
もし、「FMEAセミナーを受講すれば、自社でもFMEAを導入できる」とお考えであれば、一度立ち止まって考えてみていただきたいと思います。
その理由は、QMSの導入・定着と同様に、FMEAの導入や定着には、それなりの経験を踏まないといけないものだからです。
例えば、運転免許やスポーツ、楽器の演奏も、講義を受けただけで身に付くことはありません。FMEAも同じです。
実際にFMEAの導入を考え、ちまたに数あるFMEAセミナーを受講された企業様で、「FMEAを導入してみたけれども、手間が増えただけだった」とか「いつの間にか、FMEAをやらなくなっていた」という企業は多いことでしょう。
では、なぜ多くの企業が導入・定着でつまずいてしまうのでしょうか。本コラムでは、その本当の理由と、成功するために必要な考え方について、分かりやすくご紹介します。
なぜ、多くの企業がFMEA導入でつまずくのか?
ちまたではFMEAセミナーが数多く行われています。1~2日で学ぶセミナーが多いことでしょう。ところが、「FMEAセミナーを受講したのに、自社では活用できていない。効果がなく手間だけ増えた」というのが現状です。実は、このような声を私たちは数多く耳にします。
受講した直後は、「これならできそうだ」と感じます。しかし、いざ職場へ戻り、自社の製品や工程に当てはめようとすると、思うように進みません。結果として、FMEAシートだけが作成され、実際の品質改善や設計改善には結び付かないまま終わってしまうのです。
FMEAの導入が入札条件になっていて、その対応だけであれば、それでも良いでしょう。しかし、FMEAを導入する本来の目的は「高度な継続的改善を行うこと」や「お客様にご迷惑をかけないこと」といったことにあるはずです。
FMEAの運用がうまくいかない理由は、決して受講者の能力不足ではありません。むしろ、FMEAという手法そのものが、講義だけで身に付くほど単純ではないからです。
長年、自動車産業や宇宙開発などで磨かれてきたFMEAは、多くの失敗と教訓の積み重ねによって発展してきました。その背景には、「失敗から学び、同じ失敗を繰り返さない」という考え方があります。だからこそ、「一度セミナーを受ければ導入できる」と考えてしまうこと自体が、最初の落とし穴なのかもしれません。
FMEAは知識ではなく「考える技術」
FMEAセミナーを受講しただけでは、「表に項目を書き込む作業」と思われる方も少なくありません。そしてFMEAシートのサンプルが作成でき、「これでFMEAができるようになった」と勘違いしている場合もあります。しかし、FMEAの本質はそこにはありません。例えば、
- 「どのような故障が起こり得るのか。」
- 「その故障は、お客様にどのような影響を与えるのか。」
- 「なぜ、その故障は発生するのか。」
- 「今の管理で、本当に失敗を防げるのか。」
こうした問いを、チーム全員で考え、議論し、知恵を出し合うことがFMEAの本質です。つまり、FMEAとは「記入方法を学ぶ技術」ではなく、「未来の失敗を想像し、未然に防ぐための思考法」なのです。
だからこそ、FMEAシートの作り方などの知識を覚えただけでは十分ではありません。実際の製品や工程を前にして考え、経験を積み重ねることではじめて、本当の力になります。
「知っている」と「できる」は違う
ここで、運転免許を例に考えてみましょう。私の場合、随分昔のことなので細かなことはよく覚えていませんが、実際に運転する技能教習では大変苦労したことだけははっきり記憶に残っています。S字クランクやバックの練習では、恐る恐る運転したものです。
交通ルールを本で学べば、標識や優先道路の知識は身に付きます。しかし、それだけで車を安全に運転できるでしょうか。
実際には、教習所でハンドルを握り、指導員から助言を受けながら何度も練習します。そして、仮免許でさまざまな道路を走る経験を重ねることで、初めて一人でも安全運転ができるようになります。これで一人前です。FMEAもこれと全く同じです。
もちろん、セミナーで理論を学ぶことは大切です。
しかし、「自社の製品を手に取り、生産現場で、設備の保全状況や故障、作業者の教育レベル、部品・材料置き場の5S状態などを調べ、故障の真の原因を把握します。技能が足りない場合は、さらに「現場の班長や経験者から助言を受けながら、改善を重ねていく」といった経験を経なければ、セミナーで学んだ知識や理論が本当に使えるようにはなりません。
つまり、「知っている」と「できる」の間には、大きな違いがある、ということです。
だから私たちのFMEAセミナーは「個別開催」にこだわります
企業ごとに製品は違います。つくり方(作業方法)や設備・工具も違います。品質課題も違います。求められる品質レベルも違います。自動車と非自動車、機械メーカと食品工場、その他、実に多様です。
このような状況で、すべての企業に同じ内容を一律に説明するセミナー参加だけでは、十分な成果は期待できないことは明らかです。
私たちのFMEAセミナーが、一般的な集合研修(座学)ではなく、「個別開催」のセミナーを基本としている理由はここにあります。
事前にお客様の状況を把握し、製品や工程、品質課題を理解したうえで、セミナーの内容をできる限りカスタマイズすることで、受講者の皆様は「自社ではどう活用すればよいのか」を具体的にイメージできます。お客様のご要望で、過去にあった実際の失敗事例でFMEAを実習することもあります。
さらに、必要に応じて「導入・定着まで伴走するハンズオン支援」を行うことで、「学んで終わり」ではなく、「現場で成果が出る」ことを目指しています。
私たちは、やり方を教えることはもちろんですが、FMEAを活用し改善までできてFMEA教育の本当の価値があると考えています。
FMEAセミナーはゴールではなく、未来へのスタート
『失敗学のすすめ』の著者・畑村洋太郎氏は、「失敗は隠すものではなく、学ぶもの」であるという考え方を一貫して示されています。FMEAも、まさにその精神に立つ手法です。
過去の失敗から学び、未来の失敗を未然に防ぐ。その積み重ねが、お客様からの信頼を育み、企業の成長につながっていきます。しかし、その第一歩となる「FMEAの導入」でつまずいてしまっては、本来得られるはずの成果も遠ざかってしまいます。
FMEAは、「未来の失敗」から顧客と会社を守り、顧客との信頼を築き、企業の永続的な発展を支える「経営の知恵」なのです。
だからこそ、私たちは「セミナーを開催すること」を目的にはしていません。お客様がFMEAを現場で実践し、自ら活用できるようになり、企業文化として定着するところまで支援することを目的と考えています。そして、最先端の高度な生産技術で世界レベルに通用する企業を育成し、日本の製造業の復興を使命の一つとしています。
ポイントまとめ
① FMEAは「知識」ではなく、「考える技術」である
FMEAの本質は、表を埋めることではありません。未来に起こり得る失敗を想像し、チームで議論しながら未然に防ぐための「考える技術」です。
② 「分かる」と「できる」は違う
運転免許やスポーツと同じように、FMEAも実践と適切な指導を通じて初めて現場で活用できるようになります。
③ FMEA導入の成功には、導入・定着までを見据えた支援が重要である
セミナーはゴールではなくスタートです。「自社の実情に合わせた個別指導」と「継続的な伴走支援(ハンズオン)」が、FMEAを企業文化として根付かせる鍵となります。
当社のFMEAセミナーご案内
当社のFMEAセミナーは、定番のFMEAセミナー(個別開催)を段階に応じて設定しておりますが、お客様のご事情に合わせて内容をカスタマイズしてご提供しています。また、セミナー後はハンズオンで定着・改善までご支援いたします。
「FMEAの導入で改善をしたい」とお考えの企業様は、ぜひ当社までお声がけください。
この記事の著者

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)
名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。
