内容をわざわざ勉強しなくても、それが身に付いているので、自然に振舞っている状態が、経営理念に基づいて仕事をしている状態です。

天下国家のための経営を目指す会社の経営理念

この段階になると、利他の経営のときに作成した経営理念を進化させて、内容を充実化させます。具体的には、基本理念の記述がより大きなものを目指すように変化し、企業ビジョンも利他から天下国家に向けたものになります。また、経営指針が新たに加わったり、行動指針の内容が膨大に増えたりします。

内容が膨大になった行動指針は、今まで理念経営を行ってこなかった会社では、すぐに浸透するものではありません。そこで、行動指針の中でも「これだけは最低限守ってもらいたい」というものを絞り込んで、それを社員に実施してもらうことが大事になります。

この経営姿勢に至った社長は、50代後半や60代という年齢になられていると思うので、経営理念の承継のことも考えなければいけません。そこで、経営計画や社内報などで、経営理念だけでなく社長の考えたことを言葉として残していくことが必須となります。本田技研工業のトップトークスのように歴代社長の言行録を残していくことも、とても大事です。

経営理念の完成を目指す

この段階ですと、今までの実績もあり、会社の成長に合わせて本当に優秀な社員が入社してくるので、会社は急成長をすることが多いです。

自我の経営から利他の経営、そして天下国家のための経営へと社長の経営姿勢を進化させてきた場合には、会社が小さなものでも、急成長に備えて経営理念の完成を目指すべきです。

とある町工場のオヤジさんが、ミカン箱の上に立って、20~30人の社員の前で「いいかお前たち、俺たちは世界一の製品をつくるのだ、世界一だぞ!」と豪語していたところ、15年後には世界中が認める世界一の会社に成長させてしまった事例もあります。

「小さな会社なのだが、天下国家のための経営を目指しても良いのだろうか?」と思われる社長もいらっしゃることでしょう。その場合は、天下国家の経営を目指しつつ、実務的には利他の経営を完成させてください。

3つの経営姿勢を述べてきましたが、「これより上の段階の経営姿勢があるのか?」と聞かれたら、おそらくあるだろうと思います。

経営理念作成を支援する経営理念コンサルタントの選び方

経営理念の作成支援をコンサルタントに依頼することは、とても大事だと思います。なぜなら、経営理念の作成の時間短縮になるからです。

ここで、どのようなコンサルタントを選べば良いのかということですが、もちろん、経営理念の専門家であることが望ましいです。

2種類の経営理念コンサルタント

経営理念コンサルタントには、次の2種類です。両方を兼ね備えている人もいます。

  1. 経営理念の作成を支援をするコンサルタント
  2. 経営理念の浸透を支援するコンサルタント

経営理念の作成支援を依頼するのであれば、もちろん前者の「経営理念の作成を支援するコンサルタント」ということになります。ところが、前者のコンサルタントは人数がとても少ないように思います。

経営理念の作成を専門とするコンサルタントが少ない理由や、経営理念の作成を支援してもらいたい場合に選ぶべきコンサルタントの技量などについてご説明します。

なぜ作成を支援するコンサルタントは少ないのか?

経営理念の作成は、時間や手間がかかります。社長の情熱を高めてあげて、言葉を一つひとつ拾っていき、まるでミツバチが花の蜜を少しずつ集めてきて、そのハチミツの中から一滴のローヤルゼリーを造り出すようなものです。

そのように手間のかかる割に、目的となる「立派な会社を創る」という成果が出るまで、とても長いリードタイムが必要です。そのような面倒な作業にお付き合いしてくれるコンサルタントは少なくなります。

そこで、経営理念の作成支援と言っても、サンプルを見せながらフレームワークを用いて簡易的に作成することが、とても多いのです。経営理念と事業計画を2~3日の研修で作成するようなコンサルタントもいます。そういった方法で作成された経営理念が、「本物の経営理念」であることは稀でしょう。

経営理念の作成を専門としないコンサルタントの支援はどうなのか?

また、多くの経営理念コンサルタントは、経営理念を社長ご自身で作成してもらい、その浸透を支援するというものになります。社長が独自に正しく本物の経営理念を作成していたら良いと思いますが、難しいことと思います。

社長ご自身に、経営理念が正しいものであること、本物であることを依存しています。社長が納得できる経営理念が出来たとしても、それが正しいものであり、かつ本物であることは、当社からすると疑問であることが多いのです。

経営理念の浸透を専門とするコンサルタントに依頼してしまったら、この記事を何度もご覧になり、正しくて本物の経営理念を、まずご自身にて作成なさってください。

正しく本物の経営理念の作成を支援するコンサルタントに求められる技量とは?

社長が納得するものを超えた経営理念を構築するためには、コンサルタントが一方的にアドバイスをするのではなく、社長から積極的で建設的な言葉を引き出すビジネスコーチングのスキルをマスターしていることが大前提であると考えます。

もちろん、経営の原理・原則を語り、社長を納得させられるくらいの力量を持ったコンサルタントでなければ、社長が納得できる経営理念はできないと思います。社長の声なき言葉を丁寧に拾い集められるインスピレーショナブルな人であれば、申し分ありません。

そして、もちろん経営理念の必要性を強く感じている人で、かつ経営理念の定義を独自で持ち、「経営理念とは何か?」という問いに、全方位的に答えられるコンサルタントを選ぶことが大事です。

初めて経営理念を作成するときに選ぶコンサルタントには、そのようなコンサルタントを選ぶことが特に大事です。「ミッション経営とパーパス経営のどちらが良いのか?」といった、流行りものにとらわれないことです。

経営理念が正しく浸透するための条件

経営理念が出来上がったら、いよいよ浸透です。経営理念の浸透について、考え方や浸透しやすい経営理念、正しい浸透方法について述べたいと思います。

経営理念は社長が率先して実施できる本物であること

経営理念を社員に浸透させるためには、まずは社長ご本人に浸透している必要があります。つまり、社長も経営理念に基づいて仕事をする必要があり、治外法権は許されません。

社員は、社長の後ろ姿を見て育つものです。正しい心構えや仕事の仕方がまとめられた経営理念を、社長ご自身が率先できないものであれば、社員も経営理念を受け入れるはずがありません。

社長が受け入れられない経営理念は、他人が作成した経営理念だったり、社長が本心から作成したものでないと思います。

社長ご自身が、本気で経営理念に描かれたことの実現に取り組める経営理念が、本物の経営理念です。

浸透しやすい正しい経営理念であること

本物である経営理念であったとしても、社員が受け入れてくれる正しい経営理念である必要があります。

正しい経営理念とは、上述したように、次の3つの条件が満たされているものです。

  1. 社会貢献が明示されている
  2. 将来の事業規模がイメージできる
  3. それらを実現するためのあるべき働き方や考え方が示されている

これら3つの条件がそろった経営理念が提示されたら、社員は自分の将来のことを言われたことと同じことを意味します。

社員は、生活の安定と向上を求めています。社員の多くは、社長が示す未来ビジョンでしか、将来のことを予想することができません。社長が指し示す未来ビジョンから、自分自身の将来像をイメージして、「この社長に着いて行ったら、生活の安定と向上が実現できる」と思えたときに、会社に残ってくれるものです。

作成した経営理念が、本物の経営理念であり、なおかつ正しい経営理念であったときに、社員に浸透させる準備が整ったことを意味します。

経営理念の正しい浸透方法

本格的な経営理念を作成した後に行う、正しい浸透方法をご説明いたします。

ここで述べている浸透方法は、当社が経営理念浸透をご支援する一般的な流れです。この流れが、すべての会社に当てはまるわけではありません。簡易的な経営理念を作成した場合には、浸透方法も若干簡易的になります。

会社のご事情によって、浸透方法が異なりますし、コンサルタントによってはまったく異なる浸透方法を提示するかもしれません。

1. 経営理念浸透ツールの作成

経営理念の言葉に込められた社長の哲学は、深い意味が込められたものばかりです。多くの社員が、経営理念の浸透で、その言葉をそのまま受け取っても、表面的にしか理解できません。意味が理解できる人がいたら、その人は社長になれる素質のある人です。

そこで、経営理念を誰でも理解できるように、経営理念浸透ツールを作成します。当社の経営理念コンサルティングでは、経営理念が解説されたテキストの作成を推奨しています。それを、「経営理念解説書」と呼んでいます。

経営理念の浸透では、経営理念を全社員が学ぶ機会となる「経営理念研修」を開催します。その研修で、製本された経営理念と経営理念解説書をテキストとして使用します。経営理念は製本し、「大事なもの」として扱ってもらうことが大切です。紙に印刷してホッチキスで止められただけの経営理念は、雑に扱われてしまい、1ヶ月もしたら忘れ去られてしまいます。

経営理念浸透ツールには、必要に応じて、解説要領や解説マニュアル、ワークシートなども作成しておくことをおすすめします。

また、経営理念に基づいて仕事をするということは、今までとは異なる考え方や働き方をしていくことになります。経営理念に基づいた考え方や仕事の仕方ができるように、自己変革を促すようなチェックシートを作成しても良いと思います。

作成する主な資料は次の通りです。

  • 製本された経営理念
  • 経営理念解説書
  • 解説要領/解説マニュアル
  • ワークシート
  • チェックシート

当社がご支援する企業では、そのようなチェックシートを、「自己成長シート」や「経営理念実践シート」などという名称で利用されています。

企業によっては、支給される手帳に経営理念を印刷し、社員が毎日確認できるようにしているところもあります。

2. 経営理念の浸透は経営幹部や部門長から

経営理念の浸透は、経営幹部や部門長から行います。なぜなら、経営理念の浸透は、経営幹部や部門長の協力が必要だからです。

経家理念の全体像が完成したら、経営理念を社員に発表する前に、経営幹部や部門長に経営理念の全容を伝えます。経営幹部や部門長への経営理念浸透は、社長自らが講師となって計理念の解説をします。そして、部門長に、経営理念の浸透がわが社の将来に関わる重要なプロジェクトであることを伝えつつ、協力を要請します。

社長をはじめ、経営幹部や部門長は、とても忙しいと思います。経営理念の浸透は、経営理念の作成以上に時間のかかることです。しかし、会社にとって目先の利益と同等、もしくはそれ以上に大事なことですので、経営理念の作成と同様に万難を排して行っていただきたいと思います。

経営理念の解説を始めた社長は、最初は緊張していても少しずつ熱が入り出し、経営理念の内容を熱く語り出します。経営幹部や部門長は、社長の熱意に鼓舞され、社長に協力することを決意します。

経営理念の浸透は、社長を筆頭に経営幹部や部門長が行いますが、経営幹部や部門長の中には、社員との話や演壇に立って話すことが苦手な方もいらっしゃいます。経営理念の浸透に合わせて、1on1での対話や、演壇に立っての講演方法などの、コミュニケーションスキルを習得されることをおすすめします。

3. 経営理念浸透プロジェクトの発足

社員数が50名を超えてくる会社の場合であれば、経営理念浸透プロジェクトを発足することになります。

プロジェクトリーダーは、もちろん社長です。そして、プロジェクトリーダーをアシストする人員を経営幹部や部門長から2~3名、そして細かな作業レベルのことを担ってくれるスタッフが1名程度いたら良いと思います。

経営理念浸透プロジェクトでは、経営理念浸透のための計画を作成します。そのプロジェクト名は、「経営理念プロジェクト」とでもすると良いでしょう。

計画には、そのときにすべてのことを詳細に決めることは不可能ですので、次のことに対して方針とスケジュールを立てて実施すると良いと思います。

  • 経営幹部や部門長、一般社員の役割と期待すること
  • 経営理念浸透の手順
  • 経営理念発表会や経営理念研修、経営理念に基づいた各種研修などのイベント開催
  • 経営理念に基づいての制度や基準、仕組みの見直し
  • 経営理念浸透の目標とフィードバック分析

4. 経営理念発表会の開催

正しい経営理念が完成し、経営理念浸透ツールができ、経営幹部や部門長にも経営理念をご理解いただき、いよいよ全社員に経営理念を発表する時期が来ました。

経営理念発表会とは、特別な会場に全社員を集め、社長自ら経営理念を発表する会です。

社長にとっては、「基本理念や企業ビジョンを、言い訳しないで達成させたい」という決断のときです。この決断が、会社をイノベーションさせるスタートになります。

社員にとっては、経営理念発表会は、我社の未来の全容を知る機会となります。そのためにも、社員の気持ちが一つになっていくための演出が大事です。

経営理念発表会は、零細企業や小企業で社員の人数が少なかったとしても開催すべきです。なぜなら、普段とは違った雰囲気の中で開催することによって、社長の熱意や意気込みを社員に伝えることができるからです。その熱意や意気込みによって、社員の気持ちを一体にすることができます。

経営理念発表会の開催場所

経営理念発表会の開催場所は、会社ではなく、別の場所で行うことが大事です。会社で行うと、気持ちが切り替わらないからです。

経営理念発表会の開催場所は、ホテルの宴会場や会議室など、豪華な場所を利用した方が、演出がなされて良いと思います。

会場で社員の到着を待っている社長や経営幹部や部門長の面持ちは、少し緊張した様子になります。その空気を社員が読み取ることになり、社員の気持ちも引き締まることと思います。

経営理念発表会の準備

経営理念発表会では、次のような準備を行います。

  • 経営理念発表会のスケジュール作成
  • 会場の検討と手配
  • 式次第の作成
  • あいさつ文や発表内容、乾杯あいさつなどの作成
  • リハーサル
  • 経営理念の製本や配布資料の準備
  • 来賓のご招待
  • 当日の会場準備
  • アフターの準備

経営理念発表会の流れ

経営理念発表会は、次のような流れで行われます。

  1. 司会あいさつ
  2. 社長による経営理念の発表と経営理念作成の趣旨
  3. 今後、我社が目指すもの
  4. 社長から社員へのご協力のお願い
  5. 今後の浸透の流れ
  6. 懇親会

経営理念コンサルタントに支援を依頼していたら、この中でコンサルタントによる基調講演を入れる場合が多いです。緊張しやすい社長の場合には、社長による経営理念解説の前に、コンサルタントと社長の対談を入れても良いでしょう。

経営理念発表会では、参加人数が少なかったとしても、社長と司会を分けた方が良いです。司会は、プロジェクトメンバーの一人が担当します。

経営理念発表会を行った後は、経営理念発表会で高まった熱意が冷めてしまう前に、あまり間を置かずに経営理念を解説するための研修を開始した方が良いです。

5. 経営理念研修の準備

経営理念の浸透の実施は、最初は研修にて行います。その研修の名称は、「経営理念研修」と称しておくと良いでしょう。

経営理念研修の講師となる人は、小さな会社であれば社長です。経営幹部や部門長がいる企業であれば、社長に加え経営幹部や部門長も担当します。

研修の前にアイスブレイクを

この前に、社員とのアイスブレイクが大事です。アイスブレイクとは、上司と社員との間にある氷の壁を打ち砕くことです。そうしないと、社員は、「いつもの上司から部下への指導だ」と身構えてしまし、経営理念研修を単なる部下指導だと勘違いするからです。

当社の浸透支援では、経営理念研修を開催する前に、当社主催のコミュニケーション研修を、社員全員に受講していただけるようにしています。

当社にて経営理念浸透支援をしている企業で感じることは、社員の多くが話を聞いてくれることを欲していることです。

心の壁は、社長のコミュニケーションの仕方が問題

ある会社では、社長から「課長たちから、増収増益の提案が出なくて困っている」とご相談がありました。

社長にはご退室いただき、私が課長たちだけで話をしてみたところ、増収増益のアイデアが泉のように出てきました。そのアイデアの中から有望なものをピックアップし、3時間ほどかけて新規事業の提案書をまとめたことがありました。

要するに、課長たちから提案が出なかったのは、社長の聞き方の問題だけだったようです。

コミュニケーション研修の開催

経営理念研修を開催する前に、コミュニケーション研修を開催し、上司がコミュニケーション力を発揮して、部下の話しを傾聴することをします。

すると、上司は今までのコミュニケーションの仕方に問題があったことに気が付き、心を入れ替えてくれるようになります。社員は心を開き、経営理念を受け入れてくれやすくなります。

経営理念研修の講師をする社長をはじめ、経営幹部や部門長は、経営理念研修のリハーサルを行います。ぶっつけ本番で研修をすると、緊張してしまいます。コミュニケーションのことを忘れて、一方的に講義をして終わってしまうことを防ぐためです。

経営理念の浸透は、社員へ経営理念を押し付けるのではなく、社員が受け入れてもらえるように導くことが大切です。

6. 経営理念研修の実施

研修の準備が整い、いよいよ経営理念研修を開催します。経営理念研修では、経営理念解説書をテキストとして、座学で行います。

講師となる人は、研修の前に経営理念の内容を十分に理解し、テキストを使って中学生でも分かるような言葉で説明するようにしてください。そして、一方的に内容を解説するだけでなく、受講者が考えられるように、問いかけをしたり、ワークの時間を取ったりしてください。

研修を担当する経営幹部や部門長は、経営理念研修を開催することで、経営理念に込められた意味や、入念に考え抜かれた内容をより深く理解することができ、内容の深さに驚かれることと思います。経営幹部や部門長は、社員に経営理念を解説しつつも、教えている自分自身が学びになっていることに気が付きます。

経営理念を浸透させる機会は、経営理念研修だけではありません。経営理念を本当に大切に思っている社長は、ことある毎に社員をつかまえて、経営理念について語っています。ときには社員食堂で若手社員をつかまえ、ときには経営会議のときに、会議開始時に経営理念について語ります。

そのような社長の行動も、経営理念研修の代役になります。

7. 経営理念に基づいた経営計画と経営方針の作成

経営理念研修が開始されたら、次にそれと並行して、経営理念に基づいて経営計画と経営方針を立てていきます。

経営計画とは?

経営計画とは、会社が実現したいことを時系列で数値にしたものです。それを実現させるための具体的な方向性は、経営方針に記載されます。経営計画は基本理念や企業ビジョンの実現を念頭に、経営方針とセットで作成されます。

ちなみに事業計画は、経営計画を事業毎に分解したものです。事業計画をすべて合算したものが、経営計画になります。つまり、事業計画も経営理念を実現するために策定されるべきだと言えます。

企業ビジョンとは、将来に実現を目指していることをイメージにしたものです。それを「いつまでに実現したいか?」という具合に期限を決めたら、それがスケジュールになります。それを将来の財務三表といった数字に落とし込んだものが、経営計画です。

時系列毎の経営計画と経営方針を作成

経営理念に基づいた経営計画は、かなり長期的な経営計画になります。当社ではそれを、長期経営計画と呼んでいます。それに付随する経営方針は、長期経営方針ということになります。長期経営計画と長期経営方針を合わせて、長期計画といった略名を付けると良いと思います。

その中間点の経営計画が中期経営計画、1年後に実現したいことが短期経営計画です。

「それらの経営計画や経営方針の内容は、どのようなものにすべきか?」ということですが、長期的な企業ビジョンの内容は抽象的であるように、長期経営計画や長期経営方針は抽象的な内容になりやすいです。

短期計画の内容は、利益計画が主なものになり、そこから販売計画や生産計画、要員計画などが作成されます。今年や来年に実現したいことですので、具体的でわかりやすく、毎月フィードバック分析ができるものであるべきです。

短期経営計画の中には、経営理念浸透プロジェクトが組み込まれることは述べるまでもありません。

このように、経営理念の実現は壮大な計画なので、それを細分化した計画を別途作成します。細かく細分化すると、フィードバック分析もしやすくなり、経営理念の実現に向けて進んでいることが確認できるようになります。

経営理念と経営計画の関係の詳細は、「経営理念と経営計画の関係とは?」をご覧ください。また、経営方針について詳しく知りたい方は、「経営方針とは?経営方針の種類と内容」をご覧ください。

8. 経営理念に基づいた制度や基準、仕組みの見直し

経営理念を会社に根付かせるために、あらゆることが経営理念に基づいて行われなければいけません。経営理念に基づいた経営計画を立てたように、事業活動も経営理念に基づいて行っていくように、会社が今まで創り上げてきた制度や基準、仕組みをもイノベーションさせていく必要があります。

会社には必ず何等かの課題や問題があります。それをイノベーションさせて、課題や問題を解決していかないといけません。そして今現在の最適解を仕組みやルールなどにしていきます。

イノベーションには痛みが伴います。その傷みによって、社員や経営幹部の中から「経営理念のために、トラブルだらけだ」ということで、経営理念を否定するような意見が出てくる場合があります。しかし、それは経営理念が悪いのではなくて、会社がイノベーションをしている証拠でもあります。

新しいことを始めるときにトラブルがないことはあり得ません。経営理念に基づいて事業活動をすることが、世のため人のためになると信じるのであれば、社長はそれを貫かなければいけません。

経営理念に基づいて仕組みを改善していくことは、経営理念の実現を目指すことを意味します。経営理念に基づいた新しい仕組みが定着し始めたら、会社の業績も上がり始めることと思います。すると、経営理念の反対意見も消えていきます。

仕組みづくりをしていく過程で、具体的な行動をマニュアル化していきます。

小企業の場合では、挨拶の仕方、名刺交換の仕方といった細かなことまでマニュアル化した方が良い場合があります。自社を理想の企業に仕上げていくためには、理想の姿をマニュアル化し、社員に自社の標準を具体的に示すことが大事です。

マニュアル通りに仕事をしていくことで、経営理念に基づいた仕事をしていることになります。社員は、この仕事の仕方を通じて経営理念の意味を深く理解するようになります。

9. 経営理念に基づいた研修の実施

経営理念の内容、特に行動指針の内容には、事細かに理想的な社員像が記載されています。例えば、その中には言葉は違えども、「コミュニケーション力の高い人材」のような内容が記載されていることと思います。

コミュニケーション力が高いことが、自社にとっての理想的な人材の要素であるならば、それが仕事の中や研修にて、全社員のコミュニケーション力が高まるようにすべきです。例えば、「新入社員育成マニュアル」といった仕組みに組み込んだり、コーチング研修を実施したりして、コミュニケーション力が高まるようにします。

また、経営幹部や部門長には、経営幹部を養成する経営者向けの研修を受講されることを、おすすめします。経営に関する知識が身に付くと、社長が経営理念に込めた意味を深く理解することにつながるからです。

経営理念の実現のためには、経営理念に記載されている通りの理想的な人材になれるように、社長命令として経営幹部や部門長が率先して、仕組みづくりや研修の実施に取り組む必要があります。

ただし、「研修ばかりやっていたら、それでいいのか?」と言えば、そうではないはずです。経営理念には、利益や生産性のことが記載されていると思いますが、研修ばかりやっているようでは利益や生産性が下がってしまう場合もあります。研修の頻度は、バランスが大事です。

経営理念浸透での注意点

経営理念を浸透させるときに、注意点があります。ここでご説明する内容は、「正しい浸透方法とは何か」を考えるキッカケにもなると思います。

経営理念の浸透は面倒で時間がかかることと肝に銘じる

経営理念の浸透は、経営理念の作成以上に面倒で時間がかかることを、念頭に置いてください。

自己変革をしようとして、自分のマインドセットを変えることは、大変なことと思います。自分の間違った考えと向き合い、自分を自分で否定するようなものだからです。

それ以上に大変なことは、他人を変えることです。はっきり言えば、他人を変えることなど、不可能に近いと思います。

経営理念の浸透は、まさしく他人を変えることと同じようなことです。立派な会社を創るためには、それを実現させなければいけません。

経営理念の浸透は、社長自ら経営理念を基準として事業活動を行い、その背中を見せることで、他人をも巻き込んで変えていくものです。

経営理念の浸透は、社長の器を磨くための修行だと思ってください。

社長は経営理念の浸透を社員任せにしないこと

経営理念浸透プロジェクトのリーダーは、社長です。社長がプロジェクトリーダーにならなければ、社員は経営理念が作成された理由を「自分たちを働かせるためだけに作成した」と誤解して受け入れてくれなくなることは、上述した通りです。

社長が優先すべき仕事は?

さて、社長がプロジェクトリーダーになったとしても、社長の忙しさは尋常ではありません。目先の仕事に忙殺されて、経営理念の浸透を社員任せにしてしまう社長がいます。

経営理念の浸透は、社員が立派に仕事をしてくれるようになり、立派な会社をつくるためにあります。人材が立派に仕事をしてくれるようになることは、つまり社長の仕事を経営幹部や部門長が担ってくれるようにするものです。そして、経営幹部や部門長がやってきた仕事を仕組みにして、部課長が部門長などに昇格できるようにするものです。

そのように、社長が目先の仕事の忙殺されていることを緩和するために行うようにもするわけです。社長には、目先の重要な仕事があることも判ります。しかし、経営理念の浸透は会社にとって最重要なことですので、社長ご自身が誰よりも率先して経営理念浸透に力を入れるべきです。

社長はコミュニケーションの練習を

また、社長の中には、社員とのコミュニケーションが苦手で、経営理念の浸透を社員に任せようとする方もいらっしゃいます。

社員との会話をするキッカケがつかめなかったり、社員にすぐに怒鳴りつけてしまったりと、コミュニケーションを苦手とする理由はさまざまです。

社員とのコミュニケーションが苦手なままでは、社員は社長のお考えを深く知る機会を失ってしまいます。

当社では、社長向けコミュニケーションセミナーを行っているので、社員とのコミュニケーションが苦手だとお考えの社長は、ぜひご利用ください。

経営理念を唱和して終わりにしないこと

経営理念の浸透方法として、経営理念を唱和するだけの会社があります。すでに経営理念がカルチャーとして根付いている企業であれば、経営理念の存在を忘れてしまわないように、唱和することは初心を思い出すという意味では大事だと思います。

しかし、初めて経営理念を浸透さあせる場合には、唱和するだけでは浸透しません。

経営理念の内容は、その内容に込められた意味を、自分の仕事に当てはめて考えることで、浸透していきます。

そういったことから、経営理念研修が大事になりますし、研修も単に上司が一方的に解説をするだけでなく、ワークショップなどで経営理念の意味を参加者が考えることが大事です。

社長の情熱をそのまま社員にぶつけないこと

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という諺があるように、経営理念浸透のときに、社長の熱い情熱をそのまま冷えた社員にぶつけてしまうと、社員が大やけどをしてしまって、場合によっては、その社員が会社を辞めてしまう場合があります。

お風呂も同様です。熱い温度のお風呂に入ったら火傷をしてしまいます。冷たい温度では、身体は温まりません。適度な温度があります。経営理念が出来上がり最高潮まで情熱が上がった社長は、その高い情熱を社員にそのまま加えるのではなく、程よい温度で少しずつ温めていくことが大事です。身体の芯まで温まる時間を待ってあげることも、社長の器です。

社員全員を集めて情熱をそのままぶつけてしまい、社員が全員辞めてしまった事例

とある小企業でのエピソードです。その社長は、経営理念の作成に取り組み、事業活動にたいする情熱を高めていきました。そして、本物の経営理念が完成し、いよいよ経営理念の発表を待つ段階になりました。

社長は、あまりにも情熱が高まり、「一刻も早く経営理念を社員全員と共有したい。社員は、私の気持ちを必ずわかってくれて、それに応えてくれるはずだ。」と考え、経営理念発表会を待たずして、朝礼のときに情熱をぶつけました。

社員全員がドン引きしたことに気が付いた課長が、社長に対して「社長、はやる気持ちは分かりますが、ここは冷静になりましょう。」と述べたところ、社長は「みんなはオレの気持ちをわかっていない!」と激高してしまったのです。

その日にパートスタッフ全員が会社を辞めることを社長に伝え、数週間後には社員全員が辞表を出して去っていってしまいました。

仏教の言葉に、「折伏」というものがあります。それに対して、「摂受」という言葉もあります。折伏は、言ってみれば一喝です。摂受は、言ってみれば丁寧に説明していくことです。場合によっては、折伏が必要なときもありますが、折伏だけでは人心が離れていくものです。

経営理念の浸透は、面倒で時間がかかることを述べましたが、社員が変わるのに時間がかかるものです。社長は社員の可能性を信じ、摂受でもって少しずつ経営理念浸透に当たってください。

辞めていく社員が出るかもしれないことを念頭に置くこと

経営理念の浸透を開始したら、辞めていく社員が出る場合があります。

経営理念を浸透させるということは、経営理念に基づいて事業活動をしていくように、会社をイノベーションさせていくことになります。すると、今までの仕事のやり方や、社員に期待されることが、大きく変化します。

今まで、自分なりの仕事のやり方をして属人化していたものが、経営理念に基づいて仕組みで働く組織にイノベーションしていくことになります。仕事の仕方や振舞が経営理念に描かれた正しいものになるように上司から管理されます。そうすると、今までのやり方で居心地の良かった社員の中で、イノベーションに耐えられない人は、辞めていくことになります。

しかし、これから入社してくる社員は、経営理念が存在している会社に入社するわけですから、それを受け入れてくれる人ばかりのはずです。そのようにして、経営理念に基づいた会社が出来上がっていくのです。

社員には、なぜ経営理念に基づいた仕事の仕方が大事なのか、社長や経営幹部、部門長が日頃からよくよく説明するようにしてください。

先代が作成した経営理念は変更しても良いのか?

当社にもお問い合わせがよくあることですが、「先代が作成した経営理念を変更しても良いのだろうか?」という問題があります。結論から先に申しますと、「変更しても良い」です。

少し前にも、「初代である祖父が作成した立派な経営理念があるが、それを時代の変化に合わせて変更しても良いのだろうか?」とご質問をいただき、経営理念変更のご支援をさせていただくことになりました。

先代が作成した経営理念の変更について、タイミングや条件、弊害などについて解説いたします。

先代が作成した経営理念を見直すタイミングとは?

経営理念を見直すタイミングとしては、二代目や三代目の社長が就任したときです。

実の親であった先代社長から会社を譲られるときは、「自分の会社だから、自由にやりなさい」と言われて譲られることもあると思いますが、言い換えれば「時代が変わったので、自分で経営理念づくりからやりなさい」という意味も含まれているものと思います。

経営理念の内容が時流の変化によって形骸化してきている場合があります。先代社長の考えを引き継いで経営をしていくことも大事ですが、形骸化した経営理念は機能していないことを意味します。

そのように感じたときは、経営理念を見直すタイミングです。

経営理念を変更しても良い条件とは?

経営理念を変更しても良い条件とは、つまり、経営理念を見直すタイミングが来る条件のことです。それは、次のようなことのどれかが起こったときです。

  • 先代社長が作成した経営理念が時流に合わなくなったとき
  • 次代社長が優秀で、既存の経営理念に満足できなくなったとき
  • 現在の社長が「変更したい」と考えたとき

1つ目の変更の条件は、経営理念に従って経営をしていたら会社が危機を迎えてしまいます。2つ目の条件は、社長の先見力が高く、自分の力でもっと大きな事業規模にしたいと考える、前向きな経営理念の変更です。どちらの条件も、放っておけば、経営理念が形骸化していくことになります。

3つ目は、現在の社長のみが経営理念を変更できる権限を持っているということです。経営理念を作成できる人は社長お一人であることを述べましたが、理由は同じです。その経営理念を社長以外の人が変更してしまったら、社長がその経営理念に従うことができないからです。

その経営理念を変更できるのも現在の社長お一人なのです。

先代社長の経営理念を変更したときの弊害

先代社長が作成した経営理念を変更するときには、もちろん弊害もあります。それは、古参社員の反発です。

古参社員は、経営理念を作成した先代社長や、先々代社長に指揮されて事業活動をしてきました。そして、今では経営幹部や部門長にまで昇格していると思います。

そこに、自分の息子のような年代の坊ちゃんが社長に就任し、「経営理念を変更する」と言い始めたわけですから、当然ながら反発があります。

新しい経営理念の基では、自分たちが培ってきたものが壊されるように感じますし、新しい経営理念に馴染めなかったら、自分の立場も危うくなるからです。悪く言えば、古参社員の考えが凝り固まっているのですが、「今の経営理念で、うまくやってきたじゃないか」と反発します。

新社長は、会社をもっと立派なものにしたいと考えて、経営理念を見直そうとしているのですが、古参社員にご理解を頂けないことに、悩むことになります。

「古参社員を辞めさせたら良い」と考える方もいるかもしれませんが、今までの会社の発展に貢献されてこられた先輩社員ですし、父の代を支えてくださった恩義もあります。すぐに辞めさせてしまうような、そのような短絡的な対応はしにくいものです。

既存の経営理念を踏襲しつつ少しずつ解釈を変更していく

そういった場合におすすめの方法が、「既存の経営理念を踏襲しつつ、経営理念の解釈を少しずつ変更する」というものです。

もちろん、古参社員には経営理念を変更しないことをご理解いただき、経営理念浸透のご協力を得る方が得策です。

既存の経営理念を踏襲する場合は、次のような方法になります。

  • 既存の経営理念の内容は変更しないが、解釈を変更し、経営理念解説書を作り直す。
  • 既存の経営理念に足りない要素があれば、企業ビジョンや経営指針、行動指針といった要素を加えて、既存の経営理念を補完する。

既存の経営理念は変更しにくかったとしても、経営理念解説書や行動指針、企業ビジョンなど、既存の経営理念とは別のものを作成しておくと、これらは変更しやすいと思います。

トヨタ自動車の経営理念は、豊田自動織機の「豊田綱領」というものを踏襲して、トヨタフィロソフィーや基本理念、トヨタウェイなどで補完しています。

既存の経営理念を見直すときは、古参社員には会社勤め最後の仕事として、既存の経営理念の見直しと、新しい経営理念の浸透をお手伝いいただき、次の経営幹部や部門長を養成してもらえるように、心からお願いをしてみてください。

古参社員が引退していく頃には、おそらくは新しい会社に生まれ変わり、古参社員は「そろそろ引退だな」と悟ることとなります。そうしたら、既存の経営理念を、新しい会社の事情に合わせて、より高度な経営理念に変更することができます。

経営理念を変更したら、次に浸透です。見直された経営理念を浸透させる方法は、上記の「経営理念の正しい浸透方法」に記載した方法と同じです。

経営理念の変更については、「経営理念は変更しても良い?経営理念変更のタイミングと条件」をご参照ください。

以上、経営理念とは何かを、全方位的に述べました。なかなか具体的な定義のない「経営理念」という用語に対して、IngIng流の定義や作成方法、浸透方法などを述べてきました。

ここまでご覧になられた方の中には、「まだまだ内容が不十分だ」と思われた方もいらっしゃることと思います。

私自身も、経営理念に対する知識や悟りが高まった頃に、この内容を読み返すと、物足りなさを感じると思います。そのときに、内容を変更したり加筆したりしたいと思います。そして、私が引退寸前のときに、経営理念について最高度な内容を記載できることと思います。

最後に、当社の経営理念作成や見直し、浸透をご支援する、経営理念コンサルティングをPRさせてください。

当社の経営理念コンサルタントが、社長から未来への想いや仕事への情熱、事業活動の考え方、仕方などを言葉として引き出し、それらを紡いで最高の経営理念を作成いたします。

経営理念コンサルティングをご利用されたお客様からは、「今まで作成に苦労してきた経営理念が、すらすら出来上がっていった」とか、「このような素晴らしい経営理念は、自分一人だと一生かかっても出来なかったと思う」と、お褒めをいただきます。

次のどれかに当てはまる社長は、ぜひご相談ください。

  • 経営理念の作成に悩んでいる
  • 出来上がった経営理念が正しいものかを知りたい
  • 先代の経営理念を時代に合ったものに見直したい
  • 作成した経営理念の浸透を支援してもらいたい

以上、経営理念の作成や見直しをお考えの社長に、ご参考になれば幸いです。

経営理念コンサルティング

この記事の著者

平野亮庵

経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)

国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。

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