このページを開かれたあなたは、「イノベーション7つの機会は、大事な内容なので覚えたいが難しい」「学校のレポートでまとめないといけないが、本の内容が難しい」など、難易度の高さにお困りのことでしょう。
でも、ご安心ください。身近な事例と簡単な言葉で詳しく解説しました。
さて、マネジメントの父と言われるピーター・F・ドラッカー(1909~2005年)は、イノベーションのほとんどが7つの機会によって起こされていることを発見し、体系化しました。これを、「イノベーション7つの機会」といいます。
イノベーション7つの機会が記載されている、和訳された書籍は「イノベーションと企業家精神」など複数あります。個人的には「英語で読み解くドラッカー『イノベーションと起業家精神』」と併せて読むことをおすすめします。本を検索で探すときは、「起」と「企」が異なることにご注意ください。
初版は今から40年ほど前に出されているので、記載されている事例に古さを感じるものの、内容自体は今なお色あせることはありません。イノベーションの機会を分析し、体系的廃棄が可能なイノベーションの機会を7つに分類したことに、ドラッカー先生の凄さがあります。ドラッカー理論の中でも大切なところですので、企業の経営者やイノベーターはしっかり理解し、実践してください。
しかし、ドラッカー先生の書籍は、慣れていない人にとってはとても読みにくいです。ドラッカー先生の文章は、1行1行が考えさせられる内容になっているため、その内容を理解できる人であればあるほど考え込んでしまい、読み進めるのに時間がかかります。
そこで、このコラムでは、イノベーション7つの機会をわかりやすい文章で解説しつつ、たくさんの身近な事例をご紹介いたします。
また、7つの機会ですから7項目あると思いきや、実は9項目あります。その内容もご説明いたします。
ドラッカーは、巨大企業を中心に、大きな病院やNPOなどの非営利組織の研究も行っていました。そのため、ドラッカー理論は中小企業の理論とは親和性の低い箇所もございます。
しかし、イノベーション7つの機会は中小企業であっても成長志向であれば大きく関係します。イノベーション7つの機会は経営者や経営幹部にとって、とても大切なフレームワークですので、使いこなせるようにしておいてください。文章で読むのが苦手な方は、ぜひ当社の研修にご参加ください。
それでは、イノベーションを理解する上で欠かせない、マーケティングとイノベーションの関係から入りたいと思います。
マーケティングとイノベーション
ドラッカー先生の教えの中で、「企業の目的は顧客の創造である。そのために企業にはマーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要がある」と述べています。
ドラッカー先生によると、マーケティングの理想は「販売を不要にすること」。イノベーションとは、「体系的廃棄」と述べています。
マーケティングとは?
マーケティングとは何かと訊かれたら、何と答えることが正解でしょうか? 日本語では、一倉定先生(1918~1999年)が「市場活動」という言葉を用いています。
マーケティングとは販売を不要にすること
ドラッカー先生によると、マーケティングの理想は「販売を不要にすること」と述べています。ドラッカー先生の書籍のどこかにマーケティングの定義が書かれているかと思いますが、今のところ発見できていませんので、ご批判を承知で、私なりに定義を試みたいと思います。
マーケティングとは、簡単に述べると、提供する商品やサービスの値打ちに気づいてもらい、利用してもらうための活動のことです。販売力の強化やブランディングは、そのための手法です。
販売を不要にすることとは、提供するものがおのずから売れること、利用してもらえることを意味しています。「販売を不要にしたら、売れないじゃないか」と思われるかもしれませんが、営業が不要とは述べていません。商品やサービスがおのずから売れるようにすることです。
すると、ウェブマーケティングは「インターネットを活用して販売を不要にすること」と定義できます。当社が提供するウェブ集客コンサルティングは、まさしくウェブマーケティングを理想としています。また、ブランディングは、マーケティングの一環であると定義もできます。
ドラッカーによるマーケティングの解説
ドラッカー先生の書籍の中には、イノベーションについてよく述べられているのですが、マーケティングについてはあまり述べられていません。イノベーションの話題に付随して、マーケティングについて述べられていることが多いです。
企業の目の前の市場には、顧客と自社、そして競合他社があります。競合他社と自社が競って、顧客をこちら側に振り向いてもらえるようにすることが、身近なマーケティングであると言えます。
どのような規模の企業であっても、イノベーションは顧客を中心として行わなければ、顧客からそっぽを向かれてしまいます。
ドラッカー先生のマーケティングの基本は、顧客への貢献を中心に考えることだと言えます。著書「プロフェッショナルの条件」に掲載されているブライアン看護師の原則からも、そのことが伺えます。
マーケティングのフレームワーク
また、マーケティングのフレームワークは、ドラッカー先生の書籍の中で、主に「イノベーション7つの機会」と「経営者に贈る5つの質問」を併せると考えやすいです。
イノベーション7つの機会は、このコラムで詳しく述べています。経営者に贈る5つの質問については、後半に少しだけご紹介していますが、詳細は別の機会にご紹介することにいたします。
イノベーションとは?
イノベーションとは何かと訊かれたら、何と答えると正解でしょうか? 日本語では、一倉定先生が「革新」という用語を用いています。
広義のイノベーションとは?
世の中に存在しない新商品を開発し、多くの人々に貢献できたら、それもイノベーションでしょう。会社内で新しい生産方法を開発したら、それもイノベーションでしょう。イノベーションとは、何か新商品を開発して、世の中に大きな変革をおこすことだと思われがちです。
そのような大きなイノベーションは、もちろんイノベーションと言えますが、ごく小さなものや目立たないものも存在します。例えば、社内業務の流れを効率の良いものに改革してもイノベーションでしょう。顧客との電話の応対の仕方を間違っていたら、そのことに気が付いてそれを改善しても、イノベーションです。このように、何か革新できたらイノベーションになります。
イノベーションとは体系的廃棄
ドラッカー先生によると、イノベーションとは「体系的廃棄」と述べています。
体系的廃棄とは、簡単に述べると古いものを体系的に廃棄して新しいものに取って換えていくことです。
商品やサービスは、ニーズの変化によって陳腐化していく可能性があります。部品メーカーでは工作機械を使っていると思いますが、その工作機械も、将来はもっといいものが出てくるので、今のものは陳腐化していきます。業務の流れも変化しています。今では伝票処理は、コンピュータで行われるようになり、とても便利になりました。
企業では工作機械や業務の流れなどを体系的廃棄して、顧客ニーズに対応していく必要があります。生産性を高めてコスト削減をしたり、新しい商品を出して顧客を創造していったりして、古いものを体系的に廃棄していきます。
このように、大小さまざまなイノベーションによって、企業は社会の問題解決に今以上に貢献していくのです。
イノベーションで大切な考え方の変化と進化
もし、企業が社会の問題解決にたくさん貢献できたら、つまり多くの人のお役に立てたら、その企業は発展します。多くの人のお役に立つためには、大小さまざまなイノベーションを繰り返していかなければなりません。
イノベーションしていくためには、イノベーションの機会を発見したら、考え方を変えたり、進化させたりすることが大切です。
例えば、一生懸命に開発した新商品がヒットしたとしましょう。そのヒットはほとんどの場合で長く続かず、必ず衰退していきます。いずれ、一生懸命に開発して愛着のある商品を捨て去るときがきます。それを自分の感情にとらわれずに、捨て去ることができるかどうかが問われます。
ドラッカー先生は、コンサルティングをしている相手に、さまざまな問いかけをしたと聞いたことがあります。ドラッカー先生の効果的な問いかけにより、クライアント経営者は、考え方を変えていったり、進化させていったりしたのだと思われます。
体系的廃棄ができないイノベーション
イノベーションのことを、体系的廃棄と述べましたが、体系的廃棄ができないイノベーションが2つあることを、ドラッカー先生は述べています。
それらのイノベーションは、イノベーション7つの機会とは別の性質を持ったイノベーションですので、第8と第9の機会として、このコラムの最後にご説明いたします。
なぜマーケティングとイノベーションなのか?
以上、マーケティングとイノベーションの関連性について述べてきました。ここで、ドラッカー先生のマーケティングとイノベーションの解説についてご紹介します。
「企業の目的は顧客の創造である。そのために企業にはマーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要がある」
なぜ、企業は顧客を創造のために、マーケティングとイノベーションという2つの機能を備えている必要があるのでしょうか。
それは、一言で述べるとするならば、企業がこの2つの機能を備えていることにより、事業機会を発見でき、商品やサービスを改善でき、より良い社会を創ることに貢献ができます。そして、社会に貢献できた企業が存続・発展していくからです。
マーケットの立場からすると、顧客の創造ができる企業は、社会に貢献できる企業ですから、消費者の立場から見ても、そういった企業は存続してもらいたいものです。
企業が存続するためには、万物流転の法則に逆らう必要があります。そのための機能がマーケティングとイノベーションです。(万物流転の法則については、「HONDAを世界企業に成長させたナンバー2藤沢武夫の経営哲学とは?」をご参照ください。)
マーケティングとイノベーションによって、変転する市場と顧客の要求を見極めて、自社をつくり変えていくことができます。
イノベーション7つの機会
イノベーション7つの機会とは、ドラッカー先生が提唱した、イノベーションを体系的に起こすことができる機会のことです。この機会を発見することができたら、イノベーションを起こすことができる可能性が高まります。
ここでは、7項目を順番にご説明しますが、この順番はイノベーションの機会になりやすい順番でもあります。
ここで述べる7つの機会を常日頃から意識しておくことで、イノベーションの機会を発見したり、分析・検討したりでき、会社が成長しやすくなるはずです。
第1の機会、予期せぬ出来事
仕事の業務や世の中の出来事には、良くも悪くも、ときどきイレギュラーな不測の事態が起こることがあります。それが予期せぬ出来事です。
予期せぬ出来事には、次の3種類があります。
- 予期せぬ成功
- 予期せぬ失敗
- 外部の予期せぬ出来事
予期せぬ出来事が発生したときには、イノベーションの機会と捉えることができます。予期していなかった出来事は、意識していたらコストをかけずに気が付くことができます。イノベーションの機会の中で、もっともイノベーションを起こしやすいものです。
3つの予期せぬ出来事を、それぞれわかりやすく説明いたします。
予期せぬ成功
予期せぬ成功とは、予想していなかったのに起こってしまった成功のことです。思わぬ顧客の獲得とか、予想もしていなかった成果が出てしまった場合です。これがイノベーションの機会となります。
予期せぬ成功は、たくさん溢れています。発見しやすいイノベーションの機会です。また、予期せぬ成功をイノベーションの機会と捉えた場合は、イノベーションさせやすいです。
私の身近な事例をご紹介します。
手作り布団屋さんの事例
私の父は、地方で小さな手作り布団の店を営んでいました。今では、妹が引きついで立派に事業を存続させています。
今から20年ほど前のことでした。バブル崩壊から10年ほどして、日本の綿花の輸入量が1/3ほどに減少していました。この数字の変化から、手作り布団の需要は年々下がっていることが、容易に想像できます。もちろん、父のお店の売上高も、年々下がっていました。
このままではあと数年で、父のお店は倒産です。そのときに、父に何か貢献できないかと考え、お店のホームページを持つことを勧めました。
当時は、中小企業がホームページを持ったり、人々が毎日のようにネット検索したりする時代ではありませんでした。父はホームページに対して、「そんなオモチャ、誰が見るのだ?」と否定的だったのですが、父を説き伏せてホームページを公開しました。
ホームページには「手作りなので、どのようなサイズでもオーダーメイド可能です」と謳ったところ、予想外に日本全国からポツポツと注文が入るようになりました。
これがイノベーションの機会となり、すぐさま布団や座布団のオーダーメイドをサービス化しました。また、日本で初めて、こたつ布団のオーダーメイド注文ができるホームページを創りました。
今現在、日本の綿花の輸入量は1/10以下に減りましたが、父の意思を引き継いだ妹は、さらにWeb集客に力を入れ、リサイクルの大切さを訴求しながら事業の発展を画策しています。
予期せぬ成功は、小さなことでもイノベーションの機会となります。小さなことでもかまいませんので、何か成功したことはございませんでしょうか? そういったものがあったら、「これは予期せぬ成功かもしれない」と思うクセを身に付けてください。
例えば、今まで想定していなかった顧客との取引が発生したとしましょう。この場合は、「どこで当社のことをお知りになられたのでしょうか?」や「なぜ当社をお選びになられたのでしょうか?」と訊くことで、イノベーションにつながる可能性が高まります。
他にも、何か有用な情報を手に入れたとか、ございませんか? 情報の中身も大切ですが、もしかしたら社員が有用な情報を手にいれていても、それが社長の耳にまで届く仕組みも大切です。部課長を通じて、社長の耳に入るような仕組みは、できていますか?
予期せぬ失敗
予期せぬ失敗は、予想していなかった失敗のことです。誰も失敗しようとして失敗する人はいません。予期していなかった失敗が、イノベーションの機会になります。
予期せぬ失敗の代表例は、お客様からのクレームです。入念に準備されて開発された新製品で思わぬクレームがあった場合は、予期せぬ失敗です。クレームによる製品の改善によって、画期的な製品に生まれ変わるというイノベーションは、よく聞く話です。
お客様からのクレームを、「客は分かっていない」と言ったところで、自社にイノベーションが起こらないので、顧客離れや競合他社の台頭につながりかねません。
なお、失敗すべくして失敗したものは、失敗の対処は必要なものの、予期せぬ失敗ではありません。
ポスト・イットの事例
技術開発をしている中での予期せぬ失敗から新製品が生まれることもあります。
3Mのポスト・イットの発明が有名な例だと思います。
強力な接着剤を開発していた研究者が、たまたま粘着力が弱いけど、何度も付けたりはがしたりできる接着剤ができてしまいました。
通常であれば、失敗作を捨ててしまうところですが、「それを何かに使えるに違いない」ということでいろいろな人に聞いて回り、ポスト・イットの発明につながりました。
予期せぬ失敗は、「失敗だ」と片付けてしまわずに失敗を受け入れ、原因を考えつつ、イノベーションの機会だと捉えることが大切です。
従業員の失敗から社内ルールができてくることも、イノベーションの一つでしょう。しかし、ルールを作り過ぎることは、会社の成長を阻害する可能性もあるため、ルールの体系的廃棄もお忘れなく。
予期せぬ成功と予期せぬ失敗は、企業や産業、市場などの内部で発生する出来事です。競合他社や関係のない企業でも、予期せぬ成功や予期せぬ失敗は頻繁に発生しています。それらを知ることができたら自社にとってのイノベーションの機会にできます。
例えば、海外の企業が特許切れで大損したとしましょう。そのニュースを見た経営幹部が、「我社は大丈夫か?」と思い、全社で特許のチェックを指示することもあるでしょう。また、特許切れをチェックする仕組みを導入することも考えられます。
外部の予期せぬ出来事
予期せぬ出来事の3番目に、企業や産業、市場などの外部で発生する「外部の予期せぬ出来事」があります。自社とは異なる業種での出来事を、自分の会社や産業、市場にとってのイノベーションの機会にできます。
例えば、新型コロナウイルスの蔓延という、ほとんど誰も予期していなかった事態が発生しました。これを機会と捉えた人たちは、新しい仕事や事業を構築しました。
とある食品企業で、異物混入の事故が発生し、ニュースになったとしましょう。そのニュースを見た他の食品企業が、自社の工場を一斉点検し、生産ラインの改善をするということもあります。これも、外部の予期せぬ出来事により起こったイノベーションです。
CVCCエンジンのエピソード
ちょっと古い話ですが、本田宗一郎が引退する前の本田技研工業でのエピソードをご紹介します。当時の本田技研工業では、空冷で高回転、高出力のエンジンを開発していました。
ところが、1960年代後半から自動車の排ガスによる環境汚染が問題視されるようになり、エンジンに求められる性質に変化がありました。本田技研工業の若手研究者の一人が、米国で排ガスが問題視されだした論文をたまたま発見し、世間の要求が高出力のエンジンから低公害のエンジンへと変化しているという、外部の予期せぬ出来事を発見したのです。
それをイノベーションの機会と捉え、細々と研究を続けてきたことが、水冷の低公害エンジン「CVCCエンジン」の開発につながりました。CVCCエンジンは、排気ガスに含まれる有害ガスの量を、数年以内に現在の1/10以下にするという、厳しい排ガス基準「マスキー法」を世界で初めてクリアーしました。
もし、本田技研工業の技術者全員が、空冷で高回転、高出力のエンジンのことしか考えていなかったら、この変化を発見しても、「我社には関係ない」と一蹴し、会社経営は厳しいものになっていた可能性があります。
予期せぬ変化を、会社の内部で発見することもあります。例えば、スマートフォンが爆発的に普及し、会社では社員が仕事中にもスマートフォンを触っていることが多くなったと思います。これを予期せぬ変化と捉えて、社内SNSや自社専用のアプリを導入された会社もあることでしょう。
予期せぬ成功、予期せぬ失敗、外部の予期せぬ出来事は、例外の出来事として見過ごされやすいので、普段から意識するようにしてください。
当社がコンサルティング支援しているお客様で、既製品の製造・販売をしているお客様がいます。その社長と打ち合わせをしていたとき、「そういえば、先日、新規のお客様から部品をオーダーメイドしてもらいたいとご依頼をいただきました。」と、教えてもらいました。
すぐさま「それは、イノベーション7つの機会の何でしょうか?」と尋ねたところ、社長はハッとされ、すぐさまオーダーメイド品の内容や市場規模、事業化の可能性を確認・検討するように部下に指示されていました。
第2の機会、ギャップを探す
ギャップとは、不一致や噛み合っていないことです。思い込みによるギャップ、認識のズレ、「もっとこうしたらいいのにな」と感じる違和感、何か理想がありそれと現実との差もギャップになります。
イノベーションの機会となるギャップには、次の4種類あります。
- 業績ギャップ
- 認識ギャップ
- 価値観ギャップ
- プロセスギャップ
それぞれ、わかりやすく説明いたします。
業績ギャップ
業績ギャップとは、売上高が増大しているのに、利益が思ったよりも出ない状態があるとイノベーションの機会になることです。
例えば、介護業界がそうかもしれません。介護の需要はたくさんありますが、介護を生業としている人は、介護のたいへんさと裏腹にお給料が低いと言われています。そこにイノベーションのチャンスがあります。
介護は生産性を高めることが難しいですが、介護を補助してくれるロボットの出現によって、介護の方法が劇的に変わる可能性があります。とある介護会社は、介護の高付加価値商品を提供し、お給料の低さを克服したところがあります。
オートバイメーカー淘汰の時代のエピソード
1950年代に入ると、国内でオートバイメーカーが250社以上生まれ、1950年代後半になるとオートバイの需要が飛躍的に増大していったのにもかかわらず、倒産が相次ぎ、1960年に入る頃には35社が残るまでに淘汰されていきました。
中には、売上高が増えたのにもかかわらず、オートバイを1台売る毎に10,000円の赤字が増えていったところもありました。もちろんそのメーカーも倒産しました。
この中で独り勝ちをしたのが本田技研工業でした。
本田技研工業は、1954年の倒産の危機を乗り越え、生産現場や事務仕事まで徹底的に合理化するというイノベーションに成功し、また世界基準の工作機械が性能を発揮し、日本一の売上高に達しました。その後、1958年にスーパーカブC100を生み出し、世界一のオートバイメーカーになりました。
1956年まで生産実績でシェア20%ほどだったものが、1957年からは毎年シェアを5~10%ずつ伸ばし、1961年にはシェア50%以上を得て一人勝ちしました。
本田技研工業は、生産現場や事務仕事の徹底的な合理化という、当たり前のイノベーションを行っていることが注目されます。業績ギャップのイノベーションは、このような単純なことが多いです。
自動車メーカーの合理化では、トヨタ生産方式が有名ですが、それが生まれた時とほぼ同じくして、本田技研工業でもフォード・システムを超える独自の生産技術を培っていました。本気で世界一を目指している会社は強いです。
同一産業で、多くのの企業が業績ギャップに苦しんでいるときに、業績ギャップをイノベーションして乗り越え、一人勝ちをしてくる企業が出てきます。その企業は、長い年月の間、一人勝ちを続けることができることが多いです。
業績ギャップは、予期せぬ失敗とよく似ていますが、似ている理由については、後ほどご説明いたします。
認識ギャップ
認識ギャップとは、認識のずれがあるとイノベーションの機会になることです。成果が出るところに経営資源が向けられていない場合は、認識ギャップがあります。
例えば、アプリケーションソフトを開発している人がいたとします。その人は、自分が開発したアプリケーションが「必ず売れる」と思い込み、どうしてもそのアプリケーションを世の中に広めたかったとします。ところが、そのアプリケーションを利用するかどうかは、消費者が決めることです。ニーズのないアプリケーションのPRに力を入れていて、成果が出ないとしたら、開発者と消費者の間に認識ギャップがあります。
認識ギャップで利益ダウンし閉店したお弁当屋さん
かなり昔の話ですが、身近であった例をご紹介します。私がコンサルタントとして仕事を始めだしたころに、お弁当屋さんのアドバイスをさせていただいていたときのエピソードをご紹介します。
そのお弁当屋さんは、ときどき買いに行っていたので、オーナーと立ち話をするようになりました。そのときに売上高が年々下がってきていることに悩んでいることを、お話しくださいました。
オーナーは、その原因として「お弁当の値段が高いからだ」と仮説を立て、目玉商品として350円の唐揚げ弁当を開発して販売しました。すると、その唐揚げ弁当は直感的に思ったよりも売れたようです。
お弁当屋さんには、売上目標があり、業績ギャップがあったので、イノベーションの機会になりました。
そこで、オーナーは「お弁当の値段が高かったので売上が下がったのだ」との結論に至り、お弁当の価格をすべて50円ほど値下げしました。
その結果、お弁当屋さんの売上高は急転直下しました。お弁当の50円の値引きは、粗利益が50円減少しますので、すぐさまお店の売上高は損益分岐点を下回り、オーナーは半狂乱でした。
私の見立ては、「お弁当の値段が廉価なものを求めるようになったのではなく、お弁当屋さんの前の人通りが少なくなったことが根本原因」だったのです。
私は緊急措置として、すぐさまエビフライなどを入れた高価な弁当を出して単価アップを狙うことと、店舗の立地や周辺の需要の傾向からお弁当の宅配を勧めました。オーナーは、値段の高いお弁当のリリースはしましたが、宅配は「人手が足りない」ということで断念されました。
お弁当を需要のあるところに販売しに行くことが成果につながるのにもかかわらず、値下げや商品開発という成果が出にくいところに注力してしまいました。これは、明らかな認識ギャップです。
オーナーは、その認識を受け入れることができずに、その後1年ほどして閉店していました。
お弁当屋さんの事例では、仮説が正しいかを実証するために、唐揚げ弁当を廉価でテスト販売したことは、良い方法だと思います。ところが、動向確認した指標の内容とテスト期間の短さに問題がありました。また、イノベーションの重要ポイントを逃してしまいました。
イノベーションを行うときは、仮説を立てます。この仮説が誤っている場合には、当然ながら成果は出ませんので、それに気が付いた場合には、戦略・戦術の立て直しが必要となります。
認識ギャップは、自分自身では気が付かないことが多いです。外部の人間や、素人の意見の方が良いものであるので、そもそもで考える必要があります。
また、イノベーションに失敗したときのダメージで倒産してしまってはいけませんので、小さく始めることが望ましいです。
価値観ギャップ
価値観ギャップとは、自社が提供しようとしている価値観と顧客が求めている価値観にズレがあることです。
例えば、自動車の社内でDVDが再生できるDVDプレイヤーを開発したとしましょう。開発者は、このDVDプレイヤーは「自動車の社内で映画などが見られる」という価値観を持っていると思います。ところが、DVDプレイヤーの消費者は、「自動車の長時間の移動で、子どもが騒いだりぐずったりしないようにするためのもの」という価値観を見出している場合もあります。
このようなDVDプレイヤーの価値観ギャップによって、開発者は「画質を良くしよう」とか「重低音が出るようにした方が、映画に迫力が出て良い」、「複雑な機能を入れてみよう」といった間違った開発へと突き進んでいく可能性があります。
親にとっては、そういった機能はどうでもよく、ともかく子どもがおとなしく後部座席に乗っていてくれたらそれでいいのです。
価値観ギャップの発見は、顧客は誰かを明確にし、その顧客が求める価値を考えることです。消費者は商品を購入しますが、厳密には商品が持っている機能を購入しているのです。既存の売れている商品があれば、その商品が持っている機能を考えてみてください。
冷蔵庫の価値観ギャップ
冷蔵庫を購入した人がいたとしましょう。その人は、冷蔵庫が欲しいから購入したのですが、厳密には「食材を手軽に保存しておける」という機能を購入したかったのです。
自社の冷蔵庫を購入してくれる顧客は誰か? それが明確になると、新商品が生まれる可能性があります。
コーヒーにこだわりの強い人は、コーヒー豆を冷蔵庫や冷凍庫で冷やしています。冷蔵庫のメーカーは、「食材を冷やす道具」として冷蔵庫を製造・販売しています。コーヒーにこだわりの強い人は、「コーヒー豆を冷やす道具」が欲しいのです。
それに気が付いたら、焙煎コーヒー豆専用冷蔵庫を開発する可能性があります。
価値観ギャップの埋め合わせだけで増益が可能な場合も
企業が、顧客が求める価値観の商品を提供できていない場合、商品の値段が安くなりがちになります。反対に、顧客が求める価値観は、値段が多少高くても購入してもらえやすくなります。
例えば、腰痛の人向けの布団と寝たきりの人向けの布団は、機能としてはほとんど同じです。ところが、腰痛の人向けの布団の値段は、寝たきりの人向けの布団よりも高い値段で売れる傾向があります。
日清食品のチキンラーメンは、一部の消費者はお湯をかけずに、そのままボリボリと食べる人がいます。日清食品は、それを見て消費者の意をくみ、「0秒チキンラーメン」というそのまま食べるのに最適な味付けのチキンラーメンを発売しました。
中小企業が増収させる方法の一つとして、顧客が求める価値と自社が与えられる価値を徹底して分析し、今まで考えもしなかった価値を訴求するだけという方法があります。私がコンサルティングを行う場合は、このことから確認するようにしています。
プロセスギャップ
プロセスギャップとは、一連の工程や方法で生じるギャップを論理的に発見したり違和感を覚えたりすることです。プロセスギャップには、業務過程でのプロセスギャップと、顧客利用でのプロセスギャップがあります。
業務過程でのプロセスギャップ
業務過程でのプロセスギャップとは、業務の中で発生しているお困りごとです。理想的なあるべき業務過程に対して、そのように至っていない場合のギャップです。
例えば、飲食店ではアルバイトスタッフも調理場に立つことがあります。包丁に不慣れな人の場合、調理に時間がかかり、怪我の危険もあります。ところが、あらかじめカットされた具材を仕入れたら、包丁による調理が不必要となり、調理の時間が短縮され、怪我も減り、衛生管理が容易になり、料理の品質も安定します。
商品を海外に販売したいと思ったときに、日本語のカタログやチラシを英語にすることは、とても困難なことでしょう。技術英語であればなおさらです。そこで、ビジネスでの技術翻訳専門の会社が生まれました。
顧客利用でのプロセスギャップ
顧客利用でのプロセスギャップとは、消費者が製品やサービスを利用するときに感じているお困りごとです。消費者は、理想的なあるべき結果を感じながら商品やサービスを利用しますが、実際の商品やサービスがそれに至っていないケースです。
例えば、昔であれば電車には切符を購入して利用するしかありませんでした。しかも切符は駅員さんが一つひとつ手で切っていました。切符の購入で行列をつくり、また改札の通過でも行列を作って、利用者には不便をかけていました。
最近では、ほとんどすべての駅で自動改札機が導入され、ICカードが導入されていき、切符売り場で並んだり、一部の顧客のために行列を作ったりすることもなくなりました。今では、ICカードの入金が足りなくて入場や退場ができない人がいたときに、たった2~3秒のことでイラッと感じたり、ICカードに入金することすら面倒に感じたりするほど、便利な世の中になりました。
フィルムカメラとデジタルカメラ
フィルムカメラは、デジタルカメラにほとんど取って代わられた分野です。フィルムカメラを利用していた人は、撮影枚数の限度やフィルムの交換作業に不便さを感じていました。デジタル化の時代が来て、フィルムをデジタルデータに変換することも面倒でした。
そういった中で、デジタルカメラの解像度が進化して、多くの人たちが短い期間でデジタルカメラを欲するようになり、フィルムカメラはほとんど姿を見せなくなりました。
この事例は、顧客利用でのプロセスギャップの典型例と言えます。
第3の機会、ニーズの発見
ニーズの発見とは、顧客ニーズのことではなく、企業内や産業内部に発生したニーズのことです。ニーズには、次の3種類があります。
- プロセスニーズ
- 労働力ニーズ
- 知識ニーズ
それぞれ、わかりやすく解説いたします。
プロセスニーズ
プロセスニーズとは、すでに存在する工程や方法の弱みや欠落から生じるニーズのことです。プロセスギャップでは、工程や方法でのお困りごとでしたが、プロセスニーズはすでにニーズとして存在するものです。
予期せぬ出来事のところで紹介した、CVCCエンジンの事例は、プロセスニーズにも該当します。消費者は、低公害なエンジンが搭載された自動車の出現を望んでいたのですが、そういった自動車は、世の中に存在していませんでした。
先ほど、プロセスギャップで紹介した包丁が苦手な飲食店スタッフの事例では、カット野菜がお困りごとの解決策になります。今では、カット野菜は多くの飲食店で便利さが認識され、ニーズとなり普及しています。
デジタルカメラも同様です。フィルムという面倒なものでなく、手軽に写真を撮影できるようなものが求められ、デジタルカメラが普及しました。フィルムカメラを欲する人は、よほどの理由がある人だけです。
Web制作の現場では、優秀なデザイナーと出会うことに苦労した時代がありました。今では、マッチングサイトの存在により、優秀なデザイナーとすぐに出会うことができるようになって、便利な時代になりました。
ホームページの文章作成
ホームページの文章作成には、想像以上に多大な労力がかかります。実際にホームページ制作を業者に依頼したときに、業者から「ホームページに掲載する文章を作成してください」と言われ安請負をし、思ったよりも厄介で困った方も多いことでしょう。
原稿を書いたことのない人は、400字の原稿用紙たった1枚を文字で埋めることすらできません。
このことは、ホームページ制作の技術者も同様です。ホームページ制作の技術者は、ホームページを制作するプロであっても、文章を作成するプロとは限りません。ですので、文章作成をクライアントに丸投げする業者も多く、原稿を作成してくれる場合でも料金が高額になりがちです。
このように、ホームページ制作の現場では、原稿作成という至極厄介な作業がプロセスニーズとして存在します。
当社がコーチングを扱っている理由の一つに、「ホームページ用の文章作成を効率化したい」というプロセスニーズを満たすためです。
コーチングの技術を身に付けると、クライアントに的確な質問ができるようになり、有用な文章を量産することができるようになります。文章が量産できると、ホームページの総ページ数を増やすことができ、Googleからの評価が高まり、ホームページの集客力も高まります。
労働力ニーズ
労働力ニーズとは、労働力が足りないと感じているところのニーズのことです。
例えば、飲食店でフロアースタッフが足りなかったり、人件費が高騰したりして、労働力が不足した場合に、配膳ロボットが導入されたり、回転寿司が生まれたりと、イノベーションの機会となっています。
企業の仕事では、パソコン操作が必須です。そのため、パソコンが苦手な人であっても、仕事をするためにはパソコンの操作を覚えることが要求されます。そういった背景もあり、パソコン教室が普及しました。
また、パソコンが苦手な人は、パソコンにトラブルが発生しても対処しきれません。そういった人が増えたため、パソコンの何かトラブルがあったときの対処として、オンライン診断のようなサービスが発生しました。
都心では常識のホームドア
身近な例では、鉄道のホームドアが労働力ニーズに該当します。鉄道では、自動発券機や自動改札が開発され、導入されていきました。いまでは、ホームドアまで常識となりつつあります。
通勤で人が集中する駅のプラットホームでは、朝のラッシュ時には、何人もの駅員や警備員がホームの事故防止に努めています。しかも、その時間帯は朝の2時間ほどに集中しています。
朝のラッシュ時は電車の本数も多いため、朝の2時間ほどは、電車やプラットホームで働いている人の人数が最大になります。サービスの向上や事故防止の要求が強まり、労働力を確保することも大変になってきました。
そのような労働力ニーズによって生まれたのが、ホームドアです。
ホームドアのある電車では、車掌のいない電車もあります。車掌になるためには、駅員の経験や社内資格が必要なので、ホームドアのおかげで、かなりの労働力ニーズの軽減に貢献できていると思います。
知識ニーズ
知識ニーズとは、不足している知識を補いたいと感じている、開発を伴うニーズのことです。
例えば、新しいアプリのニーズを発見した人がいたとしても、アプリを制作する知識がなければ、開発できません。その逆に、アプリを制作する知識があったとしても、ニーズを発見するための知識がなければ、多くの人に利用されるアプリはなかなかできないことでしょう。
プロセスニーズを満たすためには、知識ニーズが生じることがあります。プロセスニーズのところでデジタルカメラの事例をご紹介しましたが、初期のデジタルカメラは画質が悪く、フィルムカメラを使っている人にとっては物足りないものでした。デジタルカメラの普及には、高解像度のCCDカメラの開発が待たれました。
このように、プロセスニーズから「もっと高性能にできないか」といった知識ニーズが発生する場合があります。また、労働力ニーズからも「もっと手軽にできないか」といった知識ニーズが発生する場合も多いです。
集客ホームページに求められるニーズ
チームコンサルティングIngIng(イングイング)のサービスのひとつに、集客ホームページ制作があります。集客ホームページ制作は、企業にとって重要となる「営業力」を強化するためのホームページ制作です。
ホームページで集客ができるようになるためには、さまざまな知識を組み合わせないと実現できるものではありません。なぜなら、会社にとって生きるか死ぬかは、営業力にかかわってくるため、会社のあらゆる事情を考慮してホームページを制作する必要があります。
集客ホームページ制作は、単にホームページを制作するだけでなく、クライアント企業様にとって、営業力を強化するための知識ニーズを補うサービスなのです。
プロセスニーズは、すでに存在する工程や方法の弱みや欠落から生じるニーズのことでした。集客ホームページ制作をご依頼されるクライアント企業様にとっては、営業をするための方法の欠陥を補うためのプロセスニーズから、集客ホームページという知識ニーズが生まれています。
ニーズの発見は、企業内や産業内部に発生したニーズを発見することとして述べましたが、別の企業や産業に起こったニーズを発見し、それを自社に当てはめて、自社のイノベーションに活かすこともできます。
第4の機会、産業構造の変化
産業構造の変化とは、業界や市場の中で規模や仕事の仕方などが急激に変化していくことです。それがイノベーションの機会となります。産業構造の変化には、次の4種類があります。
- 市場の急激な成長
- 市場のとらえ方や市場への対応の仕方の変化
- いくつかの技術の合体
- 仕事の仕方の急激な変化
それぞれ、わかりやすく解説いたします。
市場の急激な成長
市場は、単純に考えて人口やGDPの増加に比例して成長するものです。ところが、それらの成長よりも圧倒的に急激に成長する市場が出てくる場合があります。そのような市場の急激な成長が出てきたときには、イノベーションの機会となります。
例えば、スマートフォンの急激な普及によって、さまざまなサービスが生まれましたし、ホームページ制作もスマートフォンでも見やすくなるデザイン、レスポンシブWebデザインという技術の利用が当たり前となり、「モバイル・ファースト」とまで言われるようになりました。
今現在、クラウドサービスが急激な成長を見せています。サブスクという言葉も流行っています。クラウドサービスの急激な成長に伴って、サブスクサービスを提供している企業向けの債権管理システムが出てきました。このようなシステムが生まれたことも、イノベーションの一つと言えます。
最近では、VPN(バーチャル・プライベート・ネットワーク)も急激な成長を見せていますが、そこから何か別のイノベーションが生まれる可能性があります。
市場のとらえ方や市場への対応の仕方の変化
ここで、「市場のとらえ方の変化」と「市場への対応の仕方の変化」の2つの変化が、同時に述べられています。この2つは、産業の規模が2倍になったときに、市場のとらえ方や市場への対応の仕方が不適切になり、それがイノベーションの機会となります。
この2つについて、それぞれご説明いたします。
市場のとらえ方
「市場のとらえ方」とは曖昧な表現ですが、要するに顧客の要求が変化してきているのに、古い価値観で分析したままであったときにイノベーションの機会となるということです。
例えば、とある飲食店が、持ち帰りのことをまったく検討していなかった場合を考えてみましょう。お店が繁盛しているかどうかの経営指標は回転率(回転率 = お客様の来店数 ÷ 客席数)、つまり、どれだけお客様が来店してくださったのかという指標だけで判断している可能性があります。
持ち帰りが増えているのであれば、来客数だけでなく、お弁当の数も経営指標に取り入れるべきでしょう。
このように、新しい市場が生まれているのであれば、そこにシェアをどれだけ奪われているのか、機会損失しているのかを検討する経営指標を導入するというイノベーションをすべきです。
もう少し難しいことを述べるとするならば、経営指標には利益に直結する2種類以上の指標を用いた方が良いです。この飲食店の例では、回転率と店員一人当たりの営業利益率といった具合です。経営指標については、別のコラムで述べたいと思います。
市場への対応の仕方
「市場への対応の仕方」とは、自社の市場が急激に大きくなり、さまざまな業務が発生してくるときに、イノベーションの機会となることです。
大戦後間もない頃の1950年、オートバイ用の部品は、旋盤などの工作機械で一つずつ削り出すなどして、すべて手作りしていました。そのわずか5年後、オートバイ市場が急激に伸びてきたら、部品を自動生産したり、流れ作業で生産したりするようになりました。
そうなると、大型の機械を導入して生産性を高めたり、大型の機械を扱える人材を育成したりすることも必要になりました。また、従業員数が急激に増えたため、労働組合が結成され、会社側は労働組合への対応にも迫られました。
そうなってくると、マネジメントの方法に、イノベーションが必要となります。
ホームページ制作市場の急拡大からうまれたCMS
CMSとは、コンテンツ・マネジメント・システムの略で、ホームページを更新するためのシステムのことです。原稿を入れて投稿するだけで、自動的にページが制作されるシステムです。CMSの代表的なものはWordPressで、世界で最も利用されているCMSです。このホームページもWordPressを用いています。
私が初めてホームページを制作したのは、1998年だったと思います。そのころは、HTMLの書籍もほとんどなく、W3Cの英語のホームページを見ながら、HTMLタグを苦労して覚えたものです。
今では、企業でホームページを持っていないところを探すことが難しいほど、ホームページが普及しています。企業では、ホームページの更新をHTMLの知識のない社内の人材でも行えるようにするために、CMSを導入しました。
また、市場が急激に成長してくると、競合他社も出てきます。
2000年代には、WordPressやMovable Typeをはじめ、たくさんのCMSが出てきました。ホームページ制作者にとって、CMSの出現はとても画期的でした。私自身も、「平野プレス」というオリジナルCMSを、PHPの勉強がてら制作したこともありました。もちろん、流行りませんでしたが。
競合他社が出てきたときに、今までのやり方を行っていると、競合他社に市場を奪われていき、市場占有率を落としてしまう可能性があります。競合他社が出現したら、それよりも優れた製品、優れたサービス、魅力的な価格設定などを打ち出していくといったイノベーションが必要です。
いくつかの技術の合体
いくつかの技術の合体とは、技術の異種結合で産業の急激な変化が起こり、そのことがイノベーションの機会となることです。
例えば、決済という技術と宅配という技術、インターネットという技術が合体したときに、ネット通販という新しい販売手法が生まれました。また、ECサイトとAIという技術が合体したときに、顧客が探しているものを販売するだけでなく、顧客に提案するようにもなってきました。
携帯電話も同様です。京セラが世界で初めて携帯電話とカメラを融合させた機種を発表しました。その後、携帯電話に音楽プレイヤーが内蔵されたり、インターネットが利用できたりして、スマートフォンが誕生しました。
最近の自動車業界では、自動車にたくさんのセンサーが取り付けられ、コンピュータが搭載され、排気ガスがクリーンで燃費のよい自動車ばかりになるというイノベーションが起きました。自動車の技術とコンピュータの技術が融合したイノベーションです。
さらに、自動車にはAI技術まで導入されて、完全な自動運転というイノベーションが実現しようとしています。
仕事の仕方の急激な変化
仕事の仕方の急激な変化とは、今まで常識とされていた仕事の仕方が急激に別の仕方に変化していくことで、イノベーションの機会となることです。
例えば、現在では新型コロナウイルスの影響によって、多くの会社で在宅ワークが導入され、会社に出社しなくても仕事ができる人が増えました。
それ以前であれば、「会社に出社しないとコミュニケーションが円滑に取れないため、業務処理速度が低下してしまう」と考えられていました。ところが、新しいクラウドサービスの出現やVPNの普及などによって、今では出社しなくても以前と同程度以上の業務処理ができるように進化しました。
Zoomの躍進
身近な例では、新型コロナ対策で、在宅ワークが当たり前になったときに、Zoomが躍進しました。Zoomの躍進は、明らかに仕事の仕方の急激な変化によるものです。
ちなみに、オンラインミーティングのサービスはたくさんあります。老舗はSkypeです。Skypeは2004年頃から国内でサービスを開始し、2011年にMicrosoftに買収されました。Skypeといった強い老舗がある中で、Zoomは2012年に生まれました。
2021年の段階で、有料サービスの国内シェアは、Zoomが60%と圧倒的なシェアを持ち、世界で最も利用されているサービスになりました。
ZoomとSkypeの明暗を分けたものは、「『つながりやすさ』という基本的な要望に対応したこと」があります。また、顧客の声を拾い、インターフェースの改善も繰り返しました。
総称すると、Zoomが躍進できたのは、他の企業と比べてイノベーションの速度が速かったこと。もっと大きな視点から見ると、SkypeよりもZoomの方が、ビジネスモデルが優れていたから、もしくは優れるように変化したからと考えます。
クラウドサービスの出現はイノベーションの一つと言えますが、仕事の仕方が変わったことによって発生したイノベーションもたくさんあります。例えば、都内のカフェや新幹線でさえ、オンラインミーティングが可能な場所が提供されるようになりました。
第5の機会、人口構造の変化
人口構造の変化とは、人口が変化していったときにイノベーションの機会となることです。
地域の年齢層の変化
例えば、ある特定の場所の人口が変化したとか、男性利用者の割合が増えていったとか、特定の年齢層の行動が変わったといったことです。大手企業の工場ができたり、撤退していったりしたときにも、その地域ではイノベーションが起きます。
人口の変化は、企業や産業の外部の変化になります。今現在の変化を読み取るだけでなく、政府や自治体が発表している人口統計や、書籍でも「データで見る県勢」といったものを参考にするなどして、予測を立てることもできます。
自動車教習所の将来の収益
自動車教習所の10年後の売上高を人口統計から、ある程度予想することができます。自動車免許を取得するのは18歳ですから、教習所の営業エリア内に現在8歳の子どもが何人いて、自動車免許を取得する人数や競合との割合を計算すると、売上高が予想できるというものです。
人口統計からすると、自動車教習所の売上高は年々ダウンしていくことは、明らかになっています。将来の売上高がどれぐらい減るのかも、人口統計から予測することができます。それを補うために、地方では合宿免許やドローン教室を取り入れたり、ペーパードライバー教習に力を入れたりしています。
託児所を併設したり、提携の保育園があったりすることは、当たり前になっているようですが、今後、保育園まで運営する教習所が増えてくるかもしれません。しかし、この事業も人口統計から、売上高が年々下がっていくことが予想されているので、よくご検討ください。
ある業界の年齢層の変化
ある地域の年齢層が変化していくと、ニーズも変化していきます。
売れている自動車の車種を見ていると、1960年代には生活が豊かになり、高速道路が整備されていったので、スポーツカーが売れるようになりはじめ、1980年代は全盛期でした。1990年代からは、スポーツカーに乗っていた人たちに家族ができ、ファミリーカーが売れるように変化していきました。
全国にあったおもちゃ屋さんが減って、プラモデル屋に変化し、テレビゲーム屋に変化し、レンタルショップに変化していきました。
外国人の人口の変化
また他の事例を挙げると、ある町に外国人が増えてきたら、そこには外国人向けのお店ができました。
そのようなお店を経営している人であれば、外国人の増加率がわかれば、どの場所にいつ頃お店を開いたら利益が出そうなのかがわかります。
このように、人口構造の変化によるイノベーションは、いつぐらいにどのようなことが起こるのかを予測することができるので、他のイノベーションの機会と比較して、ビジネスチャンスをモノにしやすいです。
しかし、「中東の食材を取り扱うお店をつくろう」と考えたとしても、中東の食材をどのように仕入れたら良いのか、中東の方々との取引の方法、言葉などの壁があります。そのように、参入しようとする業界にすでに進出している企業でないと、人口構造の変化によるイノベーションは難しいものです。
第6の機会、認識の変化
認識の変化とは、人々の認識や知覚、気持ちが急激に変化していくときにイノベーションの機会になるというものです。認識の変化も、主に企業や産業の外部で起こります。
利用の仕方の変化
例えば、コーヒーショップを利用する認識が、急激に変化してきています。以前であれば、コーヒーショップは、営業マンがタバコを吸ってくつろぐ場所でした。その後に打ち合わせの場として変化していきました。
今では、一人で仕事や勉強をする場として利用されることが多くなっています。コーヒーショップによっては、「リラックスの場」として運営しているところもあれば、「仕事場」として運営しているところもあります。
そのようにして、コーヒーショップ風のコワーキングスペースも生まれましたが、消費者がそれを選ぶかどうか、認識が変化するかどうかによって流行るかどうかですから、流行るまでに時間がかかると思います。その間、赤字でも耐えられるかの覚悟や体力がいります。
このように、人々の認識が変化することによって、イノベーションが起こります。
認識が真逆に変化
ある製品やサービスを利用している人が、初めは良いものだと認識していたとしても、ある時点で真逆の「悪いものだ」と認識する場合もあります。また、初めは「悪いものだ」と認識していたとしても、ある時点で「良いものだ」と認識する場合もあります。
その変化をつかんで、イノベーションをさせていく企業もあります。
ファーストフードに対する認識の変化
身近な事例では、ファーストフードに対する認識の変化がわかりやすいです。
1970年までは、歩きながら食事をするということは、お行儀の悪いマナー違反行為でした。しかし、1971年にマクドナルド1号店のオープンが、その認識を変化させました。
ハンバーガーを歩きながら食べることは、若者たちにとってオシャレなことと認識されるようになりました。
1972年にカップヌードルが流行り、この頃から、「手軽に食事がとれる」というファーストフードの時代が到来しました。この頃から、蕎麦屋のチェーン店も生まれていきました。
時代が移り変わり、ファーストフードを食べて育った人たちが中年になる時代が来ると、今度は「ファーストフードばかり食べていたら病気になる」という認識の変化が起こり、アンチエイジングの時代が来ました。
マクドナルドでは、今現在、セットにポテトの他にサラダを選ぶこともできます。
牛乳が出てきたときに「角が生える」と言われたそうですが、今では子供が牛乳を飲むことは当たり前になりました。
エアコンが普及し始めたときは、「身体が冷える」ということで悪いものだと思われていました。今では、真夏では「エアコンがないと死ぬ」とまで言われています。
認識の変化によるブームで儲けられるのか?
マクドナルドは、国内でハンバーガーショップの第1号ではなく、3番手だと言われています。しかし、ハンバーガーのブームを起こしたのはマクドナルドでした。抹茶ブームやタピオカブームのように、一時的なブームは起こります。しかし、ハンバーガーのブームは止まりませんでした。スマートフォンのブームも同様に止まっていません。
その違いは、認識の変化にあります。ブームは、認識の変化が伴っていなければ、長続きせずに一時的なもので終わる可能性があります。抹茶やタピオカが生活に溶け込んで、当たり前のように利用されるようになったら、それはブームの長続きにつながります。
認識の変化を読み取っても、一時的なブームで終わる可能性もあります。認識の変化によるイノベーションは、小さく始めることが肝要です。
また、「ブームが来たら始めよう」と思っていても、自社にとってまったくの真新しい事業であるならば、すぐの参入は難しいものです。研修開発やテスト販売などで細々と進めておいた方が良い場合もあります。
認識の変化は、人口構造の変化に似ていますが、若干異なります。人口構造の変化は、フェルミ推定で市場予測が容易にできますが、認識の変化は数量で表すことが難しいです。しかし、確実に変化が起きているという傾向は、アンケートなどの市場調査で読み取ることができます。
第7の機会、新しい知識の活用
新しい知識の活用とは、今までになかった新しい知識が活用されたときにイノベーションの機会となることですが、どちらかと言えば新しい技術の活用と言った方が良いかもしれません。
新しい知識は、当初理解されにくいが社会を変える
例えば、今では当たり前に普及しているパソコン、自動車、電球、冷蔵庫など、すべて新しい知識の活用によって生まれたイノベーションと言えます。
それらが開発された当時は、「そんなもの、誰が使用するのだ?」と一蹴されたものばかりでしょう。それもそのはずです。当時の人たちは、そのようなものがなくても生活ができていたので、必要性を感じなかったのです。
ところが、こういった新しい知識の活用によるイノベーションが製品を生み出し、その製品によるイノベーションで新しい産業が生まれ、次代を変え、たくさんの雇用を生んできました。
パソコンが市販され始めた頃のエピソード
今から30年ほど前、1990年頃、私が高校生のときのエピソードです。
両親に、「これからはパソコンが流行る。今から勉強しておきたいので、パソコンが欲しい。」と迫ったことがありました。親からは「そのようなオモチャを誰が使うのか?」と一蹴されてしまいました。
今では、パソコンがなければ仕事ができない時代になりました。また、パソコンがなければ生活がしにくい時代にもなり、小学生ですらパソコンを勉強するようになりました。その一蹴のおかげもあり、私は経営コンサルタントになれたのですが。
今では懐かしいフロッピーディスクも同様です。フロッピーディスクはドクター中松が発明したのですが、日本の企業はその価値を理解できず、米国の企業が採用しました。すると、米国で爆発的にヒットし、日本に逆輸入されました。
このように、新しい知識の活用は、多くの人に理解され難いものです。
さて、新しい知識の活用でイノベーションを起こすための源泉は、研究者の意思の強さです。ドクター中松は、エジソンの3倍以上もの特許を取得しているのですから、ものすごいことです。
活かされなかった知識が後で活きることもある
企業では、強い意思を持った研究者をなるべく阻害してはなりませんし、経営者は研究成果がどのような価値を生み出すのかを検討し、先見力を発揮しなければなりません。経営者が先見力を発揮し、その後のヒット商品開発につながった事例をご紹介しましょう。
スーパーカブの誕生に結び付いた新しい知識
本田技研工業が生み出した空前のヒット商品と言えば、まず取り上げられるものはスーパーカブでしょう。生みの親は、本田宗一郎です。
しかし、その開発の裏には、本田技研工業の実質的に社長であった藤沢武夫の先見力があったことは、あまり知られていません。
1952年からスクーターの研究を開始し、1954年に本田技研工業で初となるスクーター、ジュノオ号を発表します。ジュノオ号には、当時としては最先端技術だったFRPが導入され、複雑な流線形のボディラインを実現しました。
ところが、ジュノオ号はトラブル続出で売れなくなり、苦しかった経営をさらに圧迫してしまいました。
藤沢武夫は、ジュノオ号からの撤退を決めたときに、研究チームに一つの指示を出します。それは、「FRPの技術は、将来に必ず活きてくるから温存しておけ」でした。
このように、FRPの技術が本田技研工業に残され、1958年に発表されたスーパーカブC100に活かされました。
余談ですが、スーパーカブの商品開発コンセプトは、技術的に極めて厳しいものでした。それを満たすために、50ccで4馬力以上のパワーが出るエンジンや自動遠心クラッチなどを開発し、研究者総動員で2年ほどの歳月をかけて完成に至りました。
CVCCのエンジンの開発もそうですが、当時の本田技研工業の凄さは、1つの商品の開発に社運を賭け、研究者を総動員できるカルチャーがあったことでした。
このように、イノベーションを成功させるためには、集中が大切です。
新しい知識はさまざまな知識が融合して実用化される
新しい知識の活用によるイノベーションは、さまざまな技術的困難との闘いです。スーパーカブのように、さまざまな知識が融合して一つの製品として生まれてくることがほとんどです。先ほどご紹介したパソコン、自動車、電球、冷蔵庫も、さまざまな知識が融合されたものです。
- パソコン=半導体や集積回路、磁気、ソフトウェア、プラスチックなどの知識
- 自動車=内燃機関、金属加工、石油、プラスチックなどの知識
- 電球=真空、ガラス、電気などの知識
- 冷蔵庫=流体力学やコンプレッサ、断熱などの知識
コンピュータも、さまざまな技術の融合で生まれています。半導体が生まれたからコンピュータが生まれたのではありません。半導体はコンピュータの材料の一部に過ぎません。
半導体が発見されたときには、この技術を何に使えるのか、ごく限られた人しか理解できなかったことでしょう。しかし、研究者の中には「半導体をスイッチに使える」と思って研究し続け、トランジスタを開発した人がいました。半導体のスイッチが生まれたら、「リレーや真空管をこれに置き換えたら小型化できる」ということで研究され、ICが発明され、「これを計算機に使える」と思って研究開発した人がいました。計算機が記録装置やソフトウェアなどの技術と融合していき、コンピュータが開発されていきました。
どれも、とても長いリードタイムを経て生み出されたものばかりです。研究者は、相当な根気が必要となります。また、一部の技術が欠けただけでも、製品が生み出せないという特徴があります。
新しい知識の活用によるイノベーションは、新しい産業を興す
新しい知識によるイノベーションが起こると、連鎖的に新しいものを生み出し、新しい産業にまで成長させることがあります。新しい産業を連鎖的に興すことができ、パイオニアのとなった国や企業は、世界のリーダー的な存在になれることが、歴史で証明されています。
オートバイ生産台数が世界一の企業は、本田技研工業です。実に、1960年前後から60年以上も1位を維持しているという凄まじい企業です。
このことからも、新しい知識の研究開発は、国家レベルで支援しつつも、研究者のやる気を阻害しないようにすることが大事です。
新しい知識の活用によるイノベーションは、すぐに淘汰の時代がくる
スマートフォンの出現も同様です。iPhoneが出現したときは衝撃的でした。その後にアンドロイド携帯も出現し、ガラケーの時代は終了しました。そして、数えるほど数のメーカーが大きくシェアを取っていて、新規参入が難しい時代に入りました。
新しい知識によるイノベーションは、認識の変化を伴って需要が伸び、急激にメーカーの数が増えますが、その直後に生産性や極度に高い技術力などによる淘汰の時代に入り、新規参入の機会が閉ざされ、数えるほどの数の大手メーカーしか残らないという現象が起きます。また、老舗だから残るとは限らず、たいてい途中から新規参入してきた企業が1位を獲得します。
オートバイメーカーの淘汰
日本国内のオートバイメーカーは、戦後に急劇に増え、一時期250社ほどに達しましたが、10年ほどでほとんどの会社が倒産、廃業、吸収合併または業態転換していきました。
ところが、本田技研工業は世界一になる5~10年ほど前は、倒産寸前の中小企業でした。そのころは、陸王やキャブトンなどの老舗のオートバーイがあり、タケノコのようにオートバイメーカーが乱立されていった時代でした。その中の新興企業の1社として、本田技研工業がありました。
老舗メーカーでさえ、本田技研工業の技術革新には勝てませんでした。本田技研工業は、スーパーカブが世界的に売れたその利益に匹敵する金額を、エンジンの研究開発にぶち込んでいたからです。
本田技研工業躍進の影響は、世界的にも波及していきました。マン島TTレースで常勝するほどのオートバイメーカーでさえ、倒産していったのです。
本田技研工業の攻勢があっても生き残れたオートバイメーカーは、すべからく別事業で大きな利益を出しており、そこからの資金や人材、技術などの援助がありました。
本田技研工業は、新しい知識の活用によるイノベーションの体現者と言えます。
新しい知識の活用によるイノベーションは、急激にメーカーの数が増えますが、品質や性能、生産性や販売力などで、弱小企業が淘汰されていき、それが大きな参入障壁ともなり、追従できた大手数社が残るようになります。
これらのことから中小企業においては、社長によほどの志や熱意がない限り、第7の機会に合致する事業に手を出してはいけません。
イノベーション7つの機会まとめ
ここまでのイノベーション7つの機会をまとめると、次の図のようになります。
内部/外部の分類
イノベーション7つの機会を内部と外部での分類を、ドラッカー先生は述べています。この内部/外部は、イノベーションの機会が企業・産業・市場の内部に表れるのか、外部に表れるのかを示しています。
機会1~4のイノベーションの機会が内部に表れるとしていますが、もちろん外部の変化が要因となることもあります。しかし、それらが要因であったとしても、イノベーションの機会は内部で起こります。
例えば、外部の予期せぬ変化では、外部の変化を捉えて自社のイノベーションの機会とするので、「外部」と述べられていますが、内部のイノベーションとなります。
上のまとめの図で「内部で発生」や「外部で発生」のところに、「主に」を付けたのは、例外があるからです。例えば、人口構造の変化では、住んでいる人口の変化は企業・産業・市場の外部になりますが、捉え方によっては「市場が変化した」ということで内部と考えることもできます。
ビジネスの現場で大切なことは、内部/外部の分類ではなく、どのイノベーションの機会を捉えられたかです。実用的には、内部/外部にこだわる必要はありません。
イノベーションのリードタイム
イノベーションのリードタイムとは、イノベーションの機会を発見したときに、イノベーションが起こるまでの時間のことです。リードタイムが短い方が、イノベーションのリスクが低くなります。
予期せぬ出来事はリードタイムが最も短く、新しい知識の活用は最もリードタイムが長いイノベーションの機会です。
予期せぬ出来事のリードタイム例
お客様からクレームがあったと想定しましょう。誰しも、クレームがあるように仕事をしていませんので、クレームは予期せぬ出来事の中の「予期せぬ失敗」です。これをイノベーションの機会として捉え、業務の改善が行われます。
例えば、とあるカスタマーセンターのスタッフが、お客様への電話対応をうっかり忘れ、クレームがあったとしましょう。電話対応のうっかり忘れを無くすために、すぐさまクレームが発生した真因を探り、業務の改善が行われるはずです。すぐさま改善というイノベーションが行われることで、リードタイムはとても短いと言えます。
このようなクレームは、上司に報告されることで、イノベーションの機会となります。上司に報告されなければ、クレームが無視され続け、トラブルが炎上してしまうこともあります。トラブルの炎上は、上司にとっては予期せぬ失敗です。上司は、これを機会として、クレームがあれば自分にまで報告される仕組みをすぐさま導入するはずです。このイノベーションもリードタイムは短いです。
新しい知識の活用のリードタイム例
今、この記事を読まれている方は、パソコンやスマートフォンを用いているはずです。その中には、たくさんのトランジスタが入っています。
世界で初めてトランジスタは、1947年にベル研究所で生まれたとされています。トランジスタは真空管の代用品として可能性が研究され、世界で初めて真空管を使用せずにトランジスタだけを用いたコンピュータが、1954年にIBMで作られました。トランジスタが生まれてから、トランジスタだけを用いたコンピュータが生まれるまで、実に7年を要していることになります。
また、パソコンやスマートフォンには、トランジスタがたくさん詰め込まれた集積回路というチップが用いられています。初めて集積回路が生まれたのが、1960年とされています。集積回路の技術を用いることでトランジスタ回路を小型化できることが知られ、研究されて、1968年にマイクロプロセッサが生まれました。最初のマイクロプロセッサは、戦闘機の制御用として開発されたそうです。集積回路が生まれて、マイクロプロセッサが生まれるまで、実に8年を要していることになります。
このように、新しい知識の活用には、長い時間と開発のコストがかかります。また、それが実用化されるとは限りませんので、1つの製品として生まれるまで、数々の失敗があったはずです。また、その間に市場が変化して、開発中の技術が不要になる可能性も出てきます。
リードタイムの長いものは、それだけ失敗のリスクも高いということです。
晩年のドラッカーが考えたイノベーション7つの機会
晩年のドラッカーは、マッキンゼー出身のエリザベス・イーダスハイムにインタビューと執筆を依頼をしました。その内容が、「P.F.ドラッカー―理想企業を求めて」にまとめられています。
その中で、ドラッカーはイノベーション7つの機会の前後入れ替えや、文言の変更をしています。その内容は次の通りです。
- 予期せぬこと(予期せぬ成功・予期せぬ失敗・予期せぬ変化)
- 産業構造の変化と地域間格差(産業構造、顧客、顧客価値、技術)
- ギャップの存在(認識、矛盾、顧客ニーズ、プロセス)
- ニーズの存在(プロセス・ニーズ、技術ニーズ)
- 人口の変化(高齢化、所得分布、都市化、グローバル化、労働力構成)
- 認識の変化
- 新しい知識(発明、既存の知識の応用)
既存のイノベーションは7つの機会のどれに該当するのか?
私は、初めてイノベーション7つの機会を知ったとき、今まで起きたいろいろなイノベーションが、どの機会によって起きたのか研究しました。ところが、調査したイノベーションはどれも、7つのうち、少なくとも4つ、多いときには7つすべてに該当するので、どの機会によるイノベーションなのか絞れずに混乱しました。
外部の予期せぬ出来事のところでご紹介したCVCCエンジンですが、この事例も外部の予期せぬ出来事だけでなく、プロセスギャップや知識ニーズ、産業構造に変化、認識の変化などにも該当します。スーパーカブC100の成功を見ても、複数の機会に該当します。
例えば、「自動車用の高性能なDVDプレイヤーを開発したい」と考えたとしましょう。しかし、子どもを持つ人は、「子どもが後部座席でおとなしくしていてくれたらよい」と考えているので、値段の高い高性能なものを購入しないことでしょう。
この場合、「子どもを持つ人には、思ったほど売れない」ということで予期せぬ失敗です。また、売れると思っていたものが売れなかったので、業績ギャップにも該当します。そして、売れない原因は、開発者と顧客の価値観ギャップによるものです。
複数の機会に該当することをどのように捉えたら良いでしょうか?
ドラッカー先生は、次のようなことを述べています。
「イノベーション7つの機会は、はっきりと区別されているわけではなく互いに重複している。それは、ちょうど7つの窓に似ている。それぞれの窓から見える景色は隣り合う窓とあまり違わない。だが部屋の中央から見える7つの景色は異なる。」
要するに、隣り合う機会は似ていることが多いということです。また、次のようにも述べています。
「イノベーションを行うには、イノベーションのための7つの機会を徹底的に分析しなければならない。」
イノベーションを行うときは、どれか1つの機会を分析すれば良いのではなく、7つの機会すべてを徹底的に分析することを述べています。実際にイノベーションの機会は、7つの機会のうちどれか1つだけが該当することは少なく、複数の機会に該当する場合が多いです。
そして、該当する機会が多ければ多いほど、イノベーションは成功しやすくなりますので、イノベーションを行うかどうかの意思決定の判断材料にもなります。
イノベーション7つの機会の活用方法
イノベーション7つの機会を活用する方法は、まず7つの機会の中のいずれかの機会を発見することです。7つの機会を発見したら、イノベーションを検討します。
7つの機会を発見する
7つの機会には複数の項目があります。それぞれ企業・産業・市場の内側に発生するのか、それとも外側に発生するのかが異なります。つまり、さまざまな方面にアンテナを立てておくことが大事です。
7の機会は従業員が発見することもあるので、従業員から機会をくみ上げる仕組みをつくることも望ましいですが、できれば、社長自ら外に出て機会が目に留まるように意識した方が良いです。なぜなら、社長は会社の中で最も先見力が必要とされますし、会社の未来に責任を持つ役職だからです。
イノベーションの可能性の検討
もし7つの機会のいずれかを発見したら、次の手順でイノベーションの可能性を検討してください。
- どのようなイノベーションが起こせそうか?
- そのイノベーションは、他の機会にも該当するか?
- そのイノベーションは、自社の強みを基盤としてできるか? また、自社のミッションに合っているか?
- イノベーションによって自社や顧客、社会に与えるメリットやデメリットは何か?
- どのようなリスクが存在するのか? どのようにしたらリスクを抑えられるか?
これらのことが検討できたら、社長であれば、そのイノベーションの可能性にすぐさま気付くことができることでしょう。
それぞれの機会によるイノベーションにおいて、正しい考え方ややり方があるので、それを検討してください。正しい考え方ややり方は、冒頭でご紹介したドラッカー先生の書籍に記載されています。
ここで、イノベーションの可能性を検討する上で大切なことは、自社のミッションと顧客です。
イノベーションが自社のミッションからかけ離れているものだと、企業のアイデンティティーや存在理由を見失ってしまう可能性があります。例えば、メイン事業で大きな利益を得た企業が、剰余金で飲食店やゴルフ場の経営を始めたりするようなものです。
イノベーションによって、顧客からそっぽを向かれてしまったら、企業は生きていくことはできません。例えば、生産性をイノベーションできても、商品の品質が落ちてしまったら、薄利多売となったり、売れなくなったりしてしまいます。
経営者に贈る5つの質問
イノベーションに可能性を感じたら、ドラッカー先生の書籍「経営者に贈る5つの質問」の問いに答えていくことです。すると、自社のミッションと顧客を考慮してのイノベーション計画ができます。経営者に贈る5つの質問の内容は、次の5つです。
- 我々のミッションは何か?
- 我々の顧客は誰か?
- 顧客にとっての価値は何か?
- 我々の成果は何か?
- 我々の計画は何か?
経営者に贈る5つの質問については、別の機会で詳しくご説明いたします。
イノベーションを成功させるために
イノベーションを成功させるために、いくつかの注意点を述べたいと思います。ドラッカー先生は「何がやりたいか」という閃きでイノベーションをするのではなく、「成すべきことをすべきだ」というミッションを中心と据えるべきことを述べています。5つの質問の「問1」に該当します。
目的意識を持つ
また、イノベーションを行うときには、目的意識を持つことを、ドラッカー先生は何度も述べています。目的意識を持つこととは、目的を明確に自覚することです。そうしなければ、イノベーションの方向性が逸れてしまい、認識ギャップが生まれてしまう可能性があります。リードタイムの長いイノベーションほど、目的意識を持つことが大事になります。
エアバッグシステムの開発エピソード
イノベーションとは何かを知る上で外せない書籍があります。それは、「ホンダ イノベーションの神髄(小林三郎著)」です。
世界で初めて自動車用エアバッグシステムを開発したのは、本田技研工業です。その開発を担当されたのが、著者の小林三郎(1945~)氏です。
小林氏は、スポーツカーを開発したくて1971年に本田技研工業に入社し、安全対策研究の部門に配属され、エアバッグの開発を決意しました。その後、エアバッグシステムが実装された自動車が発売されたのは、なんと16年後でした。
エアバッグシステム開発の期間中に、上司であり後に本田技研工業の三代目社長になられた久米是志(1932~2022年、社長は1983~1990年)氏から、しつこく聞かれ続けたことがあったそうです。それは、次のような会話だそうです。
久米「サブちゃん、エアバッグの価値は何だ?」
小林「安全です。」
久米「安全の何が価値なのか?」
小林「世界で毎年10万人、毎日300人近くの人が交通事故で亡くなっています。エアバッグがあれば、この人たちの多くの命を救えます。我々がやらなければいけません。」
しつこく価値を訊ね続けた久米氏は、イノベーションには目的意識が大事であることを知っておられたのでしょう。エアバッグシステムが使い物になるまで、とても長い開発期間を要しましたが、開発中止の危機をいく度も乗り越えて信頼性の高いエアバッグシステムが実用化できたのは、このようなやり取りが何度も何度もあったからだと思われます。
「経営者に贈る5つの質問」の中の「我々のミッションは何か?」に答え切ることよって、目的が明確になります。ミッションが明確になると、勤勉に、そして持続的にイノベーションに取り組むことができます。
またイノベーションに取り組む際は、できるだけ社運をかけるようなことをしないで、リスクを減らし、小さなところから始めると理想的です。例えば、新商品を開発したときに、「これは売れる」と思っても大々的に販売するのではなく、テスト販売から始めるようにしてください。
単純なイノベーションであれば、目的が明確になりやすく、イノベーションに集中しやすく、リスクを減らしやすいものと考えます。
単純で具体的なこと1つに絞る
イノベーションには、単純で具体的なものが多いです。単純で具体的なものほどイノベーションを成功させやすいからです。経営資源も集中することで、投資対効果が高まりやすくなります。
今まで述べてきたイノベーションの事例は、本当に単純で具体的なものが多いです。最初にご紹介した、手作り布団屋さんの事例では、ホームページからの注文があって、それをサービス化しただけという、単純なものでした。そして、布団のオーダーメイドという具体的なサービスを開発しました。
また、新しいものは、必ず問題があります。経営資源を分散すると、問題解決が遅れたり解決できなかったりして、タイミングを失う場合もあります。イノベーションは、1つのことに絞ることによって、改善がしやすくなり、成功しやすくなります。
手作り布団屋さんでも、オーダーメイドのネット販売を開始したときは、注文をうっかり忘れてしまったり、想像以上に製造に手間がかかったりと、トラブルの連続でした。そのトラブルを1つずつ乗り越えていって、ノウハウを積み重ねて、立派なサービスが出来上がりました。
強みを基盤とする
強みを基盤としたイノベーションは成功しやすくなります。イノベーションによって収益化するためには、多角化の商品であれば3年は利益が得られないぐらいで考えるのですが、強みを基盤としたイノベーションは、それなりにノウハウがあるので利益が得られるまでのリードタイムが短くなります。
布団のオーダーメイドをサービス化した事例では、手作り布団屋さんのイノベーションで、まさしく、強みと合致したイノベーションでした。
もし、「布団のオーダーメイドが求められているようだ」と事実をつかんだ企業が、布団を仕入れて売るだけの小売店だったらどうでしょうか。布団を製造するノウハウがないので、イノベーションに時間がかかったと思います。また、それが手芸店だったらどうでしょうか。よほど熱意があり、狂ったぐらいに取り組まない限り、イノベーションは不可能に近くなります。
7つの機会とは異なる機会によるイノベーション
以下、7つの機会とは異なる機会によるイノベーションを2つ述べたいと思います。第8の機会「閃きのアイデア」と第9の機会「奇跡」です。
第8の機会、アイデアによるイノベーション
第8の機会は、閃きのアイデアのことです。書籍「イノベーションと企業家精神」によると「アイデアによるイノベーション」と書いてありますが、原著を読むと「a bright aidea」と書かれているので、意味は閃きによって新商品や新サービスが生まれるというイノベーションになります。「思いつきによるイノベーション」と訳した方がしっくり来ます。
アイデアによるイノベーションとは?
アイデアによるイノベーションは、第7の機会「新しい知識の活用」と似ていますが異なります。新しい知識の活用によるイノベーションには、高度な技術の研究開発とそれらの合成が伴いますし、目的や意図を持ったイノベーションです。
それに対してアイデアによるイノベーションは、単純なものが多く、まさしく閃きです。世間には、同じようなアイデアが存在していることが多く、何が流行するかが予想しにくいことです。研究者は何でも試し、「やり続けたら、いずれ成功する」という発想で執拗に発明を続ける必要があります。
そのため、ドラッカー先生は「アイデアによるイノベーションは、予測が難しく、かつ失敗の確率が大きい」と、リスクの大きさについて述べています。ドラッカー先生は成功するのは500に1つ、一倉先生は万パチ(万に8つ)と述べているぐらいです。
アイデアによるイノベーションは阻害すべきでない
しかし、「アイデアによるイノベーションは行うべきでない」とは述べていないことに、ご注意ください。なぜなら、このアイデアによるイノベーションが、人類に大きく貢献することもあるからです。
例えば、針金を曲げただけのクリップは、知らない人がいないぐらいに流行っています。同じようなものは、世の中にたくさん存在していたと思いますが、なぜか、針金を曲げただけのクリップが世界中に広がりました。ホッチキスも同様です。この存在が、どれだけ仕事をしやすくし人類に貢献したか、計り知れません。
アイデアをないがしろにしたり、イノベーションを阻害したりしてはいけません。
他のイノベーションもアイデアが伴うのでは?
ここで、第8の機会を見て、「他の機会もアイデアが伴うのでは?」と気づかれたことでしょう。第1の機会「予期せぬ出来事」から第7の機会「新しい知識の活用」まで、アイデアの連続だったと思います。
また、アイデアを出すことと、アイデアによるイノベーションの違いに、ご注意ください。つまり、ドラッカー先生は、アイデアを出すことを戒めているのではなく、単純な閃きだけによるイノベーションを戒めていることです。
第1の機会から第7の機会においても、たくさんのアイデアを出すべきです。
そこで、そのような第1の機会から第7の機会までのアイデアと、第8の機会を「優れたアイデア」を区別するために、第8の機会の名称を「閃きのアイデア」としました。もちろん、閃きの中にも、優れたアイデアがあり、それをないがしろにしたり、イノベーションを阻害したりしてはいけないことを、ドラッカー先生は述べているわけです。
第9の機会、奇跡によるイノベーション
第9の機会は、奇跡です。ドラッカー先生は、「奇跡によるイノベーション」と言っています。本当に稀にしか起きないし、体系的にイノベーションができないので、7つの機会から除外されています。しかし、過去の人類史の中には、確実に奇跡によるイノベーションがありました。
奇跡によるイノベーションとは?
奇跡によるイノベーションには、次の2つがあります。
- 霊感
- 天才の閃き
つまり、霊感や天才の閃きがイノベーションの機会となるというのです。
例えば、イエス・キリストは、たった3年間の伝道によって、世界的にイノベーションを起こし、2,000年ほど経過した今現在にも影響を与えているぐらいです。お釈迦様やソクラテスに至っては、2,500年ほど経過しているにも関わらずです。これは、すさまじいぐらいの霊感によるイノベーションでしょう。
天才の閃きによるイノベーションについては、ドラッカー先生がレオナルド・ダ・ヴィンチの事例を述べられています。15世紀にレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた数々のデッサンの中には、天才がゆえに早すぎた閃きも多くありました。飛行機やヘリコプターとして設計され、500年後の20世紀になって実用化されたものもあるくらいです。
奇跡によるイノベーションをどう見るべきか?
ドラッカー先生は、「そのようなイノベーションに出会ったことがない」と述べています。確かに、時代精神を創り出す、四聖にも劣らない綺羅星のごとく出てくる人物に出会うことは、ごく稀なことです。
そのようなイノベーションは、再現性がほぼありませんし、イノベーションの方法を教えることは極めて困難だと言えます。
イノベーション7つの機会について述べている人の中には、8番目の「アイデアによるイノベーションがもっとも失敗する確率高い」と述べている方がいらっしゃいます。私は、第9の機会の方が、失敗する確率が最大だと考えます。
奇跡によるイノベーションは、インスピレーショナブルな人物によって起こされるので、一見すると第8の機会「アイデアによるイノベーション」と似ていますが、非なるものです。預言者や大天才と言われる人による、人類史に残り時代精神とも言える大きなイノベーションですから、ごく稀に起こるということで、日ごろから生まれては消えているアイデアによるイノベーションとは異なると言えます。
以上のことから、第8と第9の機会を含むイノベーション7つの機会をまとめると、次の図のようになります。
第8と第9の機会は、体系的廃棄ができないイノベーションに分類されます。内部か外部かは、閃きは内部、奇跡は内部と外部があると思われます。
第8と第9の機会のリードタイムは、第1から第7までの機会よりも長くなります。
新商品などのアイデアを思いついたら?
新商品や新サービスのアイデアを思い付いたら、すぐさまイノベーション7つの機会のどれに該当するものか、分析してください。
もし、7つの機会の中で、上位のものを含み、いくつかの機会に該当するものであれば、その新商品や新サービスのアイデアは、検討すべきものと言えます。
それを開発するかどうかの意思決定は、自社の強みを基盤とし、自社の方向性にも合い、商品開発の時間にも耐えられるか。リスクを最小に抑えられるかなどの、さまざまな要因で考えます。
手順としては、上述したイノベーションの可能性の検討をご覧ください。
以上、イノベーション7つの機会について、現代的な事例を交えてご紹介してきました。イノベーション7つの機会を活用することで、イノベーションを起こすキッカケをつかむことができるようになります。また、そのイノベーションが成功するかどうかの可能性を調べることができるようになります。
当社では、イノベーション7つの機会が学べるセミナーを開催していますので、イノベーション7つの機会を学びたい方は、お気軽にご相談ください。
この記事の著者
経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。