
先日、とある人事コンサルタントの先生に会いに出張をしました。
そのときに、当社でクリニック経営コンサルティングを試験的に始めたことをお伝えしたところ、新規開業をしたクリニックが経営難になる理由を訊ねてこられました。
その先生は人事コンサルタントとはいえ、地方の企業をお相手にされているコンサルタントですから、経営全般を見られているようです。そして、クリニックの人事コンサルティングもなさっておられる方です。
そのようなことで、先生の方がベテランですから、クリニックが経営難になる原因は、よくご存知のことでしょう。
クリニックの経営難とは、資金繰りが悪化し、支払いが難しくなることです。もし、支払いができなくなったら、そのクリニックは倒産します。
私はマーケティングを専門としていますが、クリニック経営は何かと特殊事情あるので、私のコンサルティング技術を案じての質問だったと思われます。
そのときにお答えした内容をまとめるために、コラムにしようと思いました。
クリニックを新規開業させた少なからずの医師が、開業後半年~1年で経営難に陥ります。正常化バイアスのことを知っていても、「自分は大丈夫」と思う先生もいます。「コンサルタントに任せているから大丈夫」と考える先生もいます。
これからクリニックを開業させたいと考えている医師向けに、経営難に陥る根本原因と対策を解説します。
資金繰りの悪化が経営難である理由
クリニックの経営難とは、「赤字となること」ではなく、実は資金繰りの悪化です。これからクリニックの経営者となられるご予定の先生は、ぜひとも覚えておいてください。
クリニックの経営難とは、資金繰りの悪化です。
「ええ?経営難とは、赤字のことじゃないの?」と思われた方もいらっしゃることでしょう。しかし、開業当初はほとんどのクリニックが赤字でしょうし、経営が赤字であったとしても、蓄えがあれば支払いができるので、経営難になるとは限りません。
家計で例えてみましょう。仕事でストレスが溜まり、癒しのために高額な家族旅行をときどきしたくなるものです。そのような月は、月の支出が月収を超えてしまうことがあります。そのように、月収よりも多くのお金を使ってしまったとしても、貯金通帳にそれ以上の蓄えがあれば破産しませんから、取り急ぎの問題はありません。
事業経営でも同様に、お金の備えがあれば、すぐの倒産はありません。
ここで、ちょっと難しいクイズを出したいと思います。
クリニックが倒産するときとは、どのようなときでしょうか?
答えは、もちろん赤字のときではありません。赤字であったとしても、通帳にたくさんの蓄えがあれば倒産しないわけです。
答えは、毎月の支払いができなくなったときです。この事情は、一般的な企業でも同じことです。
なぜ、毎月の支払ができなくなったときに倒産するのかは、よくよく考えてみたら簡単です。
毎月の支払で金額が大きなものは、クリニックの事情によって異なりますが、次のようなものがあります。
- テナント家賃
- スタッフの人件費
- 金融機関への借入金返済

これらの支払いは、もちろん患者さんから得られる診療報酬から支払うことができたら、健全な経営ができていると言えます。
しかし、自院に来院する患者さんの数が損益分岐点を下回り、赤字になってしまったら、運転資金として準備している資金から捻出します。
損益分岐点とは、診療報酬を得ていき、赤字から黒字になるときの報酬合計、もしくは患者数のことです。診療単価は診療科によっておおよそ決まっているので、黒字になる患者数を把握しておくことは、とても大切です。
クリニックの損益分岐点の計算方法について知りたい先生は、オクスアイ医療事業開発ホームページ「クリニックを開業する時の損益分岐点の計算方法と低リスク経営」にて分かりやすく解説されています。
さて、クリニックを開業させて、黒字化するまでは運転資金としてプールしておいたお金を消費して、クリニックが倒産しないように維持します。
もし、運転資金が底をついてしまい、それらの支払いができなくなったら、どうなるでしょうか?
テナントから追い出されそうになり、スタッフが辞めていき、金融機関からの追加の融資が受けられなくなります。そうして倒産を余儀なくされるわけです。
既存クリニックが経営難に陥る主な原因
新規開業したクリニックが経営難に陥る根本原因を話す前に、既存クリニックが経営難に陥る原因を4つご紹介したいと思います。
既存クリニックが経営難に陥りやすい4つの原因
今までうまく黒字経営をしてきたクリニックが赤字に陥る主な原因とは、もちろん患者さんの来院数が減ってしまうことです。そして、患者さんの来院数が減ってしまう主な原因とは、
- 競合クリニックが商圏内にできた
- SNSなどに悪い口コミをたくさん書かれてしまった
- 診療内容が陳腐化した
- 地域の人口構造が変化した
1~3の原因は、言わずと知れたことと思います。
同じ診療科の競合クリニックが近くにできてしまったら、自院の患者さんを取られてしまう恐れがあります。競合クリニックは、自院を研究してきているので、自院よりも患者さんからすると良いクリニックである可能性があります。
SNSなどの口コミが悪くなると、新規の患者さんの来院が減ってしまいます。特に、競争の激しい都心ではなおさらです。先生が患者さんに対する対応の良さ、スタッフの人当たりなどが影響します。
診療内容の陳腐化も患者さんの来院数を減らす要因になります。患者さんは、最新の医療を受けたいわけですから、昔ながらの診療内容を続けていたら、患者さんの来院数は減っていきます。
地域の人口構造が変化したときの経営難とは?
4番目の「人口構造の変化」とは、地域の人が何を考えて行動をするのか、どういった人が住んでいるのか、そういった人口構造が変化することです。
例えば、新婚さんが多く済む新興住宅街の近くに産婦人科クリニックや小児科クリニックを開業したとしましょう。当初は患者さんが多く来院してくださったとしても、その内、子どもをあまり生まない年齢になり、子どもも大きくなり、クリニックの来院数は年々減っていってしまいます。
いずれは、地域の人たちが高齢化していき、循環器内科クリニックの売上が伸びていくことになります。そのようにして、人口構造が変化することにより、経営難になるクリニックもあれば、売上が伸びていくクリニックもあります。
新規開業したクリニックが経営難に陥る根本原因
さて、本体となる新規開業したクリニックが経営難に陥る根本原因について、解説いたします。その原因は3つあります。
- 立地条件の悪さ(マーケティングの甘さ)
- クリニックの生産性の悪さ
- 事業計画の甘さ(患者数増加予想の甘さ)
立地条件の悪さ(マーケティングの甘さ)
立地条件が良い場所とは、安定的にかつ長期的に集患を見込むことができる場所で、なおかつ費用が格安となる場所のことです。要するに、費用対効果の高い場所が立地条件の良い場所です。
反対に立地条件の悪い場所とは、安定的に収益が見込めない場所で、費用が割高になる場所、費用対効果の悪い場所のことです。
クリニックを新規開業するときは、マーケティングをしっかり行い、立地条件の良い場所を選ぶことが大事なのですが、経営を知らない先生、もしくは開業コンサルタントの力量不足だと、次のような条件で開業場所を選んでしまうことがあります。
- 土地やテナント賃料の安さだけで選ぶ
- 繁華街などの坪単価の高い場所で、広い場所を選ぶ
土地やテナント賃料の安さだけで選ぶことは、固定費がかかりにくいクリニックだということで、一見すると安定経営ができそうに思います。ところが、安い場所と言えば、集患しにくい場所であることが多いため、利益が得られないため、倒産が先延ばしになり、倒産までのカウントダウンをじっくりと長く味わうことになります。
クリニックの生産性の悪さ
繁華街などの人通りの多い場所は集患がしやすいのですが、坪単価が高くなります。そのような場所で広い場所を借りると、家賃の価格も跳ね上がります。家賃が跳ね上がっても、それ以上の収益を得ることができれば良いのですが、固定費が上がるとそれだけ多くの収益を得ないと黒字にならないため、経営リスクが上がります。
広いテナントを借りてしまった先生は、一般的に「スタッフの休憩室を作ろう」「倉庫を広くしよう」と考えます。実は、そのようなテナントの使い方は、費用対効果が悪くなります。
高い家賃のテナントを借りた場合、その土地を効率よく運用して、多くの利益を得るようにすることが大事です。効率よく運用するためには、患者さんが利用するスペースを広く取り、スタッフの休憩室や倉庫などの利益を生み出さない部屋は、なるべく狭くすることです。
スタッフの休憩室や倉庫は、近くのマンションやトランクルームを借りて費用を抑えても良いわけです。
しかし、「せっかく広い場所を借りたのだから、スタッフの休憩室や着替えの部屋を作りたい」と考えることは良いことのように思いますが、それが将来的に経営を圧迫することにつながります。
事業計画の甘さ(患者数増加予想の甘さ)
開業当初は、1日の患者数が少なく、1日に5~10人といった少ない人数のこともあります。診療科によっては、1日に30人や40人といった人数を診療することで、やっと黒字になりますが、少ない人数が1~2ヶ月ほど続くこともあり、黒字化するのに半年くらいかかることもあります。
さて、クリニックを新規開業させたいと行動を開始した先生は、開業コンサルタントに事業計画を作成してもらいます。事業計画には、開業をしてからどれくらいで黒字になるのか、「1ヶ月目何人の患者数で利益はいくら。2ヶ月目何人で利益はいくら」という数字の羅列が記載されています。
その数字通り、そっくりそのまま実現すると、クリニックが順調に成長していくことになりますが、現実は甘くありません。先ほど説明したように、例えば1日に50人以上来院しないと黒字にならない場合でも、当初は5~10人という少ない患者数の日が続き、「本当に黒字にできるのだろうか?」と思うこともあります。
そして、開業コンサルタントに作成してもらった事業計画が現実離れしたような、毎日たくさんの患者数が獲得できるような計画だった場合、開業後に「依頼したコンサルタントは詐欺師だった」と感じることもあります。
しかし、詐欺師だと言ったところで、現実の経営難を変えることはできません。その場合は、「自分が開業コンサルタントを選ぶ力量が低かった」とあきらめ、資金に余裕があるうちに前向きに次の手を考えることが大事です。
しかし、患者数が増えない理由は、立地条件とも関連があります。立地条件が悪いと、経営改善の方法が無いわけではありませんが、そもそも根本的に改善が難しいことを意味します。立地条件の良い場所で、堅実な事業計画を立てることが大切です。立地条件の良し悪しで経営難になるかどうかの大半が決まることを覚えておいてください。
開業コンサルタントに任せたら安心か?
開業をするときは、先生お一人の力量では開業を成し得ることは、非常に難しいです。そのため、ほぼすべての医師は、開業コンサルタントに依頼することになります。
しかし、「開業は難しいし、自分は忙しいから、コンサルタントに全てをお任せする」と思うことは、他人に自分に人生を依存し自助努力を放棄することと同じ、危険な考えです。
開業コンサルタントを名乗る人がすべて優れているとは限らない
開業コンサルタントは、誰もが優れているとは限りません。開業コンサルタントと言っても、それぞれ得意分野が異なります。クリニックの開業は、さまざまな知見が必要なのですが、全方位的に知見の高いコンサルタントは本当に稀な存在なのです。
例えば、税理士の開業コンサルタントであれば、税務や会計に対しては知見が高いです。医薬品卸や医療機器メーカーの開業コンサルタントであれば、医薬品や医療機器の知識は確実に高いです。クリニックの内装工事をしている業者の開業コンサルタントであれば、内装工事については詳しいです。
全方位的に知見の高いコンサルタントは、先生のご意向を考慮しながら、安定経営ができる立地条件の良い場所を選び、堅実な事業計画を立ててくれます。また、内装設計でも適切にアドバイスしてもらえ、先生に知識を与えてくれます。
反対に、一部の知識はあるが、全方位的に知見の低いコンサルタントの場合はどうでしょうか。例えば、立地条件の知識が無いコンサルタントであれば、場所探しのときに「ここもいいですね、これもいいですね」と「いいですね」しか言いませんから、素人である先生の知見だけで場所を決めることになります。
優れたコンサルタントに出会う方法
幅広い知識を持ち、経験豊かな開業コンサルタントに出会えば、それだけ開業後の経営が有利になりますが、「どのようにして出会えば良いのか?」ということですが、開業して成功している先輩医師から紹介してもらうと良いと思います。
そういった先輩がいらっしゃらない場合は、私が今まで出会ってきた開業コンサルタントで、「この人は相当優れた人だ」と感じた人は、東京に2人、福岡に1人いらっしゃいますが・・・。当社にお問い合わせをいただいたら、ご紹介したいと思います。
優れたコンサルタントは医師の要望を聞いてくれないこともある
本当に優れた開業コンサルタントの先生は、医師の要望を素直に「ハイハイ」と聞いてはくれません。なぜなら、医師の要望をすべて聞き入れて開業させてしまったら高リスクになり、経営難を経験したり、倒産したりする可能性が高まるからです。
クリニックを開業させて失敗しないためのポイントは、
開業コンサルタントの諫言を聞き入れられか?
もし、諫言が耳障りだと感じるのであれば、頭をペコペコと下げて、先生のおっしゃることを何でも「いいですね、いいですね」と聞いてくれるコンサルタントをお選びください。すると、開業直後までは気分良く過ごすことができます。
特に、医薬品卸や医療機器メーカーの開業コンサルタントは、全員とは言いませんが、いつも通りペコペコして、先生のご機嫌が良くなるような事業計画を立ててくれることが多いようです。
しかし、開業半年後には資金繰りが悪化して気分悪く過ごすことも多いようですから、要注意です。
まとめ:先生自身が経営を学ぶこと
以上、新規開業したクリニックが経営難に陥ってしまう根本原因について解説しました。根本原因は、クリニックの開業場所と広さが起因しているようです。
とはいえ、経営の素人である先生が、開業場所を適切に選ぶことは難しいと思います。そこで、力量の高い開業コンサルタントを選ぶことが大切です。そういったことで、新規開業したクリニックが経営難に陥る根本原因は、「開業コンサルタント選びを間違ってしまうこと」とも言えます。
しかし、どのような開業コンサルタントを選べば良いのか、難しいことでしょう。そこで、開業を考えた先生にぜひともお願いしたいことがあります。それは、経営を勉強することです。ご自身で経営の知識をある程度で良いので身につけることです。
経営の知識があると、開業コンサルタントに任せ切りとならずに、重要な部分は自分自身でも判断ができるようになります。そして、開業コンサルタントのアドバイスを、そのまま実施するのではなく、参考意見として取り入れることができるようになり、成功しやすい選択ができるようになります。
当社では、「小さな会社の社長のためのセミナー」という、新人の社長やこれから起業しようとする方に向けたセミナーを格安で定期開催しています。経営の学びは、幅が広く用語が多く出てくるので難しいですが、それを丁寧にわかりやすく解説します。
これからクリニックを開業しようとしている先生にとって、経営については知らないことだらけのはずです。経営の知識が知らないことだらけで経営することは、「家庭の医学を読んで治療に臨むようなもの」です。
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この記事の著者

経営・集客コンサルタント
平野 亮庵 (Hirano Ryoan)
国内でまだSEO対策やGoogleの認知度が低い時代から、検索エンジンマーケティング(SEM)に取り組む。SEO対策の実績はホームページ数が数百、SEOキーワード数なら万を超える。オリジナル理論として、2010年に「SEOコンテンツマーケティング」、2012年に「理念SEO」を発案。その後、マーケティングや営業・販売、経営コンサルティングなどの理論を取り入れ、Web集客のみならず、競合他社に負けない「集客の流れ」や「営業の仕組み」をつくる独自の戦略系コンサルティングを開発する。
