社長の夢実現への道

5S活動はなぜ定着しないのか、5つの理由と対策

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5S活動の定着は永遠のテーマ

5S活動はなぜ定着しないのか

5S活動を経験したことがあり、5S活動のことをよく知っている方は、「5S活動は定着しにくい」ということを、よくご存じではないかと思います。

私が今まで、コンサルティングで多くのクライアント様の現場を訪問している中で、5S活動が定着しないことがほとんどのように思われます。クライアント様から、「5S活動を導入し定着しようと試みたけれど、結局は長続きせず、5S活動が定着していない」ということもよくご相談いただきます。

もちろん、ごく限られた人が決められた最低限のこと、例えば通路の掃除をするなど、ルーティンをこなしているようなことはよく見かけますが、5S活動が定着しているとは言えません。

コンサルティングで工場を訪問しますと、最初に社長や工場長から現場をご案内していただきます。その際、5S活動に関連する掲示物や張り紙などを注意してみると、「以前から5S活動の導入定着に取り組んできたけれど、残念ながら結局は定着しなかった」ということがよく分かります。

なぜなら、過去の現場リーダーや指導に入ったコンサルタントによって、やり方のスタイルや言葉の表現が異なります。それらの形跡や残骸が残っていることが散見されるため、5S活動の導入の歴史が繰り返されていることがよくわかるからです。

従業員も、「5S活動は所詮こんなもの」「一過性で盛り上がりもあるが、やがて衰退してしまうもの」「誰がやっても定着させることはムリ」といったあきらめの気持ちが少なからずあります。現場を見学すると、私に対する冷ややかな目線を感じることが過去よくありました。

いずれにしても、5S活動を導入しても5S活動は長続きせず、定着させることは極めて難易度が高いことと言えます。

本コラムでは、なぜ5S活動を定着させることがここまで難しいのか、その原因を分析し、定着させるためにはどうしたらよいのか、その方法やノウハウを述べます。これは、コンサルティングの多くのお客様との経験から学び体験し、醸成したものです。 

5S活動は本気にならないと定着しない

自分の部屋の5S活動を考えてみてください

5S活動の定着がどれほど困難かを知るために、まずは皆さんの若いころを思い出していただきたいのです。身内の方が掃除したり整理整頓してくれる場合はいいかも知れませんが、そうでない場合、例えば独身時代はどうだったでしょうか?

自分の部屋の5S活動は皆無だったはずです。

私が社員時代、入社時は独身寮の個室での生活でした。私の部屋もさることながら、仲の良い同僚の部屋はさらにゴチャゴチャで、寮でも有名でした。同僚の部屋は、4畳半の部屋でしたが、万年床であることはもちろん、新聞や本、雑誌、カップラーメン、その他あらゆるものがちらかり、幾重にも重なり積みあがっていて、足の踏み場も全くない状態でした。

あるとき、新聞が重なっている部分から大きなムカデが出てきたときには、さすがにびっくりしました。自分のことは棚に上げてですが、ときどき「少しは整理整頓をしたらどうか」とアドバイスするのですが、その時はそのつもりになるようで多少片付くのですが、2~3週間もたてば元通りになってしまいました。

部屋の掃除ですら、本気にならないとできないものです。5S活動なら、なおさらです。

そもそも、5Sを定着させるにはエネルギーがいる

5S活動にはエネルギーがいります

自分のことを棚に上げ同僚の話をしましたが、皆さんも自社の5S活動で、同じようなことがあるのではないかと思います。

工場の床が油で汚れていたり、ゴミが散らかっているのを、日常的に清掃することや、部品棚など整理整頓し、いつでも必要なものがすぐに取り出せる状態にすることは、大変な努力がいることと思います。

自分の家でもなかなかできていないのに、大勢の仲間との協働の空間であり、日々新たな仕事にとりくんでいる職場では、なおさら困難であることはごく当然のことと思われます。

物理法則の1つに、「ものごとの状況は、秩序から無秩序に変化していく」という「エントロピー増大の法則」があります。エントロピーとは不規則性のことです。積み木でも積んだままにしておけば、やがて倒れて、周りに散在し、不規則になります。高いビルディングでも、メンテナンスをしなければ、いずれ倒壊しバラバラになり、これも不規則になります。何もしなければ、エントロピーは必ず増大するため、秩序を保つためにはエネルギーが必要です。

工場も全く同じことがいえます。工場でも整理整頓をせず、何の努力もせず成り行きに任せていては、すぐにゴチャゴチャになり、床の汚れがひどくなっていきます。そのうち品質問題や人身事故などが発生し、それが重なるとお客様からは見放され、5S活動の継続どころか、事業の継続すらできなくなることは容易に推察できます。

生産活動では、所定のQCDSMEHの目標を持続的に満足しなければなりません。そのためにも、5S活動を継続して定着することは、企業存続のための必須条件となります。

したがって、生産活動を継続し会社として存続していくためには、積極的に取り組むための活動エネルギーを継続して投入していく覚悟が大前提となります。活動エネルギーをかけることは、5S活動の効用や価値を考える以前の話であることを理解・納得しなければなりません。

5S活動が定着しない5つの理由

5S活動を導入し継続定着させるためには、「継続的な積極的取り組み活動」が厳しく要求されます。ここでは

それができていない理由や背景を探ることになります。

私の経験から言える定着しない理由を、以下5項目にまとめ、順に説明していきたいと思います。

定着しない理由1、 経営トップの覚悟ができていない

5S活動が定着しない理由の1つ目は、経営トップの覚悟の足りなさです。経営トップが5S活動の必要性や無限の価値があることを理解・納得していないのみならず、さらには覚悟そのものができていないという場合です。

ただ、経営上の危機感はあり、幹部やリーダーに5S活動の導入を指示や指導はしますが、何分にも本気度が低いので、言葉に熱い念い(情熱エネルギー)がこもりません。さらには自ら本気で5S活動を実践しようとは思っていないので、会社の幹部や従業員に対して5S活動の重要性を説明しても、結局は人を動かす感化力はゼロに等しい状態だと言えます。

定着しない理由2、フォロワー的な役割のリーダーが現れない

フォロワーとはリーダーを補佐してくれる人のことです。ここでは5S活動の大切さを経営トップに代わって伝える人のこととして扱います。経営トップの姿勢に熱意が感じられず、幹部やリーダーを動かすほどの感化力がないので、自ら経営トップの代わりに5S活動の必要性や価値を伝える「フォロワー」になろうとする人は、まずは現れないでしょう。

責任感の強い幹部やリーダーがいれば、危機意識から自らの使命として現れることもあり得ますが、私の経験からは、そういった会社は皆無です。社長が本気になっていないので、社員は自分の保身を優先に考えてしまうからではないかと思います。

定着しない理由3、5Sの社内教育体制ができていない

次に、インフルエンサー的な役割を担うリーダーが出てきたとしても、5S活動の必要な理由や価値、具体的な活動方法に関する社内教育体制ができていないと、5S活動は定着しません。

5S活動を社内に導入するときには、社長の指示のもと、社内のリーダーや外部のコンサルタントが講師として教育の機会を設けることが一般的です。しかし、そういった機会がないと、従業員は、5S活動の価値や導入する理由を知ることはできません。したがって、5S活動の必要性や価値が理解・納得できていないのに、あえて継続して実行しようとは思わないことでしょう。また、具体的な5S活動のスキルを知らないと、何も実行できないと思われます。

企業によっては、たまに5S活動のやり方を知っている中途入社の社員がいる場合があります。そういった方は、過去在席した会社での5S活動のやり方を経験しているので、自分の責任エリアでそれを試してみることもあるでしょう。冒頭で述べたような、過去の活動の残骸があると述べましたが、その結果、工場のあちらこちらの景色が、あたかもモザイク模様がちりばめられているようになってしまいます。

定着しない理由4、5S活動に対するフィードバック体制がない

日々、5S活動を実施していても、上司からなにも声を掛けられることもなければ、アドバイスもなく、冷ややかに見ているだけでは、やがてやる気がなくなります。さらには従業員の5S活動実践状況のフィードバック(評価)の体制が整っていない場合も、5S活動が定着しない原因となります。5S活動をしっかり実行しても、その努力が何も評価されないのでは、誰でも本気でやる気はしません。

例えば、人事評価システムの中に、5S活動の取り組み状況を評価項目として設け、昇給やボーナス査定のポイントとして加算されれば、前向きに取り組もうというインセンティブが働くものです。そういった人事評価システムがなければ、一般の従業員としては、ただでさえ日々担当する業務で忙しいのに、5S活動に積極的に取り組もうとはしないものです。

下手をすると、仲間や上司からは、「こんな忙しい時に5S活動に取り組むべきでない。もっとやるべきことがあるのではないか。」といった注意を受ける事態となります。私自身、過去に所属した会社でそういった光景に遭遇したことがあり、「これはまずいな」と言った強い記憶があります。

定着しない理由5、5S活動を受け入れる文化の地ならしができていない

5S活動が定着しない理由として、最後まで残る原因であり最大のものが、改善することや5S活動を継続することを価値あることと認める文化がないということです。

インセンティブや仕組み、仕掛けづくりを導入するには、導入当初はある程度のトップダウンで強権を発動することが必要でしょう。しかし、トップ側も5S活動を定着させるために人的パワーをさき、エネルギーを供給し続けることは生やさしいことではありません。覚悟が必要となる所以です。従業員側としては、最初はそのパワーに押されて5S活動に取り組むのですが、そのうちプレッシャーを感じなくなり、5S活動は低調になります。

仕組みや仕掛けが定着するためには、一定以上の時間が必要ですが、それだけでは定着化できません。新しいものを受け入れる文化、改善し続けることに価値をおく文化の下地が十分にできていないと、5S活動を安易に導入しても、結局は定着せずに失敗に終わることでしょう。

5S活動定着化のための対策とノウハウ

5S活動が定着しない原因の主なものは以上の5つです。私の経験から、5S活動の定着化のためには、基本的にこの5つでカバーできるのではないかと思います。

では、どうしたら5S活動が定着するようになるのか、その対策やノウハウをシンプルにまとめました。

基本は、上記の5つの原因に対して、1つずつ対策していくことになります。これら5つの原因については、表面的な現象面だけではなく、根本的な真因にまで言及しておりますので、5S活動定着化のための対策やノウハウは、その裏返しをすればよいことになります。真因の掴み方については、『問題や課題の真因をつかむ「5回のなぜ?」とは』をご覧ください。

対策1、経営トップの覚悟

5S活動の定着化は経営トップの覚悟が必要

経営トップは5S活動の必要性や無限の価値があることを深く理解・納得し、5S活動を導入・定着までやってのけることを覚悟する。

そして、会社の幹部やリーダーに対し、5S活動の重要性を理解・納得でき、自ら行動するまで熱く語り続け、指導する。

対策2、フォロワー的な役割のリーダーをつくる

対策1ができれば、フォロワー的な役割のリーダーが現れ、理由2はおのずと解決される。

対策3、5Sの社内教育体制をつくる

社内教育体制を整え、従業員に5S活動の必要性や価値、具体的なスキルなどを理解・納得し、実行できるように促す。対策2ができれば、インフルエンサー的役割のリーダーが協力者となり、理由3はおのずと解決される。

対策4、フィードバック体制を整える

幹部やリーダーは、従業員の5S活動についてしっかり関与し、適宜アドバイスや激励をするよう努める。また、5S活動の評価体制、人事評価システムなどをしっかり構築し、従業員の積極的取組みを後押しするインセンティブが働くようにする。対策3ができ、人事評価システムができれば、理由4はおのずと解決される。

対策5、5S活動を受け入れる地ならしをする

5S活動を受け入れる地ならし、5S活動が継続できる文化を構築する。

5S活動を受け入れる文化の地ならしとは?

企業文化には、基本的に以下の3つの型があると言われています。

  1. 絶対的服従
  2. 情報に基づく黙従
  3. 自己統治

絶対的服従

最初の「絶対的服従」は、強権を発揮するトップダウンのタイプです。軍隊と同じようなイメージです。

5S活動の導入には即効性があり効果的です。しかし、一般の会社としては「長続きしない」という決定的な短所があり、5S活動は定着しません。

情報に基づく黙従

次の「情報に基づく黙従」は、社内規定や行動指針やルールを順守することで、社内の統制が可能となるものです。「絶対的服従」よりは長続きするとはいえ、残念ながら、本質的には従業員をルールで縛り付けることで統制するものです。

5S活動とは本来、従業員が上司から強制されたり、指示されて初めて行うものではありません。各人が、5S活動の価値を認め、自ら納得し、内発的に行動できることに最大の意義や狙いがあります。従業員が5S活動や仕事を通じて、やりがいや働きがいが得られ、プロとして光り輝くことに最大の意義があるといえます。

そういった意味で、この「情報に基づく黙従」では形式的な見かけ上の定着はありえますが、本来の5S活動が導入・定着できたことにはなりません。

自己統治

5S活動の定着化は「自己統治」の文化をつくることで成功する

すでに皆さんお気づきのことと思いますが、5S活動にとってもっとも望ましい文化は、3番目の「自己統治」の文化です。自己統治とは、自分が納得し皆と共有した価値観をベースに、自らの行動を律するものです。

言うまでもなく、この文化は、5S活動のみならず、仕事や事業、経営においてもっとも重要なものであると私は考えています。

「自己統治」の文化をつくるためには、対策4の実績モニター・評価システムや、意思決定システム、人材育成システムなどの他のシステムが導入できていて、その中で5S活動や業務全般の活動を行います。すると、意図する価値観が会社組織に浸透し、やがては文化が構築されます。

まとめ

5S活動が定着化するためには、対策1の社長の覚悟と熱い思いを発信し続けること、対策4のシステム(仕組み)を構築しつつ、対策5の「自己統治の文化」を構築していくことが必須の条件です。これが、私の現時点での結論です。文化構築については、また別の機会に譲りたいと思います。

以上の一連の、製造業改善コンサルティングの「5S活動定着化の仕組みづくり」のコンサルティング・サービスは現状把握/改善体制づくりにて、「5S活動の導入定着化」のコンサルティング・サービスには5S活動の導入定着化にて具体的に説明していますので、是非ご欄ください。工場に5S活動が定着化しなくてお困りなら、ぜひ製造業改善コンサルティングの導入をご検討ください。

製造業改善コンサルティング

この記事の著者

村上豊

製造業改善コンサルタント
村上 豊 (Murakami Yutaka)

名古屋大学工学部、修士課程卒業後、トヨタ系列の電装を担う大手メーカーに30年間従事。製造部門のみならず、国内工場の工場長や英国の新工場立ち上げをも担当する。コンサルタントとして独立後、さまざまな製造業種の企業を支援し、5S活動の理論に基づいて工場の人材育成、生産、保全、品質、製造技術の改革に取り組む。人の能力を引き出し高めるマネジメントで、多くの製造工場の改善・改革、カルチャーづくり、理念経営を支援。

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