社長の夢実現への道

ドラッカーのイノベーション7つの機会とは?わかりやすく解説

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イノベーション7つの機会

マネージメントの父と言われるピーター・F・ドラッカー(1909年~2005年)は、イノベーションのほとんどが7つの機会によって起こされていることを発見し、体系化しました。これを、「イノベーション7つの機会」といいます。

ドラッカー理論の中でも大切なところですので、たくさんの事例を交えて詳しくご紹介いたします。

7つの機会ですから7項目あると思いきや、実は9項目あります。その意味もご説明いたします。

イノベーション7つの機会が記載されている、和訳された書籍は「イノベーションと企業家精神」など複数あります。個人的には「英語で読み解くドラッカー『イノベーションと起業家精神』」と併せて読むことをおすすめします。本を検索で探すときは、「起」と「企」が異なることにご注意ください。

初版は今から40年ほど前に出されていますが、記載されている事例に古さを感じるものの、その内容は今なお色あせることはありません。

ドラッカーは、巨大企業を中心に、大きな病院やNPOなどの非営利組織の研究も行っていました。そのため、ドラッカー離村は中小企業の理論とは親和性の低い箇所もございます。

しかし、イノベーション7つの機会は中小企業であっても成長志向であれば大きく関係します。イノベーション7つの機会は経営者や経営幹部にとって、とても大切なフレームワークですので、使いこなせるようにしておいてください。文章で読むのが苦手な方は、ぜひ当社の研修にご参加ください。

それでは、マーケティングとイノベーションの解説から入りたいと思います。

マーケティングとイノベーション

ドラッカー先生の教えの中で、「企業の目的は顧客の創造である。そのために企業にはマーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要がある」と述べています。

ドラッカー先生によると、マーケティングの理想は「販売を不要にすること」。イノベーションとは、「体系的廃棄」と述べています。

マーケティングとは?

マーケティングとは何かと訊かれたら、何と答えることが正解でしょうか? 日本語では、一倉先生が「市場活動」という言葉を用いています。

マーケティングとは販売を不要にすること

ドラッカー先生によると、マーケティングの理想は「販売を不要にすること」と述べています。ドラッカー先生の書籍のどこかにマーケティングの定義が書かれているかと思いますが、今のところ発見できていませんので、ご批判を承知で、私なりに定義を試みたいと思います。

マーケティングとは、簡単に述べると、提供する商品やサービスの値打ちに気づいてもらい、利用してもらうための活動のことです。販売力の強化やブランディングは、そのための手法です。

販売を不要にすることとは、提供するものがおのずから売れること、利用してもらえることを意味しています。「販売を不要にしたら、売れないじゃないか」と思われるかもしれませんが、営業が不要とは述べていません。商品やサービスがおのずから売れるようにすることです。

すると、ウェブマーケティングは「インターネットを活用して販売を不要にすること」と定義できます。当社が提供するウェブ集客コンサルティングは、まさしくウェブマーケティングを理想としています。また、ブランディングは、マーケティングの一環であると定義もできます。

ドラッカーによるマーケティングの解説

ドラッカー先生の書籍の中には、イノベーションについてよく述べられているのですが、マーケティングについてはあまり述べられていません。イノベーションの話題に付随して、マーケティングについて述べられていることが多いです。

企業の目の前の市場には、顧客と自社、そして競合他社があります。競合他社と自社が競って、顧客をこちら側に振り向ていもらえるようにすることが、身近なマーケティングであると言えます。

どのような規模の企業であっても、イノベーションは顧客を中心として行わなければ、顧客からそっぽを向かれてしまいます。

ドラッカー先生のマーケティングの基本は、顧客への貢献を中心に考えることだと言えます。著書「プロフェッショナルの条件」に掲載されているブライアン看護師の原則からも、そのことが伺えます。

マーケティングのフレームワーク

また、マーケティングのフレームワークは、ドラッカー先生の書籍の中で、主に「イノベーション7つの機会」と「経営者に贈る5つの質問」を併せると考えやすいです。

イノベーション7つの機会は、このコラムで詳しく述べています。経営者に贈る5つの質問については、後半に少しだけご紹介していますが、詳細は別の機会にご紹介することにいたします。

イノベーションとは?

イノベーションとは何かと訊かれたら、何と答えると正解でしょうか? 日本語では、一倉定先生が「革新」という用語を用いています。

広義のイノベーションとは?

世の中に存在しない新商品を開発し、多くの人々に貢献できたら、それもイノベーションでしょう。会社内で新しい生産方法を開発したら、それもイノベーションでしょう。イノベーションとは、何か新商品を開発して、世の中に大きな変革をおこすことだと思われがちです。

そのような大きなイノベーションは、もちろんイノベーションと言えますが、ごく小さなものや目立たないものも存在します。例えば、社内業務の流れを効率の良いものに改革してもイノベーションでしょう。顧客との電話の応対の仕方を間違っていたら、そのことに気が付いてそれを改善しても、イノベーションです。このように何かが変革したらイノベーションです。

イノベーションとは体系的廃棄

ドラッカー先生によると、イノベーションとは「体系的廃棄」と述べています。

体系的廃棄とは、簡単に述べると古いものを体系的に廃棄して新しいものに取って換えていくことです。

商品やサービスは、ニーズの変化によって陳腐化していく可能性があります。部品メーカーでは工作機械を使っていると思いますが、その工作機械も、将来はもっといいものが出てくるので、今のものは陳腐化していきます。業務の流れも変化しています。今では伝票処理は、コンピュータで行われるようになり、とても便利になりました。

企業では工作機械や業務の流れなどを体系的廃棄して、顧客ニーズに対応していく必要があります。生産性を高めてコスト削減をしたり、新しい商品を出して顧客を創造していったりして、古いものを体系的に廃棄していきます。

このように、大小さまざまなイノベーションによって、企業は社会の問題解決に今以上に貢献していくのです。

イノベーションで大切な考え方の変化と進化

もし、企業が社会の問題解決にたくさん貢献できたら、つまり多くの人のお役に立てたら、その企業は発展します。多くの人のお役に立つためには、大小さまざまなイノベーションを繰り返していかなければなりません。

イノベーションしていくためには、イノベーションの機会を発見したら、考え方を変えたり、進化させたりすることが大切です。

例えば、一生懸命に開発した新商品がヒットしたとしましょう。そのヒットはほとんどの場合で長く続かず、必ず衰退していきます。いずれ、一生懸命に開発して愛着のある商品を捨て去るときがきます。それを自分の感情にとらわれずに、捨て去ることができるかどうかが問われます。

ドラッカー先生は、コンサルティングをしている相手に、さまざまな問いかけをしたと聞いたことがあります。ドラッカー先生の効果的な問いかけにより、クライアント経営者は、考え方を変えていったり、進化させていったりしたのだと思われます。

体系的廃棄ができないイノベーション

イノベーションのことを、体系的廃棄と述べましたが、体系的廃棄ができないイノベーションが2つあることを、ドラッカー先生は述べています。

それらのイノベーションは、イノベーション7つの機会とは別の性質を持ったイノベーションですので、第8と第9の機会として、このコラムの最後にご説明いたします。

なぜマーケティングとイノベーションなのか?

以上、マーケティングとイノベーションの関連性について述べてきました。ここで、ドラッカー先生のマーケティングとイノベーションの解説についてご紹介します。

「企業の目的は顧客の創造である。そのために企業にはマーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要がある」

なぜ、企業が顧客を創造のために、マーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要があるのでしょうか。

それは、一言で述べるとするならば、企業がこの2つの機能を備えていることにより、より良い社会を創ることに貢献ができ、そういった企業が発展していくからです。顧客の創造ができる企業は、社会に貢献できる企業ですから、消費者の立場から見ても、そういった企業は存続してもらいたいものです。

企業が存続するためには、万物流転の法則に逆らう必要があります。そのための機能がマーケティングとイノベーションです。

マーケティングとイノベーションによって、変転する顧客の要求に応えるために、自社をつくり変えていくことができます。

イノベーション7つの機会

イノベーション7つの機会とは、ドラッカー先生が提唱した、イノベーションを体系的に起こすことができる機会のことです。この機会を発見することができたら、イノベーションを起こすことができる可能性が高まります。

ここでは、7項目を順番にご説明しますが、この順番はイノベーションの機会になりやすい順番でもあります。

ここで述べる7つの機会を常日頃から意識しておくことで、イノベーションの機会を発見したり、分析・検討したりでき、会社が成長しやすくなるはずです。

第1の機会、予期せぬ出来事

予期していなかった出来事が発生したときには、イノベーションの機会と捉えることができます。予期していなかった出来事は、意識していたらコストをかけずに気が付くことができます。イノベーションの機会の中で、もっともイノベーションを起こしやすいものです。予期せぬ出来事には、次の3種類があります。

  1. 予期せぬ成功
  2. 予期せぬ失敗
  3. 外部の予期せぬ出来事

それぞれ、わかりやすく説明いたします。

予期せぬ成功

予期せぬ成功とは、予想していなかったのに起こってしまった成功のことです。思わぬ顧客の獲得とか、予想もしていなかった成果が出てしまった場合です。これがイノベーションの機会となります。

手作り布団屋さんの事例
手作り布団屋さんの事例

私の父は、地方で小さな手作り布団の店を営んでいました。今では、妹が引きついで立派に事業を存続させています。

今から20年ほど前のことでした。バブル崩壊から10年ほどして、日本の綿花の輸入量が1/3ほどに減少していました。

そのときに、父に何か貢献できないかと考え、お店のホームページを勧めました。

父からは、「そんなオモチャ、誰が見るのだ?」と否定的だったのですが、父を説き伏せてホームページを公開した。ホームページには「手作りなので、どのようなサイズでもオーダーメイド可能です」と謳ったところ、予想外に日本全国からポツポツと注文が入るようになりました。

これがイノベーションの機会となり、布団や座布団のオーダーメイドをサービス化しました。また、日本で初めて、こたつ布団のオーダーメイド注文ができるページを創りました。

今現在、日本の綿花の輸入量は1/10以下に減りましたが、父の意思を引き継いだ妹は、さらにWeb集客に力を入れ、リサイクルの大切さを訴求しながら事業の発展を画策しています。

予期せぬ成功は、小さなことでもイノベーションの機会となります。小さなことでもかまいませんので、何か成功したことはございませんでしょうか? そういったものがあったら、「これは予期せぬ成功かもしれない」と思うクセを身に付けてください。

例えば、今まで想定していなかった顧客との取引が発生したとしましょう。この場合は、「どこで当社のことをお知りになられたのでしょうか?」や「なぜ当社をお選びになられたのでしょうか?」と訊くことで、イノベーションを起こすことができます。

他にも、何か有用な情報を手に入れたとか、ございませんか? 情報の中身も大切ですが、もしかしたら社員も有用な情報を手にいれていても、それが社長の耳にまで届いていない可能性もお考えください。部課長を通じて、社長の耳に入るような仕組みを作ることは、できていますか?

予期せぬ失敗

予期せぬ失敗は、予想していなかった失敗のことです。誰も失敗しようとして失敗する人はいません。予期していなかった失敗が、イノベーションの機会になります。失敗すべくして失敗したものは、失敗の対処は必要なものの、予期せぬ失敗ではございません。

例えば、入念に準備されて開発された新商品で思わぬクレームがあった場合は、予期せぬ失敗です。

ポスト・イットの事例
予期せぬ失敗

3Mのポスト・イットの発明が有名な例だと思います。強力な接着剤を開発していた研究者が、たまたま粘着力が弱いけど、何度も付けたりはがしたりできる接着剤ができてしまいました。

通常であれば、失敗作を捨ててしまうところですが、「それを何かに使えるに違いない」ということでいろいろな人に聞いて回り、ポスト・イットの発明につながりました。

予期せぬ失敗は、「失敗だ」と片付けてしまわずに失敗を受け入れ、原因を考えつつ、イノベーションの機会だと捉えることが大切です。

従業員の失敗から社内ルールができてくることも、イノベーションの一つでしょう。しかし、ルールを作り過ぎることは、予期せぬ失敗などに結び付く可能性もあるため、ルールを少なくするための体系的廃棄もお忘れなく。

予期せぬ成功と予期せぬ失敗は、企業や産業、市場などの内部で発生する出来事です。競合他社や関係のない企業でにも、予期せぬ成功や予期せぬ失敗が発生しています。それらも自社にとってのイノベーションの機会にできます

例えば、海外の企業が特許切れで大損したとしましょう。そのニュースを見た経営幹部が、「我社は大丈夫か?」と思い、全社で特許のチェックを指示することもあるでしょう。また、特許切れをチェックする仕組みを導入することも考えられます。

外部の予期せぬ出来事

予期せぬ出来事の3番目に、企業や産業、市場などの外部で発生する「外部の予期せぬ出来事」があります。自社とは異なる業種での出来事を、自社にとってのイノベーションの機会にできます

例えば、新型コロナウイルスの蔓延という、ほとんど誰も予期していなかった事態が発生しました。これにより、新しい仕事が発生したり、思ってもみなかった事業が伸びたりしました。

CVCCエンジンのエピソード
外部の予期せぬ変化

ちょっと古い話ですが、本田宗一郎が引退する前の本田技研工業でのエピソードをご紹介します。当時の本田技研工業では、空冷で高回転、高出力のエンジンを開発してきました。

ところが、1960年代後半から自動車の排ガスが問題視されるようになり、エンジンに求められる性質に変化がありました。本田技研工業の若手研究者の一人が、米国で排ガスが問題視されだした論文をたまたま発見し、世間の要求が高出力のエンジンから低公害のエンジンへと変化しているという、外部の予期せぬ出来事を発見したのです。

それをイノベーションの機会と捉え、細々と研究を続けてきたことが、水冷の低公害エンジン、CVCCエンジンの開発につながり、厳しい排ガス基準「マスキー法」を世界で初めてクリアーしました。

空冷で高回転、高出力のエンジンのことしか考えていなかったら、この変化を発見しても、「我社には関係ない」と一蹴していた可能性があります。

予期せぬ変化を、会社の内部で発見することもあります。例えば、スマホが普及してきて、社員が仕事中にもスマホを触っていることが多くなったと思います。これを予期せぬ変化と捉えて、社内SNSを導入された会社もあることでしょう。

予期せぬ成功、予期せぬ失敗、外部の予期せぬ出来事は見過ごされやすいので、普段から意識するようにしてください。

当社でコンサルティングのご支援をしている小さなメーカーのお客様と打ち合わせをしていたとき、「そういえば、先日、新規のお客様から部品をオーダーメイドしてもらいたいとご依頼をいただきました。」と、教えてもらいました。

すぐさま「それは、イノベーション7つの機会の何でしょうか?」と尋ねたところ、社長はハッとされ、すぐさまオーダーメイド品の内容や市場規模、事業化の可能性を確認・検討するように部下に指示されていました。

第2の機会、ギャップを探す

ギャップとは、不一致していることや嚙み合っていないことです。イノベーションの機会となるギャップには、次の4種類あります。

  1. 業績ギャップ
  2. 認識ギャップ
  3. 価値観ギャップ
  4. プロセスギャップ

それぞれ、わかりやすく説明いたします。

業績ギャップ

業績ギャップとは、売上高が増大しているのに、利益が思ったよりも出ない状態があるとイノベーションの機会になることです。

例えば、介護業界がそうかもしれません。介護の需要はたくさんありますが、介護を生業としている人は、介護のたいへんさと裏腹にお給料が低いと言われています。そこにイノベーションのチャンスがあります。

介護は生産性を高めることが難しいですが、介護を補助してくれるロボットの出現によって、介護の方法が劇的に変わる可能性があります。とある介護会社は、介護の高付加価値商品を提供し、お給料の低さを克服したところがあります。

オートバイメーカー淘汰の時代のエピソード
業績ギャップ

1950年代に入ると、国内でオートバイメーカーが250社以上生まれ、1950年代後半になるとオートバイの需要が飛躍的に増大していったのにもかかわらず、倒産が相次ぎ、1960年に入る頃には35社が残るまでに淘汰されていきました。

中には、売上高が増えたのにもかかわらず、オートバイを1台売る毎に10,000円の赤字が増えていったところもありました。もちろんそのメーカーも倒産しました。

この中で独り勝ちをしたのが本田技研工業でした。

本田技研工業は、1954年の倒産の危機を乗り越え、生産現場や事務仕事まで徹底的に合理化するというイノベーションに成功し、また世界基準の工作機械が性能を発揮し、日本一の売上高に達しました。その後、1958年にスーパーカブC100を生み出し、世界一のオートバイメーカーになりました。

1956年まで生産実績でシェア20%ほどだったものが、1957年からは毎年シェアを5~10%ずつ伸ばし、1961年にはシェア50%以上を得て一人勝ちしました。

本田技研工業は、生産現場や事務仕事の徹底的な合理化という、当たり前のイノベーションを行っていることが注目されます。業績ギャップのイノベーションは、このような単純なことが多いです。

自動車メーカーの合理化では、トヨタ生産方式が有名ですが、それが生まれた時とほぼ同じくして、本田技研工業でもフォード・システムを超える独自の生産技術を培っていました。本気で世界一を目指している会社は強いです。

同一産業で、多くのの企業が業績ギャップに苦しんでいるときに、業績ギャップをイノベーションして乗り越え、一人勝ちをしてくる企業が出てきます。その企業は、長い年月の間、一人勝ちを続けることができることが多いです。

業績ギャップは、予期せぬ失敗とよく似ていますが、似ている理由については、後ほどご説明いたします。

認識ギャップ

認識ギャップとは、認識のずれがあるとイノベーションの機会になることです。成果が出るところに経営資源が向けられていない場合は、認識ギャップがあります。

例えば、アプリケーションソフトを開発している人がいたとします。その人は、自分が開発したアプリケーションが「必ず売れる」と思い込み、どうしてもそのアプリケーションを世の中に広めたかったとします。ところが、そのアプリケーションを利用するかどうかは、消費者が決めることです。ニーズのないアプリケーションのPRに力を入れていて、成果が出ないとしたら、開発者と消費者の間に認識ギャップがあります。

認識ギャップで利益ダウンし閉店したお弁当屋さん
認識ギャップ

かなり昔の話ですが、私がコンサルタントとして仕事を始めだしたころに、お弁当屋さんのアドバイスをさせていただいていたときのエピソードをご紹介します。

そのお弁当屋さんは、ときどき買いに行っていたので、立ち話をするようになりました。そのときに売上高が年々下がってきていることに悩んでいました。

その原因として、オーナーは「お弁当の値段が高いからだ」と仮説を立て、目玉商品として350円の唐揚げ弁当を開発して販売しました。すると、その唐揚げ弁当は直感的に思ったよりも売れたようです。

そこで、オーナーは「お弁当の値段が高かったので売上が下がったのだ」との結論に至り、お弁当の価格をすべて50円ほど値下げしました。

私の見立ては、「お弁当の値段が廉価なものを求めるようになったのではなく、人通りが少なくなったからだ」でした。そこで私は、すぐさまエビフライなどを入れた高価な弁当を出して単価アップを狙うことと、店舗の立地や周辺の需要の傾向からお弁当の宅配を勧めました。宅配は、「人手が足りない」ということで断念されました。

その後1年ほどして、そのお弁当屋さんは閉店していました。

お弁当屋さんの事例では、仮説が正しいかを実証するために、唐揚げ弁当を廉価でテスト販売したことは、良い方法だと思います。ところが、動向確認した指標の内容とテスト期間の短さに問題がありました。

イノベーションを行うときは、仮説を立てます。この仮説が誤っている場合には、当然ながら成果は出ませんので、それに気が付いた場合には、戦略・戦術の立て直しが必要となります。また、イノベーションに失敗したときのダメージで倒産してしまってはいけませんので、小さく始めることが望ましいです。

価値観ギャップ

価値観ギャップとは、自社が提供しようとしている価値観と顧客求めている価値観にズレがあることです。

例えば、自動車の社内でDVDが再生できるDVDプレイヤーを開発したとしましょう。開発者は、このDVDプレイヤーは「自動車の社内で映画などが見られる」という価値観を持っていると思います。ところが、DVDプレイヤーの消費者は、「自動車の長時間の移動で、子どもが騒いだりぐずったりしないようにするためのもの」という価値観を見出している場合もあります。

このようなDVDプレイヤーの価値観ギャップによって、開発者は「画質を良くしよう」とか「重低音が出るようにした方が、映画に迫力が出て良い」、「複雑な機能を入れてみよう」といった間違った開発へと突き進んでいく可能性があります。

親にとっては、そういった機能はどうでもよく、ともかく子どもがおとなしく後部座席に乗っていてくれたらそれでいいのです。

価値観ギャップの発見は、顧客は誰かを明確にし、その顧客が求める価値を考えることです。消費者は商品を購入しますが、厳密には商品が持っている機能を購入しているのです。既存の売れている商品があれば、その商品が持っている機能を考えてみてください。

冷蔵庫の価値観ギャップ
価値観ギャップ

冷蔵庫を購入した人がいたとしましょう。その人は、冷蔵庫が欲しいから購入したのですが、厳密には「食材を手軽に保存しておける」という機能を購入したかったのです。

自社の冷蔵庫を購入してくれる顧客は誰か? それが明確になると、新商品が生まれる可能性があります。

コーヒーにこだわりの強い人は、コーヒー豆を冷蔵庫や冷凍庫で冷やしています。冷蔵庫のメーカーは、「食材を冷やす道具」として冷蔵庫を製造・販売しています。コーヒーにこだわりの強い人は、「コーヒー豆を冷やす道具」が欲しいのです。

それに気が付いたら、焙煎コーヒー豆専用冷蔵庫を開発する可能性があります。

プロセスギャップ

プロセスギャップとは、一連の工程や方法で生じるギャップを論理的に発見したり違和感を感じたりすることです。プロセスギャップには、業務過程でのプロセスギャップと、顧客利用でのプロセスギャップがあります。

業務過程でのプロセスギャップ

業務過程でのプロセスギャップとは、業務の中で発生しているお困りごとです。理想的なあるべき業務過程に対して、そのように至っていない場合のギャップです。

例えば、飲食店ではアルバイトスタッフも調理場に立つことがあります。包丁に不慣れな人の場合、調理に時間がかかり、怪我の危険もあります。ところが、あらかじめカットされた具材を仕入れたら、包丁による調理が不必要となり、調理の時間が短縮され、怪我も減り、衛生管理が容易になり、料理の品質も安定します。

顧客利用でのプロセスギャップ

顧客利用でのプロセスギャップとは、消費者が製品やサービスを利用するときに感じているお困りごとです。消費者は、理想的なあるべき結果を感じながら商品やサービスを利用しますが、実際の商品やサービスがそれに至っていないケースです。

例えば、昔であれば電車には切符を購入して利用するしかありませんでした。しかも切符は駅員さんが一つひとつ手で切っていました。切符の購入で行列をつくり、また改札の通過でも行列を作って、利用者には不便をかけていました。

最近では、ほとんどすべての駅で自動改札機が導入され、ICカードが導入されていき、切符売り場で並んだり、一部の顧客のために行列を作ったりすることもなくなりました。今では、ICカードの入金が足りなくて入場や退場ができない人がいたときに、たった2~3秒のことでイラッと感じたり、ICカードに入金することすら面倒に感じたりするほど、便利な世の中になりました。

フィルムカメラとデジタルカメラ
プロセスギャップ

フィルムカメラは、デジタルカメラにほとんど取って代わられた分野です。フィルムカメラを利用していた人は、撮影枚数の限度やフィルムの交換作業に不便さを感じていました。デジタル化の時代が来て、フィルムをデジタルデータに変換することも面倒でした。

そういった中で、デジタルカメラの解像度が進化して、多くの人たちが短い期間でデジタルカメラを欲するようになり、フィルムカメラはほとんど姿を見せなくなりました。

この事例は、顧客利用でのプロセスギャップの典型例と言えます。

第3の機会、ニーズの発見

ニーズの発見とは、顧客ニーズのことではなく、企業内や産業内部に発生したニーズのことです。ニーズには、次の3種類があります。

  1. プロセスニーズ
  2. 労働力ニーズ
  3. 知識ニーズ

それぞれ、わかりやすく解説いたします。

プロセスニーズ

プロセスニーズとは、すでに存在する工程や方法の弱みから生じるニーズのことです。プロセスギャップでは、工程や方法でのお困りごとでしたが、プロセスニーズはすでにニーズとして存在するものです。

先ほどの飲食店の事例ではれば、カット野菜がお困りごとの解決策になります。今では、カット野菜は多くの飲食店で便利さが認識され、ニーズとなり普及しています。

デジタルカメラも同様です。フィルムカメラを欲する人は、よほどの理由がある人だけです。

Web制作の現場では、優秀なデザイナーと出会うことに苦労した時代がありました。今では、マッチングサイトの存在により、優秀なデザイナーとすぐに出会うことができるようになって、便利な時代になりました。

労働力ニーズ

労働力ニーズとは、労働力が足りないと感じているところのニーズのことです。

例えば、飲食店でフロアースタッフが足りなかったり、人件費が高騰したりして、労働力が不足した場合に、配膳ロボットが導入されたり、回転寿司が生まれたりと、イノベーションの機会となっています。

パソコンが苦手な人であっても、仕事をするためにはパソコンの使用が要求されます。何かトラブルがあったときの対応として、オンライン診断のようなサービスが発生しました。

都心では常識のホームドア
労働力ニーズ

鉄道では、自動発券機や自動改札が開発され、導入されていきました。いまでは、ホームドアまで常識となりつつあります。

通勤で人が集中する駅のプラットホームでは、朝のラッシュ時には、何人もの駅員や警備員がホームの事故防止に努めていました。しかも、その時間帯は朝の2時間ほどに集中していました。

朝のラッシュ時は電車の本数も多いため、朝の2時間ほどは、電車やプラットホームで働いている人数が最大になります。サービスの向上や事故防止の要求が強まり、労働力を確保することも大変になってきました。

そのような労働力ニーズによって生まれたのが、ホームドアです。

ホームドアのある電車では、車掌のいない電車もあります。車掌になるためには、駅員の経験や社内資格が必要なので、ホームドアのおかげで、かなりの労働力ニーズの軽減に貢献できていると思います。

知識ニーズ

知識ニーズとは、不足している知識を補いたいと感じている開発を伴うニーズのことです。

例えば、新しいアプリの必要性を発見した人がいたとしても、アプリを制作する知識がなければ、新商品を開発できません。その逆に、アプリを制作する知識があったとしても、ニーズを発見するための知識がなければ、多くの人に利用されるアプリはなかなかできないことでしょう。

「もっと手軽にできないか」といったプロセスニーズや労働力ニーズを満たすために、知識ニーズが存在する場合も多いです。

第4の機会、産業構造の変化

産業構造の変化とは、産業や市場の規模、仕事の仕方などが急激に変化していくことで、それがイノベーションの機会となることです。産業構造の変化には、次の4種類があります。

  1. 市場の急激な成長
  2. 市場のとらえ方や市場への対応の仕方の変化
  3. いくつかの技術の合体
  4. 仕事の仕方の急激な変化

それぞれ、わかりやすく解説いたします。

市場の急激な成長

市場は、単純に考えて人口やGDPの増加に比例して成長するものです。ところが、それらの成長よりも圧倒的に急激に成長する市場が出てくる場合があります。そのような市場の急激な成長が出てきたときには、イノベーションの機会となります

例えば、スマホの急激な普及によって、さまざまなサービスが生まれましたし、ホームページ制作もスマホ対応が当たり前となり「モバイル・ファースト」とまで言われるようになりました。

今現在、クラウドサービスが急激な成長を見せています。サブスクという言葉も流行っています。クラウドサービスの急激な成長に伴って、サブスクサービスを提供している企業向けの債権管理システムが出てきました。このようなシステムが生まれたことも、イノベーションの一つと言えます。

最近では、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)も急激な成長を見せていますが、そこから何か別のイノベーションが生まれる可能性があります。

市場のとらえ方や市場への対応の仕方の変化

「市場のとらえ方」とは曖昧な表現ですが、要するに顧客の要求が変化してきているのに、古い価値観で分析したままであったときにイノベーションの機会となるということです。

例えば、飲食店が宅配への参入を検討していなかった場合、お店が繁盛しているかどうかの経営指標を回転率(お客様の来店数÷客席数)だけで判断している可能性があります。持ち帰りが増えているのであれば、来客数だけでなく、お弁当の数も経営指標に取り入れるべきでしょう。

このように、新しい市場が生まれているのであれば、そこにシェアをどれだけ奪われているのか、機会損失しているのかを検討する経営指標を導入するというイノベーションをすべきです。

「市場への対応の仕方」とは、市場が急激に大きくなってきたときに、さまざまな業務が発生してきます。メーカーであれば、大型の機械を導入して生産性を高めたり、大型の機械を扱える人材を育成したりすることも必要になります。

また、競合他社も出てきます。市場が急激に大きくなってきたとき、今までのやり方を行っていると、急激に競合他社が現れてきて、市場占有率を落としてしまう可能性があります。競合他社よりも優れた製品、優れたサービス、魅力的な価格設定などを打ち出していくといったイノベーションが必要です。

いくつかの技術の合体

いくつかの技術の合体とは、技術の異種結合でも産業の急劇な変化が起こり、イノベーションの機会となることです。

例えば、決済という技術と宅配という技術、インターネットという技術が合体したときに、ネット通販という新しい販売手法が生まれました。また、ECサイトとAIという技術が合体したときに、顧客が探しているものを販売するだけでなく、顧客に提案するようにもなってきました。

携帯電話も同様です。京セラが世界で初めて携帯電話とカメラを融合させた機種を発表しました。その後、携帯電話に音楽プレイヤーが内蔵されたり、インターネットが利用できたりして、スマートフォンが誕生しました。

仕事の仕方の急激な変化

仕事の仕方の急激な変化とは、今まで常識とされていた仕事の仕方が急激に別の仕方に変化していくことで、イノベーションの機会となることです。

例えば、現在では新型コロナウイルスの影響によって、多くの会社で在宅ワークが導入され、会社に出社しなくても仕事ができる人が増えました。

それ以前であれば、会社に出社しないとコミュニケーションが円滑に取れないため、業務処理速度が低下してしまうと考えられていました。ところが、新しいクラウドサービスの出現やVPNの普及などによって、今では出社しなくても以前と同程度以上の業務処理ができるように進化しました。

クラウドサービスの出現はイノベーションの一つと言えますが、仕事の仕方が変わったことによって発生したイノベーションもたくさんあります。例えば、都内のカフェや新幹線でさえ、オンラインミーティングが可能な場所が提供されるようになりました。

第5の機会、人口構造の変化

人口構造の変化とは、人口が変化していったときにイノベーションの機会となることです。

例えば、ある特定の場所の人口が変化したとか、男性利用者の割合が増えていったとか、特定の年齢層の行動が変わったといったことです。大手企業の工場ができたり、撤退していったりしたときにも、その地域ではイノベーションが起きます。

人口の変化は、今現在の変化を読み取るだけでなく、政府や自治体が発表している人口統計や、書籍でも「データで見る県勢」といったものを参考にするなどして、予測を立てることもできます。

自動車教習所の将来の収益
人口構造の変化

自動車教習所の10年後の売上高を人口統計から、ある程度予想することができます。自動車免許を取得するのは18歳ですから、教習所の営業エリア内に現在8歳の子どもが何人いて、自動車免許を取得する人数や競合との割合を計算すると、売上高が予想できるというものです。

人口統計からすると、売上高が年々ダウンしていくことは、明らかになっています。将来の売上高がどれぐらい減るのかも、人口統計から予測することができます。それを補うために、地方では合宿免許やドローン教室を取り入れたり、ペーパードライバー教習に力を入れたりしています。

託児所を併設したり、提携の保育園があったりすることは、当たり前になっているようですが、今後、保育園まで運営する教習所が増えてくるかもしれません。しかし、この事業も人口統計から、売上高が年々下がっていくことが予想されているので、よくご検討ください。

売れている自動車の車種を見ていると、1960年代からスポーツカーが売れるようになりはじめ、1980年代は全盛期でした。1990年代からは、スポーツカーに乗っていた人たちに家族ができ、ファミリーカーが売れるように変化していきました。

また他の事例を挙げると、ある町に外国人が増えてきたら、そこには外国人向けのお店ができました。そのようなお店を経営している人であれば、外国人の増加率が分かれば、どのあたりにいつ頃お店を開いたら良いのかが分かります。

このように、人口構造の変化は、いつぐらいにどのようなことが起こるのかを予想することができるので、ビジネスチャンスをモノにしやすいです。

しかし、「中東の食材を取り扱うお店をつくろう」と考えたとしても、中東の食材をどのように仕入れたら良いのか、中東の方々との取引の方法、言葉などの壁があります。そのように、参入しようとする業界にすでに進出している企業でないと、人口構造の変化によるイノベーションは難しいものです。

第6の機会、認識の変化

認識の変化とは、人々の認識や知覚、気持ちが急激に変化していくときにイノベーションの機会になるというものです。

例えば、コーヒーショップを利用する認識が、急激に変化してきています。以前であれば、コーヒーショップは打ち合わせの場でした。今では、一人で仕事をする場にもなっています。このように、人々の認識が変化することによって、イノベーションが起こります。

ファーストフードに対する認識の変化
認識の変化

昔は歩きながら食事をするということは、お行儀の悪いマナー違反行為でした。ところが、マクドナルドが銀座に国内1号店をオープンさせたブームを巻き起こし、ハンバーガーを歩きながら食べることは、若者たちにとってオシャレなことと認識されるようになりました。

カップヌードルも流行り、この頃から、「手軽に食事がとれる」というファーストフードの時代が到来しました。

時代が移り変わり、ファーストフードを食べて育った人たちが中年になる時代が来ると、今度は「ファーストフードばかり食べていたら病気になる」という認識の変化が起こり、アンチエイジングの時代が来ました。

マクドナルドは、国内でハンバーガーショップの第1号ではなく、3番手だと言われています。しかし、ハンバーガーのブームを起こしたのはマクドナルドでした。抹茶ブームやタピオカブームのように、一時的なブームは起こります。しかし、ハンバーガーのブームは止まりませんでした。スマホのブームも同様に止まっていません。

その違いは、認識の変化にあります。ブームは、認識の変化が伴っていなければ、長続きせずに一時的なもので終わる可能性があります。抹茶やタピオカが生活に溶け込んで、当たり前のように利用されるようになったら、それはブームの長続きにつながります。

認識の変化を読み取っても、一時的なブームで終わる可能性もあります。認識の変化によるイノベーションは、小さく始めることが肝要です。

また、「ブームが来たら始めよう」と思っていても、自社にとってまったくの真新しい事業であるならば、すぐの参入は難しいものです。研修開発やテスト販売などで細々と進めておいた方が良い場合もあります。

認識の変化は、人口構造の変化に似ていますが、若干異なります。人口構造の変化は、フェルミ推定で市場予測が容易にできますが、認識の変化は数量で表すことが難しいです。しかし、確実に変化が起きているという傾向は、アンケートなどの市場調査で読み取ることができます。

第7の機会、新しい知識の活用

新しい知識の活用とは、今までになかった新しい知識が活用されたときにイノベーションの機会となることですが、どちらかと言えば新しい技術の活用と言った方が良いかもしれません。

例えば、今では当たり前に普及しているパソコン、自動車、電球、エアコンなど、すべて新しい知識の活用によるイノベーションと言えます。開発された当時は、「そんなもの、誰が使用するのだ?」と一蹴されたものばかりでしょう。

それもそのはずです。当時の人たちは、そのようなものがなくても生活ができていたので、必要性を感じなかったのです。ところが、こういった新しい知識の活用によるイノベーションが、新しい産業を興し、次代を変え、たくさんの雇用を生んできました。

パソコンが市販され始めた頃のエピソード
新しい知識の活用

今から30年ほど前、1990年頃、私が高校生のときのエピソードです。

両親に、「これからはパソコンが流行る。今から勉強しておきたいので、パソコンが欲しい。」と迫ったことがありました。親からは「そのようなオモチャを誰が使うのか?」と一蹴されてしまいました。

今では、パソコンがなければ仕事ができない時代になりました。また、パソコンがなければ生活がしにくい時代にもなり、小学生ですらパソコンを勉強するようになりました。その一蹴のおかげもあり、私は経営コンサルタントになれたのですが。

今では懐かしいフロッピーディスクも同様です。フロッピーディスクはドクター中松が発明したのですが、日本の企業はその価値を理解できず、米国の企業が採用しました。すると、米国で爆発的にヒットし、日本に逆輸入されました。

さて、新しい知識の活用でイノベーションを起こすための源泉は、研究者の意思の強さです。ドクター中松は、エジソンの3倍以上もの特許を取得しているのですから、ものすごいことです。

企業では、強い意思を持った研究者をなるべく阻害してはなりませんし、経営者は研究成果がどのような価値を生み出すのかを検討し、先見力を発揮しなければなりません。

スーパーカブの誕生に結び付いた新しい知識
新しい知識の活用によるイノベーションは、さまざまな技術的困難との闘い

本田技研工業が生み出した空前のヒット商品と言えば、まず取り上げられるものはスーパーカブでしょう。生みの親は、本田宗一郎です。

しかし、開発の裏には、本田技研工業の実質的に社長であった藤沢武夫の先見性があったことは、あまり知られていません。

1952年からスクーターの研究を開始し、1954年に本田技研工業で初となるスクーター、ジュノオ号を発表します。ジュノオ号には、複雑な流線形のボディラインを、当時としては最先端技術だったPFRの導入で実現しました。

ところが、ジュノオ号はトラブル続出で売れなくなり、苦しかった経営をさらに圧迫してしまいました。

藤沢武夫は、ジュノオ号からの撤退を決めたときに、開発者側に一つの指示を出します。それは、「FRPの技術は、将来に必ず活きてくるから温存しておけ」でした。

このように、FRPの技術が本田技研工業に残され、1958年に発表されたスーパーカブC100に活かされました。

スーパーカブの商品開発コンセプトは、技術的に極めて厳しいものでした。それを満たすために、50ccで4馬力以上出るエンジンや自動遠心クラッチなどを開発し、2年ほどの歳月をかけて完成に至りました。

新しい知識の活用によるイノベーションは、さまざまな技術的困難との闘いです。スーパーカブのように、さまざまな知識が融合して一つの製品として生まれてくることがほとんどです。

コンピュータも、さまざまな技術の融合で生まれています。半導体が生まれたからコンピュータが生まれたのではありません。半導体はコンピュータの材料の一部に過ぎません。

半導体が発見されたときには、この技術を何に使えるのか、ごく限られた人しか理解できなかったことでしょう。しかし、中には「半導体をスイッチに使える」と思ってトランジスタを研究開発をした人がいました。半導体のスイッチが生まれたら、「リレーや真空管をこれに置き換えたら小型化できる」ということで研究され、ICが発明され、「これを計算機に使える」と思って研究開発した人がいました。計算機が記録装置やソフトウェアなどの技術と融合していき、コンピュータが開発されていきました。

新しい知識によるイノベーションは、連鎖的に新しいものを生み出し、新しい産業にまで成長させることがあります。新しい産業を連鎖的に興すことができ、パイオニアのとなった国は、世界のリーダー的な存在になれることが、歴史で証明されています。

スマホの出現も同様です。iPhoneが出現したときは衝撃的でした。その後にアンドロイドスマホも出現し、ガラケーの時代は終了しました。そして、数えるほど数のメーカーが大きくシェアを取っていて、新規参入が難しい時代に入りました。

新しい知識によるイノベーションは、認識の変化を伴って需要が伸び、急激にメーカーの数が増えますが、すの直後に淘汰の時代に入り、新規参入の機会が閉ざされ、数えるほどの数のメーカーしか残らないという現象が起きます。また、老舗だから残るとは限らず、たいてい途中から新規参入してきた企業が1位を獲得します。

既存のイノベーションは7つの機会のどれに該当するのか?

私は、初めてイノベーション7つの機会を知ったとき、今まで起きたいろいろなイノベーションが、どの機会によって起きたのか研究しました。ところが、調査したイノベーションはどれも、7つのうち、少なくとも4つ、多いときには7つすべてに該当するので、機会を絞れずに混乱しました。

外部の予期せぬ出来事のところでご紹介したCVCCエンジンですが、この事例も外部の予期せぬ出来事だけでなく、プロセスギャップや知識ニーズ、産業構造に変化、認識の変化などにも該当します。スーパーカブC100の成功を見ても、複数の機会に該当します。

例えば、「自動車用の高性能なDVDプレイヤーを開発したい」と考えたとしましょう。しかし、子どもを持つ人は、「子どもが後部座席でおとなしくしていてくれたらよい」と考えているので、値段の高い高性能なものを購入しないことでしょう。

この場合、「子どもを持つ人には、思ったほど売れない」ということで予期せぬ失敗です。また、売れると思っていたものが売れなかったので、業績ギャップにも該当します。そして、売れない原因は、開発者と顧客の価値観ギャップによるものです。

複数の機会に該当することをどのように捉えたら良いでしょうか?

ドラッカー先生は、次のようなことを述べています。

イノベーション7つの機会は、はっきりと区別されているわけではなく互いに重複している。それは、ちょうど7つの窓に似ている。それぞれの窓から見える景色は隣り合う窓とあまり違わない。だが部屋の中央から見える7つの景色は異なる。

イノベーション7つの機会は、7つの窓を眺めているようなもの。

要するに、隣り合う機会は似ていることが多いということです。また、次のようにも述べています。

イノベーションを行うには、イノベーションのための7つの機会を徹底的に分析しなければならない。

イノベーションを行うときは、どれか1つの機会を分析すれば良いのではなく、7つの機会すべてを徹底的に分析することを述べています。実際にイノベーションの機会は、7つの機会のうちどれか1つだけが該当するのことは少なく、複数の機会に該当する場合が多いです。

そして、該当する機会が多ければ多いほど、イノベーションは成功しやすくなりますので、イノベーションを行うかどうかの意思決定の判断材料にもなります。

イノベーション7つの機会の活用方法

イノベーション7つの機会を活用する方法は、まず7つの機会の中のいずれかの機会を発見することです。7つの機会を発見したら、イノベーションを検討します。

7つの機会を発見する

7つの機会には複数の項目があります。それぞれ企業・産業・市場の内側に発生するのか、それとも外側に発生するのかが異なります。

7の機会は従業員が発見することもあるので、従業員から機会をくみ上げる仕組みをつくることも望ましいですが、できれば、社長自ら外に出て機会が目に留まるように意識した方が良いです。なぜなら、社長は会社の中で最も先見性が必要とされますし、会社の未来に責任を持つ役職だからです。

イノベーションの可能性の検討

もし7つの機会のいずれかを発見したら、次の手順でイノベーションの可能性を検討してください。

  1. どのようなイノベーションが起こせそうか?
  2. そのイノベーションは、他の機会にも該当するか?
  3. そのイノベーションは、自社の強みを基盤としてできるか? また、自社のミッションに合っているか?
  4. イノベーションによって自社や顧客、社会に与えるメリットやデメリットは何か?
  5. どのようなリスクが存在するのか? どのようにしたらリスクを抑えられるか?

これらのことが検討できたら、社長であれば、そのイノベーションの可能性にすぐさま気付くことができることでしょう。

それぞれの機会によるイノベーションにおいて、正しい考え方ややり方があるので、それを検討してください。正しい考え方ややり方は、冒頭でご紹介したドラッカー先生の書籍に記載されています。

ここで、イノベーションの可能性を検討する上で大切なことは、自社のミッションと顧客です。

イノベーションが自社のミッションからかけ離れているものだと、企業のアイデンティティーや存在理由を見失ってしまう可能性があります。例えば、メイン事業で大きな利益を得た企業が、剰余金で飲食店やゴルフ場の経営を始めたりするようなものです。

イノベーションによって、顧客からそっぽを向かれてしまったら、企業は生きていくことはできません。例えば、生産性をイノベーションできても、商品の品質が落ちてしまったら、薄利多売となったり、売れなくなったりしてしまいます。

経営者に贈る5つの質問

イノベーションに可能性を感じたら、「経営者に贈る5つの質問」に答えていくことです。すると、自社のミッションと顧客を考慮してのイノベーション計画ができます。経営者に贈る5つの質問の内容は、次の5つです。

  1. 我々のミッションは何か?
  2. 我々の顧客は誰か?
  3. 顧客にとっての価値は何か?
  4. 我々の成果は何か?
  5. 我々の計画は何か?

経営者に贈る5つの質問については、別の機会で詳しくご説明いたします。

イノベーションを成功させるために

イノベーションを成功させるために、いくつかの注意点を述べたいと思います。ドラッカー先生は「なすべきこと」と述べています。

目的意識を持つ

また、イノベーションを行うときには、目的意識を持つことを、ドラッカー先生は何度も述べています。目的意識を持つこととは、目的を明確に自覚することです。そうしなければ、イノベーションの方向性が逸れてしまい、認識ギャップが生まれてしまう可能性があります。

「経営者に贈る5つの質問」の中の「我々のミッションは何か?」に答え切ることよって、目的が明確になります。ミッションが明確になると、勤勉に、そして持続的にイノベーションに取り組むことができます。

またイノベーションに取り組む際は、できるだけ社運をかけるようなことをしないで、リスクを減らし、小さなところから始められると理想的です。

単純なイノベーションであれば、目的が明確になりやすく、イノベーションに集中しやすく、リスクを減らしやすいものと考えます。

単純で具体的なこと1つに絞る

イノベーションには、単純で具体的なものが多いです。単純で具体的なものほどイノベーションを成功させやすいからです。

今まで述べてきたイノベーションの事例では、本当に単純で具体的なものばかりです。最初にご紹介した、手作り布団屋さんの事例では、ホームページからの注文があって、それをサービス化しただけという、単純なものでした。そして、布団のオーダーメイドという具体的なサービスを開発しました。

また、新しいものは、必ず問題があります。イノベーションを1つのことに絞ることによって、改善がしやすくなります。

手作り布団屋さんでも、オーダーメイドのネット販売を開始したときは、トラブルの連続でした。そのトラブルを1つずつ乗り越えていって、ノウハウを積み重ねて、立派ななサービスが出来上がりました。

強みを基盤とする

強みを基盤としたイノベーションは成功しやすくなります。イノベーションによって収益化するためには、多角化の商品であれば3年は利益が得られないぐらいで考えるのですが、強みを基盤としたイノベーションは、それなりにノウハウがあるので利益が得られるまでのリードタイムが短くなります。

布団のオーダーメイドをサービス化した事例では、手作り布団屋さんのイノベーションで、まさしく、強みと合致したイノベーションでした。

もし、「布団のオーダーメイドが求められているようだ」と事実をつかんだ企業が、布団を仕入れて売るだけの小売店だったらどうでしょうか。布団を製造するノウハウがないので、イノベーションに時間がかかったと思います。また、それが手芸店だったらどうでしょうか。よほど熱意があり、狂ったぐらいに取り組まない限り、イノベーションは不可能に近くなります。

7つの機会とは異なる機会によるイノベーション

以下、7つの機会とは異なる機会によるイノベーションを2つ述べたいと思います。

第8の機会、思いつき

第8の機会は、思いつきのことです。ドラッカー先生は、「優れたアイデアによるイノベーション」と言っています。思いつきによって新商品や新サービスが生まれるというイノベーションです。

優れたアイデアによるイノベーションとは?

優れたアイデアによるイノベーションは、新しい知識の活用と似ていますが異なります。新しい知識の活用によるイノベーションには高度な技術の研究開発とそれらの合成が伴いますし、目的や意図を持ったイノベーションです。

それに対して優れたアイデアによるイノベーションは、単純なものが多く、まさしく思いつきです。世間には、同じようなアイデアが存在していることが多く、何が流行するかが予想しにくいことです。研究者は何でも試し、「やり続けたら、いずれ成功する」という発想で執拗に発明を続ける必要があります。

そのため、ドラッカー先生は「優れたアイデアによるイノベーションは、予測が難しく、かつ失敗の確率が大きい」と、リスクの大きさについて述べています。ドラッカー先生は成功するのは500に1つ、一倉先生は万パチ(万に8つ)と述べているぐらいです。

優れたアイデアによるイノベーションは阻害すべきでない

しかし、「優れたアイデアによるイノベーションは行うべきでない」とは述べていないことに、ご注意ください。なぜなら、この優れたアイデアによるイノベーションが、人類に大きく貢献することもあるからです。

例えば、針金を曲げただけのクリップは、知らない人がいないぐらいに流行っています。同じようなものは、世の中にたくさん存在していたと思いますが、なぜか、針金を曲げただけのクリップが世界中に広がりました。ホッチキスも同様です。この存在が、どれだけ仕事をしやすくし人類に貢献したか、計り知れません。

また、アイデアを出すことと、優れたアイデアによるイノベーションの違いに、ご注意ください。つまり、ドラッカー先生は、アイデアを出すことを戒めているのではなく、単純な思いつきだけによるイノベーションを戒めていることです。第1の機会から第7の機会においても、たくさんのアイデアを出すべきです。

第9の機会、奇跡

第9の機会は、奇跡です。ドラッカー先生は、「奇跡によるイノベーション」と言っています。

奇跡によるイノベーションとは?

奇跡によるイノベーションには、次の2つがあります。

  • 霊感
  • 天才のひらめき

つまり、霊感や天才のひらめきがイノベーションの機会となるというのです。

例えば、イエス・キリストは、たった3年間の伝道によって、世界的にイノベーションを起こし、2,000年ほど経過した今現在にも影響を与えているぐらいです。お釈迦様に至っては、2,500年ほど経過しているにも関わらずです。これは、すさまじいぐらいの霊感によるイノベーションでしょう。

天才のひらめきによるイノベーションについては、ドラッカー先生がレオナルド・ダ・ヴィンチの事例を述べられています。15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた数々のデッサンの中には、天才がゆえに早すぎたひらめきも多くありました。飛行機やヘリコプターとして、20世紀になって実用化されたものもあるくらいです。

奇跡によるイノベーションをどう見るべきか?

ドラッカー先生は、「そのようなイノベーションに出会ったことがない」と述べています。確かに、時代精神を創り出す、四聖にも劣らない綺羅星のごとく出てくる人物に出会うことは、ごく稀なことです。

そのようなイノベーションは、再現性がほぼありませんし、イノベーションの方法を教えることは極めて困難だと言えます。

イノベーション7つの機会について述べている人の中には、アイデアによるイノベーションのことを「失敗する確率が最大である」と述べている方もいらっしゃいます。私は、第9の機会の方が、失敗する確率が最大だと考えます。

奇跡によるイノベーションは、インスピレーショナブルな人物によって起こされるので、アイデアによるイノベーションと似ていますが、霊能者や天才と言われる人によるイノベーションですから、ごく稀に起こるということで、日ごろから生まれては消えているアイデアによるイノベーションとは異なると言えます。

新商品などのアイデアを思いついたら?

新商品や新サービスのアイデアを思い付いたら、すぐさまイノベーション7つの機会のどれに該当するものか、分析してください。

もし、7つの機会の中で、上位のものを含み、いくつかの機会に該当するものであれば、その新商品や新サービスのアイデアは、検討すべきものと言えます。

それを開発するかどうかの意思決定は、自社の強みを基盤とし、自社の方向性にも合い、商品開発の時間にも耐えられるか。リスクを最小に抑えられるかなどの、さまざまな要因で考えます。

手順としては、上述したイノベーションの可能性の検討をご覧ください。

以上、イノベーション7つの機会について、現代的な事例を交えてご紹介してきました。イノベーション7つの機会を活用することで、イノベーションを起こすキッカケをつかむことができるようになります。また、そのイノベーションが成功するかどうかの可能性を調べることができるようになります。

当社では、イノベーション7つの機会が学べるセミナーを開催していますので、イノベーション7つの機会を学びたい方は、お気軽にご相談ください。

この記事の著者

平野亮庵

経営・集客コンサルタント
平野 亮庵
(Hirano Ryoan)

経営全般からマーケット分析、集客コンサルティング、SEO対策、SEOコンテンツ・マーケティング、ホームページ制作等を主に行っています。Web集客と併せて、新商品開発やブランディングの支援など、クライアント企業が競合企業に勝つためのコンサルティングを提供しています。

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